両性疑惑   

赤星とのトレーニング後。シャワーを浴びて出てくる輝。
上半身は裸。
         
輝「ふー、さっぱりしたあ。汗かいたあとのシャワーって気持ちいいなあっv」
(キョロキョロ見回す)「リーダー、先に出ていったんだなっ。ちょっとオレ遅かったし・・・。」

頭にかぶったままのバスタオルで髪の毛を拭いている。

輝「さー。早く行かないとケーキなくなっちゃう・・・。」

後ろで派手な物音。
振り返ると、置いてあった洗面用具を床にばらまいた黄龍の姿。座り込んでいる。

輝「エイナ、大人なんだからさあ・・・。周りにもう少し気を使ったら?」
黄龍(顔真っ赤)「・・・お、お前なんでまだそんなカッコしてんだよ!」
輝「だって髪の毛乾かしてたんだもん。別にいいじゃん。すぐ着替えるから。」
黄龍「いや、その、そーゆーコトじゃなくってよ・・・・・・。」
輝「なくって?」
黄龍、床にコケたまま輝の体を上から下に眺める。

黄龍(苦笑してる)(体も細いし、腰も細いし、ムネくっつけたらそのまんま女の子で通
   用しそうなカラダだよな・・・。うげ。イヤ今でも通用するかも・・・。)
(自分の体を庇うようにして)「あの、えーな・・・。あんまりじろじろみないでよ・・・。
  気持ち悪い。」
黄龍(慌てる)「うるっせーな!それよりもお前赤星さんや黒羽の前で、そんなカッコす
   んじゃねーぞ。犯罪呼ぶぜ。」
(タオルを黄龍の顔面にぶつける)「犯罪はエイナのほうでしょっ!ったく、何考えて 
  るんだよ。どすけべ!!」
黄龍「なんだとてめ!俺様は女の子がスキなの!!」
輝「スキなのは女の子より、カラダじゃないのっ?」
黄龍(長――――いため息)「・・・・・・お前、そのセリフも赤星さんと黒羽の前で言うなよ    ・・・あの2人泣くぞきっと。」


『森の小路』で談笑している5人。
話題は先ほどの黄龍の話になっている。

黒羽(ギターを弾きつつ)「そうか、瑛ちゃんは両刀だったのか・・・。」
赤星(コーヒーを持つ手が震えている)「・・・い、一番タチ悪いな・・・・・・。」
瑠衣「やだ、2人ともー!」(目が笑ってない)「冗談だよね?瑛那さん。」
黄龍(ニッコリ笑って)「状況把握に一番優れてるのは瑠衣ちゃんだよなー。これだから
   おっさんはヤなんだよ・・・。」
輝「けど、エイナやめてよね・・・。あの目線、セクハラだよセクハラ。」
赤星(輝の頭をがしがし撫でる)「そうだぞ黄龍。輝は男なんだからな!」
黄龍(相手にしてない。適当に流す)「ハイハイハイ・・・。」
輝「あっ!」

突然席から立ち上がる輝。皆の視線が集まる。

瑠衣「どうしたの、輝さん?」
輝「忘れ物しちゃった!取りに行ってくるっ!ケーキ残しておいてよっ!」

そのまま走り出す輝。
苦笑する残された4人。

黄龍「ほんっとにせわしねーんだからよ。」
黒羽「部屋割りを考え直した方がいいんじゃないのか?旦那よ。」
赤星「そうだなあ〜・・・。黄龍、お前ハジっこでいいだろ?」
黄龍「ちょっと、俺様そんなに信用なさげ?」
赤星「両刀疑惑がかかってるお前に、信用なんて言葉が当てはまるか!」
黄龍「あーもう!その話題から離れろよ!」

ケーキに手を伸ばしていた瑠衣の手がぴたっと止まる。
赤星と黄龍のやりとりを見て、黙っている。

黒羽「・・・・・・?瑠衣ちゃん、何か考え事かな?」
瑠衣「ねえ、輝さんてホントに男のひとなの?」
赤星・黄龍・黒羽「「「ハイ?」」」
瑠衣「瑠衣ね、輝さんが女装してからずーっと気にかかっているの。だってちょっと似合
   いすぎだと思わない?顔もとーっても美人だし。」
赤星(頭を掻きつつ)「た、確かになあ・・・。」
黒羽「おいおい、旦那はいつも坊やと組み手してるだろ。男か女かぐらいわかるだろーが。」
赤星「イヤ、あいついっつも厚めのTシャツ着てその上から胴着だし、もちろんシャワー
   だって別々だろ。だ・・・からさあ。」
黄龍「そ、そうだよな。細い女の子だって山といるし・・・。も、もしかして・・・・・・。」
黒羽「・・・・・・・・・・・・。」

赤星「し、調べて・・・。」
黒羽「はっきり?」
瑠衣(嬉しそうな顔)「させてみよーっ!!」


輝「えーと、どこにおいたっけ・・・?」

トレーニングルームで忘れ物を捜している輝。
後ろから黒羽がやってくる。

輝「あ、黒羽さんっ!どうしたの、ケーキ食べ終わっちゃったんですかっ?」
黒羽「いや・・・・・・。」

黒羽、真顔で輝の胸をぽんぽんと触る。
当たり前だが真っ平ら。

輝「く、黒羽さん・・・・・・?どしたの?」
黒羽(真顔)「・・・・・・うーむ。もう少し触ってもいいか?」
赤星「だめっ!!!だめだだめだだめだ!!」

いきなり登場する赤星。なぜか顔真っ赤。

輝「リーダー?どうしたのホントに?」
赤星(顔真っ赤)「黒羽!!お前がやるとシャレになんねーからやめろ!!なんか絵的に 
   ヤバイんだよ!!」
黒羽「そういう事言うお前が一番ヤバイぞ。」
輝「2人ともどうしたんだよっ!オレのムネがどうかしたのっ?」
赤星・黒羽(振り返りざま)「どうもしないっ!!」


森の小路に入ってくる輝。黒羽と赤星の事でちょっと不思議顔。
カウンター席に座る。

輝(どうしたんだよ、いきなり人のムネ叩いて・・・?なんなんだろ?)
黄龍(紅茶を差し出しながら)「どうした、テル?」
輝「あ、ううん。なんでもないよっ。ゴメンね。・・・って。うわ、あっつ!」

黄龍が紅茶をひっくり返す。輝のスウェットにしぶきがかかる。

黄龍「あっ、やべ・・・。だ、大丈夫かよオイ!火傷してねーか?」
輝「ばかっ!!気をつけてよっ!もう、そそっかしいんだから。」
黄龍「すぐ脱げよ、火傷すっぞ。」
輝「う、うん・・・。」

輝、スウェットを脱ごうとするが、黄龍の妙な視線に気が付く。

輝「・・・え、えーな・・・?」
黄龍(慌てながら)「おい、お前照れてんのかよー。女の子じゃあるまいしー。」
輝「うるっさいなもう!!いちいちオンナオンナって!」
黄龍「じゃさ、今ここで脱げるよな。女の子じゃないんならさ。ホラ早く早く。」
(黄龍の腕をはねのけて)「さわるなっ!やらしーんだからっ!!」
黄龍「違うっつの!!!何度も言ってるだろっ!!」
輝「うるさいなもうっ!オレ、部屋行って着替えてくるから、エイナ後かたづけしといてねっ!」
黄龍「え?おいおい?」

輝、一回立ち止まり黄龍を睨む。

輝「・・・ばーかっ。」


喫茶に集まる一同。(輝は抜かして。瑠衣は学校なのでいない。)

黄龍「え?赤星さん達もダメだったのかよ・・・。(黒羽の方を見つつ)使えねーなもう。」
黒羽「お互い様だろ。」
赤星「確かめようがねーな・・・。こうなったら・・・。」
黄龍「なったら?」
黒羽(一息いれて)「実力行使だ、な・・・・・・。」
黄龍(青ざめる)「お、お、おい。俺様色んな事想像できちゃったぜ・・・。は、犯罪に手は
   染めないほーが・・・。」
赤星「そうじゃねーって。一緒にシャワーでも浴びればすぐにわかるじゃねーか。」
黄龍「だってよ、あそこ(トレーニングルーム)シャワー室たくさんあるじゃねーかよ。」
赤星「壊れたって事にしてさ、かくかくしかじか・・・・・・。」



赤星と組み手をしている輝。
本人、とても満足げにしている。
 
赤星「さ、今日はここまで!シャワーでも浴びて、メシにしようぜ!」
輝「うんっ!」
赤星(少し演技っぽい)「シャワー室さ、壊れちゃって、その、一個だけしか使えないん
   だけど、一緒に浴びよっか?」
輝「え、狭いよリーダー。オレ待ってるから先に浴びてきてっ!」
赤星「え、あ、そ・・・ふ、2人一緒の方が早いだろ?ホラ、すぐに黒羽ソバ食べたいだろ?」
輝「そりゃそうだけど・・・。狭いから頭とか洗えなくなっちゃうよ。」
赤星(力入れて)「かまわねーって。な?一緒に入ろうって!」
輝「・・・・・・。」

輝、かなり不審な目で赤星を見つめる。
赤星、輝の目線に押されて後に下がる。

輝「りーだ・・・?」
赤星「な、なんだ?」
(キレた)「もうっ!!!昨日おとといからどーしたんだよっ!!!みんなよってたかって、
  オレのこと触ったりハダカにしたがって!!何?いったいどうしたってんだよっ!!
  まさか、リーダーも両刀・・・?」
赤星(さすがに慌てる)「だあああっ!!違う!断じて違うぞ!!違う違う違うっ!!」
輝「そしたらどうしてっ!?」
赤星「じ、実はお前がひょっとしたら女の子なんじゃないかって・・・。」
輝「・・・・・・は、はあっ?」
赤星(ちょっと困り顔)「だってお前のハダカって誰も見たことないし、化粧映えのする顔
  だろ?瑠衣がそう言ってたし、俺達もつい・・・。だからさ、・・・・・・ゴメン!!」
輝「・・・・・・(大きなため息)。もうっ・・・・・・!」

赤星の前で胴着を脱ぎ始める輝。


同時刻、『森の小路』
ソバをゆでていた黒羽の手が止まる。

有望「何言ってるのよ、黒羽くんたら。輝くんが女の子だったらすぐにわかるわよ。」
黒羽「そりゃどういう事だい?」
葉隠「彼の体は男性なのか女性なのか、そんな基本的事項をわからんでスーツのテストな
   んてさせられんじゃろ?」
田島「体にも触れる事になるし・・・。赤星くんだってその点は同じだと思うんだけどなあ。」
黄龍「だ、だ、だってそりゃ博士達はプロだろーっ?俺様はシロートだもん。わかるわけ
   ねーだろ?な?」

黄龍、横に座っている洵に同意を求めるが笑顔で返される。

洵「ボクは医者だよお、それくらいわからないと。アハハ・・・。」
黄龍「そ、そーだよな・・・。こん中じゃ一番のプロフェッショナルだよな・・・。
   赤星さん、今頃どーしてん・・・」

ドアを開けて入ってくる赤星。なぜか顔真っ赤。

赤星(明らかに作り笑い)「ただいま〜・・・あんなに罪悪感を持ったの久しぶりってか・・・
   は、ハハハ・・・。」
黒羽「ず、随分とまあ、壊れたご帰還だな・・・。ん?」

赤星の後ろでかなりキレ気味の輝が入ってくる。

輝「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ。」
黄龍「お、おっかえんなさい・・・アキラ?」
(涙目で睨む)「みんなもでしょ・・・?ひとの性別弄んで・・・っ!」
黒羽「フッ・・・悪かったな、坊や・・・。」
黄龍(焦り気味)「おいそこ。『フッ』ですませんじゃねーよ。」

輝「最初に、この話題を持ち出したのって・・・・・・ダレ?」


数時間後。
学校帰りの瑠衣。喫茶店のドアベルを鳴らして入ってくる。
 
瑠衣「ただいまーっv・・・あれっ?」

誰もいない喫茶の中。
STAFF ONLYのドアから一人の少女が出てくる。

瑠衣「あ、あの・・・新しいアルバイトの人ですか?」
少女「瑠衣ちゃん・・・わからないっ?オレだよっ。輝。」
瑠衣(思わず絶句)「・・・・・・へ?え、何?また潜入捜査なの?」
輝「とぼけないでっ。瑠衣ちゃんなんでしょ?オレが女の子だってバラしたの・・・。」
瑠衣(青ざめる)「え?あ、あれはその・・・ほ、本当だったのっ?」
輝「瑠衣ちゃんっ!」

瑠衣に抱きつく輝。感触が思いっきり女の子。

瑠衣「あ、輝・・・さん?」
(涙声)「どうしよう、ここにいられなくなっちゃったら・・・。オレ・・・ううん。あたし、
  どうしたらいいのかしら・・・?」
瑠衣「そんなことないよっ。女の子でも男の子でも輝さんは輝さんでしょっ?きっとみん
   なわかってくれるよっ。瑠衣も協力するからっ!」
輝「ううん、そうじゃないの・・・。」
(真剣な眼差し)「瑠衣ちゃんのこと・・・すっごくすっごくスキだったのに、女の子だっ
  てバレちゃったら、恋することもできなくなっちゃう・・・。」
瑠衣「え"?」

(だんだん近づく顔)「女の子同士でもいいよねっ?・・・だってあたし真剣だったんだも
  ん。この気持ち・・・。」
瑠衣(慌て気味)「え、ちょ、ちょっと輝さん・・・っ!」
(真剣な眼差し)「ね?瑠衣ちゃんは今スキなひといるっ?」
瑠衣「あ、あ、ああの・・・その、そんなことないこともないけど・・・。」
(目がうつろ)「じゃ、いいでしょ?」
瑠衣「だ、だ、だめだめだめ!!!あたしはあの、その実は・・・。」

瑠衣の額をでこぴんする輝。
呆けた顔の瑠衣を見て満足そうに笑う。

輝「ふーん、そっかあ。そうだったんだねv」
瑠衣「え?輝さん・・・?」

カツラをとる輝。上着に手をつっこんでパッドをとる。

瑠衣「あーっ。」
輝「ちょっとはびっくりしてくれたかなっ?オレをちょっとだけ振り回したバツ、だった
  んだけど・・・。」
瑠衣「な、なんだあ・・・(ホっとした顔)。」

STAFF ONLYから出てくる一同。

赤星「瑠衣、お帰り。」
瑠衣「ただいま、赤星さん、みんな!」

瑠衣、輝の方に振り返る

瑠衣「ご、ごめんなさい。輝さん。こんな大事になるだなんて思ってなかったの。」
有望(あきれ顔で)「こんなこと本気にする人達の方がおおごとよ。全くもうっ!大の大人3人が
   何やってんのよ。」
赤星(素直に)「は、ハイ・・・・・・。」

それぞれお気に入りの場所に座り始める。
輝、瑠衣の肩を叩いてニッコリ笑う。

輝「ね、瑠衣ちゃんのスキなひとって?もしかしてこの中?」
瑠衣「うんっv」
輝「ね、誰なの?」

振り返る赤星、黒羽、黄龍。皆それぞれ気が気でない。 

瑠衣「あのね・・・えへへ、赤星さん!」
有望「えっ?」
瑠衣(ニッコリ顔)「・・・も、スキだし、黒羽さんも瑛那さんも輝さんも、博士達もみーんな
   大好きよっ♪ けど、一番はね・・・。」

黒羽「一番は・・・?」
瑠衣「お姉さまーっv(抱きつく)だーいすきだよっv」
有望「はぐらかすの上手くなってきたわね。もうv」
瑠衣「けど、本当なんだもんv」

輝「でもさ、もうひとつ確かめたいことあるんだけど・・・えーな?」
黄龍「あんだよ?」

(真面目顔)「結局のところ、エイナって・・・両刀なのっ?」
黄龍「おいおいおいおいおい。そーんなわけねえだろーv」
黒羽「イヤ、怪しいな・・・。」
赤星(お前も怪しいぞ・・・。)
黄龍(ビビリつつ)「ざけんじゃねーよっ!どーやって調べろってんだよ。」
黒羽「ま、方法はないわけでもないが・・・。フッ。まあ、それは今度の話と言うことで。」

おしまい。

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