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Heavens Drive おしゃれな作りの部屋、それが第一印象だった。 窓から見える景色は、結構素敵な夜景。ガラス張りのシャワールーム、そして寝相悪くてもぜんぜん大丈夫そうなでっか〜いベッドがどん、てさりげなく、けどその存在を主張するかのようにそこにあった。 けど、ここで2人で寝るんだよネ・・・?そしたら、狭くなっちゃうかな? 正直とてつもなく淫靡な雰囲気、そんな感じを想像していたのでなんとなくホっとした自分がいた。 隣にいる長身の男は、そんな様子のあたしを見てくすくす笑ってる。 「ど、どうしたの?」 「いや、もしかしてこうゆうとこ来るの初めて?」 「そんなことないよ、それよりも・・・。」 話す言葉を続ける前に、隣の彼氏はジャケットをさらりと脱ぐ。 右手でそれを持って、ベッドの脇のテーブルにどさっと置いた。 ため息をつくみたいに息を吐く、その動作にあたしの心臓がとってもうるさくなる。 うわあ・・・・・・色っぽい。 肩から中指までの線がそれはそれはキレイだった。 男の人に、そんな言葉を使うのは変かもしれないけど、あたしはそう感じたの。 まるで何かの彫刻みたい。 顔にかかった長い髪の毛を後ろにはらって、またくすくす笑ってる。 も、もうすぐ・・・あの指先が、あたしの体を触るのか・・・。 そう思うと、どきどきするのと後ろめたい感情が背中を押す。 お母さんのお財布からお金とった時よりも、ドラッグストアでマニキュアとった時よりも(我ながらセコイなあ)、ドキドキしてる。 神様があたしの頭の中で質問を繰り返してる。 ほんとにいいの?見ず知らずの男なのよ。 かまわないって、何事も経験よ、経験。 けど、あんな軽そうな男と・・・。 「それよりも、どーしたの?」 男はあたしの肩をちょんと触れると、ベッドに座らせた。 軽く、けど逃げないように肩に手を置いたまま、自分のシャツのボタンを器用に片手で外している。 頭の中で押し問答が始まっているけど、事態はそんなことをかまわずに進んでゆく。 彼は子供みたいにまた笑うと、肩に置いていた手に力を込めてあたしをシーツに押しつけた。 ベッドがぎしぎし言ってる。 ドラマとおんなじだあ、ホントにこんな音するんだっ、て結構のんきな事を考えてる自分がいた。 「え、も、もう?」 「もたもたしてるとね〜・・・怖じ気づいちゃう子とかいるからね。ま、そんな純情な子なんてそんなにいねーけど。キリコちゃんは?」 押さえつける手にまた力が入っている。 背中で音がうるさい。 ぎしぎし言って、音が聞こえるんじゃなくってホネに響いてくる。 「き、黄龍さんてば、シャワーとか浴びるモンなんでしょ?ふ、ふ、普通はそうじゃないっ!」 「かまわねーって。キリコちゃんの香り、スキだぜ俺様・・・。」 あたしのぺったんこの胸に顔をうずめて、息を吸ってる。黄龍さんがあごを動かすと、なんだか気持ち悪くって、おなかがぎゅうってしめつけられるみたいに動いた。 「いや、いやだっあたしはイヤだっ。黄龍さん浴びてきてよっ。」 「大丈夫、俺様がキレイにしてあげる・・・・・・。ね?」 「そうじゃなくってえ!!」 冷めた、けど面白そうに笑う顔が一気に近づいたかと思うと、あたしの耳たぶを軽く噛んだ。 ナエさんの言ってた通りだ。『黄龍ちゃんは最初に耳噛むのよ〜。ちゃーんと耳掃除、しといた方がいいわよん。』って。掃除・・・昨日、家でしたっきりだ。 ・・・・・・そんなこと思い出してる場合じゃないっ! 「わ、わっ!」 「こらこら、逃げない逃げない、こーれからでしょ?」 怖くて怖くて、はねのけようとした手を黄龍さんはあやすように押さえつける。 それでもなんとか動こうとすると、彼の手は急に恐ろしいくらいの力が込められた。 「い、痛っ・・・。」 「あのね、ここまで来て往生際悪くねえ?そんなにイヤだったらすぐに終わらせるって、何もしなくっていーからじっとしてなよ。」 「やあ、ちょ、ちょ、ちょっとまって・・・いやあっ・・・・・・!」 あたしの頬に、鼻に、まぶたに、おでこに、順番に口づけてる。 最後にあたしの首筋に、まるでドラキュラみたいに、キバをたてて血を吸うみたいに、唇を痛くして押しつけてる。 あたしの両手首を押さえつけた左手はそのまま、残った右手はあたしの上着を脱がそうとしてる。 クラスメートの男の子とも違う、学校の先生達とも、近所のおじさんとも違う、見たことない『男』の腕で! こ、こ、怖い、怖い、怖いっ!! 逃げられないっ! はねのけられないよおっ!!! 怖い、怖い、怖いよおっ・・・!!! 「ひっ・・・く。うっ・・・。やだ・・・。」 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・。 あれ? 顔に口づけてた唇は、あたしの口元ギリギリで止まってる。 右手はあたしが恐れていたことは何もしてこない。 あたしはバカみたいに口をぽかんと開けて、目をぱちくりさせると、さっきまでの恐怖でたまっていた涙がすうっと頬を流れた。 「ゴメンなキリコちゃん、怖がらせちゃって。」 「へ・・・?黄龍さん・・・・・・しないの?」 「だってそりゃ〜・・・。」 黄龍さんは壁際にあったドレッサーを指さした。 振り返ると、さっきのキスの雨ですっかり化粧が落ちたあたしの顔が映ってる。 「犯罪はやらかしたくないしねエ。」 鏡に映ったあたしの顔。 マスカラも落っこちて、口紅なんてすっかり落ちて、いつものあたしの顔が映ってた。 もうすぐ13歳のあたしの顔が。 彼は軽く笑って、あたしの顔をシーツでゆっくり拭いてくれた。 「キミ、18歳じゃないっしょ?それにあんなとこに来る女の子ってのは、もー少しお化粧が上手なんだよ。キスくれーで落ちるような、ドラッグストア化粧品は使ってないしネ。」 「な、なんでいつわかってたの・・・?」 「ナエちゃんがキミを俺様に引き渡した時からなんとなーく。」 さっきから名前が出ている『ナエちゃん』ってひと。 このひとは黄龍さんがよく行っているクラブをとりしきってる人みたいだ。 胸がとっても大きくって、ついでに腰も太い。声も太いまま。 それでもつけまつげが異様に似合う、ていうかすでに体の一部になってる、性別不明の強烈なひとだった。 黄龍さんよりも、もっと頭の悪そうなお兄さんに連れられてきたあたしを、強引に引っ張って黄龍さんに渡したの。 「黄龍ちゃん、ンフ・・・このコどう?」 「・・・・・・名前は?」 「キリコ。」 そこで交わした言葉はそれだけ。 それだけ言うと、黄龍さんはニヤっと笑ってあたしをここまでさらうようにして引っ張ってきたのだ。 「あそこのクラブはね、俺様やナエちゃんみてーな良心的なヤツばっかじゃねえの。女の子その辺に連れて行って、まわしてポイなんてのもいんだから。」 ・・・・・・・・・?何いってんのこのひと・・・? よくわかんないけど、黄龍さんの言葉はあたしの意識と関係なく続いていく。 「そんなコがでないよーに、迷い込んできた女の子が来たら、ナエちゃんは俺様に渡すわけ。ここまでわかる?」 あたしはこくりとうなずく。 「俺様、たちがいい方なんだぜ・・・キリコちゃん、ホントの所いくつなワケ?」 「・・・・・・じゅーに。」 言った瞬間、黄龍さんの顔がやけにゆがんだ。 思わず上目使いになって、あっち向いたりこっち向いたり。 そして、はだけたままになってたあたしの上着のボタンを、まるでお母さんがしてくれるみたいに元に戻しはじめてる。 「マジ!?たは〜・・・ホントにガキだったのかよ、おい・・・。」 「あたしが12じゃなかったら、どうしてたの?」 「もう少し年いってたら、さっきの続きしてたさ。あー、まじで犯罪やらかすとこだった・・・。」 長い指先がボタンをはめ終えると、黄龍さんは心底ガッカリしたみたいに、ベッドにぼんと横になった。 その反動で、ベッドのスプリングがまたぎしぎし音を鳴らす。 黄龍さんは「なんで俺様が横になって、ギシギシ言わなきゃいけないわけ?このベッド・・・。」とため息を付きながらボヤいてる。 「どうして、あんなとこうろついてたの?」 「・・・・・・。」 「家出?」 あたり。 あたしはベッドのすみっこでちょっと窮屈そうに足を折り曲げた。 「お母さんもお父さんも、心配してっぞ。」 「あたしお父さんいないモン。お母さんは、お仕事で明け方まで帰ってこないんだもん。」 「そ。」 あたしは思わず顔をあげた。『お父さんがいない』っていうのは、あたしの切り札のセリフなの。 みんなが優しくなっちゃうセリフ。 なのに黄龍さんはそっけない。 「黄龍さん、冷たいんだね。」 「あれ、同情するとこなのそれって?」 「・・・・・・。」 黄龍さんはベッドから起きあがって、あたしを見る。さっきの冷たい目じゃないけど、怖い。 じーっとあたしをみて、またニっと笑う。 「お母さん、大変じゃん。」 「水商売だよ。」 「水商売でもなんでも、君を養う為に働いてんだぜ。俺様一回、キミのお母さんに会ってみたいな。きっときれいな人だろお?」 あたしはまたうなずく。 そう、お母さんはきれいな人だ。 笑うと優しくて、お仕事から帰ってきた明け方に、あたしを抱きしめることも知ってる。 ちょっとタバコくさくて、夜の女性がまとう香水をふりまいてるけど、それがお母さんの香りなんだもん。 「そ、働く女性は美しいよな〜。キレイだよ。すっげくな。」 「・・・・・・でも、家かえってきたときに、お母さんにいて欲しいんだもん。」 「そりゃお母さんだって、おんなじだろ。働いて、帰ってきたときにムスメの姿がなかったら、びっくりするぜ。」 「そんなことないよ、お母さん、大人なんだよ。」 「ちがうの。」 黄龍さんはまた笑う。 「大人ってキミが思っているよか、弱いんだよ。大人だからってなんでも出来る訳じゃあねえ、強いわけでもねえ。・・・キミはお母さんに心配かけさせないのが、お母さんを支えてあげることに替わる手段だぜ。」 「・・・もう寝よーぜ、キリコちゃん。俺様どっと疲れ出た・・・。」 「えっ?」 思わず顔が青ざめたあたしに、黄龍さんはくすくす笑う。 「期待には答えらんないな、悪リイけど。くっついて寝よ。ひとり寝なんてさみしーぜ。」 あたしがそろりそろりと近づくと、黄龍さんはあたしの腕をとって、隣に寝かせた。細長い腕を枕にしてもらって、その枕の端は、さっきみたいにあたしの肩を抱いてる。 「黄龍さん・・・?」 「すべては明日になったら・・・おやふみい・・・。」 あくびを交えて黄龍さんの言葉は途切れた。 さっき、あたしをベッドに押しつけた腕と本当に同じ腕なのかな? 『往生際が悪い』って、ぎろりと睨み付けた目とおんなじ目なのかな? あざが残りそうなくらい、力いっぱいキスしてた唇と同じなのかしら? ふっと鏡を見ると、あたしと目が合う。 ・・・・・・あ、ほんとだ。キスされたら、あざのこるんだあ。首にちょこっとあるわ。 黄龍さんの顔を見ると、ホントに寝てる。まつげがちょっと長くて触ってみたい、けどやめてみる。 さっきと違って、今あたしを包んでる腕はとっても優しい。 男のひとって不思議な感じだなあ・・・。お父さんがいないからよくわかんないけど・・・。 こんなかんじなのかなあ・・・? 大人のひとって、なんて不思議な生き物なのかしら・・・。 家帰ったら、お母さんに謝らなくちゃ。 お金黙ってとったことも、ドラッグストアでものとったことも。 おかあさんにいっぱい、謝らなくちゃ・・・・・・。 たくさん、たくさん、謝ったら、また抱きしめてくれるかなあ・・・? 「てなわけで、黒羽っ!この子、ちゃちゃっと身元の確認してくんない?俺様送ってくからさ。」 「なにが『ちゃちゃっ』だ。オレの事なんだと思ってんだお前は。」 「え?えーと・・・ドラえ・・・」 ごすっ! ギターの端でどつかれた。そんな様子の自分を見て、キリコがくすくす笑う。 よーしよしよし、やっと笑ってくれた。 黒羽の方も一旦ギターをひっこめ、キリコを帽子の影からじっと見て『うーん』とため息をついた。 「この子が家出したってのはわかったが、瑛ちゃんよ、いつも思うんだが一体どこで家出した女の子連れてくるんだ?」 「んーなこと別にいーじゃんよ。」 「え、あたしの他にもいたの?」 「そうだよ。君みたいな家出した子を保護しては、連れてきて家まで送るんだよ。この瑛ちゃんは。」 黒羽は意外と子供の面倒見が良い。 膝を折り曲げて、キリコと同じ目線になるとニっと笑った。 彼女は黒羽を見て、黄龍の顔をじいーっと見ると、目の前の黒羽同様笑った。 「じゃあ、いっつもあたしと同じように、ホテルに連れていたのね。」 「え、キリコちゃんっ?」 「瑛ちゃん・・・?」 黒羽の目線がかなり痛い。 やましいことは何もしてないのだが。いや、ちょっとはしたか。 しかしそれも未遂だし、話せば黒羽だってわかってくれら!! 「ホラ、みて黒羽さん。」 キリコに先手を打たれた黄龍は思わず頭を抱えた。キリコが襟元をひっぱって、首筋を彼に見せる。 子供の細い首に、うっすらあかくついているのは自分の唇の跡。 「・・・・・・瑛ちゃん、よく聞け。今から警察行くぜ。大丈夫だ、特警の連中もいることだし取り調べはかなりキツイぞ。」 「違えよ!!黒羽違うっつの!!これは違うの!!何もしてねーし、キスだって唇にはしてねえし。」 「黒羽さん、あたしお母さんにあやまる。だから家まで送ってくれる?」 「もちろんさ、この児童虐待犯を警察に送ってからな。」 「おい!!」 ぽん、と自分の肩に置かれた手は、手袋ごしに爪を立てている。 黒羽は黄龍が叫ぶ前に、手袋をした人差し指を彼の顔の前に突きつけた。 「料金は瑛ちゃん、お前さんの給料から天引きだ。いーな。」 「あのなあっ・・・。」 「どこまで本当か冗談か、ゆっくり聞かせてもらおうか。フフ。」 黒羽も黄龍もお互い冗談だとわかっている。 わかっていたのだがキリコがまた可愛らしくトドメをさした。 「あら、黒羽さん。料金ならあたし払ったよ、体でv」 がちゃっ 黄龍は子供らしく笑うキリコに、少し後ずさりしてみせる黒羽、そして目がすわりながら部屋に入ってきた瞳の目に、ばっちり自分が映っていることがわかった。 彼女の足は心なしかかたかた震えている。まずい。 あの動きはこれからキッツイ蹴りがかまされる時だぞ・・・。 「・・・・・・・・・・・・からだ、ってナニ?」 家出した女の子は、クラブでナエちゃんてドラッグクイーンに声をかけてごらんなさい。 黄龍瑛那が天国経由で、佐原探偵事務所まで連れてってあげるから。 料金はあなたのカラダ、運がよけりゃ黄龍持ち? 彼への駆け込み乗車は危険ですから大歓迎っ! おしまい。 (戻る) |