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愛しきものへ‥‥
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セルとの闘いが終わって二週間ほどした頃、チチは悟飯には黙って、カメハウスを訪ねたことがあった。 「チチさん! 一人で?」 クリリンが少し驚いた顔で、チチを迎えた。悟空の子どもを宿していることは、聞いていた。 「身体のほう、だいじょうぶなのか?」 チチがスカイカーから降りるのに手を貸してくれる。 家に招き入れられたチチはクリリンの顔を見た。 桁外れの武道の達人とはいえ、自分の力が遠く及ばないことを承知の上で、 宇宙人や人造生命体との闘いの場に、常に、いた。 悟空と悟飯をいつも見ていてくれた男だ。 チチは静かに言った。 「セルとの闘いで何があったか、悟空さがどういうふうに死んだか、 できるだけ細かく、おらに教えてほしいだ」 クリリンが言葉を失って、困ったように老師の顔を見やる。 老師はやさしい眼差しでチチを見つめている。 「おまえの心配は悟飯のことじゃな」 チチはこくりと頷いた。 「おらには、あのとき何が起こったか、知ってる必要があると思うだ」 「クリリン、チチに話してやるのがよかろう。 辛くとも、知らなければならんこともあるじゃろう」 クリリンは迷った。 ピッコロから、チチがどれだけ気丈に振る舞っているか聞かされていたが、 それでも身重の彼女にあのときの話をしていいものか・・。 しかし、自分をまっすぐに見つめるチチの目に、覚悟を決めた。 何があろうと息子のために最善をつくそうという、母親の目だった。 ***===***===*** 話を聞きながら、チチは一切口をはさまなかった。息を詰め、ハンカチで涙をぬぐい、それでもひとことも聞き漏らすまいと顔をあげていた。 クリリンの話が終わると、チチは大きく息をついた。 「悟飯が、セルをもっと苦しめてやる、なんて言ったのは、ほんとにほんとなのけ?」 「・・・・・・オレは思うんだよ・・・・・。あれは仕方のないことだったって・・。 超サイヤ人になると、パワーだけじゃなく、性格も変わってしまう。 悟空と悟飯は、超サイヤ人が普通の状態でいられるように修行したけど・・ でも、悟飯は超サイヤ人をはるかに越えてしまったんだ。それもあのときに、初めて・・・。 あの状態で冷静に考えて闘うなんて、ぜったいにムリだ。 悟空にだって、ベジータにだって、ムリだったと思う。 相手がどんなヤツだって、殺そうとしたら、普通じゃいられないんだ」 クリリンの拳に力が入り、顔がゆがんだ。 この男もそういう想いをしたことがあるのだと、チチは思った。 「悟空さが、自分ではセルに勝てないと思ったのも、ほんとにそうだったんだべか・・」 「悟空がそう感じたんなら、間違いないさ。アイツが、自分は勝てると言えば勝てるし、 逆に、勝てないと言えば勝てないんだ」 チチは、天下一武道会で悟空がピッコロを倒した時のことを思い出した。四肢の全てを封じられ、誰が見ても絶体絶命の状態でありながら、自らの命を絶って悟空を助けようとした神を、なお、止めた。 「そんなことするな! オラが勝ってみせるから!」 悟飯をぎりぎりの状況においた悟空に、一瞬、怒りを覚えたチチだったが、あの悟空がそうせざるを得なかったのなら、それが唯一の道だったのだと納得もできた。 「最後にもう一つ教えてけれ。悟飯は、何がきっかけで、変化したんだ?」 「オレはセルジュニアにやられてたから、直接は見てないんだけど、16号が悟飯に言ったらしいんだ。 『闘うことは罪ではない』って。その直後、16号が殺されて、あいつは爆発した。 自分が殺されそうになっても、変わらなかった・・いや、変われなかったのにな。 あいつは闘うには優しすぎる、誰も傷つけたくないという思いが強すぎるんだよ。なのに、 とんでもないパワーも持ってて、その二つがせめぎあってる。だから、力を発揮しちゃダメだって、 暗示みたいなもんができちまったんだろうな・・」 ***===***===*** 大丈夫だから、というのを押し切って、クリリンはパオズ山までエア・カーを操縦してきてくれた。 家の近くでクリリンに礼を言って別れ、舞い上がった彼に手を振った。 自分が殺されそうになっても、変われなかった・・・・。 悟飯は闘うには優しすぎる・・・ 『それはそのとおりだけんども・・・』 結婚してすぐにできた子が男の子だとわかったとき、将来のためによい学校に行ってほしいと漠然と思ったが、拳法をやらせないなどと思ってはいなかった。男なら、それなりに強くあってほしいとさえ思っていた。 だが、悟空の「強さ」に対する執着と、現実に対して無頓着なくらいの奔放な生き方が、チチを不安にさせた。父親と同じ道を歩んだら、いったいどうなるのだろうと・・・。 自分は悟空という人間を愛している。 どれだけ破天荒でも、自分はこの男と生きていこうと決めた。 だから、どうふりまわされようが、いい。 でも、子どもはちがう。 あの父親はあまりにまぶしすぎる。 人を引きつける力が強すぎる。 ひきかえ悟飯はあまりに優しくて・・ それで、できるだけ修行から悟飯を遠ざけようとした。 なかば意地になって、勉強しろと言ってきた。 悟空が悟飯に手ほどきをしようとするたびに声を荒げ、そういう自分を抑えられなかった。 そんなとき、どれだけ悟飯が悲しそうな顔をしているか、わかっていたのに・・・・ ピッコロと三人で修行をしていたときも、 チチの前で悟空が悟飯の上達ぶりを誉めると、悟飯はさりげなく話をそらした。 『悟飯は、心のどっかで、自分が強くなったら、 おらが悲しむと決めつけてたんじゃねぇべか・・・』 自分に向けられる父親の夢と母親の願いが、かけはなれていて・・。 それでもあの素直な子は、両方の希望に応えたくて・・・ 不憫なことをしたと、チチは思った。 悟空の気持ちも悟飯の気持ちも知ろうとせず、自分が空回りしていたように思えた。 でも、過ぎたことを悔やんでも始まらない。 『んだ、後悔すんなんて、おららしくねぇ。 な、そうだろ、悟空さ。 おら、強くなるぞ。 見守ってけろな、悟空さ・・・』 (1) <2> (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (戻る) |