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デジャ・ヴュの風景(エメラルドアイズ)後編 緑色の色言葉:「あなたのちからになりたい」あなたの、ちからに、なりたい・・・ 春霞。 空気が紫色になる。やなぎがゆらゆらとゆれて、霞の間を通り抜ける。 サヤは気が付くと故郷の家の中にいた。祖母が一度でいいから着てみて、と言って本当に一度しか袖を通すことがなかった服を着ていた。 手のひらは優雅な曲線を描いた布ですっぽり覆われて、胸の上はキツイ帯が巻かれている。靴はとても小さく、それを隠す裾はひらひらしていて動きづらい。一応はキレイに結われた髪の毛には宝石がついたかんざしがさされていた。 これを着たのは一度だけだったが、祖母の喜びようといったらなかった。『いつか隣に素敵なひとがいたらいいわねえ。』とわらって言っていた。 彼女は正直いって、ひらひらした服は動きづらくてキライだったが祖母の笑顔はスキだった。 もっと着てみせてもよかったかな…? 「けど、なんであたしここにいるの・・・?」 サヤはキョロキョロと辺りを見回した。ピッコロの姿もメディの姿も、神様達の姿もない。 今日は起きたらお勉強なのに。神様のところに行かなくちゃ・・・。 彼女は足を一歩動かそうとした。しかしバランスがとりづらい。まるでおもちゃのように可愛らしいデザインの靴だが、サヤにとっては邪魔物以外の何者でもない。彼女は拷問同然のデザインの靴を脱ごうと、その場に座り込んだ。 「あれえ・・・?どうやって脱ぐんだったっけ・・・?」 留め金と組みひもとボタンに悪戦苦闘していると、自分の目の前に影が出来た。 「あたしがハズしてあげるわ。」 聞きおぼえのある声だ。自分の声にそっくりだ。サヤは影の持ち主を見ようと顔をあげたが、太陽を背にしている少女の姿はよく見えない。 「あたしがはずしてあげるから、これで早く走れるわ。」 「ありがとう!あなただれなの?」 「わたし?」 少女はゆっくりと顔をあげた。甘い香りがする。ローレの手のひらによく似た香り。 自分と同じように結われた髪の毛に光っているかんざしが太陽の光を受けて、顔にくっきりうつる影がだんだんと後退してゆく。 「わたしはあなただよ。覚えてないの・・・?」 そこにはかんざしと同じ色の瞳をした自分がいた。向かいあっていた。 瞳は葉が光を透かしたかのような色をしている。かんざしなんかよりもっともっと濃くて、そしてすっと薄い色に変わる。 すこし伏し目がちになった少女の瞳はエメラルド色をしていた。 「・・・・・・わ、わあっ!」 サヤは思わず飛び起きた。 「久しぶりだあ、この夢・・・。」 向かい合ったもうひとりの自分の瞳がうっすらとエメラルド色になる夢。 夢の内容は、本当にただそれだけなのだが彼女にしてはめずらしく不安な感情を抱く夢なのだ。 不安、という概念はメディ達と出会うまで彼女の中にはなかった感情だった。ずっとひとりだったし、それが苦でもなかったし。 だから、彼女はいまだに『不安』という感情がよくわかってない。 胸のあたりがもやもやする、ということだけはわかっている。 すぐに鏡で自分の顔を映した。 星の明かりで照らされている自分の瞳は黒かった。 エメラルドに輝く瞳を持つ自分。この夢を見た後は、どうも心の中がもやもやする。胸がつかえたようになる。サヤは思わず毛布を頭からかぶってベッドに座った。瞳をもう一度閉じるのがちょっとイヤだった。 いつもだったらローレのベッドの端にもぐらせてもらって、その日はぐっすり眠れるのだったが、生憎神殿に彼女はいない。 「・・・・・・うーん・・・。そうだ、メディのトコにもぐらせてもらおう。そうしよう、うん!」 と勝手に決めたサヤは裸足のまま部屋から出ていった。 こんこん、こんこん、こんこん、 ・・・がんっ メディは起きる気配がない。ローレの部屋はカギがかかってないので簡単に入る事ができたが、彼はカギをしめるクセでもあるのだろうか。 「メディ、ね?ちょっと起きて・・・。開けてよーっ。」 彼女の力でドアを簡単にこじ開ける事はできるのだが、さすがにそんなマネしたらメディにも神様達にも怒られる。 ピッコロ達ほどではないが、常人よりは遙かに優秀な聴力をもつ彼女の耳にはメディの気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。 「んもう。なんでカギなんてかけるの?・・・・・・。」 自分の部屋に戻るのはイヤだ。また同じ夢を見そうでとてもイヤだ。 胸がもやもやする。 だれかにひっついて眠りたい。 「ピッコロさん、どこかなあ・・・?」 サヤは大理石の床に体温を吸収された裸足の足をちょっとさすってから、またぺたぺたと歩き出した。 「・・・エメラルド色・・・?」 「ええ、メディが言ってました。サヤの瞳がエメラルドになったって・・・。」 髪の毛は金色じゃなかったって言っていましたけどね、とデンデはにっこり笑いながらピッコロに答えた。 神殿の上部に位置するこの部屋は星がよく見えるかわりに、壁らしいものが存在しない。その代わりのように、何本もの柱が立っている。雨風はなぜか入らずそよ風だけがこの部屋を通り抜けることができた。 デンデは持っていた本を傍らの華奢なテーブルの上に置いて、窓の側に寄って星を眺めた。 「あの子の体にはとんでもない力が秘められています。それが少しだけ引き出された・・・感じなのでしょうか・・・?」 「カリンが言っていたな・・・。『力というものは、時と場所が引き出してくれる。』と。・・・それでは、その時と場所がもし間違っていたらどうなるのだ?」 「さあ・・・。」 わすれるな・・・!!実力はナンバーワンになっても あいつはまだ子供だ・・・!! いつか天界から聞いた、このひとの台詞が頭をこだまする。 とんでもない、計り知れない力を手に入れたあのひとは、目の前の敵を倒したけれど・・・。あとに残ったのは、深くキズついた心と後悔と、そのほかにもいろいろあったけど。 あのひとにキズが付くのは簡単だったけど、そのキズが癒えていくのはかなりの時間がかかった。 「後から思えば、色々と理由は付けられますよね。けど今現在その状況になっている人達は、それどころじゃないんですよね・・・。」 「サヤの時と場所は間違っていたのか?」 「それは・・・なんとも言えません。けど、あの子は・・・あのひとと同じで、周りの方に恵まれているみたいですからね。」 二人の耳に、ぺたぺたとこちらに向かってくる足音が入ってきた。 小さな声で、ピッコロの名前を呼んでいる。 「大丈夫ですよ・・・。時と場所が間違っていたとしても、この星は思ったよりも優しいです。今までもそうだったでしょう?」 「・・・そうだったか・・・・・・?」 「ピッコロさん!・・・あ。」 サヤがぺたぺたと走って、勢いよくこの部屋に入ってきた。しかし、目の前の二人がちょっと真面目な話をしていたというのはわかったらしい。 はじめに神様を見て、その次にピッコロの顔を見て、サヤは頭をちょっとかいた。 「ご、ごめんなさい、神様。ピッコロさん・・・。ジャマしちゃった?」 「いいえ、こちらの話は終わった所です。私の方が退散しましょう。それより、どうしたのですか?」 「あ、あの・・・。なんか変な夢見ちゃってさ、ひとりで寝るのヤだったの。メディの所で寝かせてもらおうとしたら、カギかかってるんだもん。」 「・・・・・・。」 神様は思わずため息をついた。 要領が悪いというか、どこまでもタイミングの悪い子だなあ、メディって・・・。 神様はテーブルの上の本を手にとり、サヤの方に静かに近寄った。 彼女はよほどあわてて出てきたらしい。裸足の足がちょっと赤くなっている。 「寒かったでしょう?」 「大丈夫、平気!ん?」 神様は、サヤの耳元で『こういうときは寒いって言わなくちゃダメですよ。』とつぶやいた。 そして彼はちらっとピッコロの方にめくばせして、ニッコリ笑った。 「ここの夜は、長いですからね。サヤにカゼ引かせないでくださいね。」 「なに?」 「二人とも、お休みなさい。」 神様は手のひらをいつものようにひらひらさせて、部屋から出ていった。 「ピッコロさんごめんね。おはなし、ジャマして・・・。」 「かまわん。神もそう言っていただろう?」 「う、うん・・・。」 サヤはいつも通りのむき出し肩の服で、そこから素足がにょっと伸びている。この寒い時に下着しか身に付けてない。ピッコロは思わず目を押さえた。 「なに考えてそんなカッコでいるんだお前は・・・。カゼひくぞ。」 「だってあわててでてきたから、はいてるひまなかったんだもん。」 彼は適当な服をだしてやろうと手のひらをすっと彼女に向けたが、その時ようやく気が付いた。 なぜデンデはこいつに着る物くらい出してやらなかったんだ? よく気の付く性格の彼が、寒そうにしている彼女に何もしてやらないのは少しおかしい。 (こういうときは寒いって言わなくちゃダメですよ。) (サヤにカゼ引かせないでくださいね・・・。) 彼がつぶやくように言っていたセリフが急に思い出される。 「ピッコロさん・・・?どしたの?」 手のひらを自分にかざしたまま黙りこくってしまった彼に彼女は心配そうに声をかけた。 ピッコロの方はというと、今まで生きてきた中での知識を総動員して、デンデの言っていたセリフの意味を分析している最中だった。 カゼをひかすな・・・?その割になぜあいつは服のひとつくらい出してやらなかった? 一体・・・。なんだ? 「・・・・・・・・・・・・・・・む。」 ピッコロの目が少しぴくりと上がった。 彼女の方を見つめて、彼はちょっと上を見て、そしてあさっての方向を向いて、また彼女の顔を見た。 そして、サヤの肩に手をおくと自分の付けているマントで彼女の体をふわりと包んだ。 「わあっ、あったかい!」 「黙ってろ。」 ピッコロは彼女の体を抱えるようにして、大理石の床の上に座った。サヤはむき出しの自分の足を抱えるように折り曲げて、彼の体にぴったりくっついた。 「あったかい・・・、ローレみたい!」 「いいから寝ろ。お前、明日はずっと頭を使う方の修業だろうが。居眠りして神に怒られても知らんぞ。」 「う、うん・・・。」 「・・・まだ夢の事が気になるか?」 「うん・・・。」 サヤは顔を下に向けて、自分を包んでいる彼のマントをちょっとにぎって胸の前に持ってきた。 「メディが言ってたの。あたしの目がエメラルド色になったって。あたしは覚えてないんだけど・・・。」 「あいつはなんだって?」 「サヤの目がエメラルドになったから、オレ達は助かったんだよ・・・って言ってた。」 「そしたらなぜ、怖くなる?」 彼女は顔をまたあげて、ピッコロの方を向いた。 「あたし今までさ、メディやシャラお兄ちゃんと悪いやついーっぱいやっつけてきた!ものすっごくいっぱい!」 サヤは両手をひろげて、『こーんなに!』と山のような弧を描いてみせた。 「だけどね、あの時のことはなにも覚えてないんだもん。どうやって倒したのかさえ覚えてないの・・・。まるであたしじゃないだれかがやっつけたみたいだ!」 「・・・誰かが中に入っているような気が?」 こくん、と彼女は頷いた。 「そいつが、いつかローレやメディやシャラお兄ちゃんや・・・ピッコロさん達にひどい事をしたらどうしよう!?どうしたらいいのかな?」 珍しくサヤの瞳が曇る。彼のマントをひっつかんだ手に力が入っている。 ピッコロはその力の入った彼女の手ゆっくり掴んで、指の力を緩めるように促した。 「黒い目のお前も、エメラルド色の目のお前も、他の誰でもない・・・お前だ。」 「うん。」 「力に振り回される事がないよう、こうして今修業している。すぐにエメラルド色の目のお前も、自分自身でコントロールできるようになる。」 「すぐにって、いつ・・・?」 「わからん。」 ピッコロがそっけなく言うとサヤはちょっとだけ口が曲がったが、それを否定するかのように両手で頬をはさんでぱしぱしたたいた。 「じゃあ、その『すぐ』が早くくるようにやる、修業するわっ!」 「・・・よし。」 外は星空だ。いつか月を壊してから、ここの星は月明かりを知らない。静かな星の明かりだけがサヤの髪を銀に染める。もっとも、彼女はシッポを持っているので月があったらあったで色々と大変な事になるのだろうが。 ずっとピッコロの体にくっついていたサヤが、そのシッポをひゅるんと彼の足に巻き付けた。 「ね、さっきいってた・・・『すぐ』の間に、また目がエメラルドになったらピッコロさん、メディのこと助けてくれる?」 「・・・なぜそんなこと?」 サヤは首の後ろをぼりぼりかいて、彼のマントで顔を半分隠した。 「あのときみたいに、メディや神様がバラバラになっちゃったら・・・イヤだも」 「助けてやる。」 ピッコロは彼女の言葉に自分の言葉を乱暴にかぶせた。サヤは丸い瞳をますます丸くして、彼の顔をじいっと見た。 「お前も、神もメディも、オレが助けてやる・・・。だから寝ろ。」 「・・・う、うん・・・。」 サヤはいままで彼の足に巻き付けていた自分のシッポを急にひっこめて、できるだけ窮屈そうに彼の上に丸まった。 よくわからないが、また胸がもやもやする。食べ物がつっかえたみたいになっている。 サヤはローレに抱きしめられて眠るのも、メディと掛け布団の取り合いをして眠るのもスキだった。神様から色んなお話を聞いて眠るのも。 今まで、ピッコロの寝床を占領して眠った事は何度もあったが、今日はいつもと何かが違う。 うれしいと、よくわからない、の中間みたいだ。 何なのかな・・・?何なんだろ・・・。 「ま、いっか。考えてもよくわからないもん!」 「ぐだぐだ言ってないで早く寝ろ!!ここから落とすぞ!!」 「わっ、ごめんなさい!・・・おやすみなさい!」 ピッコロの聞き慣れてしまった怒鳴り声で、彼女はようやく丸い瞳を閉じた。 膝の上でぐっすり眠っているサヤは、いつかの弟子によく似てた。戦うことは好まず、自分に初めて戦い以外の生きるべきことを教えてくれた、優しい子供に。 強くなることがスキな彼女もまた恐れてる。 他人にキズがつくことを、自分が急激に変わることを。 この星は思ったよりも優しいです・・・。 「そう、かも・・・な・・・。」 暖かさが逃げないように、彼女をマントでくるんだ。 不安がまったくないわけではない。彼女の力が彼女自身で制御される日がいつかは見当もつかない。 「オレが助けてやる・・・。守ってやる。」 自分に言い聞かせるように、彼はつぶやいてみせた。 約束しよう、もしその時がきても、きっと・・・。 (おしまい) 2001/9/26
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