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はちみつミルクにチョコレート
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一瞬だけだが、ミルクの甘い香りが自分の鼻を通り抜けた。 自分の口に触れたパンの唇は恐ろしく柔らかくて、正直言って気持ちが悪かった。 どろりとしたものを唇になでつけられたような感覚になったのだ。 唇に触れられたのは一瞬だったが、首に巻き付けた腕はなかなか離そうとしない。 彼女はもう一回だけ「ちゅっ」と口づけると、今度は彼の頬に自分の頬をくっつけた。 「お、おい・・・・・・。こら、やめんかっ。」 ピッコロは、こんな時にどんな顔をしたらいいのかわからない。パンの方は、まるで挿し絵の王子の様な、夢見心地の目線で自分を黙って見つめている。 なんだか未だかつて一度も経験したことのないような、訳のわからない感情が自分の中に広がっていくようで、思わず彼女から目線を外した。 「あのね、ぴっこおさんがはじえてなのよ。おとうしゃんとおかあしゃんにしかしたことないの!」 「そ、そう、か・・・。」 「はじえてなのよ・・・。えへへっ!」 パンはピッコロの胸に顔を埋めて、イヤがるように顔を左右に振った。 「ねえ、ぎゅってして。おとうしゃんがすゆみたいに、ぎゅうって。」 「あのな。」 「ねっ・・・?」 ピッコロは何回目かのため息をついた。 この上目遣い。彼女はきっとこの上目遣いの威力を知った上で、最大限に活用できる時と場所を知っているのだろう。 それは、今だ。 彼女の考えに乗りたくはないが、うっすら微笑んでいる自分もいる。 ピッコロはパンの頭に手をポンっと置いた。 が、その瞬間、パンが「わあっ」とつぶやいて彼のマントごしに背中の方に隠れてしまった。 「お、おい?どうした・・・。む。」 今の今まで気が付かなかった。 あたりが急にしーん・・・としていることに、ようやく気が付いた。 いや、自分だけがそう思っているだけかもしれないが、そんなことはどうでもいい。 恐る恐る振り返るとニッコリしてる悟飯と、くすくすと笑いが口から漏れている、デンデがいた。 悟飯は、思わず顔がさあっと青くなったピッコロの表情を全く気にすることなく、彼に丁寧な礼を述べた。 「ピッコロさん、パンの面倒みててくれてありがとうございます。」 「お、お前ら、いつのまにそこにいたんだ・・・!」 「さっきから、ずっといたんですけど。あんまり仲良しだったから邪魔しちゃ悪いかな、と思ったんです。ねえ、デンデ?」 「は、ハイ・・・ぐぐぐぐ・・・。」 デンデは悟飯の肩にもたれかかって、さっきよりも笑いをこらえるのに必死だ。 「さ、な、すぐに声をかければいいだろうが!」 「やだなあ、ピッコロさんたら・・・。もしかして照れてるんですか?子供のすることなんですから・・・。」 「やかましいっ!」 悟飯のデリカシーのない言葉に怒っているのか、それともパンの突拍子もない行動に怒っているのか、笑いをこらえているデンデに怒っているのか自分でもよくわからなくなっていた。ただ、唇の先に残る気持ち悪い感触に自分でも少し戸惑いが残っている。 「ぴっこおさん・・・?」 彼のマントをフードのようにして頭からかぶって、パンが出てきた。 「びっくいしちゃったの・・・?パンのこと、きやいになっちゃった・・・?」 「な、そんなことはない・・・。」 「ホント?」 「ああ。」 パンはちょっとホっとした表情になると、父親の悟飯の元に駆けていった。 いつもなら、ちょっとお茶をもらってから帰るのだが、今日は悟飯の都合が悪い事を知っているのだ。 「ねえ、ぴっこおさん!あたしがもっともっともーっと、じょうずにとべゆようになったやね・・・いっしょにおそらとんでくえう?」 「ああ、かまわん。」 「ほんと!やくそくだかやねっ!!ぜったいよ!」 それじゃあ、と悟飯は大量の本をカプセルに詰めて、パンをおんぶして神殿を離れていった。 「パンー?おとうさんとおかあさんにしか、しないんじゃなかったの?チュウはさー?」 帰り道、悟飯はからかうようにして背中の娘に話しかけた。 パンはちょっとびっくりして、あやうく父親の背中からずるりと落ちそうになった。 おとうしゃんたや、みてたんだ・・・? 「ぴっこおさんはいーのっ!」 「どーしてえ?」 「おとうしゃんやおかあしゃんとあ、ちがうしゅきなんやもん!」 「ふーん・・・。そっかあ・・・。」 閻魔大王への報告も終わり、ポポが戻ってきた。神としてのデンデの評判も上々の様で、本人共々喜んでくれた。 「そうか、そんなことあったか。ポポもいればよかった。」 「からかっているのか。」 ピッコロはポポが入れてくれた水を乱暴にすすった。 「そんなことない。ピッコロ、パンの初恋相手。いいことだ。」 「はつ・・・こい?・・・・・・フン。そんなことあるものか。」 「スキじゃなかったら、チュウなんてしない。」 「フン。」 傍らで微笑みながら二人のやりとりを聞いていたデンデは、色ガラスの瓶から自分とピッコロのために水を注いだ。 「恋でもなんでも、人に好かれるのは良い事じゃないですか?そうだ、今度はピッコロさんが遊びに行ってあげたらどうですか?きっとパンちゃんも喜びますよ。」 「やかましい。」 「それともなんだ、ピッコロの初恋相手がパン、か?」 ピッコロは思わず飲んでいた水を吹き出した。デンデはポポに「ええっ?」と子供のように目をきらきらさせて、興味深げに聞き返した。 「そ、そうなんですか?ナメック星人のボク達でも、恋ってできるんですか?いまいちボクはよくわからないんですけど・・・。」 「そ、そんなわけないだろ!」 「あとで、どんな気持ちか教えてくださいね!参考にしたいんで・・・。」 「違うといってるだろ。」 「ピッコロ、素直にならないと、後で後悔する。」 「お前ら・・・・・・。」 からかいすぎたのだろうか、ピッコロの『気』がちょっとだけゆらりと上がったのがわかった二人は、やっと口を慎んだ。 はつ、こいか。 地球人と一緒に過ごすようになって、幾年過ぎただろう?まさか自分の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。 彼は、切り細工の入ったガラスビンの影を見ながら考えた。こんなことを考えられるほど自分がもうろくしたのか、それとも世の中がちょっと平和になりすぎたのか。 「どちらも正しいのか・・・。」 「え?」 「いや、なんでも・・・ん?」 また神殿に近づく者がいる。今度は一人だ。ふわふわと危なっかしいのはこの間とまったく変わってない・・・が、なんとか自分の行きたい方向へは行けるようになったらしい。 「あ、ピッコロさん。ボク書庫の整理・・・またしなくちゃ。ポポさんも手伝ってください。」 「わかりました。じゃあ。」 「なに?」 「よろしく言っておいて下さいね。」 デンデは柔和な笑みを浮かべてそういうと、ポポと一緒に神殿の方に消えていってしまった。 それと同時に、舌足らずの元気な声がタイルの庭に広がった。 「ぴっこおさーん!!またきたよーっ!」 今度は空中からダイブするようなマネはしなかった。いったん、タイルの床に足をつけてから、彼の方にとたとたと走ってきた。 ぴょん、と彼の前でジャンプしてぎゅうっとくっつく。 「今日ね、ひといでこあえたんだよ!しゅごいでしょ!」 笑顔でひっついたままになっているパンに、ピッコロは彼女の頭を撫でた。 とりあえず、自分のこの感情は置いておこう。 いつかわかるかもしれないし、わからなくてもかまわない。 この笑顔があるだけで、今は十分だと思うから・・・。 2001/08/02
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