PASS OUT!   

翠川輝、21歳。高校時代、天才的なフィールドアスリートとして名を馳せる。
現在大工見習いを一時中断、正義の味方(笑)として活躍中なのは家族には内緒。
元気いっぱい天真爛漫。
危なっかしげな行動でリーダー達をハラハラさせる男(と言っても初めて会った人にこの事実(主に性別)を信用させるまで、かなりの時間を要する)。
幼い顔立ちをした輝でしたが、ただひとつ!憧れのリーダーにも黒羽さんにも勝てるモノがありました。それはなにかといいますと・・・。



客足が遠のく夕暮れ。夕暮れじゃなくても一日ヒマだった『森の小路』。
理絵はとっくに帰っていて、夕食の準備をしようとしている黄龍、輝、瑠衣。
そこへホクホク顔の赤星と黒羽が入ってくる。

輝「えっ?飲み会?」
赤星「そっ♪」(持っていた封筒を印籠のように輝の顔の前に出す)「じゃーん!博士がくれ
  た福沢諭吉の束だぞーっ!」
瑠衣「ほんとうっ!」
黄龍「おおっ。すっげ〜」
赤星(赤星、満面の笑み。ご機嫌で封筒をひらひらと振る。)「たまには正義の味方を休みな
  さいってさ。(瑠衣の顔を見て)有望も一緒にくるよ。で、黒羽と相談したんだけど・・・」
黒羽(赤星の持っていた封筒をスッと取る)「すぐ近くの『桜月(サクラムーン)』はどうだ?
  瑠衣ちゃんは酒飲めないだろ?あそこなら酒の種類も食べるものも多いしな」
瑠衣「わあ、瑠衣あそこのトマトジュース大好き!」
輝「ねえっ、黒羽さん。お酒の種類ってどのくらいあるのっ?」
黒羽「ビールに焼酎にワインに・・・って、坊や」(思わず輝の顔を見る)
黄龍(ニヤニヤしながら)「お子さまはノンアルコールっ!あんま強がんねえ方が身のためだと
  思うがな〜」
(むくれて)「そんなことないよ。オレ、ちょっとだけど飲む方なんだよっ」
瑠衣「みんなで楽しくできればいいじゃない、ねv」
赤星(うなずきつつ)「そうそう、酒は飲んでも飲まれるな!ってな」



一同、移動して『桜月』へ。
店で一番奥の席へ案内されて、席に座る。

ウェイトレス「ご注文は何にいたしますか?」
赤星「さーっ、なんでもスキなもん頼んでいいぞっ!」
瑠衣(目が輝く)「瑠衣ねー、トマトジュースとエビチャーハンとラーメンサラダと・・・。あ、
  レンコン揚げも!あと、唐揚げとフライドポテトと・・・」
有望「それから、ダイコンサラダもおいしいのよね、ここ。卵焼きもあつあつでv」
瑠衣「それからねー・・・。うーん、どれにしよう?」
黄龍「ちょちょ、ちょっと2人とも、そんなに食べられんの?」
ふたりの頼んだモノの量に圧倒されている赤星、黒羽、黄龍。
酒のメニューをじーっと見ている輝は気が付かない。

有望「あら、卵焼きおいしいのよ。大根下ろしとお醤油をかけて食べるのがあっさりしてて。
  こんなに人数いるんですもの、すぐにはけちゃうわよ」
ニッコリ笑いあう有望と瑠衣。
黄龍「いや、そーだけどさあ。どーせならアルコールの方に金かけたほーが・・・」
瑠衣(ちょっと悲しそうな顔)「瑠衣、お酒飲めないしー・・・。みんなで食べたらおいしいって
  思ったのに・・・」
黒羽、思いっきりギターで黄龍をどつく!
赤星の手加減を(少し)した鉄拳もヒット!

黄龍「いってー!少しは手加減しろっつの!」
赤星(黄龍の言葉を思いっきりムシして)「さ、瑠衣の言うことも最もだけど俺達も酒、頼もうか・・・って輝?」
(赤星の言葉が耳に入ってない。メニューをじーっと見ている)「・・・・・・・・・・・・」
黒羽「坊や?」
輝「・・・・・・あ、黒羽さんっ!(赤星の顔を見て)オレ、頼んでいいのっ?」 
赤星「あ、ああ。もちろん!スキなように頼んでいい・・・」
輝、ニッコリ笑うと赤星の言葉を最後まで聞かないで頼みはじめる。

輝「ウェイトレスさん、オレねー。杏露酒と梅酒でしょ。あ、そのまんまなのとサワーと両方
  お願いしまーすっ!あと、酎カルピスと酎・・・んん〜もう、めんどくさいや、のってる酎
  ハイ全部!あと日本酒と、ワインも。あっ!忘れてたビールっ!ジョッキでえーと・・・」
(メンバーを指さしながら人数確認をする。自分を入れて全部で6人!)
  「瑠衣ちゃんを抜かして、えーと10杯!あ、大ジョッキですっ!」
赤星、黒羽、有望、あまりのハイペースな注文にあぜん。
黄龍、強がってんだから〜とニヤニヤ笑い。
瑠衣もぽかんとしている。

輝「黒羽さんっ?ビール飲むでしょ?」
黒羽「(ぽかんとしていたが、すぐにいつもの顔に戻って)・・・・フッ、坊やは随分と酒に強いようだな」
(無邪気〜な笑い)「自信あるよっ♪」
赤星「おいおいおい、黒羽・・・!」
青ざめた赤星と有望。そんな2人を差し置いて、ギターを弾いてみせる黒羽。
輝、嬉しそうに微笑む。
黒羽「だがそれは日本で2番目だ」
赤星(頭抱えて)「バカっ!何言ってんだよお前!!こんなんで対抗意識持って
  どーすんだよ!それにお前忘れたのか・・・」
黒羽、赤星の口を押さえる。彼の隣に座っている有望にも微笑むが目が笑ってない。

黒羽(赤星を羽交い締めしながら)「オーダーはとりあえずこれだけですよ、ウェイトレスさん。
  酒を先に持ってきてください」  
ウェイトレス(引きつった笑いを浮かべて)「は、はーい・・・」





一同「それじゃあ、博士の福沢諭吉にカンパーイっ!」
かつんっとジョッキを当てる一同。大ジョッキに入ったビールをぐいぐいとイッキに飲んでいく赤星と輝。
赤星・輝「「プハーっ!」」
黄龍「おいおいおい赤星さんも輝も〜。腹になんか入れてから飲んだほーがいーぜ。すぐに酔っ
  ぱらったらいっぱい酒飲めねーだろが」
赤星「俺、最初の一杯のビールがスキなんだ!」
輝「あ、わかるわかるー!ビールってさ、最初の一杯目が一番おいしいよねっ!」
赤星「そうそう、その次にうまいのがフロ入ったあとに飲むヤツ!」
うんうんっ!と喜びを分かち合い、赤星と輝、嬉しそう。
呆れてお通しを食べている黄龍、唐揚げを口にしている有望と瑠衣。
有望「あら、この唐揚げとってもおいしいわ」
瑠衣「でしょーvね、瑛那さんも食べる?」
黄龍「あ、(呆れてた顔が一気に戻る)うん」
瑠衣、いたずらっぽく笑って箸で唐揚げを取り、黄龍の口元に近づける。
瑠衣「はい、あーんv」
黄龍「え、あ、お・・・」
有望(くすくす笑いながら)「あらら。もう、酔っちゃったのかしら?黄龍くんでば」
黄龍困っているが内心嬉しい。しかし、自分の背中に刺さる視線を向ける者が約2名。

赤星(目つき悪く)「・・・・・・」
黒羽、日本酒を飲んでいた手をとめてじーっと見つめている。
超最強保護者、赤星&黒羽!
輝は酎ハイを開けるのに忙しいらしく気が付いてない。

瑠衣「?どうしたの、瑛那さん?唐揚げ冷めちゃう」
黄龍(作り笑いで)「あ、ハハ・・・(ちっくしょー・・・。ここで断ったら瑠衣ちゃんにイヤな思
  いさせちまうし、食ったら食ったで後ろのオッサン達にどつかれそーだし・・・。だああっ!
  もう!!どーすりゃいいんだあああっ!!!)」
まさしく究極の選択状態の黄龍。
悩みに悩んだ彼が選んだ答えは、もちろんこちら。
黄龍(ちょっとヤケ)「そんじゃ、いっただきまーす!」
瑠衣「はーいv」
瑠衣の箸にパクついた瞬間、拳とギターが炸裂。
きゅう、とのびる黄龍。
酒も入ってないのに早くもノックダウン。

瑠衣「あーっ!赤星さんも、黒羽さんもー!どうして瑛那さんのこといじめるのよーっ!」
黒羽(力込めて)「違うぞ瑠衣ちゃん!瑛ちゃんの背中に虫がいてだな」
赤星(身を乗り出して)「そう!刺されたら痛そうなヤツがわさーってさ!だから」
黒羽・赤星(指で黄龍の背中を刺しつつ)「「トドメさしといたんだよ!」」

有望(苦笑、というか呆れ笑い)「・・・・・・トドメはあなた達でしょ・・・・・・」


輝、ようやく気が付いた様子で声をかける
輝「どうしたのーっ!ね、お酒切れちゃった。また頼んでもいい、リーダーっ?」
全員「はあっ!!?」
輝の前に転がるジョッキとグラスの山。
いつの間にか、酒はすべて輝の腹の中!

輝「やっぱり足りなかったなあっ。今度はもっとたくさん頼もうよっv」

輝、ニッコリ笑って赤星達を見るが赤星達は青ざめている。




輝、持ってきてもらったビールを一気飲み。顔は全く赤くならない。
山のようなビールを目の前に赤星達は苦笑い。

赤星「・・・お前、酒強いって聞いていたけど、ほんとにすごいんだな・・・ハハ」
輝「そうかなあっ。ウチ、みんな強いんだ!母さんもオヤジもこのくらい平気だけど・・・」
一同「(どんな一家だよそりゃ・・・)」
有望(コホン、とせきばらい)「まあまあ、もう少ししたら黄龍くんも起きるだろうし(朝まで
  覚めそうにないけど)、お料理もあるし、ね? 私達も飲みましょ」
赤星「そうだなっ!」


のびた黄龍の横でグラスを傾ける黒羽。グラスの中に入っているのは先ほどの日本酒。
輝「・・・・・・・・・・・・」
黒羽「坊や?どうした?」
(あこがれの眼差し)「あ、黒羽さんて何やっててもカッコイイって思って・・・」
黒羽、思わず苦笑。赤星達もつられて笑っている。
瑠衣「ほんとーv何やっててもカッコいいよね、黒羽さんて。きっとお酒も強いんでしょ?」
無邪気に言った瑠衣の一言で何かを思い出す黒羽と輝。それと同時に顔がひきつる赤星と有望。
黒羽「そうだ、坊や。そろそろ・・・」
赤星(慌てて皿を落としそうになる)「そ、そろそろ会計か?! 黒羽!! けど、まだちょっと
  早いだろ! 料理もはけてないし、夜は長いし!」
黒羽(目がすわっている)「・・・・・・そうそう、夜は長いよな。坊やさっき言ってただろ。酒に強」
赤星「げ・・・・・・」

赤星、黒羽の前に転がっているグラスを数えてみる。
ひとつ、ふたつ、みっつ、


赤星「よっ・・・つって黒羽!!」
黒羽(目がすわっている)「なんだ?!」
黒羽、ヒーロー挙動でガバっと赤星の方に振り返る。目は座っているが表情はあまりかわってない。顔だけ異常に赤い。
赤星「お前、とっくに許容量オーバーしてんのわかんねーのか!!これ以上飲んだらえらい
  事になるからやめ‥‥」
(ニッコリ笑って)「黒羽さんて、飲んだら赤くなるタイプなんだねっ!よーし、何で勝負する?
  ビール?日本酒?」
黒羽「坊やの好きなものでかまわないぞ〜」
赤星(慌てまくる)「あおるんじゃない輝!何が『かまわないぞ〜。』だ!!しっかり酔ってるクセに
  よくそんなこと言えるなお前は!おい、有望もなんか言ってやってくれ・・・って有望?」
隣にいた有望がいつのまにやらいない。
瑠衣(にんまりしながら)「赤星さん、こっちこっちv」


輝のひざを枕かわりにして眠りこけている有望。ぐっすり寝ていて起きそうにない。
輝「アハハ、有望主任もお酒弱いんだっ!オレとおんなじだねっ!」
赤星(思わずこめかみを押さえる)「違うだろ!なんでそんなとこで猫の子みたいに丸まってんだよっ!
   有望、おいっ」
有望を起こそうとする赤星。しかし、黒羽の手に遮られる。
黒羽「おいおい、起こすなよ。かわいそうだろうが」
瑠衣「そうだよ、赤星さん。眠らせてあげたらー?」
輝「オレ、ぜんぜん迷惑じゃないから安心しててっ!」
赤星「違うだろーっ!!」

ふいに、赤星の頭に黒羽のギターがさくれつ!
赤星、思わず頭を抱えてうずくまる。
赤星「いって・・・手加減してねえよ、この酔っぱらいは・・・」
あきらめ顔の赤星。寝ている2人にとばっちりが来ないよう、自分の側に有望と黄龍を引っ張ってくる
黒羽(目がすわっている)「違うのは旦那の方だろうが。酒は静かに飲むもんだぜ・・・。
  わかってないな」


黒羽、ニっと笑って輝の方に振り向く。
グラスを掲げてくるりと回し、帽子のツバをくいっと上げる。
カッコイイ行動に歓声をあげる年下2人組。
瑠衣(まるでアイドルを見る目)「きゃーっ!黒羽さんかっこいいーっ!」
輝「よーし、黒羽さんっ!ビールで勝負ですっ!」
黒羽「フッ、どうかな?さ(指をぱしりと鳴らす)ウェイトレスさんにたくさんビールを
  持ってきてもらおうか・・・?」
赤星「もう、いい・・・・・・」
(ニッコリした顔で)「リーダーも勝負するでしょっ?」
赤星「だめだだめだだめだ!!誰が酔いつぶれたお前らを連れて帰るんだよ!!」
瑠衣(ちょっと顔が赤い)「瑠衣がいるから大丈夫だってーっ!アハハハハハハ!」
赤星(もっと顔が青ざめる)「うわ、酒くさい!コラ瑠衣!!お前酒飲んだのかっ!!?
   未成年なんだぞお前は!!」

瑠衣、赤星のあまりの剣幕にちょっとだけ後ろに下がり、そして・・・
瑠衣「ひっ・・・く、ぐす・・・。瑠衣、トマトジュースしかのんでないろに・・・」
赤星(瑠衣の持っているグラスを指さしながら)「それ、ワイングラスだろーっ!?」
瑠衣(呂律が回ってない)「あかほしさんひろーい!!るい、なにもわるいことやってられ
  れあのにーっ!!」
(思い切り非難の目つき)「あーっ!!リーダーが瑠衣ちゃん泣かしたーっ!!!」
赤星(思いっきり両手を振る)「ち、違うぞ輝!ただ酒入ったから涙もろくなってる‥‥ごがっ」

黒羽のギター(本体)が赤星の脳天に直撃!!上手に有望の隣に倒れる赤星。
何故か服のホコリを払い、フッと微笑む黒羽。
すでに黄龍の横で眠りこけている瑠衣。
黒羽、黄龍を足でどかすと輝の方に振り返る。


黒羽(目がすわっている)「さ、勝負だ坊や・・・。その酒豪ぶりも日本じゃあ2番目だ・・・」
(目がいつも以上にキラキラしている)「よーしっ黒羽さん、いっくよーっ!」






田島「あ〜あ・・・いたいた!」
白衣の上から長めのジャケットを羽織って走ってくる田島。
閉店となった『桜月』の前で手を振っている輝。道ばたに転がっている固まりが見える。 


輝「田島さーんっ!こっちこっち!」
田島(少し息が切れている)「すまなかったね、遅くなって」
輝「ごめんなさい、研究の途中なのに・・・。けど、オレ車の免許持ってないし、店のひとが
  駐車場を開けてくれないと困るっていうから・・・」
田島(ちょっとあきれ顔)「ハハ・・・」
酔いつぶれた一同を見る。ぐっすり眠っている赤星、黄龍、瑠衣。

田島「ほ、星加主任もツブれたのかい?」
輝「うん、すぐねちゃった」
田島(肩を落としながら)「で、キミの背中に黒羽ちゃん、と」
(ちょっと照れている)「うん!酒飲み勝負したらさ、くっついちゃってとれなくて・・・」
田島「よかった・・・黒羽ちゃん、酔って脱いだりとかはしてないみたいだね」
輝「え?何?」
田島(ちょっと慌てて)「ううん、なんでもないよ。さ、かえろっか?」


車の中。助手席に輝、運転席に田島。車の中で寝息を立てている赤星達。
輝「田島さん達も一緒だったらもっと楽しかったのにね」
田島(ニッコリ笑って)「ハハ・・・一応、今は仕事中だからね」
輝「うーん・・・そうだけどお」

ベースまであと少しというところで急に車を止める田島。
車の横にはコンビニが。

田島「ちょっと待ってて。何か買ってきてあげる」
輝「えっ?田島さん、オレ今飲んできたばっか・・・」
田島、輝の顔の前で手を振る。

田島「ウソはダメだよ。全然真っ赤じゃないし、黒羽ちゃん達の世話のせいでちっとも飲め
  なかっただろ?ビールでも買ってきてあげるから」
輝「え?で、でも」
田島「じゃ、わたしと博士に一杯だけつき合ってもらおうかな? 仕事中だけど、ね」
くすくす笑いあう田島と輝。

(満面の笑み)「じゃ、お言葉に甘えますっ!」
田島(笑顔で)「そうそう、そうじゃないと割に合わないだろ?」




博士の福沢諭吉達を一番割にあった使い方をしたのは一体だれなのか。
それを田島博士はわかってない。

そして一番割を食ったのはいったい誰なのか。


赤星「・・・・・・俺に決まってるだろーっ!!!・・・・・・ムニャ‥‥」




おしまい。


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