|
スターダスト
(戻る)
耳鳴りがする…そのくらい、この神殿は静かだ。地上からの音は意識しないと聞こえてはこない。まして、今は夜だからなおさらに。 「星の瞬く音がするような気がします。」 デンデは星座盤を頭の上にかざしながら、神殿のバルコニーから自分を眺めているピッコロにそう、つぶやくように声をかけた。デンデは神殿の屋根のへりに腰掛けて危なげに、しかしバランスを上手にとって星空を眺めている。 もっとも、落ちたところでピッコロと同じように宙に浮くことができるのだが…。 セルとの戦いが終わり、戦士たちが集っていたこの神殿も静寂が戻り、再びいつもの風景に戻りつつあった。戦いのさなか、悟空につれてこられたデンデは今少しずつ、神としての知識と地球の一般常識を勉強しているのだ。 「ナメック星は夜がなかったから…、最初はちょっと怖かったんですけど、今はスキです。こんなにキレイな景色があるなんて知らなかった…。」 「そうか…。」 デンデが初めて夜という時間を体験した時の驚きようといったらなかった。掴んでとれそうなくらい瞬いている星を、今ではすっかり気に入っているデンデは、悟飯とミスター・ポポから星座盤や図鑑をもらって、星空とそれらをにらめっこするのが毎日の習慣となっていた。 「デンデ…星を観察するのもいいが、お前はもっとほかに学ぶことがあるだろう。」 「はい…。」 デンデは星座盤をかざした手を下ろし、バルコニーのピッコロに目をやった。 「けど、ボク今とっても楽しいです!毎日、毎日新しいことばかりで。ナメック星とは違って、色々な動物や人々がいますし…。あ、あれ!あれが北極星!あれだけ、なんとか見分けがつくようになりました…。」 にっこりしながらそう言い、また空に目を向けるデンデにピッコロはなぜか悟飯を思い出していた。勉強が好きで、それをあまり苦とは思ってないあたりなんかそっくりだ。 悟飯も、今はデンデと同じように勉強漬けの毎日なのだろうか…、身重の母親を気遣っているのだろうか、おそらくどちらも正しいのだろう。このごろ遊びに来ることは少なくなっていた。 「それに、ボクみたいものがあるんですけど…出てきてくれないんです。」 「見たいもの?なんだそれは。」 「悟飯さんが言っていたんですけど、流れ星っていうものです…。」 「流れ星…?」 デンデは、悟飯から流れ星に願い事をすると叶うという『おまじない』が地球にはあることを聞き、そんな光景を見たいのと、願い事をしてみたい…ということで、毎晩星空とコン比べをしていたらしい。 「そんなもの、別に意識しなくても見えるような気もするが…。」 「ピッコロさんは、見たことがあるんですか?」 「そうだな…。」 地球人たちと比べると、途方もなく長い時を生きてきた神と融合したピッコロにとって、『流れ星』なんていうのは日が出て沈むのと同程度の現象に過ぎなかった。 「お前は、これから生きていく時間の中でゆっくりみることができるだろう…。」 「本当ですか?」 「ああ…それに、そんなに叶えて欲しい願いゴトなのか…?」 「ハイ。こればっかりは、神龍もかなえられないでしょうから…。」 ピッコロはいつもの調子で口元だけで微笑むと、デンデのそばにふわりと移動してきた。 「神龍でもかなえられない、願い…か…。……!」 陰りができたデンデの表情で『叶えられない願い』の察しがついたピッコロは、瞳を伏せてもう一度星空に目をやった。 「星に叶えてもらいたい願い事は…、ボクが立派な神様になるのを少しだけ手伝ってもらうことです…。ボクが、ボクに…もっと力があれば、悟空さんだって…!」 「デンデ、その話はもうするなと約束したはずだ…。」 「ぼくは、どうしたら…そもそも、立派な神様というのは…どういうことなのですか…?」 いつのまにかデンデの膝に置かれていた星座盤には8つの爪の跡がついていた。 ふうっと息を一つ、ゆっくり吐いてから、ピッコロは彼のほうに向き直った。 「その質問には答えかねるが…。デンデ、神は最初から神だったわけではない。お前は普通にしていろ。…勉強は大事だがな。」 「…普通?」 きょとんとしているデンデにピッコロはゆっくりと言葉をつなげた。 「そうだ、普通だ…。お前はミスター・ポポも認めている位、神としての基盤というものがそろっている。あとは、それに肉付けしていくために…ミスター・ポポがいて、オレがいる…。」 「……ピッコロさん…。」 「お前は自分のために存分にオレ達を使うがいい。…そうすれば、この環境が、お前を神として育ててくれる…。」 「…ふふ。」 デンデは急に故郷のナメック星を思い出した。穏やかで、優しい、仲間達のことを。 地球に一人ぼっちで来て、不安がなかったといえばウソになる。しかし、あまり気になることがなかったのは、ここに3人のナメック星人がいたからだ…。 一度も会ったことはないけれど、前のこの星の神と、ちょっと厳しいが優しくてあこがれの人だったネイルと、今目の前にいるピッコロが。 「ピッコロさん、ありがとうございます…。今度、何かがあったら、ぼくがピッコロさんや…悟飯さんたちを助けてみせます…。必ず。」 「…フン。」 「あはは…あ。」 デンデが言葉を途切れさせた瞬間、ピッコロは空に視線を送ったが、すでにいつもの変わりない姿に戻ってしまっていた。 「…念願の流れ星か?」 「……。ハイ。初めて見た…。本当に、悟飯さんの言うとおりでした…。きらきらいって、すべるように消えて行く…!」 デンデはしばらくぼおっとして口をぽかんと開けていたが、ピッコロがそんな様子を眺めていたのがわかると、あわてて姿勢を正して彼のほうに向き直った。 「願いゴトは…言ったのか?」 「いいえ…星が消えるのが、あんまり早くて。…明日はまた早いからもう休みます。」 「その方がいい。ミスター・ポポは早起きだからな。」 「ハイ。お休みなさい…。」 二人は神殿の屋根に沿って降り、それぞれの部屋に別れていった。 (本当は…星に願い事、したんです。けど…本当に叶えたい願いは、人に話したらダメだって…。悟飯さんが言っていたからナイショです。) 地球の人達が、ナメック星の同胞達が、いつまでも幸せでありますように…。 いつまでも、これだけは…。 優しい星の光が、神殿に注いでいた。 2001/06/21
(戻る)
|