|
ミラクルスイートハニー!!
(戻る)
鏡の中には、かっちりしたスーツを着た自分が映っていた。普段、こんな物を着ることはないので、心身ともに違和感があった。 「よしっ、これでオッケイよ。天津飯さんてば背があるから、なに着ても似合うわね。ウフフっ。」 彼の首にネクタイを巻き付けながら、そう言ったのはブルマだ。 後ろで彼女のダンナが目つきを悪くしているのに気がついているのだろうか? 「すまないな、色々と世話になって・・・。」 「いーわよ、そんなこと!さっ、カワイイ花嫁さんを見に行ったら?」 天津飯は礼のかわりに手を軽く振ると、大急ぎで部屋から出ていってしまった。 今日は、自分が世界で一番幸せになれる日なのだ。世界で一番大事な人と。本当は、こんな式なんか挙げるつもりはなかったのだが、色々と世話焼き・・・セッティングしてくれたブルマに感謝だ。 いつもきれいなあの人が、今日はどんな姿で自分を見つめてくれるのか。 一刻も早く目に焼き付けたくて、走るのがまどろっこしいくらいだった。 「おい、ランチ・・・。・・・・・・あ。」 大きな窓がある控え室に彼女はいた。葉を透かした柔らかい太陽の光が彼女を照らして、黒髪が光に溶けてしまいそうだった。 こちらを見てはにかんでいる彼女は、レースと薄い布をいっぱい使った、羽根のようなドレスに身を包んでいた。 「て、天津飯さん・・・。ど、どうですか?これ・・・。似合ってますか?」 「・・・す、すごく・・・似合ってる・・・。きれいだ・・・。」 天津飯は、そういうのがやっとだった。 よく、恋人のことを『天使』だの『妖精』だのと例える奴がいるが、そんなの今のランチの『比』ではない。今自分の目の前にいる人は、確実にこの世のなによりも美しい。いや美しい、なんていう言葉さえも邪魔になる。 「本当に・・・きれいだ・・・。」 彼女の頬を指先でそおっと触れた。あんまりきれいだから、乱暴に触れたら壊れてなくなってしまいそうだったから。 「ウフフ・・・。天津飯さんもすっごく、すっごく、すて・・・き・・・はっ、はっくしょいっ!!」 ランチは天津飯の指先を掴んだまま、豪快なクシャミをした。すると、彼の目の前には空色の瞳に、金の髪を結い上げた女性が座っていた。 「・・・。お前。」 金色の髪のランチは自分の恰好に最初、あっけにとられてぽかんとしていた。ひらひらした妖精の羽根のようなレースに顔をしかめて、指先でイヤそうにつまんでいた。が、自分の目の前に呆然として突っ立っている天津飯の恰好を見て、彼女は大声で笑い始めた。 「だーっはっはっはっはっ!!!なんだよて、天津飯!お前のそのカッコ!!!七五三じゃあねえっつーの!!!あっはっはっはっ!!!ひっ、ひいっく、苦しい〜っ!!」 ランチは死にかけている虫の様に体を震わせて、座っていた椅子の背に額をこすりつけ、ぐぐぐぐ・・・と笑いをこらえている。天津飯の方はというとじっと手を見て、その後に自分の恰好をもう一回見直して、ため息をついた。 「七五三か・・・お互い様だろ?」 「あっ、ひっ、ふっ・・・腹が痛いっ。ごめんごめん、すまねえな。いつものカッコと180度違うもんだからビックリしちゃってよ。」 近くにあったポットから、コップに水を注いでまだむせかえっている彼女に手渡した。 「あ、悪いな・・・。」 「そ、そんなに似合ってないか?」 「違う違うって・・・。」 ランチはコップの水をぐーっと飲み干して、天津飯をレース越しに見つめた。 「ちょっとびっくりしただけだっつっただろ?けっこうイケてるぜ。イケてねーのはオレのほうだよ。なんだよコレ・・・。お遊戯会かよほんとによ。」 せっかくキレイに着せてくれたドレスの裾をつまんで、彼女は心底イヤそうな顔をした。 『マジでオレのほうが七五三じゃねーか・・・。』と苦笑まじりにつぶやいている。 「そんなことない・・・。きれいだ。」 彼は時々、びっくりするくらいストレートなセリフをぶつけてくれる。 それも予告なしに。 ランチは頬を指先でちょっとひっかいて、歯を見せて笑った。 「ばーかっ。七五三のカッコでいうセリフかよ。」 「ふふ。」 ランチはどこに持っていたのか、ジッポを取り出してタバコに火をつけた。繊細なデザインのドレスに灰でも落ちたら・・・。 「・・・心配する方がまちがっているか。」 「何の心配だ?」 「いや・・・。」 天津飯のでかい腕を、ランチの長い爪がちょっとだけくい込んで、掴んだ。 「オレはいつでも心配だぜ。」 「・・・なにがだ?」 「まーたお前がフラフラとどっかに行くようで、さ。」 「・・・・・・。」 こうやって結婚衣装なんかに身をつつんで向かいあっている二人だが、実際、一緒にいた時間は少なかった。 初めて出会った時と、ついこの間会った時・・・。 その間の時間にどれだけ彼女と一緒にいただろうか? どれだけ彼女を触って、どれだけ彼女を抱いたんだ? ・・・・・・もしかして、片手で数えられるくらいしかないのでは・・・。 と、いうことに今更ながら気がついた彼は、ちょっと顔を下に向けた。 「フフン、けどそのフラフラしてたおかげで、オレはちっとも退屈じゃなかったぜ。」 「なぜだ・・・?」 「だって、お前の事を三度も愛してんだからなあ・・・。」 「は?」 天津飯はランチの言っている意味がよくわからず首をかしげた。 彼女は少しムっとして、青い瞳を上目使いにして、彼の腕にまた爪をくい込ませた。 「1度目は初めてお前を見たときからずっと。2度目は23回目の天下一武道会のときからず〜っと。んで、3度目は・・・。」 くい込ませた爪の力をちょっとだけ弱める。その手で彼の顔を引き寄せてから、頬に口づけた。 椅子に座ったまま、ぎゅっと首に腕をからみつけた。タバコの香りがまた漂う。 「今だ・・・。願わくば、これが最後の恋であって欲しーぜっ。」 天津飯は、返事のかわりに彼女の唇に自分の唇を近づけた・・・。が、寸前のところでひょいっとかわされた。 「おい・・・。」 「後から、みんなの前でできっだろ?ガマンしろって!思わずあいつらもしたくなるようなキス・・・。みせびらかしてやろーぜっ!!」 大きな声で笑いながら、今までの甘い時間を混ぜっかえすようなランチの仕草に、天津飯はちょっと苦笑した。 まいったな。 盗むのも得意だが逃げるのも得意だな、このひとは・・・。 だが、今は逃がしたままにしたくない。 いや、するものか。 「今したい。」 「し・・・。したいって・・・。マジな顔で、ななにいってんだよ・・・?ガキかてめえは?!おい、ちょっと!!」 ランチの、彼の顔を殴ろうとした両腕を、片手で軽々掴んで窓ガラスにちょっと乱暴に押しつけた。 「な、なんでこうお前はいっつもいきなりなんだよっ!!あ、こら、やめろって!」 「いきなりじゃないと、さっきみたいにすぐ逃げられるからな。」 「うわ、これ自分一人で着られないんだぞっ!も、もうすぐ式だって!!ウルトラバカっ!!少し、じょ、状況判断しろ・・・つのっ!!」 ばごっ!!! ランチが渾身の力を込めて、それこそ肩が脱臼しそうな勢いで、彼の腕から逃れた瞬間、控え室の、重い扉が派手な音を立ててはずれた。 「あららら、お二人さん・・・。仲がイイってすっごく素敵なことよね?そう思わない?」 大勢の者達の下敷きになっているのはブルマだ。そんな彼女をかばうように下になっているのはベジータ。『やっば〜い。』といいながら作り笑いを浮かべているのがチチとビーデルだ。 「いやー・・・なにがどうなってんのかなあ、あはははは。」 「オレにもよくわかんねえよ、だっはっはっは・・・はあ。」 渇いた笑いを浮かべて、顔が引きつっているのはクリリンとヤムチャ達だ。 悟空達はぽかんとして顔を見合わせているが、悟飯だけはオロオロしている。 「・・・お前ら・・・の、の、のぞき・・・か?」 クリリン達同様、天津飯も顔がイヤというほど引きつっている。しかし彼の顔の引きつり具合は、クリリン達とは比較にならないほどだった。下手すると、気功砲が飛んできそうな勢いだ。 「のぞきじゃねえって。た、ただ、オレ達は愛ってすばらしいって事をだな、見届けたくて・・・。」 「それを、のぞきっていうんだよ。」 人は怒りが頂点に達した時ほど、穏やかな口調になるものだ。 今の彼は正にそれだった。 彼の手のひらが柔らかい光で覆われていく。いや、柔らかい光なんて、キレイな言葉を使っているが、実際は怒りの固まりだ。 光はだんだんと濃い白になり、彼の手のひらを覆い尽くした。 「ね、ねえ、あれってちょっとヤバいんでしょ?」 「うわ、おい!こんなとこで気功砲使ったらヤバイってことくらいわかるだろ!!な?ね?わかって・・・。」 「知るか。」 天津飯の冷たい一言で、気功砲が撃ちだされようとした瞬間に、まぬけな音が部屋に響いた。 は・・・っくしゅんっ!! はだけた胸元が寒かったのだろうか、それでクシャミをして入れ替わってしまったらしい。黒髪のランチは、いきなり全員集合している皆を、はじめあっけにとられてポカンと見つめていたが、急に合点がいったように手をポンと合わせた。 「まあ!皆さん、お祝いの挨拶にきてくださったんですね?うふふ・・・嬉しいっ!」 天津飯の手の『気』は彼女の一言ですぐにおさまった。ちょっとあきれにも似た笑顔で微笑むと、自分の上着をドレスのはだけた(自分がやったのだが)彼女の肩にかけた。 「あたし、また何かしちゃったんですか・・・?」 「いや。さ、ドレスを着せてもらって・・・。行こうか?」 「そうですね!皆さん、ご挨拶、どうもありがとうございます!」 その場にいた『皆さん』が、ホっと胸をなで下ろした瞬間だった。 「今回はランチさんのクシャミに助けられたわね〜。」 「一時はどうなるかと思いましたよ、もう。」 「そういう悟飯だって、しっかり見てたクセによ。」 「だいたい、いきなり登場したピッコロが悪いのよ!アンタ、自分がどアップになってあたしが耐えられるカオだと思ってんの?」 「お前らがかたまっているから、なにかあったのかと思って来ただけだ。」 「少し、状況把握しなさいよね。ココロ読めるクセに。だからアンタ女の子に縁がないのよ。」 「ぶ、ブルマさん・・・。」 「あっ、入ってきただ!みんな静かにするだ・・・。こら悟空さ、オヤツはおいとくだ!」 同じヤツに3度も恋するオレも物好きだけど、そんなオレに3度も恋させるお前は大したヤツだ、と思う。 ホントにほんとに、コレが最後の恋でありますように。 「神に誓わなくてもいいから、あたしに誓え!いつでも抱ける範囲にいるってな!」 「うむ。もちろんだ。」 「ほんとにわかってんのかよ・・・?」 ああ、神様・・・。天にまします神様。 ほんとに・・・ほんとに、この男が、またどこかにフラフラ行きませんように・・・。 オレとオレ、二人分の願い事、だ・・・です。 2001/08/03
(戻る)
|