私はロボット 
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サルファとカプセルコーポの第3実験場で暮らして1週間が過ぎた。今のところサルファの行動にはまったく問題がない。いや、その言い方はサルファに悪いや。とにかくむちゃくちゃ優秀だ!

彼の担当は犬と猫なのだが、約50匹の個体を2日目にほぼ識別し、3日目にはその性格まで含めて完全に把握した。そして4日目に熱を出した小型犬を誰よりも早く見つけて連れてきた時には、担当の人たちの賞賛の嵐を浴びることになった。
サルファは決して必要以上に相手に近づかない。けれども弱い個体については驚くほど敏感だった。気弱な子や体調の悪そうな子をめざとく見つけだし、必ず個別に対応した。それを優しさと言っても間違いじゃないと思う。僕はこのロボットに感動すら覚えるようになっていた。

サルファをつれて他の動物たちのところもよく回った。大きな囲いの中に、家畜を中心とした草食動物が放し飼いにされている。ケガをして届けられた子たちを中心に多種の鳥のいるエリアもあった。たいていサルファの質問攻めに合い、僕に翌日までの宿題が課せられることも多かった。

時間が空くとサルファは牧草地の端でひとりで時間をつぶした。周囲に雑穀をまいてうずくまり、色々な野鳥が集まってくるのを待つ。鳥に興味を示すので試しにやらせてみたのだが、とても気に入ったようで飽かずにずっと見ている。それを遠目に、僕はサルファについてのボイスメモをとったり、本を読んだりする。
そして夜になるとサルファは僕と一緒に電子図鑑を見ては、今日はこの鳥とこの鳥を見たと僕に説明する。そのさまがまた妙に可愛いのだ。サルファが満足すると、僕はサルファのパワーを落として記録用のディスクを交換し、記録済みディスクをブルマさんに届ける。これがこの1週間の日課だった。

彼女はログを毎日きちんと解析にかけていた。カプセルコーポの地下にあるメインマシンは遺伝子解析もできるほどのスーパーコンピュータだ。解析用のプログラムはある程度作ってあったようだが、実際のデータがきてからまたチューンを重ね、新しいモジュールを組み込んでいるらしい。

毎晩カプセルコーポに行くたびにリストの山が増え、ブルマさんが寝不足気味になってきたようで、僕は心配になってきた。
「あんまり根をつめないほうがいいですよ、ブルマさん。
 別に誰かと競争してるワケじゃないんでしょう?」
「それはそうなんだけどね。でも大事な友人の遺品みたいなもんだから
 やっぱり目のまえにデータ積み上がると、分析したくなっちゃうのよね」

そこまで言われてしまったら、あとはもう「疲れてベジータさんやトランクスに八つ当たりしないで下さいね」と心の中で祈るばかり。こちらとしても出来る限りの協力をしてあげたいところだけど、僕はこと工学に関してはからっきしなので、どうしようもなかった。

そんなこんなの8日目の午後、意外なお客さんがやってきた。
「あれー クリリンさんにマーロン!」
「よう! 悟飯!」

このクリリンさんの第一声が大好きだ。小さな頃、クリリンさんは僕を子ども扱いせずに尊重してくれたけど、同時に僕が子どもであることも常に意識してくれていた気がする。僕の成長に合わせて、いつもしっくりくるこの感じ。もう40歳位になるはずで、髪にも少し白い物が混じってきたけど、相変わらずはつらつとした気にあふれてる。改めてすごい人だ、クリリンさんって。

「なんか大変なことやってんだって? ブルマさん、イライラ通りこして疲れてんだもんな。
 めずらしいよ、あんなブルマさん。やっぱ歳かな」
「そんなこと聞かれたら殺されますって。僕の担当分はノンビリしたもんなんですけどね。
 それより・・・・・・」どうしたんですか? と言おうとした僕は、手を引かれたマーロンの様子がいつもと違うのに気付いた。ずっとうつむいて思いっきり元気がない。

「どうしたの、マーロン?」僕は膝をついて彼女の顔をのぞき込む。悟天より3才下の女の子。普段はどんな些細なことにも笑い転げているとても明るい子なんだけど・・・・・・。
「いや、ちょっと18号にえらく怒られちゃってな。あんまりしょんぼりしてるから、
 つい連れてきちゃったんだよ。こいつ『悟飯のおにいちゃん』大好きだからな」

「マーロン、顔あげてごらん?」
僕は彼女のほっぺたに軽く手を触れた。マーロンが涙でいっぱいのその目をあげた時、いきなり僕たちの顔の間に、マリーゴールドの花束がぼんっと差し出された。

サルファだった。

僕は思わず出かかった驚きの声をなんとか押しとどめた。花は人を慰めると何日か前に確かに話した。だがこの少女にそれが必要なことを、いつ理解して、いつ摘んだ? なぜこんなに早くわかったんだ?

「コレ、アゲマス。ダカラ泣カナイデクダサイ」
「うそ、すごーい!・・・・・・ロボットさん、しゃべれるの?」
「ハイ、私ハろぼっとデス。さるふぁトイイマス」
「あたしはマーロンよ。 ほんとにお花もらっていいの?」
「モチロンデス。アナタノタメニ摘ミマシタ。花ハ悲シイ人ヲ慰メマス。ソウ教エテモライマシタ」
「サルファさん、もっといろいろしゃべれるの? お花どこで摘んだの? あたしも摘んでいい?」

花壇はすぐそこだ。目の届く範囲なら大丈夫だろうと僕は考えた。
「サルファ、マーロンのこと連れて行ってあげて。その代わり遠くに行っちゃだめだよ」
「ハイ。アノ、コノカタハ?」
「ああ、ごめん。こちらはクリリンさん。マーロンのお父さんで僕もとてもお世話になってるんだよ」
「くりりんサン。ハジメマシテ。さるふぁトイイマス。ヨロシクオ願イシマス」
「あ、ああ。マーロンのこと頼むな」
「ハイ、オマカセクダサイ。デハ、まーろんサン、アッチデス。イキマショウ」

「おい、見かけはそうでもないのに、なんかすげーじゃないか。さすがブルマさんだよな」
「ええ・・・・・・」ちょっとすごすぎる、という言葉を、二人の背中を見送りながら、僕は飲み込んだ。

「それよりクリリンさん、18号さん、いったい何をそんなに怒ったんですか?」
「いや、マーロンが最近空が飛びたいって言い出したんだよ。だけど18号は絶対反対でね。
 今日もそれで言い合いになって、オレがマーロン庇ったもんで、18号のやつ飛び出しちまうし。
 あいつ、マーロンには普通の人生を送って欲しいって、ちょっと意固地になってるとこあるんだよ」

「クリリンさんのほうは、あの子が舞空術ができてもいいって思ってるんですね?」
「18号の気持ちはわかるよ。でも本人がやりたいってことは、やらせてやりたいじゃないか。
 何が危険でどう気を付けなきゃいけないか、きちんと教えれば大丈夫だと思うんだよ。
 っていうかそういうことも大切だと思ってるからさ。18号にもそう言ってるんだけど、
 理屈ではわかっても、感情が許さないんだろうな」

「まあ飛べて当然と思ってて、いきなり普通の人の中に入るのも、結構大変ですからね」
「ハハハ・・・・・・。おまえも高校行ったときいろいろ苦労してたもんな。
 ま、それ考えれば18号やチチさんの言うことも、もっともなんだろうけどさ」

マーロンは花を摘む先からそれをサルファに持たせ、ひとかかえもある花束を製造中だった。このまま摘み続けられたら花壇が坊主になっちゃうぞ、と心配になってきた矢先に、彼女は立ちあがってスカートをはたいた。
「悟飯のおにいちゃん!」サルファをしたがえて小走りにかけてくる少女は、さっきまでの様子が嘘のようだ。「はい、これ!」僕に花束を差し出す。
「どうもありがと」
「これはお父さんの分!」
「おっ サンキュー」

サルファがあと二つの花束を持っている。マーロンはその二つを受け取ると、改めて片方をサルファに差し出した。
「はい。これはサルファさんの分!」
サルファが僕の方を見る。
「ありがとうって言って、受け取っていいんだよ、サルファ」
「アリガトウゴザイマス。まーろんサン」
サルファはうやうやしく花束を受け取った。
残りのひとつの花束・・・・・・最初にサルファからもらった花束はしっかりとマーロンが抱えている。

「ねえ、マーロン。お母さんの分は?」僕は静かに聞いてみた。
「なくていいの!」強い調子でマーロンが答える。
「どうして? マーロンはお母さんのこと好きだろう?」
「だって、お母さんがあたしのことキライなんだもん」
「空を飛んじゃだめって言うから?」
「そうだよ。だってお父さんもお母さんも飛べるのに! お父さんがいいっていうのに、
 それでもダメなんて、お母さんはあたしのこときっとキライなんだ」

「ね、マーロン。お母さんはマーロンのことすごく心配してるんだよ。
 空を飛ぶのは楽しいこともあるけど、危ないこともあるから」
「危ないこと?」
「お父さんはね、危ないこともきちんとよけられる子になってほしいと思って、
 それで空を飛んでもいいって言ったの。だけどお母さんはマーロンを絶対に危ない目に
 遭わせたくなかったんだ。だから飛んじゃダメって言ったんだよ。わかるかな?」

「うん・・・・・・。じゃあ、お母さん、あたしのことキライなんじゃないのね?」
「絶対そんなことないよ。その証拠にちょっとお母さんのこと呼んでごらん」
僕もそしてクリリンさんにも、もう西の都を通過している18号さんの気がわかってる。
クリリンさんが察しよく自分の気を静かに素早く高めた。

「呼ぶって、電話で?」
「ううん、ここで。お母さーんって、大きな声で呼ぶんだよ」
「うそでしょ?」
「ほんとだよ。ほら、呼んでごらん」
「お母さんって? お母さん! お母さーん!」

「だいじょうぶかいっ! マーロン! クリリン! こいつが相手かい!
 ・・・・・・・・・・・・なんだ、悟飯、あんたもいたのか・・・・・・・・・・・・」
18号さんは30秒しないうちに飛び込んできた。
僕は一瞬早く、サルファと彼女の間に先回りする。ふう、あぶないあぶない・・・・・・。

「お母さん! ほんとに来てくれた! あたしのことキライじゃなかったんだ」
「何言ってんだい、マーロン。キライなわけないだろ。もう、心配したよ!」
「すみませんね、18号さん、驚かせちゃって。お母さんはマーロンのこと好きだから、
 呼べばすぐ来てくれるって言ったんですよ。でも、ちゃあんと来てくれましたね」

いったいなんなんだい? という顔で18号さんがクリリンさんの顔を見る。クリリンさんが片目をつぶってみせた。僕はマーロンに花束を渡してそっと耳打ちする。
「僕の分はまたあとでもらうから、これ、お母さんの分にしなさいね」

花束を受け取って嬉しそうな18号さんを見ている僕に、サルファがそっと聞いてきた。
「18号トイウノガアノ人ノ名前ナノデスカ。18号・・・・・・18号・・・・サン、ナンデスネ」
「うん。前言っただろ。番号っぽい名前の知り合いがいるって」

「おい、悟飯。その後ろに隠してるヤツ、なにものなんだ?」
「あ、あの、ブルマさんが研究中のテスト・ロボットなんですよ」
「サルファさんっていうんだよ!、あたしが泣いてたらお花くれたんだよ!」

「18号・・・・サン、私ハさるふぁトイイマス。ヨロシクオ願イシマス。
 18号サンハ、番号ノ名前デモ、皆サンニ好キダト思ワレテルカラ、トテモ幸セナンデスネ」
「なんなんだ、その、『番号の名前でも』ってのは?」
僕は慌てて先日の、子犬の名前についてのサルファとのやりとりを説明した。
「はん、そういう話か。でもね、悟飯の言ったことにはちょっと足りないことがあるよ」

どちらかというといつもそっけない感じの18号さんが、何か優しげにサルファに話しかける。
「あのな、サルファ。最初にあたしを作った人間は、あたしのことをこれっぽっちも
 好きじゃなかった。番号の名前を付けようと考えるヤツは付けられる側の気持ちなんか
 少しも考えてないのさ。でも、おまえは最初から番号じゃない名前をもらったんだろ。
 それは作ったヤツがおまえのこといろいろ考えてくれてたからなんだろうよ」

「ハイ。感謝シテイマス。デモ、18号サン。18号サンハ、今ハ、幸セナンデスヨネ」
「それは・・・・・・あたしはクリリンに会えたからな・・・・・・」
18号さんに見えないところで、クリリンさんに冷やかすように指で合図を送ると、クリリンさんが拳固で僕をぶつマネをした。マーロンも母親の言っている意味がそれなりにわかるようで、天使の笑顔でクリリンさんにまとわりついてる。

「クリリンに会えて、悟飯やほかの連中とも友達になれた。この連中に18号って呼ばれるのは
 ぜんぜんイヤじゃない。ほんと言うと昔の仲間もここにいてくれたら良かったとは思うけどね」
「昔ノ仲間ッテ、ドナタデスカ?」
「17号と16号だよ。あいつらにもこういう感じを、わかってほしかった気がするのさ」

クリリンさんがそっと18号さんの肩に手を触れる。
「18号・・・・・・。17号とはどっかで会えるかもしれないじゃないか。諦めるなって。
 16号のほうはちょっと難しいかもしれないけどさ」
「まあ、いいよ。あたしが幸せだってことには変わりないんだからさ。あんたのおかげさ。なっ」
「おいっ 人前でやめろよっ」
18号さんが身をかがめてクリリンさんの頬に口づけて、クリリンさんが真っ赤になった。
あーあ、この二人、いつまでたってもこうなんだよなー。マーロンなんかもう平然としてるし。


サルファはクリリンさん一家がひどく気に入ったようで、最後まで別れを惜しむように挨拶をしていた。彼らのジェット・フライヤーが飛び上がるのを手を振って見送りながら、僕はひさしぶりに16号のことを思い出していた。

--------「正しいことのために闘うことは罪ではない・・・・・・」
--------「気持ちはわかるが、もうガマンすることはない・・・・・・」
--------「俺の好きだった自然や動物たちを守ってやってくれ・・・・・・」
あの解放の呪文がなかったら、僕は父さんだけでなく、あの場にいた全員を見殺しにしていたかもしれなかった。セルの足に踏みにじられたあの笑顔が、苦い痛さとともに、心に浮かぶ。

セルゲームで初めて会った、笑顔の温かい大きな大きな人造人間。父さんを殺すのが目的だと彼ははっきり言ったのに、なぜか憎めなかった。彼が完全人工製であることはあとからブルマさんから聞いた。だから神龍の力では生き返らせることができなかったのだ。できることなら彼と自然や動物の話をもっとしてみたかったと、あとでよく思った。

「アノ・・・・・・悟飯サン・・・・・・」
「ん? なんだい、サルファ」
「コレ・・・・・・必要デスカ? 何カ、悲シイノデスカ?」
サルファの差し出したのは、彼がマーロンからもらったマリーゴールドの花束だった。

最初の頃から心に引っかかっていたことが、ひとつの確信に集約していく。

「ああ・・・・・・ありがとう・・・・・・」
花束を受け取った時の僕の笑みは、きっと少しこわばっていたと思う。


このロボットは、人の心を読むんだ・・・・・・。


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