|
Everlasting
薄緑の空は今日も晴れわたっていた。昨日よりも少しだけ暖かい。デンデは、目の前に広がる湖の前に立っていた。上着を脱いできちんとたたみ、靴もその上にそろえて置くと、そおっとつま先を湖の水につけた。水も昨日より少しぬるい。 「カルゴもおいでよ!思ったよりあったかいよ。」 「ほ・・・ほんとに?つめたくないの?だいじょうぶ・・・?」 カルゴも同じように、靴をぬいで服の裾をつまんでおっかなびっくり入ってきた。 水遊びをするのは久しぶりで、最初は服をぬらさないように注意しながら遊んでいた二人も、だんだんまどろっこしくなり、湖からあがってくるころには頭からつま先までぐっしょりになっていた。 水からあがった二人を、心地よい風が向かえてくれた。暖かい風は誰かに頭をなでられるようにやさしく、気持ちがよかった。木々の葉ずれの音がどこからともなく聞こえてくる。 「こんなに遊んだの久しぶりだね。」 「あはは・・・そうだね。」 「こんなに気持ちいいと、ずっと昔に異常気象が起こったなんて・・・うそみたい。」 「うん・・・うそ・・・みたい。」 「またおこっちゃったら・・・どうするのかなあ・・・?」 「わかんないよ・・・。」 「ねえ・・・カルゴはどうする・・・って、あれ・・・?」 横をみるとカルゴはいつの間かぐっすり寝ている。遊びつかれた体にやさしい風がトドメをさしたらしい。 「気持ち悪くないのかなあ、ぬれた服なのに・・・。カルゴ、ねえカルゴったら・・・。」 ゆすってもおきる気配はない。もうそろそろ帰っておいでといわれていたのに、まさかこんなアクシデントが起こるとは思わなかった。もちろん、デンデにカルゴを背負って飛んでいくだけの力はない。引きずってしまう。 「どうしよう、カルゴ風邪ひいちゃう・・・。」 と、そのとき自分をかすめる影ができた。この星は、自分達以外に飛行できる生物はいない。だれかいる。デンデは目をこらしてその影の持ち主をさがした。 「あ・・・、ネイルさんだ!」 デンデは力いっぱい手を振ると、彼のほうも気がついたらしく自分達のほうに向かってきた。 ネイルは上着をひるがえしてデンデの目の前に静かにおりた。 「おひさしぶりです、ネイルさん。」 「ああ、ここに用があったので・・・。デンデも元気そうだな。ところで・・・。」 彼は、ぐしょぬれのデンデの服に目をやり、あきれたように言った。 「・・・なんだその格好は・・・?」 「あ、あの水遊びをしていたら夢中になってしまって・・・。」 「帰ろうとしたら、遊び疲れてカルゴが眠ってしまったというわけか。」 デンデはちょっと恥ずかしそうにうつむいた。こういう時に、自分達の共感能力の高さをうらめしく思ってしまう。 とその瞬間、服がすっかりかわいていた。傍らにいて、ぐっすり寝ているカルゴの服も元通りになっている。ネイルが乾かしてくれたのだ。 「わあ、ありがとうございます!カルゴを起こしたら帰れます。・・・・・・?」 ネイルはカルゴをゆすって起こそうとしている、デンデの手に自分の手を置いて「ちょっとだけそっとしておけ」とつぶやくように言った。 彼のすがたは、村でいっしょに生活をしている同胞達とは少し違っていた。少し鋭い目に、すっきりした鼻、とがったあご。大きくてきれいな手。ネイルを構成しているパーツのひとつひとつが、デンデにとってはあこがれだった。 「ネイルさんがこのあたりにきているなんて珍しいですね。」 「ああ。」 ネイルはそういうと、両手を地面にかざした。ポンっという音とともにプランターのようなものが出てきた。小さな芽が端からきれいにならんでいる。 「アジッサの芽だ。なぜネイルさんが?」 「ほかの村に用があったときに、ここにこれを運ぼうとしていたんだ。帰り道と重なるし、ちょうどよいと思ってわたしが引き受けた・・・。」 「・・・ネイルさんの手にアジッサの芽があるなんて・・・ちょっと変な感じです・・・。」 「あまり畑仕事はしていないからな・・・。」 『最長老の側近』という立場が一番に来るネイルは、あまり土をいじることはない。ほかの者達とくらべると、自分の手は荒れておらず指先も、爪もきれいなままだ。自分の手をじっと見つつ、ネイルは苦笑した。 ネイルの手のひらにのっていたアジッサの芽はひどく小さく見えた。 デンデも大人たちの邪魔をしないように、アジッサの苗作りは手伝っている。しかし、自分の手にのっていた芽はこんなに小さかっただろうか・・・。 「デンデ・・・わたしはひさしぶりに生まれた戦闘型のナメック星人だ。わたしはこのごろ、自分の存在が少し怖いのだ・・・。」 「えっ?」 デンデはびっくりして、思わず言葉を詰まらせた。ネイルはあまり自分の心中は語ることはない。デンデにとって、普段は言葉少なげなネイルがこんなことを、しかも自分に口にするなんて思ってもみないことだった。 「最長老さまが、これから・・・おこる何かのためにわたしをを生んだような気がしてならない・・・。」 「そんな・・・そんなこと。また異常気象が起こるってことですか?」 「いや・・・そうではなく・・・。」 もっと・・・この星の存続にかかわるような絶望的なことが起こるような気がしてならない・・・、ネイルは以前から漠然とそんな気持ちを抱えていた。 たしかに、最長老の助けをそばでする役目は必要だ。だが、最長老に危害を加えようと考える者は、この星には存在しない。かといって、他の星と交流があるかといえば、そんなこともない。 じゃあ、なぜ自分は今になって生まれてきたのか・・・。ネイルはずっと心にひっかかっていた。 「でも、もし、なにかあったときにネイルさんのように強いひとがいなければ、僕達は多分・・・。」 デンデは自分の想像にぞっとしたのか、ひざを両手で抱え込んだ。 「そうだな・・・。力だけが通用する、力だけしか通用しないこともあるだろう。しかし、わたしは自分の力が役立つ日など・・・永遠にこなければいい、そう思っている・・・。」 「・・・ネイルさん。」 ネイルは地面の草を摘み取り、それを風にあそばせた。青い葉は湖の上を静かに舞っている。 「戦いに力を消費するのなら、何かを学んだり、苗木を作っていたほうがいい。わたしの手も、荒れているほうがいい。」 彼は少しだけ、口元をゆるめてデンデのほうに向き直った。 「・・・こんなことを、わたしが話したというのは秘密だ。約束してくれデンデ。」 「は、はい。」 ネイルは、デンデのそばにくっついて眠っているカルゴをそおっと抱き上げると、ふわりと宙に浮かんだ。 「行こうか、デンデ。運ぶ苗がまた増えた。」 「そうですね。」 デンデはくすくす笑いながら、ネイルのあとに続いた。 自分の力が役立つ日など、永遠にこなければいい。 ずっと、この生活が続いてくれたら、それだけでかまわないのだが・・・。 この不安は何だろう‥‥‥‥。 (おしまい) (戻る) |