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翠(みどり)
(前編)
<後編>
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あたりを闇が包み始めた。 カプセルコーポの住居から5人の地球人がナメック人の居住区に向かってゆったりと歩いていた。 ナメック星崩壊後260日。ポルンガの二度目の復活の日であった。 ブルマとブリーフ夫妻の前を歩くヤムチャが隣のクリリンに聞いた。 「クリリン、悟飯のヤツ、知らねぇか? ちゃんと時間は知らせたんだけどよ」 「たぶん‥‥ピッコロを迎えに行ってるんだろ」 「そうか‥‥。ピッコロのヤツ、どうする気だろ? なんかアイツがナメック星で暮らすのって、似合わねーよなぁ」 「やっぱ、ヤムチャさんもそう思う?」 「だって、ほんとーに平和主義者なんだぜ、あの連中。ピッコロ退屈しちゃうんじゃねーの? それに、ピッコロにゃ、悟飯がついててやんないと、どうもな」 クリリンはヤムチャの保護者めいたその言い方に吹き出しそうになった。 「"悟飯にピッコロがついててやんないと"、じゃなくて?」 「いや、それも、そーなんだけどさ。ただ、俺らも、二ヶ月もアイツのこと見てきたからな。 おまえも、ピッコロには、なんか悟飯が必要だと思わねーか?」 ヤムチャと天津飯、餃子、それにピッコロは、サイヤ人に殺されて界王のもとへ行く道中、ずっと一緒だったのだ。「仲良しこよしだったわけじゃねーけど、無視し合ってたわけでもねーよ」その時のことを、ヤムチャはクリリンにそう言った。 無頓着に見えて、意外とよく人を観察しているこの戦友にクリリンは内心微笑む。 「ああ、オレにもわかる気はするよ。ま、たぶんピッコロは地球に残るでしょ。 それより、ヤムチャさん、神様は?」 「俺、昨日、最長老さんを神殿に連れてったんだよ。神様、今日は遠慮しとくって」 クリリンがへへっと笑って言った。 「ヤムチャさんやオレが、神様や最長老様のお供っての、なんか笑えるよな」 「まったく。でもって今日は、界王様んとこから天津飯と餃子が生き返ってくるっと‥‥。 悟空と知り合ってから、むちゃくちゃな人生歩いてるよな、俺たち‥‥」 ヤムチャもさも可笑しそうに笑った。 神様はピッコロに遠慮したのだろうか、とクリリンは半月ほど前のことを思い出した。ピッコロの持つキズのようなものが心に痛かった。はっきり言って自分もまたあの異星人をかなり気に入っている。悟空とは別の意味で、ピッコロにはどこか頼りになるところがあった。サイヤ人やフリーザと闘った時、ピッコロが言う色々なことに素直に従えたのは、強さだけが理由ではなかった気がする。クリリンにとってはピッコロはすでに大事な仲間だった。だから神様がピッコロのことを気にかけてくれているのは、やはり嬉しい事実だった。 最長老の住まいの側の広場には、もうすでにナメック人たちが集まっていた。 ナメックの子供達と寄り添って人待ち顔で空を見上げていたデンデが「あ、来た!」と、空を指さした。他の子供たちもわーわーと手を振る。暗い空に白く翻るマントと、その隣の小さな影。 二人は人の輪から少し離れたところにふわりと降りた。子どもが何か言いたげにその長身を見上げたが、ピッコロは口をつぐんだままかすかに首を振る。悟飯は素直にピッコロを残し、一人でこちらに駈けてきた。その姿が途中でナメックの子供たちに取り囲まれる。 そんな様子を見てヤムチャとクリリンはそっと笑い合う。 「ほら、ピッコロがなんも言わなくても、悟飯には全部わかってんだぜ」 「まったく、いいコンビだよな」 輝く大きなドラゴンボールを一つずつ持った六人の長老と最長老が地球人達の前に歩み出た。長老達はボールを地に置き、数歩下がる。 「それではポルンガを呼び出してよいですかな?」最長老が言った。 皆のざわめきが静まり、子供達も最長老の方に向きなおる。悟飯が身をすくめるようにして駈けてくると、クリリンとヤムチャの間にちょこんと収まった。 最長老がナメック語で呪文を唱える。七つのボールが白く輝き始め、稲光のように一瞬強く光ったかと思うと、わき出るように、ポルンガの巨大な姿が宙にそびえ立った。 「ドラゴンボールを七つ揃えし者よ。さあ、願いを言うがいい。 どんな願いも可能な限りみっつだけかなえてやろう」 ポルンガの放つ光が、あたり一帯を乳白色に染めた。 「生き返らせる方はお二人でしたな」 「はい。天津飯と餃子といいます」クリリンがゆっくりと二人の仲間の名前を言った。 「テンシンハンさんと、チャオズさんですな。わかりました」 最長老が二人の名前をポルンガに告げる。 「わかった。ひとつめとふたつめの願いを、かなえよう」 しばらくの沈黙の後、ポルンガが言った。 「願いは今かなえたぞ」 その言葉と同時に、そこにいる皆の頭の中に声が聞こえてきた。 「天津飯だ。聞こえるか? 今、界王様にお願いして話してるんだが」 「天津飯!! やった! うまくいったんだな!?」ヤムチャが満面の笑みで空に叫ぶ。クリリンも嬉しそうに空を見あげた。 「ああ! 面倒かけたな、みんな! それで‥‥その‥‥ナメックの最長老様‥‥?」 「ああ、聞こえておる。あなたも孫悟空さんのお仲間じゃな」 「はい。俺たちのために長いこと地球に残っていただいて、まったく申し訳ありませんでした」 「気になさるな。ナメック星が全滅しないですんだのは地球のみなさんのおかげなのですからな」 「で、天津飯、どのくらいで戻ってこれるんだ?」とクリリン 「俺、蛇の道戻るの、二週間ぐらいかかったぞ」とヤムチャが言った。 「じゃあ俺たちは一週間ってとこか。あのあともけっこうマジメに修行してたからな」 天津飯の少し笑いを含んだ声が聞こえてきた。 「わかったわかった。おまえさんは偉いよ。とにかく戻ってきたら、二人ともカプセルコーポに きてくれよな! みんな待ってるからさ!」 ヤムチャがこのヤロウという笑顔でそれに答えた。 クリリンが最長老の前に進み、その皺だらけの手をとる。 「最長老様、ホントに感謝してます。おかげで、オレ、やっと目的を果たせました」 そう‥‥サイヤ人に殺されたみんなを生き返らせたい‥‥。その一心でナメック星に行った。フリーザと出会い、ナメック星が破壊され、そのうえ自分は殺されて‥‥。でも、これでやっと全部終わった。あとは宇宙のどこぞをほっつき歩いている悟空が戻ってくれば、本当にめでたしめでたしだ。 「いえいえ、こちらこそすっかりお世話になりました」 最長老はクリリンの手をしっかりと握り返した。 「あの‥‥最長老さん‥‥」そこにブルマが珍しく気弱な笑みで声をかけた。 「あたし‥‥ベジータが殺した村の人たち‥‥地球のドラゴンボールで生き返らせたかった‥‥。 でも、ドラゴンボールで復活できるのは、一年以内に死んだ人だけで‥‥。」 「そうですな‥‥。ポルンガなら二年以内に死んだ者も復活できるが、こちらは一度に一人。 それにナメック星はすでにない。宇宙空間で生き返っても助かりはしない‥‥。 お嬢さん、あなたの気持ちは嬉しいが‥‥、ツーノの村のことは運命とあきらめていますよ」 最長老は微笑むと、ブルマの腕を優しく叩いた。 「地球でこんなに楽しい時間を過ごせたのも、あなたとあなたのご両親のおかげだ。 我々は皆、感謝しておりますよ」 「えー、おっほん、聞こえるかね、ナメック星の最長老?」 いきなり新しい声が聞こえてきた。 「え? この声、界王様ぁ!?」ヤムチャが驚いた声を上げる! 「そうじゃ。界王じゃよ」 「こ、これはこれは! 私、前の最長老の後を継いだムーリと申します。その節はお世話に‥‥」 最長老がびっくりして思わずぺこぺこと頭を下げた。 「いや、堅苦しいのは無しじゃ。ええと、最長老。おまえはポルンガの能力を変えることは できるのじゃろ? たとえば一度に複数の命を蘇らせるようにするとか‥‥」 「はい、やろうと思えばできますが‥‥。ただ、ポルンガは、大昔の契約によってナメック星に もたらされた奇跡の力なのです。ですからそうおいそれと変えるわけには参りません。 過去一度だけ、天上界のお声をいただき、一つの願いが三つの願いに変えられたと 伝承にありますが、その後、ポルンガの能力を変えた者はおらんのです」 「そこでじゃ。わしはナメックが崩壊した時に、大界王様にお伺いを立てておってな。 先日許可をいただいたよ。ポルンガの能力をパワーアップすることを許す。おまえたちの 善良さに免じてな。130日後の復活の時には、複数の人間を復活できるように、 ドラゴンボールを作り替えるがよい。たまには自分たちのために使うのもよかろうて」 「そ、それでは!」 「そうじゃ。その村の連中の魂を新しいナメック星に呼び寄せ、生き返らせてやるがよい」 「やったーっ!」ブルマが飛び上がって喜ぶ。それを皮切りに喜びの声が満ちた。自然災害の多い星に生まれ、つらい運命を受け入れて生きてきたナメック人たちも、同じタイミングで殺された同胞が生き返れない事実はやはり辛かったのだ。 「界王様、いつの間にそんなこと!? 驚きましたよ!」 ヤムチャが喜ぶナメック人たちを見ながら心底感心した声を上げた。 「尊敬しろ。わしは界王じゃぞ?」 「わかってます。ずっと前から尊敬してますって」 「わかっておればよろしい。しかしヤムチャ、おまえのギャグもなかなかのものだったぞ。 また早く死んで、わしのところに来るがいい。そのセンスをもっと磨いてやろう」 「い”・・・・・・。界王様、俺、つい四ヶ月前に生き返ったばかりですよ? なのにもう死ぬ話ですか?」 まいったなと頭を掻くヤムチャに、一同、大爆笑となった。 笑いが、いつもは遠慮深いナメック人たちの心を少し気安くしたようだった。一人、二人‥‥そして次々と、地球人たちのところにやってきて、握手を求め、別れの言葉を言う。そのうちすっかり人の渦が入り乱れた。260日‥‥1年の3分の2以上をここで暮らしてきた。別れを前にした一種独特の高揚感があたりに満ちた。 デンデやナメックの子供たちに囲まれた悟飯の顔は泣き笑いだった。悟飯が初めて経験した子ども同士のつきあいと、そして子どもらしい遊び‥‥。デンデたちが故郷に帰れると考えれば嬉しいのだが、別れるのはやはり寂しかった。 元気でね、君もね、と手を取り合う中で、ふと悟飯が顔を上げた。人の輪から少し離れた木の下にいるピッコロは、穏やかな表情で、喜びと別れの寂しさに酔う人の群れを見つめていた。 悟飯はちょっとデンデに合図してから、たっとピッコロに駆け寄った。小さな両手でピッコロの手を掴み、引っ張るように数歩、歩いた。ピッコロがもう片方の手で子どもの手をそっと離し、その黒髪に軽く手を置くと、そのまま一人でまっすぐに最長老に向かって歩み寄る。ナメック人たちがその長身を導くように道をあけた。悟飯は小走りでそのあとを追い、デンデの脇で止まった。 「オレは‥‥」 最長老の正面に進んだものの、ピッコロはどうしたものかと言いよどむ。自分の中に同化しているあのナメック人のことが頭をかすめた。 「わかっておる‥‥。おまえはここに残るのだな」 「すまない‥‥。どうか、元気で‥‥」 最長老はピッコロを見上げて微笑んだ。 「ピッコロよ。これだけは覚えておいてほしい。何処にいようとも、おまえは我々の同胞だ。 私が私の一族のために祈りを捧げるとき、それはおまえのための祈りでもあるのだ」 ピッコロは最長老を見つめ、無言で頷いた。 最長老がポルンガに何か言った。デンデが悟飯にそっと耳打ちした。 「最長老様、もう少し時間をくれってポルンガに言ったんです」 悟飯が目を丸くして最長老の方を見た。 最長老の八本の指が不思議な形を成した。 ピッコロは一瞬目を見開いたが、ごく自然な動作でマントを後にはらい、その身を沈めた。 あたりを満たした真珠色の光が、心なしか強くなった。 地に長くついた白いマントがやわらかく光っていた。 常に昂然と立つ翠の長身が、いまは片膝を折り、両の拳を地につけている。 頭を垂れた横顔は、光の中でその彫りの深さを際だたせていた。 最長老がピッコロの肩に片手をおいた。その口から小さな声が紡ぎ出される。言葉のようでもあり、歌のようにも聞こえる不思議な音だった。古代ナメック語に堪能な何人かがそれに唱和し、その神秘的な響きが、空間を埋めた。 ピッコロは唇を引き結び、目を閉じて、黙ってその響きを聞いていた。 その表情は、清冽に澄み切り、ひどく穏やかだった。 悟飯はもちろん他の地球人たちも、その情景を、言葉を無くして、見入った。 不動と見えしも常に流転す 流れゆくもの全て我が内に有り 故に我が子の内に有り 其れ個にして同胞 光にして玄なり 玄にして光なり 古 悠久の刻まで汝とともに在る 善く観よ知らしめよ 以て久遠に安らかなれ‥‥‥‥ ***===***===*** ピッコロと悟飯がパオズ山を目指して飛ぶ。十二齢の月が冴え冴えと二人を照らしていた。 「遅くなったな。母親に怒られないのか?」 「おかあさん、今日は、特別だって言ってたから、だいじょうぶ」 「なら、いい」 「ねえ、ピッコロさん?」悟飯がピッコロの隣に並び、身体ごとピッコロに向けて言った。 「なんだ」 「ピッコロさんが地球に残ってくれて、ボク、とってもうれしいです」 「そうか」 「最長老様の最後のお祈りって、いったいどういう意味だったんですか?」 「おまえにはまだわからん」 「そっか‥‥。でもステキな響きでしたよね。神様も聞いていたかなぁ」 ピッコロが空中でいきなり立ち姿勢になって止まると、悟飯に向きなおった。目がコワイ。 「おまえ、アイツと会ったのか?」 「い、いえ‥‥。ただ、神様もおんなじナメックの人だから‥‥、ちょっと気になって‥‥」 悟飯は慌てて、でも目をそらさないように注意しながらそう言った。ピッコロはしばらく子どもを見つめていたが、フンと視線を前に戻した。 「きっと神殿で全部見てたハズだ。悪趣味なヤツだからな」 悟飯はほおっと肩で息をつくと、飛んでいってしまったピッコロを急いで追いかけた。 「でも、よかったですよね。みんな、新しいナメック星に行けて」 「そうだな」 「新しいナメック星ってどんなとこなんでしょう」 「さあな」 「また会えたらいいなぁ。とくにデンデとはまた会いたいんです」 「それはムリだろう」 「そうかぁ‥‥。ちょっと残念‥‥。あ、ねえ、ピッコロさん」 「なんだ」 「明日から、もっとたくさんピッコロさんに会いに行ってもいいですか」 「ああ、かまわん」 「修行のジャマになりませんか」 「別に」 「わあ! じゃあ、もっとたくさん図鑑をもっていこうっと! おかあさんには外で観察って 言えるし・・観察もほんとだもんね。ええと、虫と木と草の図鑑! それと‥‥」 「悟飯‥‥」 「はい?」 「もうわかったから、そのうっとうしい飛び方をやめろ!」 ピッコロの周りを、仰向けになったり、先へ進んだり遅れたり、時に螺旋状にと、まとわりつく子犬のように飛び回っていた子どもがいきなり固まった。はい、と小さな声で言うと、大人しくピッコロの隣に並ぶ。 でも、これから先もずっとこの人と一緒にいられると思うと、子どもは嬉しくて仕方がない。風になびくマントの下に入り込み、腕組みをしている肘のすぐ側に近寄る。背中でマントがぱたぱたとはためくのが、自分が着ているみたいで、なんだかワクワクしてしまう。 そーっとピッコロの顔をぬすみ見る。いつもとまったくおんなじ顔、おんなじ気。 地球に戻ってきてからずっと、ピッコロさんがどうするのか心配だった。でも、もう大丈夫。いつでも会える。いつもボク、ピッコロさんのそばにいるよ。 「悟飯」 「はい」 「飛ぶ時はよそ見するな」 「はい」 「ちゃんと、聞いてるのか?」 「はーい!」 (私が私の一族のために祈りを捧げるとき、それはおまえのための祈りでもあるのだ‥‥) あのね、ピッコロさん。 ピッコロさんを好きな人は、いっぱいいるの。 だからね、ピッコロさん。 もう一人ぼっちじゃないよね‥‥。 (おわり) (前編) <後編> (戻る) |