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愛しきものへ‥‥
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パオズ山の眺めのいい高台で、朝からトランクスが寝転がって風に吹かれていた。 何かを確かめるかのように、手が緑の面をポンポンと軽く叩いている。 彼の世界では、この地面の下に、悟飯や悟空やその仲間たちが眠っているのだ。 だが、ここには、誰も、いない。 (気持ちいいな・・・・・・) セルの乗ってきたタイムマシンを少年と二人で探した時のことを思い出す。病床の父親を置いて自分からついてきた。セルの現れた町の様子を見に行こうとしたときも、やはり一緒に行くと言って、母親に止められていたっけ。 あの少年に初めて会った時、これがあの人なのかととても複雑な気分だった。ずっと年下なのにどうしても呼び捨てにできなくて・・・・・・。でも、あの子はあどけなくまっすぐに自分に近づいてきた。さん付けで呼ばれてちょっと照れてはいても、拒否することもなく素直に受け入れて。 可愛いと思った、なんとなくまつわりついてくるあの少年を・・・・・・。 あの人だから・・・・・・たとえ子供であっても、あの人だから気になるのだろうと思っていた。 でもそれは違ってた。 自分の時代に戻ってから、時々少年のことを思い出した。憧れと好意のこもったあの眼差し。無邪気な態度。そして父親が逝った時のあの悲痛な叫び・・・・・・。いったいあの子は今、どうしているのだろうとよく思った。 少年のことが、あの人とは別の一人の人間として心に掛かるのだと、初めて気付いた。自分の近くにはいない年下の子・・・・・・たとえば弟のように・・・・・・。 だから、どうしてももう一度会いたかった。大切な人を喪ってしまった苦しみを、あの人や自分が背負ったと同じ苦しみを、もしあの子が背負っているのなら、少しでも和らげてやりたかった。 (でも結局、あの子は自力で解決したんだよな) 2日前、信じられない力を発揮させて敵を倒し、気を失った少年をこの手で抱き上げて運んだ。神殿で気がついた少年は、はにかんだような、でも少し大人びた表情で、周囲の大人達にはっきりと言った。 『いろいろご心配をおかけしました。でも、お父さんの気持ちとか、いろんなこと、 よくわかったんです。僕、もう大丈夫です』と・・・・・・。 あの闘いの中で、父やピッコロが自分を未来に帰そうとしてくれたこともとても嬉しかった。もちろん素直に帰るつもりなどなかったけれど、あの父が自分の命をかけて帰れと言ってくれた。 (あの言葉だけで、オレは、これから先、ずっと一人でも闘っていける・・・・・・) だいたい傷ついた仲間全員をひそかに神殿まで運べたのも、父がミスターサタンを叩き起こして大型のフライヤーを用意させたからだった。あとで母から聞いたのだが、父は当初の目的であった「温泉巡り旅行」とやらを脅し取ることも忘れなかったそうで、(方法はともかく)その臨機応変さに舌を巻くと同時に、なんだかまたひとつ父を好きになれた。 「トランクスさーん!」 明るい声が空から響き、半身を起こしたトランクスの脇に悟飯がすっと着地した。トランクスの気を見つけて慌てて飛んできたらしい。自分に会えた喜びが全身からオーラと発している感じで、見ているだけで微笑んでしまう。 「びっくりしましたよ! トランクスさん! あ・・・・・・僕、いきなり来ちゃって、もしかしてジャマでしたか?」 「とんでもない。悟飯さんの家に行くとこだったんですから。 ただ、ちょっと早いかなと思って時間つぶししてただけですよ。 悟飯さん、オレ、明日、帰ることにしたんです」 少年がすとんと膝をついて、青年に詰め寄るように近づいた。 「え、もう、帰っちゃうんですか? あの・・・・・・今度はいつ会えますか?」 トランクスが少し困ったように微笑んだ。 「いえ・・・・・・、もう来ることはないと思います。本当は今回もずいぶん迷ったんです。 オレはこの時代の人間じゃないし、時間旅行なんて反則ワザみたいなもんなんですから。 ただ・・・・・・、どうしてももう一度、あなたに会って、安心したかったんです」 何か言いたげに少年の唇がわなないて、そのまま俯いた。 二度と会えないと思うと泣きたい気持ちになったが、青年の言っていることはわかるような気がした。逆に言えば、この人は僕のためにムリをして来てくれたんだ。セルゲームのあの恐ろしい瞬間を許してくれるために・・・・・・。 悟飯はぐっとこらえると、笑顔でトランクスの顔を見あげた。 「わかりました。寂しいですけど、そういうことなら・・・・・・。 僕、あなたに本当に感謝しています。あなたが来てくれなかったら、僕はきっとずっと セルゲームのことで悩み続けたと思います。あれはトランクスさんにしか わかってもらえないことだったと思うから・・・・・・。本当にありがとうございました」 「そう言ってもらえると来てよかったと思えます。嬉しいですよ、悟飯さん」 「それで、トランクスさん、ひとつだけお願いがあるんです。 あの、一度だけ、手を合わせてもらえませんか?」 2日前に見たトランクスの体術は悟飯をいまだ魅了している。 トランクスは微笑んで頷くと、ふわりと立ちあがった。 ほとんど相似形のように両者が動いていく。まっすぐに正対した状態から、息を深く吐いてゆっくりと前後に足を滑らせる。胸郭が外気で満ちるにつれて自然に両手があがり、右の小指球同士が軽くふれあった。やや伏し目がちに視線を置き、自分の気の流れと相手の気の流れに集中する。 触れ合った右手がつながっているかのようにゆるやかに動き始め、それがすっと離れた時に、舞いにも似た打ち合いが始まった。まるで最上級の殺陣のように、相手が受けるとわかっている部分に打撃を加えていく。攻め手と受け手が、何度か完璧なタイミングで交代した。 トランクスは、その優しげな立ち姿からは想像もできない力強く鋭利な気の持ち主だった。悟飯の感覚は青年の気をほとんど視覚化して捉えている。なんと厳しい色合いだろう。どれだけ周りを助けても、決して助けられることを期待しない強靱さが、そこにはあった。 両者の関係が少し、変わる。二人の目から笑みが消える。 青年は少年の速さと重さに驚く。特に間合いに飛び込まれた時はブロックしてさえきついほどの衝撃だ。少年は青年の打撃のつながりの巧さに驚く。身体の動きが驚くほど自在だ。小さな頃にベジータと闘った時のことを思い出した。ただ彼より調気はずっと巧みな気がした。 伸びてきた青年の右拳を身体を開いて交わす。いいタイミングで振り抜かせたはずなのに、それがすばやく肘打ちに変化した。くんっっと目の前に迫る肘を思わず両手で防いで押し返し、相手の重心が左に移動したのを見て身構えた。と、相手がいきなり背中から回転し、逆から踵を叩き込んできた。わっと飛びすさったが、勢い余って尻餅をつく。燕のように翻って着地した青年が、そのまま動きを止めて笑みをたたえ、こっちを見た。 悟飯が苦笑して立ち上がり、胸の前で自分の右の拳を左の掌に押し当てて黙礼した。 トランクスも、まったく同じ動作を返す。 拳を納める・・・・・・。すでに敵意がないという拳法での礼の形。 悟飯は父に教えられたままに、トランクスはその師に教えられたままに・・・・・・。 「素直ですね、悟飯さん」トランクスが乱れた髪をかきあげながら笑う。 「・・・・・・いつもこれでピッコロさんに怒られてます、真剣さが足りないって・・・・・・」 正確に言うと怒られるんじゃなくてそのまま思いっきり殴り飛ばされてるんだけど・・・・・・。恥ずかしそうに頭をかく少年は年齢よりむしろ幼く見える。その姿がトランクスの心の中にしみいるように焼き付けられた。 トランクスは悟飯に歩み寄って、その顔を見つめる。 「オレ、あなたと会えて本当によかった。おかげでいろんなことがわかった気がします」 え?と、もの問いたげに、少年の目が見開かれた。 「オレにはあなたが弟みたいに思えたんですよ。あなたを守ってあげたいと思った。 あなたのほうがずっと強いんだから、おかしなことかもしれないけど・・・・・・」 悟飯は、そんなことはないと、大きくかぶりを振った。 「そう思った時、あの人もオレに対してこんなふうに感じてたんだって気付いたんですよ。 そして、どんな想いでオレを庇って死地に赴いたのかも、少しだけ・・・・・・。 守りたいと思う人と出会って初めて、自分がどれだけ愛されてきたかわかるんですね。 あの人が生きているうちにわかってあげたかったけど、 でも、たとえ今でも気づけて嬉しいんです。あなたのおかげですよ」 「あの人」というのが、未来の自分であることを悟飯は知っている。自分がこの人に何をしてあげられたのかよくわからなかったが、青年にとっては何か大切なことのようだ。 「あ、あの、僕、ちょっとでも、トランクスさんのためになることがあったんなら嬉しいです。 えーと、でも僕って、どこでどんなお役に立てたんでしょう?」 トランクスはその物言いに思わず吹き出してしまった。そう、この子にはちょっと早すぎる話だったかもしれない。 「いいんですよ、悟飯さん、あなたがこうして元気でいてくれる、それだけでいいんです。 それにおとといだって、あなたがいなかったら、オレ、死んでたかもしれないじゃないですか」 えーと、そーゆー意味じゃなくて・・・・・・と言い出した悟飯を笑って押しとどめ、トランクスは言った。 「ね、悟飯さん。今日はこれからどこか遊びに行きましょうか?」 「え、いいんですか!? じゃあ、僕、ちょっとお母さんに断ってきます」 「オレは、ちょっとクリリンさんのとこに行ってますよ。 ピッコロさんのとこは今朝行ってきたんですけど、クリリンさんにも挨拶したいから」 「なんかクリリンさんも一緒に来てくれそうですね! 僕、あとからすぐ追いかけますから!」 では、また! と手を振って、トランクスが空に消えた。 僕も急がなくっちゃ、と飛び上がろうとした悟飯は、ふと誰かに呼ばれた気がした。 あたりを見まわし耳を澄ます。 (お父さん・・・・・・?) さわやかに吹きよせる風にのって、自分に呼びかける優しい声が聞こえる。 それは父の声のようでもあり、母の声のようにも聞こえた。 師の声のようでもあり、仲間たちの声のようでもあった。 しばし風の調べに耳を傾けていた悟飯は、満ち足りた微笑みを浮かべると たん、と地を蹴って、空に翔けた。 愛しきものへ 愛しきものへ・・・・・・ この想い、とどけ・・・・・・。 (了) ***===***===*** DB文庫に発表した時は、第1話を2回に分けて投稿したので、 全10話になっていました。 この作品が私が初めて書いたDB小説になります。 だから回を追うにつれて少しずつ文章が変化していて、 読みにくいかと思いますが、ご容赦いただければと思います。 第6〜8話は映画『銀河ギリギリぶっちぎりの凄い奴』がベースです。 セルゲームの4ヶ月後にこの事件が起こったという設定なわけですね。 戦闘シーンどうなるかと思いましたが、苦労はしたけど、 意外と楽しんで書けたり・・わからないものですね。 ちなみに第8話で、ピッコロが自分を息子と呼んだ神を思い出す、という シーンが出てきますが、これは「昇化」を引いています。 |