One of the Endings
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「えっ、うそ? トランクスさん来てるんですか!? どこです? どこなんですか?」
悟飯は、4年ぶりに見たタイムマシンにびっくりして、脇に立ってそれを見上げていたブルマとヤムチャに掴みかからんばかりにして詰め寄った。
「ち、違うのよ、悟飯君。これはあのトランクスのタイムマシンじゃないの」
「え?」

14歳になった悟飯は、最近しばしばカプセルコーポを訪れていた。悟天に読んでやる絵本や自分の勉強のための本を借りるのが目的だ(ブルマの母は実はかなりの絵本コレクターなのである)。で、今日も今日とてやってきて、ブルマの研究室に挨拶に寄ろうとしたら、中庭にいきなり銀色卵がそびえ立っていたのだ。

「コイツ、セルが乗ってきた方のタイムマシンなんだってよ」
例によってカプセルコーポに遊びにきていたヤムチャが言った。
「なんだ、そうだったんですか・・・・・・」
よく見れば所々にまだ苔がついていたし、だいたい上部ハッチの大きな穴がそのままだった。
そうだよ。トランクスさん、もう二度とこっちには来ないって言ったんだ。それが来たんだとすればよほど良くないことが起こった時だよね。来ない方が幸せだって証拠なんだから・・・・・・。

「悟飯、会いたかったんだろ? あいつにさ」
少年の心を読むように、ヤムチャが笑って言った。
「はい、会いたいです」
ヤムチャの笑顔につられるように、悟飯の口から素直なひとことが飛び出した。
「実はさ、俺もこれ見たとたんに、おまえと同じ事、聞いちまったんだよなー!」
ヤムチャが頭を掻いて照れたように笑った。

もしあのトランクスと会わなければ、ブルマとベジータに対して、今のように穏やかな気持ちを持てたかどうかわからなかった、とヤムチャは思った。

ベジータがカプセルコーポの居候になって1年半ぐらい過ぎた頃だ。コイツも根っから悪い人間ではなさそうだと、ヤムチャも思い始めていた。まあ、彼の生まれ育った環境も培われた良識も自分たちと懸け離れていたのは事実だが。
周りの何をも気にせず、恐れず、そして自分からは決して交わらず、自分の生き様のみをひたすらに見つめ、強くあることだけにアイデンティティを求めているこの孤高の男に、ヤムチャは人としての「強さ」と「脆さ」の両方を見ていた。

そしてその「強さ」と「脆さ」を諸共に、ブルマが引き寄せられていくことも・・・・・・

"女性"という存在に対して、ついなにかれと優しくしたくなる自分の性格が悪いのもわかってはいた。それでも、ヤムチャが心底愛していた女はブルマだけだったのだ。あの時、「幸せになれよ」と鷹揚に笑ってブルマと別れたものの、人造人間を待つ間、とても修業に打ち込めたとは言い難かった。

そこにやってきたのがトランクスだった。
愛した、いや、愛している女と同じ髪、同じ瞳をもつ、その子ども。

聞いただけでも苦しくなるような時代を生きてきた気だてのいい少年が、自分の時代は変わらぬとわかっていながら駆けずり回り、あげくの果てにベジータの言動に傷ついて、憧れていた父親に失望していくのを見るのがつらかった。
それでついベジータを庇うことでトランクスを慰めるようになった。ベジータの本心はそうじゃない、あいつが他人に厳しいのは自分にも厳しいからで、決して心の冷たいヤツじゃないんだ・・・・・・。

我ながらバカなことをやっていると思った。俺はベジータの良さを自分にも言い聞かせることで、自分を慰めようとしているのか・・・・・・。あれだけの男ならブルマをとられても仕方がないんだと・・・・・・。

自分では役に立つまいと思ったセルゲームに参加したのも、どこかでトランクスを案じていたからかもしれなかった。悟飯には悟空もピッコロもいる。だがトランクスには・・・・・・。守ってやる力はないとわかっていても、一緒に行かずにはいられなかった。
だから、あの時・・・・・・。トランクスがセルに殺されたあの時・・・・・・、あのベジータの怒りを咆哮を、たぶん俺は深い満足とともに聞いていた・・・・・・。


「でも、このタイムマシン、こっちにあったんだー。
 僕、トランクスさんが未来に持っていったんだとばっかり思ってました」
「時間旅行の関係で二つになっちゃったものを、同じ時代に置いとくのはまずいんじゃないかって、
 おっきなトランクスと相談して、こっちのタイムマシンはこの時代に置いとくことにしたのよ」

「へえ・・・・・・。そうだったんですか・・・・・・。で、ブルマさん、何やってるとこなんですか?」
「研究よ、研究。まあ、もうほとんど仕組みはわかったんだけどね。
 ま、未来とはいえ、あたしが作ったには違いないんだから」

あれえ、なんか頭、混乱してきたぞ、と悟飯は思った。
「ねえ、ブルマさん。トランクスさんが最後に来たとき、確かにセルをやっつけたって
 言ってましたよね。だとすると、このタイムマシンに乗ってきたセルは
 いったいどこから来たことになるんですか?」

「今あたしたちのいる時間の流れでもなければ、あのトランクスの世界でもない、
 また別の世界ってことね。その世界では、人造人間はいなくなっていたけど、
 セルを倒した人間もいなかった。それでセルは人造人間を求めて、この世界にやってきたのよ」
「じゃあ、その世界のトランクスさんは、どうなったんでしょう?
 確かこの『HOPE』ってトランクスさんが書いたって言ってましたよね」

「たぶんだけどね、セルに殺されたんだと思うのよ」
「えーっ?」悟飯は思わず大きな声をあげた。
「未来のトランクスが未来のセルを倒したの、ちょうどこっちに報告に来る時だったのよ。
 セルはトランクスを殺してタイムマシンを奪うつもりで、逆にトランクスに返り討ちにあった。
 だから、このタイムマシンに乗ってきたセルも、トランクスを殺して来た可能性は高いわね」

「ってことは、そのトランクスは、必死に人造人間を倒して、やっと平和になったと思ったら、
 結局セルに殺されちまったってのか? それも22歳かそこらでだろ!?」
ヤムチャが真剣な顔で聞いた。
「そうよねぇ。セルがいるってことは人造人間もいたんだろうし、歴史にあまり大きな違いが
 なかったと仮定すれば、人造人間はトランクスが倒したって考えるのが妥当よね」
「げっ 今まであんまり真剣に考えてなかったけど、それ、えらいシンドイ話じゃねーか!」

悟飯もショックを受けていた。そうか、言われてみれば確かにそうだ。あのトランクスさんが幸せになったことで、なんかすっかり安心してたけど、セルが出発した時代のトランクスさんは・・・・・・。
それはいくらなんでも可哀想すぎる。ずーっと人造人間に苦しめられて、それをやっと倒して平和になったのに、今度はいきなりセルに殺されちゃうなんて・・・・・・!

「ねえ、ブルマさん。このタイムマシンって、使えるんですか?」
「え? そりゃいくつか修理して調整すれば使えるけど?」
「たとえば僕が未来にいって、そのトランクスさんを助けるって、ダメですか?」
「えーっ!」今度はブルマが大声を出した。
「僕たち、トランクスさんには御世話になるばっかりだったし・・・・・・。
 だから違う世界のトランクスさんでも、もし、助けてあげられるんなら・・・・・・」

「ちょ、ちょっと待ってよ悟飯君、そうじゃなくてね、未来に行くって、難しいのよ!
 たとえば孫君が病死するかしないか、トランクスが生きてるか殺されるかって、
 いろんなことで世界はどんどん別れていくでしょ?

 単純に今の時代につながる過去にいく場合は、枝の先から幹に戻る1本道だからわかりやすい。
 でも、過去から未来に行く場合とか、過去は過去でも違う枝の過去に行く場合は、
 行きたい時代の次元座標を取るの、ほとんど不可能なのよ」

「え? でも、トランクスさん、ちゃんと未来に帰ってたじゃないですか?」

「出発点や前に行ったことのある時代なら、座標がわかってるからいけるの。
 トランクスが一度目に来たときは、この時代は彼の時代とつながる過去だった。
 だけど二度目に来たときは、もう彼の時代とこの時代は別の枝だった。
 それでもちゃんと来られたのは、次元座標がわかってたからなのよ」

「でもよ、プルマ。その出発点の座標って、どっかに記録されてないのか?
 俺たちの行きたいのは、まさに"この"タイムマシンの出発点、なんだぜ?」

「あ・・・・・・そうか! それ、残ってる! 行けるわ!」
「やった!」ヤムチャがタイムマシンのボディをぺしっと叩いた。
「それで僕が未来に行って、トランクスさん殺される前にセルを倒せばいいんですね!」

「ちょっと待って。セルを倒しちゃだめ。この時代には、未来から来たセルが絶対に
 必要なんだもの。もし悟飯君が未来でセルを倒しちゃったら、
 この時代用のセルを調達するために、またどこかの世界でセルがトランクスを殺して・・・・・・」

「つまり、セルは生かしてこの時代の過去に来させて、かつトランクスを助けりゃいいんだな?
 で、この時代の過去に来たセルは、ちゃんと悟飯が倒すんだし・・・・・・」
「そういうこと! なんかホントにうまくいきそうな気がしてきたわ! あ・・・・・・!」
ブルマがいきなり空を仰いだ。

「どうしたんですか?」
「悟飯君・・・・・・ちゃんと操縦できるかしら・・・・・・。君ってかなり機械オンチだから・・・・・・」
「そ、それは・・・・・・」
するどい指摘をされて悟飯が困った表情になった。この少年、父親に似て機械操作は苦手で、これまでもいろんなものを壊してはブルマに泣きついていたのだ。タイムマシンの操縦なんて、かなり自信がない・・・・・・。

「ブルマ、タイムマシンって二人乗れんだろ? 確かトランクス、最初のころは、
 悟空を未来に連れていくとかも考えてたよな」ヤムチャが思い出すような顔で言った。
「うん、出力的には問題ないわよ」
「よーし、じゃ、俺もいくわ!」

ブルマが驚いた顔で、ヤムチャを見た。悟飯の方はもはや満面の笑顔でヤムチャの両手にすがる。
「ほんとですか、ヤムチャさん!」

「操縦についてはおまえよりマシだと思うからなぁ。整備とかも別に苦にならないし・・・・・・。
 俺もトランクスのことは、なんとかしてやりたいからさ」
「ありがとうございます! じゃあ、僕、ちょっとカリン様の所にいって、仙豆いただいてきます!
 トランクスさん、もしケガとかしてたら、まずいですもんね。それじゃ、ちょっと急いで・・・・・・」

「悟飯君ってば。こっちだってまだ調整に二週間ぐらいはかかるんだから、焦らなくていいわよ」
ブルマが、笑う。
「あ、そうか。すみません。じゃあ、また・・・・・・あ、いけない!
 ブルマさん、本お借りしました。ありがとうございました!」

「はいはい。こっちもタイムマシンの状況は、また連絡するわ!」
「お願いします。それじゃ!」
少年は、嬉しさに弾むように、空に消えた。


「ヤムチャ、あんた、本当にいいの?」
ブルマがヤムチャを見上げた

「何言ってんだ。別にどうってことないだろ」
「でも・・・・・・」

ヤムチャはブルマの顔をまじまじと覗き込んだ。
「ほんとだったらな・・・・・・ベジータのヤツが行った方がトランクスは喜ぶのかもしれない。
 でも、これから行く未来に、ブルマ、お前も生きていたとしたら・・・・・・。
 その、未来のお前に、今のベジータが会うってのは、どうも・・・・・・お互いのために・・・・・・
 いや何より、おまえのために、よくないような気がしてな」

「ヤムチャ・・・・・・あんた、そんなことまで・・・・・・」
ブルマの形のいい唇が、かすかにわなないたようだった。

「なーんて顔してんだよ、おまえらしくねえな!」
ヤムチャはハハッと笑って、ブルマの額を人差し指でつついた。

「とにかくさ、ある程度見通しついたら、操縦とか、簡単なメンテとか早いとこ教えてくれよな」
「・・・・・・うん、わかった。また連絡するわ」

最近は舞空術よりフライヤーで来ることが多くなったヤムチャをガレージまで見送った。
窓越しに片手をあげて挨拶した彼に手を振って、フライヤーが空に消えるまで見ていた。

ああ、またあたしは、言いそこなった・・・・・・。
なんで、ありがとうって、言わなかったの?

けっしてキライで別れたワケじゃない。

ただ、ベジータでなければダメだった。

それだけのことだったのだ。


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