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愛しきものへ‥‥
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少女の顔が、まるでそれを抱きしめたかのように腕の中から悟飯を見上げた。 その唇がニヤりと歪むと、こめかみに強烈な回し蹴りが飛んできた。とっさに腕で庇おうとしたが、遅く、目の前で火花が散ってたまらず吹っ飛んだ。相手の信じられない間合いの近さと、それを可能にする柔軟さに、悟飯は惑わされている。だいたい自分より間合いの近い相手と闘ったことがないのだ。 飛んだ先に小男がいる。制動兼攻撃のための気弾を放つが、ビドーは先回りして悟飯の肩のあたりを組んだ両手で強烈に打ち据えた。地面に叩き付けられた悟飯に、すかさず少女が飛び込んでくる。背筋で跳ね飛んでかわした。 スピードは悟飯の方が上回っているのだが、二人は絶妙のタイミングで計算づくの攻撃をしかけ、呼吸を整えるヒマも気を練るヒマも与えない。悟飯は、相手の拳や蹴りを自分の手足で受ける数がだんだん増えてくることに少し焦っていた。 (相手の打撃は出来る限り受けるな。紙一重でかわせ) ピッコロの教えだった。かわされると、ダメージを与えられないだけでなく、動きが大きくなる分疲れる。相手を疲れさせるのも重要なことだ。それはわかっている。わかっているんだけど・・・・・・。なんだってこんなにやりにくいんだ・・・・・・!? 「ビドーとザンギャ相手に、よくやりますな」と髭の男、ムージが言う。 「驚いたな。あの小僧、まだ完全に力を出し切っていないようだぞ」とボージャックが受けた。 また自分の間合いに飛び込んできた少女の動きが今度は読めた。カウンターで左肘を叩き込み、そのひねりを利用して、後ろに迫っていた小男の脇腹に強烈な右の回し蹴りを浴びせる。足の甲で引っかけるように回転気味に蹴り飛ばした。吹き飛んだ二人に向き直り大きな気功波を投げつける。 「!」 悟飯の気功波が、横から走ってきたエネルギーにはじかれた。滑るように、青い長身が視界の中に入ってくる。 「小僧、イキがいいな!」ムージが恫喝のこもった嘲笑で怒鳴る。 体制を立て直したビドーとザンギャが、浮き上がってきてムージの両脇に陣取った。 ムージの強大なパワーを目の前にして、逆に悟飯の頭の中が静かになった。こうなったらやるしかない。開き直りにも似た、しかし明確な戦意。 「悟飯!」 上空から飛び込んできた白い大きな風が、少年の隣にすっと並んだ。 「大丈夫か!」 「ピッコロさん!」 ピッコロも素早く敵を値踏みする。チビどもは自分でもなんとかなる。精神と時の部屋の一年間の成果を考えればちょうどいい。しかしデカイ二人はそうはいかない。とくに一人見物を決め込んでいるアイツは・・・・・・! なんてことだ、と内心舌打ちし、マントとターバンを剥ぎ取った。 一瞬ピッコロに笑みを向けた悟飯は、すぐにぎっと前方に視線を戻し、いきなり気を練り上げ高めた。 ピッコロは悟飯の高揚した戦意に驚いた。セルに「闘いが好きじゃない」とつぶやいたあの悟飯が・・・・・・。 (まるでフリーザと闘った時のようだ・・・・・・) 「待て! 悟飯! そのレベルじゃ・・・・・・!」 まだ足りない、と叫んだピッコロの声も聞こえなかったかのように、悟飯がいきなりムージに突っ込んだ。それを合図に全てが動き出す。 ピッコロは確実に残りの二人を引き止めた。さすがに敵が二人では決定打は放てないが、それでもあの長身の男の加勢にだけは行かせてはならない。 実際に組んで初めてわかることだが、ピッコロの調気はあまりに自在で、飛んでくるものが拳なのか気弾なのか、区別できなくなる。間合いもあって無きが如しで、流動するものと闘っているかのような錯覚さえ覚える。剛の悟空を倒そうと修行するうちに編み出したピッコロの独特な闘い方。彼が修行に瞑想を多く取り入れる理由はここにあった。 ザンギャとビドーも、力の上では同等と踏んだ相手が、2対1でここまで闘うことに驚いた。少年と決定的に違うのは何より闘いのセンス。その父親からずっと受け継いでいる膨大な闘いと修行の記憶。どのような状況に置かれようが、ピッコロは自分の力を100%引き出す闘い方のできる戦士だった。 一方悟飯も、さっきまでの何かためらいがちなところがなくなって、思いっきり力をぶつけている。髪はいっそう輝き、黄金の気の鎧を纏う。小さな拳と足先に込められた破壊力に、ボージャックの右腕と恐れられ続けたムージが、思わず真剣になっていた。 「フン、あの緑の男もなかなかやるが・・・・・・。だが小僧のほうも、さっきより動きがよくなったぞ。 まあムージの敵ではないがな・・・・・・」ボージャックはつぶやく。 惚れ惚れする小僧だ。俺が3000年ぶりにこの世に出られたことへの祝福の獲物だ。 (なぜだ、悟飯・・・・・・?) 激しい打ち合いの中にあっても、ピッコロは悟飯の気を捉えている。さっきまで悟飯が闘っていたのがこの二人なのは歴然だった。悟飯の今の力なら、すでにどちらか倒していても不思議ではない。神殿から飛んでくる間じゅう感じていた。悟飯の何かひっかかるような闘気・・・・・・。 (まさか・・・・・・おまえ・・・・・・!?) 自分では決して相手を殺すことができない。 無意識にそうわかっていて初めて、おまえは自分から闘えるのか・・・・・・。 ナメック星でも、そして、いまも・・・・・・。 ***===***===*** ボージャックと4人の手下どもが逃げ出したというニュースは4人の界王にすぐ知らされた。かつて4つの銀河を股にかけて傍若無人に暴れ回っていた彼ら。地獄でも責任を持ちかねる、という鬼たちの拒否に合い、仕方なく膨大な犠牲を払って、生きたまま封印しておいたのだ。それが3000年の時を経てその封印を解かれるとは・・・・・・! 4人の界王は担当銀河の様子をくまなく探り、そして北の界王が、問題の連中が地球にいることをつきとめた。 「信じらんねぇ・・・・・・。あとの4人も強いけど、あのボージャックってヤツ、むちゃくちゃだ・・・・・・」 界王の背中に手を当て、地球の様子を見ていた悟空は青ざめていた。 瞬間移動で下界に行けるものなら、あとでどんな処罰があろうが飛んでいくつもりだった。 しかし、いくら試しても、どうしても移動できなかったのだ。 「界王様 今日だけでいい。占いババに頼んで、オラ、生き返れねぇか?」 「だめじゃ、悟空。占いババの一日復活は、死んでから1年以上たった者に限られるんじゃ。 おまえはまだ4ヶ月しかたっておらんじゃろう」 「くそっ こんなこと起こるんだったら、2度でも3度でもかまわず生き返っとくんだった・・・・・・」 普段だったら「強いヤツと闘いそこなって残念じゃったな」と茶々を入れるところだが、今の悟空の顔を見たらとても言えない。こんな不安げで真剣な悟空を見るのは初めてだった。セルの爆風にその身体を切り裂かれる瞬間でさえ、悟空の気には怯えの一筋も入らず、顔には笑みすら浮かべていたというのに・・・・・・。 「おまえ、セルの時はずいぶん息子を信じておったろうに?」 「あんときは悟飯はぜってぇ勝てるって自信があった。 感情のコントロールを失っちまったのは、それを予測できなかったオラのミスだしな。 セルが復活した時も、悟飯が力を出し切ればいけるって信じてたさ。アイツはオラが力を 貸したって思ってるみたいだけど、オラは単に精神的な支えになってやっただけだ」 「今度はダメかもしれんと?」 「わかんねぇ。でも、あのボージャックってヤツ、強すぎる。1対1でも勝てるかどうか・・・・・・。 敵があのレベルで5人ってのがまたヤバイんだ。悟飯は戦闘センスのあるほうじゃねぇしな」 精神と時の部屋で、悟飯の、本人すらまったく気付いていない爆発的な力を確信したとき、悟空は天にも昇る喜びを感じた。これでセルが倒せるということだけでなく、自分の血を分けた息子が、見たこともない強さを持っていたという事実が、ひどく嬉しかったのだ。 優しい気質の悟飯にどうやって力を発揮させるか。仲間をできるだけ傷つけず、できればセルの手の内も見せた上で・・・・・・。セルゲームの組み立てについては色々考えたつもりだった。だが、悟飯を一人闘わせたことをピッコロに非難された時、悟空は自分の中の隠れた本音に初めて気付いた。 (悟飯の真の力が見てぇ・・・・・・) 最終的にセルは倒せたが、結果は悟飯を苦しめることになってしまった。悟飯の苦しみが自分の死にあることはわかっていたが、生き返れば、自分はまた悟飯に対して同じ事を繰り返してしまうかもしれない・・・・・・。そう思うとおいそれと生き返る気持ちになれなかった。 だが、まさかこんなことになるとは・・・・・・。 拳を握りしめてうつむいた悟空が、食いしばった歯の間から絞り出すように言った。 「アイツのそばにいてやりてぇ・・・・・・」 ***===***===*** ムージに足を捕まれた。しまったと思った瞬間そのまま叩き付けられた。自分の身体が建築物を破壊していく。両手で頭を庇い、気を巡らして最低限の防御をするのが精一杯だ。動きが止まった時には、痛覚以外の感覚を失って、起きあがれなかった。薄く開いた瞳に上空から白光が飛び込んでくる。跳ね返すだけの気が練れない。 受けるしかないと思った刹那、金色の光が交錯した。 目の前に見慣れた白いブーツ。そしてその峻烈な黄金の気。 「おまえの力はこんなもんではあるまい! ハンパな闘いは見苦しいぞ!」 「ベ、ベジータさん・・・・・・?」 「こいつはオレが倒す。手を出すな!」 言うが早いがベジータはムージに飛び込んでいく。 セルゲームの後、ベジータが修行からすっかり遠ざかり、ふさぎ込んでいるということはそれとなく聞いていた。父が死んでしまったせいだろうと、悟飯はベジータに対しても申し訳なく思っていた。そのベジータが今、自分を助けてくれた。悟飯は心が熱くなった。 (そうだ、ピッコロさんは・・・・・・?) ふらりと上空に上がると、嬉しいことにトランクスがピッコロと共に闘っている。2対2になって、完全に敵を圧していた。 トランクスの闘いを初めて見た悟飯は、思わず見惚れてしまった。どこか自分が理想とするものに似ている。父の剛、師の柔、それらを融合した型・・・・・・。 この人はこうして、たった一人で自分の時代を守っていくんだ。もうこれ以上、この時代の闘いに巻き込んでていいわけがない・・・・・・。悟飯は思わずトランクスに向かって飛ぼうとした。 ふと強い視線を感じた。振り返るとボージャックが離れたところから自分を見ている。いかにも愉快そうな目、表情は穏やかですらある。 そうだ、コイツを倒すのはボクじゃなきゃ・・・・・・。 悟飯はその目をまっすぐに睨み返した。すぐに襲ってくる気配はない。この化け物と闘うには、少しでも身体を休ませて気を練り直す必要があった。 いきなりピッコロの気がすうっと強烈に凝縮するのを感じた。大きな悲鳴があがり、少女の身体が集中した気功波に貫かれて落ちていった。そしてトランクスもまた、ビドーにまさに最期の一撃を加えようとした、その時・・・・・・。 いきなりドンッと地鳴りのような衝撃が空間全体を襲った。一瞬地震かとあたりを見回したピッコロと悟飯は、信じられない事実に戦慄した。 さっきまでトランクスのいた位置に、青い巨体があった。 かろうじて淡い金色を放ったまま、トランクスが真下の瓦礫の中に埋もれている。 「ト、トランクスさんっ!!」 トランクスを打ち沈めた男は、やはり愉快そうな青い目で、悟飯ににやりと笑いかけた。 薄いブルーの唇が大きく開いて、そこから気合いの声が響いた。 「そんな・・・・・・!」 青い上着が裂け飛んで、身体が一回り大きくなった。 頭に巻いていた黒いバンダナが爆ぜ、真っ赤に変わった髪が舞い上がった。 ボージャックが、燃えるような赤い瞳で、悟飯を見つめていた。 (1) (2) (3) (4) (5) (6) <7> (8) (9) (戻る) |