One of the Endings
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胸騒ぎがどんどん大きくなる。それはもはや不安を通り越し、明確な痛みとなってここにある。
この3年の間、忘れていた、この痛み‥‥。

ちょっと様子を見てくると言った息子が、戻ってこない。探しに行きたかったが、たとえ何かあっても息子はここに戻ってこようとするはずだ。行き違いになると思ったら動けなかった。
せめてタイムマシンをカプセル化しておいたほうがいいだろうかと思い始めた矢先だった。

ブンッと振動音がして、いきなり空中に光る物体が出現した。

乗り物が静かに着地体制に入る。さしものブルマも息を呑んだ。
それはその隣にあると寸分違わぬタイムマシンだった。

ハッチがあいた。大人と少年が身軽な動作で飛び出して、地に降り立った。
ジーンズにジャケットを着た男性が、一歩自分に歩み寄った。
心の中にムリに押し込めていた記憶の扉がこじ開けられる‥‥
最後に見たあの笑顔より幾分歳をとっているが、その眼差しを忘れるはずもなかった。

「ヤ‥‥ヤムチャ‥‥?」
「ブルマ‥‥だよな? ああ、よかった。うまく来られたんだ!」
「え‥‥いったい‥‥?」
「あとで話すから。それよりトランクスはどうした?」
「なにか来るって言って、飛び出していって、戻ってこなくて‥‥」
「え? 遅かったのか!?」

「ヤムチャさん!」
濃紫の道着姿の少年が緊張を帯びた声を発した。トランクスとセルの気を捉えたのだ。何か言いかけたが、自分を見たブルマの不安げな表情に気付いて言葉を止めた。少年は道着の帯に手をいれるとあらかじめ二つに分けておいた仙豆の片方の袋をヤムチャに渡した。
「一応、持っていてください。僕、行ってきます」
「悟飯、わかってるな」
「はい!」
声と同時に一陣の強風が舞って、少年の姿は見えなくなっていた。

ヤムチャは自分たちの乗ってきたタイムマシンをカプセル化して、内ポケットからメモを取りだした。
「トランクスのことなら安心していい。悟飯が行けば、もう大丈夫だ。で、ブルマ、
 早速だけど、こっちのタイムマシンの行き先の座標をここに合わせて‥‥」

「いったいどうなってるの? わかるように説明しなさいよ!」
こんなに苦しい思いをしてたのに、いきなり現れて、いかにも全部わかってるんだって顔をして‥‥。ひどいじゃない!
怒ったように見開かれたブルーの瞳が涙を滲ませて陽光をはじく。まっすぐに見つめられて、ヤムチャは頭をかいた。やれやれ、なんてこった。歳をとってはいても、この女は相変わらずだ。

相変わらず、魅力的だ。

だが、見とれてる場合じゃなかった。ヤムチャは急いで説明し出した。自分の次元にこの時代から、セルという怪物がやってきたこと。トランクスを殺してきたらしいので、それを助けにきたこと。そして、タイムマシンの次元座標を自分たちの次元の過去に合わせておいてほしいこと‥‥。

ブルマの瞳があっという間に科学者のそれに変わった。2、3の短い質問のあと、彼女はタイムマシンによじ登り、ふわりと隣に浮かび上がったヤムチャとともに座標のチェックを始めた。


***===***===***

なんと、すばらしいパワーか‥‥!

セルは自分の身体に溢れる力に恍惚と酔っていた。卵から孵って脱皮し、吸収した人間といってもせいぜい二十人程度だろう。たったそれだけで、このパワーはどうだ。
サイヤ人の血を引く青年がデータには無い変化をした時は少し驚いた。確かにこれなら17号や18号では敵わなかっただろう。だが、所詮、ウォーミングアップ。捨て身で飛び込んできて身体の一部を破壊していったが、それもあっさりと再生した。組み込まれているナメック星人の能力だ。

これで完全体になったら、いったいどこまで行けるのか。想像しただけで歓喜にうち震える。
自分が全宇宙で最も偉大な存在になる!

セルが地面に打ち臥された青年を見やった。虹彩がすうっと細くなり、口元が傲慢に歪む。
まだ、もがいてるのか‥‥。その苦しみ、終わりにしてやろう。せめてものはなむけだ。

「これで、ジ・エンドだ、トランクス」
3本の指の中で膨大なエネルギーが収斂する。もはや死に縫い留められた青年に、見せつけるように掌を向けると、光弾を放った。
小さな白色矮星のようなそれが、激しい衝撃音と共に大地に大きなクレーターを穿った。

なんだ?
今のは、なんだったのだ?

セルは耳を覆った両手を離した。思わず閉じてしまった目を開ける。撃った瞬間、気圧が何倍にも増えたかのような衝撃を感じた。まるで空間全体が爆発したような一瞬の波動‥‥。
周囲を見回す。そこにはただ、むき出しの土塊が広がっていた。細胞レベルまで吹き飛んだだろう。生きているものなど何もいない‥‥。いるはずがない‥‥。

わたしのパワーが想像を超えていただけか‥‥

セルは長い尻尾をゆらりとゆらめかせると、くるりと向きを変え、西の都を目指して飛んだ。そう、今重要なことは、トランクスが乗ろうとしていたタイムマシンを奪い、17号と18号が目覚める前の時代に戻ることだ‥‥。そしてあの二人を吸収し、究極の生命体になるのだ‥‥。


***===***===***

悟飯が岩の陰にはりついたと同時に、ばきり、というひどくいやな音と、くぐもった呻き声が聞こえた。浮遊して青年を見下ろす怪物は、少年の知っているセルとは少し違っていたが、たぶんこれが一番最初の形なのだろう。トランクスの気がひどく小さい。心臓が喉からせり出しそうな気がしたが、それを押さえ込んだ。自分達の身体がどれだけ丈夫に出来ているか、少年はその痛みの数だけ知り尽くしていた。

セルの手の中に閃光が凝縮しはじめた。少年はたった一呼吸で気を練り上げる。外に影響を与えず、内気だけが爆発的に上がる。その父親にも持てない彼特有の内勁。一瞬で変化した金色の髪も碧の瞳も、ただ、静かだ。

悟飯が全力で飛び出したと同時に光のボールが放たれた。翔ける少年の姿を目視することなど何者にも不可能だった。その身体から溢れ出るエネルギーと移動によって生じた空気の密度変化が、衝撃波としてその空間をまるごと襲った。少年が両腕で青年をすくい上げた。左脇からさし入れた手で頭部をささえ、その身体を抱きしめるように、そのまま反対側の岩山まで飛んだ。

セルの死角に入ったと同時に気を小さく抑えた。青年の身体をそっと横たえながら、セルに全神経を集中する。倒すのは簡単だけど、また別の世界でこの人がこんな目に遭うなんて、ゴメンだ。
青年が自分を見上げているのに気付いた。血の気を失った唇が何か言いたげにわななく。もう大丈夫と笑みを浮かべて頷いてみせた。少しでもセルとの距離を置きたい。頼むから早く行ってくれと、祈らずにいられなかった。

空気を裂く音と共にセルの気が遠ざかると、悟飯はすぐに仙豆を取り出しそれを青年の口腔にそっと入れた。咽せそうになりながら、なんとか飲み込んでくれた。
青年が目を閉じる。あの人よりも少し柔らかい感じのするその顔立ちを、悟飯は息を詰めて見つめた。大きく胸が上下する。一度、二度‥‥。そして青い瞳が驚きに満ちて大きく見開かれた。

「悟飯‥‥さん‥‥?」小さな声で青年が言った。
「はい、そうです、トランクスさん。間に合って、よかった」少年が、満面の笑みで、答えた。


***===***===***

悟飯とトランクスは気を上げないように注意しながらカプセルコーポまで戻ってきた。
「トランクスッ!」ブルマが飛び出してきて息子を抱きしめる。トランクスの半身を染めた血が彼女の服に移ったが、ブルマはまったく動じなかった。
「無事で、よかった」
「すみません、心配かけちゃって。でも悟飯さんのおかげで助かりました」

ブルマは、自分たちを微笑んで見ていた少年に視線を移し、その顔を見つめた。そんな目でブルマから見られたことなどなかったので、悟飯は気恥ずかしくなって俯いてしまった。
と、いきなり彼女は少年の身体に両腕を回し、強く抱き寄せた。頬にブルマの頬がそっと触れた。
「‥‥ありがとう、悟飯君‥‥」

「あ‥‥、あの‥‥えっと‥‥」
ブルマにとって悟飯が息子同然であったことも、逝ってしまったその子がいきなり目の前に現れたその母の気持ちも、目を丸くして内心どうしようかとあたふたする少年には、知るよしもなかった。

「よっ、トランクス、良かったな!」
「ヤムチャさん‥‥」
来る道々、自分の知っている過去とは違う過去から二人で来たのだと悟飯から聞いたが、こうやって向き合えば、過去で色々と優しくしてもらったヤムチャと同じ人のようにも思える。イタズラっぽい偽悪的なしゃべり方、その表情、そして優しい瞳の色‥‥。
「あの、ありがとうございました。オレのために、わざわざ‥‥」
ハハッと笑ったヤムチャが、無事なことを確かめるように、トランクスの両肩を叩いた。
「おまえって、どの次元でも、ぜんぜん変わんねーんだな!」

セルは、ブルマとヤムチャが物陰から様子をうかがっているとも知らずに、タイムマシンをカプセル化して奪っていった。そしてつい先ほどその気が小さく消えたのを、悟飯とトランクスは確認した。
あの怪物をここにいるヤムチャと悟飯の次元の過去に送り込まなければいけないということは説明を聞いてわかったが、自分が過去に行けなくなった事実はトランクスにとっては少し寂しかった。

「すみません、トランクスさん‥‥」
青年の顔に微かに気落ちの色が浮かぶのを見て、悟飯は言った。
「あ、いえ、あなた方のおかげで、オレ、死なないですんだし、そのうえ、あの過去にセルを
 送り込まないで済んだんですから‥‥。すごく感謝してます。
 ただ、悟空さん達、オレのこと気にかけてくれてたので、お礼は言いたかったなって‥‥」

「お父さん、ですか?」悟飯がとまどったように言った。
「はい、オレがこっちに戻る直前まで、修行とか付き合ってくれたんですよ。
 心臓病の薬の礼だって言って。ほんとうに素晴らしい方ですね、悟空さんは!」

そうか‥‥。この人の知ってる過去では、お父さん、生きてるんだ‥‥。
悟飯は、ふわりと笑って答えた。「はい。僕もそう思います」
ヤムチャが悟飯の肩にそっと手を置いた。悟飯が笑顔でヤムチャを見上げて、また青年の顔に視線を戻した。

「あの、トランクスさん。僕、あなたを初めて見たとき、すごく不思議な感じでした。
 あなたは、僕の知ってるトランクスさんとは確かに違う人なのに、でも懐かしくて、
 会えて嬉しい感じがして‥‥。セルから隠れてる間に、他の次元のトランクスさんのことも
 考えました。そしたら、どのトランクスさんにも幸せになってほしいと思ったんです。
 ぜんぜん会ったことない人なのに‥‥。だから‥‥あの‥‥」

口ごもった悟飯の後をとってヤムチャが言った。
「つまりな、トランクス、いろんな次元にいろんなおまえがいて、でも、その誰もが
 俺らにとっちゃ大事な仲間だってことなんだよ。
 悪い便りさえなけりゃ、あいつは幸せにやってるだろうって、信じたいし、信じてる。
 だからな、おまえの知ってる悟空達も、きっとそう思ってるんじゃねーかな」

「‥‥はい。そうですね。‥‥そう、信じます」
トランクスは晴れやかに笑った。
「じゃあ、お二人にははっきりお伝えします。こっち復興も進んできて、オレ、充実してるし、
 これからも母さんと二人で幸せにやっていきます。だから心配しないで下さい」

「わかりました!」
「了解! トランクス!」
過去からの二人の友人は、踵を合わせて姿勢を正し、挙手の礼をとってみせた。
澄んだ秋の空に、4人の笑い声が、高く、舞った。


***===***===***

ブルマの目の前で消えたタイムマシンが再び現れた。帰りの時間は出発の時間の5分後にセットしておいたのだ。ハッチを開けてヤムチャと悟飯が飛び降りてくる。

「どうだったの?」
「万事OK!」 ヤムチャが晴れ晴れとVサインを出した。

「よかったわ! お疲れさま‥‥って、君はどうしたわけ、悟飯君?
 ずいぶんと浮かない顔だけど?」ブルマが悟飯の顔を覗き込む。
「そういや、むこう出発してからえらく静かだな。タイムマシン酔いか?」

「いえ‥‥」と、なんともいえない表情で、悟飯が顔を上げた。
「ねえ、ヤムチャさん。今日会ったあのトランクスさんの過去にはセルはいなかったんですよね」
「そうだな。あいつ、セルを初めて見たって言ってたし。だいたい、セルがいるってわかってたら、
 ドクターゲロの研究室探して、出てくる前に片付けてただろーよ」

「それで、もし、今日僕らがあの未来に行って、タイムマシンの次元座標を合わせなかったら、
 セルはそっちの過去に行ってたことになるんですよね?」
「そうよねぇ。だって彼らにわかっているのは、彼らの過去の座標だけだったはずだから」
今度はブルマが答えた。

「ってことは、僕らの次元にセルが現れたのは、今日僕らがあの未来に行ったからで、
 でも今日僕らがあそこに行けたのは、昔、セルが来たからで‥‥‥‥」
「悟飯君‥‥。それ、考えない方がいいわよ‥‥」ブルマが言った。
「‥‥‥‥でも、僕、すごくきもちわるい‥‥‥‥」悟飯がつぶやいた。

「あのなぁ、悟飯、そーゆーの考えるのやめろって。あのトランクスにとって、
 今日でドクターゲロの悪夢は全て終った。それで、いいじゃねーか」
「それは‥‥そうなんですけど‥‥」

ヤムチャはいつもの笑顔で、しかし、まっすぐに悟飯を見つめて言った。

「俺たちがみんな死んじまってトランクスだけが生きている次元もあれば、
 みんな全員が生きてる次元もある。そして、悟空だけが死んじまった次元もな。
 それぞれの次元に、それぞれ色んな『終わり』とか『区切り』があるわけだ。
 でもな、そこに生きてるヤツにとって大事なのは、なぜそうなったか、よりも、
 そこからどうするか、なんだぜ」

「はい‥‥。わかります、ヤムチャさん。本当に、そうですね‥‥‥‥」
少年は真摯な眼差しで、ヤムチャを見上げた。

「どうしちゃったのよ、ヤムチャ。あんたらしくもなく、マジ言っちゃって!
 タイムマシンに酔ったのはあんたの方じゃないの?」
いたずらっぽい笑いを浮かべて二人のやりとりを見ていたブルマがまぜっかえす。

「あ、コイツ、言ったな! 俺はこう見えてもだな、真剣に考えて、真剣に生きてんだぞ!」

そうして、この時代にも、明るい笑い声が満ちていく。

数知れず並ぶ未来へ、希望と祈りを込めて‥‥。


                         (了)
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セルの出発点、つまり原作ではセルに殺されたことになっているトランクスのいる未来のお話です。この未来、考えれば考えるほど、なんかごちゃごちゃになってきまして・・・。
このトラは過去に行くことによって人造人間を倒せた(でなきゃ報告に行こうとしない)。
でも過去でセルには会っていない(会ってれば、セルが出てくる前に片づけようとしただろう)。
で、その過去に行こうとしたんだから、タイムマシンもそこにセットされてたろうなぁ・・・・・。
うわー、どうすりゃいいんだ! ということで、輪っかにつなげる形にしてみました(汗)。
最終話、えらいあわただしくなってしまいましたが、こういうアイデア勝負モノは、ダラダラやっててもしょうがないので(汗)、思いきって詰め込んでしまったというわけです。
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