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愛しきものへ‥‥
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トランクスが、まるで自分の庭にいるかのように、のんびりと歩いていく。 このあたりは、人造人間の攻撃を免れたので、未来でもあまり変わっていないのだと、以前、聞いた。 悟飯は、青年に行き先をまかせて、並んでついていく。 こっちは女同士で話しがあるから、あんたたちは外にでも行ってれば? とブルマから追い出された。願ったり・・・・・・でもある。 「オレ、そんなに変わりました?」 悟飯があまりに自分を見あげているので、トランクスはちょっと気恥ずかしくなる。 「ええ。すごく・・・・・・。なんて言ったらいいか、見てて、とてもおだやかで、幸せな感じで・・・・・・ こんなトランクスさんを見てると、嬉しくて・・・・・・」 「みんな、悟飯さんたちのおかげですよ」 「そんなこと・・・。ボクたち助けてもらうばっかりで、何もしてあげられなかったのに・・・・・・」 二人は小川の端まできて、並んで腰をおろした。青年はタンポポの綿毛を一本とって、ふっと吹いた。 小さな落下傘部隊の行方を目で追いながら言う。 「悟飯さん。セルゲームのあと、オレ、すぐに帰っちゃって、 ほんとにすみませんでした。 この3年間、あなたのことがとても気になってました・・・・」 悟飯が一瞬泣き笑いのような表情を浮かべる。 (ほんとうに、この人は・・・・・・。こういうとこは、ぜんぜん変わってないや・・・・・・) 銀髪をひるがえして、トランクスが悟飯に向きなおる。 「悟飯さんには、本当に辛い思いをさせてしまって・・・・・・。 でも、今日、こうやって会えて、少し安心しました」 「・・・・・・おかあさんと、ピッコロさんのおかげです・・・・・・今、こうしていられるの・・・・・・。 最初のうちは、とても、苦しくて・・・・・・寝てるときも起きてるときも、あの時のことが・・・・・・」 トランクスが頷いて、先をうながすように優しく微笑む。 その微笑みに勇気づけられるように、悟飯が続ける。 「そのうち、おまえは兄さんになるんだって言われて、おかあさんのこと助けてあげなきゃと 思って・・・・・・。ピッコロさんもしょっちゅう来てくれたんです。デンデに地球のことを 教えてくれって言って、ボクとデンデとピッコロさんで、あちこち行ったりして。 でも、セルのこと、思い出さない日はないんです・・・・・・。死んだおとうさん、 怒ってないって言ってくれたけど、なんで・・・・・・なんで、あのとき・・・・・・あんな・・・・・・」 「相手の苦しむのが楽しくて、もっと苦しめて殺したいと思ったんだろう・・・・・・ですか?」 悟飯は息を呑んでトランクスを見つめた。その顔がさっと紅潮し、すぐにすっと白くなる。 あれは自分じゃないと叫びたかったが、だめだった。 セルジュニアが手刀の先でぐしゃりと四散した時の、あの言いようのない感触を 怯えたセルを蹴りつけ殴りつけた時のあの高揚感を・・・・・・覚えている。 「オレもそうだったんですよ。未来に帰って、人造人間と闘った時に・・・・・・」 トランクスは悟飯から目をそらして、前方の小川を見つめた。 「未来に戻って、すぐ奴らのところに行きました。そしたら17号が言ったんです。 『もうそろそろ、孫悟飯のとこにいくか? ヤツみたいに苦しんで苦しみぬいて死んでみるか?』 一瞬、目の前が真っ赤になって・・・・・・次にどう動いたか、覚えていません。 でも、気付いた時、17号の身体のつぶれた感触が拳を伝わってきて 目の前に、彼の苦痛にゆがむ怯えた顔があって・・・・・・。 そうしたら、それがひどく快感に思えたんです。 絶望と恐怖と苦痛を与えて殺してやる。こいつも18号も・・・・・・!」 見つめるトランクスの横顔に、表情がない。やめて、と言いたかったが、声が出なかった。 「でも18号と闘ううちに・・彼女の悲鳴を聞いて、あの顔を見たら、一瞬クリリンさんの 顔がよぎって・・・・・・。ぼやけてたピントが合うようにいつもの自分が戻ってきました。 一撃でカタをつけられるハズだったのに、オレはいったい何をやってるんだろうって・・・・・・」 ---------『あんなやつ、もっと苦しめてやらなきゃ・・・・・・』 ---------『ちぇ、つまらない。もう、終わりだな・・・・・・』 ぐっと苦いものがこみ上げて、悟飯の体が大きく前に傾いた。 トランクスがはっと我に返り、背中から悟飯の両肩を抱きとめる。 「悟飯さん!」 トランクスの手の中で、少年の体が嘔吐をこらえるように幾度か引き攣った。 「すみません。すみません、悟飯さん。大丈夫ですか?」 小さな背中をそっとさする。 「・・・・・・だい・・・・・・じょうぶ、です・・・・・・」 身体は起こしたが、少年の顔には血の気がない。 呼吸は震えて小刻みで、鼓動は早鐘のようだ。 「すみません、前触れもなく、いきなりこんな話をして・・・・・・」 「いえ・・・・・・。いいんです。トランクスさん、あの、怖く・・・・・・なかったんですか?」 「怖かったですよ、とても・・・・・・。彼らを消滅させて、家に戻ったあとも、ずっと恐ろしかった。 オレだって好きで人造人間を殺したかったわけじゃない。好きで闘いたかったわけじゃないんです。 なのに、自分があんな状態になるなんて、信じられなかった・・・・・・。 そんなとき、あなたのことを思い出したんです。優しいあなたが、まるで楽しむようにセルを 叩きのめした。あのときの悟飯さんも、オレと同じ・・・・・・いや、パワーはオレより はるかに上だったわけだから、もっと混乱してたんじゃないかって・・・・・・」 ピッコロから何度も言われた。 あんな力を発現させて、正常な思考を持ち続けるなど、誰にもできない。 あれはおまえのせいではなかったのだ、と。 超サイヤ人になった時、一番難しいのは気持ちのコントロールだ、と父は言った。 怒りで、冷静な闘いができなくなり、周りまで巻き込みかねない。 たしかに初めて超サイヤ人になった時の父は、まるで別人だった。 それでも、あの時、自分の中に芽生えたものは、そういったことでは説明できないもののような 気がした。誰にもわかってはもらえない・・・・・・あの感覚・・・・・・。 だけど、今、ここに、同じ思いをした人が・・・・・・。 悟飯は大きく深呼吸をして、顔をあげた。 トランクスが悟飯の肩においたままの手に、少し力をこめる。 「悟飯さん、どうかあの時の自分を、責めないでほしいんです。うまく言えないけど、 あれは、半分だけサイヤ人の血を引くオレたちの、宿命のようなものだと思いたいんです。 父さんたちのように、戦うためだけには戦えないオレたちの・・・・・・ 逃避かもしれない・・・・・・。でも、オレもオレ自身を責めたくないし、 あなたが自分自身を責め続けるのは、見ていられない・・・・・・」 「その、宿命は・・・・・・ずっとつきまとうんでしょうか・・・・・・」 「これから先、何があるかはわからないけれど、でもあなたは、すでに一度、乗り越えてますよね」 「え?」 「オレ、死んでたから見ていないけれど、あなたは見事にセルを倒した。 自分の意志で、あの力を使いこなしたんです。 復活したセルを倒した時のことは最初からはっきり覚えているんでしょう?」 「はい・・・・・・」 「人造人間を倒した後、オレも、感情と力のバランスをどうとるかだけを考えて 修行してきました。なんとかなったと思いますよ。 少なくともセルを倒す時は、それなりに冷静でいられたと思っています」 ブルーの瞳がまっすぐに悟飯の目をとらえた。 「この3年間、あなたにずっと伝えたいと思っていました。悟飯さん、あなたは何も悪くない。 あの時起こったことは、あなたの責任ではありません」 この人はあの時の自分を完全に理解して、その上で許すと言ってくれている・・・・・・。 おまえは、何も悪くないと・・・・・・。 後悔が消えるわけじゃない。それでも、ボクは・・・・・・。 自分を見つめている青年の顔が、みるみるうちに涙にかすんでいく。 「・・・・・・トランクスさん・・・・・・ありがとう・・・・・・。ありがとう、ございます・・・・・・」 トランクスに抱きついて、悟飯は泣いた。 背中に暖かい手が回って、そっと抱きしめてくれた。 少年をなだめるように抱きながら、トランクスは小さかった頃のことを思い出していた。 悟飯が、自分を助けるために、片腕を失った時だ。 泣きじゃくる自分を右腕だけで抱きしめて、悟飯は何度も繰り返した。 「おまえのせいじゃないよ、トランクス。 おまえは何も悪くない。心配するな・・・・・・」 (悟飯さん、オレ、あのときのあなたの歳、もう追い越したんですね・・・・・・) (1) (2) (3) <4> (5) (6) (7) (8) (9) (戻る) |