彼岸花  〜スケッチ版〜

「よかったじゃないか、赤星!」
草っぱらで俺の隣りに座った親友が、両手を後ろについて青空を仰ぎ、そう言った。
「‥‥葉隠‥‥。お前、俺にウソついたな‥‥? 自分の気持ち、もう樋口にうち明けたなんて、ウソだったんだろ?」

葉隠はこっちを見て、ちょっと悲しげに笑った。
「そうしなきゃ、君は樋口さんにホントのこと言わなかったろう?」
「どうして、そんな!?」
「樋口さんの気持ちなんて見てればわかるよ。気づいてなかったのは君ぐらいのものさ」

胸が苦しい感じになる。こんな気持ちは初めてだ。

相手がどう思っていようが、好きな人間にはまっすぐにそう言いたい。それが俺の主義だ。だけど、樋口綾乃については別だった。親友で、俺が心から尊敬してる葉隠暁紘が好きな女だったから‥‥。でも葉隠に「僕も言ったから君も言え、決めるのは樋口さんだ」と言われて、それは確かにそうだと思った。だいたいあの大人しい樋口が俺みたいな乱暴者を好いてくれてるなんて思いもしなかった‥‥‥‥。

「赤星‥‥。樋口さんのこと絶対に幸せにしてくれよ‥‥」
葉隠が俺を見て微笑む。
「‥‥ああ、約束する。それに、もう一つの約束の方もな」
「もう一つの約束?」
「ほら、俺んちで親父のどぶろく持ち出してこっそり飲んだ時の‥‥」

「なんだっけ?」
しばらく考え込んでいた葉隠が急に爆笑した。
「ああ、樋口さんを射止めた方は、もう一人を一生助けるってあれか! 酔っぱらったとはいえ、とんでもないバカ話をしたもんだ。マジメに考えるなよ、あんなこと!」

葉隠はまだ笑ってる。

勝手に笑ってろ、親友。

俺は守るぜ。
何があっても、どんな手を使っても、樋口綾乃を幸せにして、そして
お前を助ける。世界中がお前の敵に回っても、俺はお前の味方だ。

俺の生きている限り。
お前の生きている限り。

                    〜おわり〜

葉隠博士と赤星竜太の父赤星虎嗣の高校時代です。樋口綾乃は竜太のお母さんになります。葉隠博士と虎嗣は高校時代に同時に綾乃さんを好きになったという過去があるのでした
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