愛しきものへ‥‥
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武道大会の規模のあまりの大きさに悟飯は驚いていた。人混みと喧噪にクラクラしそうだ。
「と、とにかく、トランクスさんのとこ、行かなきゃ・・・・・・」
あまりに明確なその気をたどって、そのまま選手の控えの間にはいる。

「よう! 悟飯! よく来たな!」
トランクスと話していたクリリンが、満面の笑みを浮かべる。

「クリリンさん! わー! クリリンさんも出場するなんて、嬉しいですよ!」

「何言ってんだよ。おまえらが出るって知ってりゃ、来るかよ、まったく!」

言葉の内容とは裏腹に、悟飯がこの大会に来る気になったということが、クリリンには本当に嬉しかった。セルゲームのあと何度か悟飯に会いにいった。そのたびにこの少年は笑顔で自分を迎えてくれたが、クリリンにはその笑顔が辛かった。いくら甘えても許される年齢でありながら、なぜここまで自分を律してしまうのか。「強さだけじゃなく、脳天気なところも似ればよかったのによ」と、帰り道、いつもひとりごちた。

「ところで、おまえ、その道着・・・・・・」
「あの、ピッコロさんが、これ着ていけって・・・・・・」
「へえ! ちょっとぐるっと回ってみせろよ」
悟飯は照れたように、それでもクリリンの目の前でくるりと回る。
悟空が最後までこだわった亀仙流の道着。クリリンの目に『飯』という文字がほほえましく映った。

「悟飯、ほんっと似合ってるぞ!」
ハハッと笑って、ぽんぽんと、親友の息子の肩を叩く。
『悟空、この姿見てやらないで、おまえ、どうすんだよ』内心、愚痴が浮かぶのが抑えられない。

「あれ、トランクスさん、気分でも悪いんですか?」

少年が視界に飛び込んできた時、トランクスは一瞬、床がぐらっと傾くかのように感じた。
自分の師であり、兄のような存在であった孫悟飯その人と、ひどく似通った道着。
頬に走った傷跡とそぐわない、かの人の少年のような笑顔と、目の前の少年が重なる。
まだ甲高いとはいえ、まったく同じ響きを持つその声。
そしてあの日、どす黒く貫かれていた『飯』の一字・・・・・・。

目を閉じて眉間に手を当て、頭を大きく振ったトランクスに、悟飯は驚いてすがりついた。
「トランクスさん! 大丈夫ですか?」
「おまえ、疲れてんじゃないのか? ちょっと前にあっちでセルを倒したばっかなんだろ?」
クリリンも心配そうな顔をする。

「・・・・・・ああ、すみません。そんなんじゃないんです。大丈夫ですよ」
そうだ。この時代でこの人は生きている。平和な時代でありのままに幸せに生きていけるんだ。

トランクスはもう一度、まっすぐに少年を見て微笑んだ。
「とてもお似合いですよ、悟飯さん。今日は貴方と手を合わせられるといいですね」
「はい!」

見知った気がまた二つ近づいてきた。
「ヤムチャさん! 天津飯さん!」

「悟飯!」
ヤムチャは、駆け寄ってきたとたん、悟飯を高々と抱き上げて一回転した。
「ヤ、ヤムチャさんっ おろして下さいってば」
子供じゃないんですから、とふくれてみせる悟飯の頭を、かまわずにかき回す。
「よく来たな! 元気そうでよかったよ!」

「立派になったな、トランクス」
天津飯は、たった4ヶ月で落ち着いた青年になってしまったトランクスをまぶしそうに見ている。
「未来、うまく行っているようだな」
「はい、おかげさまで」

「悟飯、おまえとも会えて嬉しいぞ」
ヤムチャがくしゃくしゃにした髪を梳くように、天津飯が悟飯の頭を撫でる。
「今日は、おまえかトランクスと当たるといいがな」

「えーっ オレはゴメンだぜ!」
「オレも!」
ヤムチャとクリリンが、声をそろえた。


200人の出場選手が25人ずつ8つに分かれ、バトル・ロワイヤルが始まった。組み合わせによってはこんなとこで体力使ってる場合じゃないぞ、と判断した約5名の人間が試合を急いだだめ、5つの武闘場で始まって10分程度で決着がついてしまった。そのため大量のモニターが録画放映になってしまうという予想外の出来事に、関係者はやきもきさせられるハメになった。

しかし準々決勝では、トランクスと天津飯、クリリンとヤムチャの組み合わせが、会場を興奮のるつぼに叩き込んだ。特に、同じ亀仙流の道着に身を包んだ二人の試合は、見て理解できる部分があったせいか、やんや、やんやの大歓声になった。

結局、悟飯、トランクス、クリリンともう一人の選手がベスト4進出を決めた。準決勝の方法は、ベスト4とゲストで来ている4人の「銀河戦士」が、バトル・アイランドと呼ばれる別会場でそれぞれ闘い、最初にこちらの会場に戻ってきた者が決勝に進出できるというものだった。で、決勝の相手はミスターサタンとすでに決まっている。


「とにかく、おまえら、こっちに戻ってくる前に、絶対に二人で手合わせしてくれよな」
クリリンがトランクスと悟飯に言う。この組み合わせ、武道家としてはぜったいに見逃せない。

「でも、銀河戦士って、よその星の人ってことですよね・・・・・。そんな簡単に勝てるのかな・・・・・・。
 まさか、フリーザみたいな・・・・・・! い、いや、でも悪い人には、頼まないよね・・・・・・」

「悟飯、なーにブツブツ言ってんだよ。ヤラセに決まってるだろ?
 なんでもミスターサタンの弟子が化けてるらしいぜ」
どこからか聞きつけてきたらしくヤムチャが言う。脇ではトランクスが笑いを噛み殺している。

なんだってそんな面倒なことを・・・・・・と、ショービジネスのことなど思いもよらない悟飯は思わず悩みそうになったが、まあ相手が普通の人間なら今まで通り注意して当て身をすればいいだけだ。最後はトランクスと手を合わせられるだろう。この大好きな青年といったいどんな交流ができるのか。

「じゃ、いきますか」
トランクスがそんな心の内を読んだように、にこりと笑って悟飯の肩に手を置く。

「おまえらの試合楽しみにしているぞ」天津飯が、二人の背中を前に押した。

「一応、おまえもがんばれよな、クリリン」とヤムチャが片目をつぶった。

「いや、オレは、こいつらがやり合ってる間に戻らせてもらうよ」
そりゃあいい、と大笑いになった。


***===***===***


(いったい・・・・・・これは・・・・・・?)

悟飯は混乱していた。

目の前に3人の仲間が倒れている。悟飯が駆けつけた時、すでにクリリンは完全に気を失っていた。内部の異変をモニターで見て飛び込んできたヤムチャと天津飯が、一瞬のうちに倒された。

バトル・アイランドに飛び込んで、すぐにぶつかった小男は、どう考えても普通の人間ではなかった。状況の把握ができないまま一方的に逃げ回るうち、いきなりクリリンの気が異常に上がり、小さくなった。慌ててすっ飛んできたのがこの場所だ。

ヤムチャと天津飯の話によれば、相手はヤラセの銀河戦士を殺してすり替わった連中らしい。
少し高い位置から自分を値踏みするように見ている3人が、先ほど高らかに宣言した。
「この地球を我らがボージャック様のものとする」

髭をたくわえた背の高い男は尊大な態度で自分を見下ろしている。金髪が頭頂から後頭部にかけて、たてがみのように走っている。他の一人は少女だ。金髪の巻き毛がくるくると足まで届く。表情のないブルーの瞳と切れ上がったまなじりが酷薄な印象だ。最初に会った小男は、紫色のターバンで頭部を完全に包み、唇に冷笑が張り付いている。見た目は地球人に見えるが、3人とも肌が青い。そして何よりその戦闘力が・・・・・・。

悟飯は自分の感覚を信じられなかった。髭の男にはセル並みのパワーを感じる。少女と小男もセルの第二形態程度の力を持っているようだ。

「なっ・・・・・・!?」 3人の後ろからもう一つ、強大な気が近づいてきた。
(そんな・・・・・・ばかな!?) セルをはるかに凌駕する気・・・・・・。悟飯は戦慄した。

「ボージャック様」
3人が跪いて男を迎える。ブルーの長い上着をはためかせ、黒いバンダナの下から金髪があふれている。胸の厚さや腕の太さが驚異的だ。そしてその肩に担がれているものは・・・・・・。

「ト、トランクスさん・・・・・・!?」

「小僧、お前の仲間か?」豊かに響く声だ。

ボージャックと呼ばれた男は、無造作に、トランクスの身体を悟飯に向かって放り投げた。反射的に受け止める。意識は失っていても青年の身体に気が巡っていることがわかる。この無意識のガードがなければ、物理的な肉体などたやすく潰されてしまう。
トランクスの左太腿あたりに触れた右手が、べったりと赤く染まった。慌てて地面に横たえ、自分のアンダーシャツの左袖を引きむしる。

「ムージ、ゴクアがやられたぞ」
「なんですと!?」髭の男が驚いた声を出した。「私には劣るにしろゴクアもかなりの使い手ですぞ」

「そいつに倒された。こんな辺境の地に、こんなヤツがいようとはな」
ボージャックはトランクスの方に顎をしゃくった。
そして、自分を見つめる少年の目に気付いた。


悟飯の呼吸はすでに変わっていた。軽く開いた唇から、細く長く、吸気の二倍以上をかけて息を吐いていく。目は前の4人から離さないが、意識は自分の体内を見ていた。取り込んだ気が自分のそれと混じり合う。深く、三呼吸。それで充分だった。身体の中心に練り上げた気の渦を、四肢に走らせた。

「ガキは恐れを知らないですな」喉の奥でクックッと笑うような声で小男が言った。
「しかし、ビドー、いい目だと思わんか?」ボージャックは手下に返した。
先ほど倒した奴もそうだったが、この小僧もまっすぐな目をしている。そういう目が恐怖に曇って、光を失っていくのを見るのは、この男の快楽だった。

手足の先が熱くなるほどに高まってきた気を再度下腹に集め、そのまま脊柱から頭頂を通して解き放つように爆発させる。黒髪が一気に金色に逆立ち、黒曜石の瞳はエメラルドのきらめきを放った。超化したのは4ヶ月ぶりだったが、身体は覚えていた。しっくりとなじんだ。

「これは、なかなか」ムージと呼ばれた髭の男がニヤリとした。
「ほう、楽しませてもらえそうだな」ボージャックが言った。

怯えはなかった。
いつからボクは、敵を前にして怯えなくなったんだろう。
悟飯は思った。



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