|
守護妖精
がしょっ がしょっ がしょっ がしょっ うっそうとした森の中。自分の歩く音がやけに響く。 あとに聞こえるのは木々が燃える音、肉が焼けこげるニオイ。 悲鳴はもう聞こえなくなってきている。 そろそろ全滅か・・・。 「じゃあ、オレが追っているのでラストか。」 瞳のレンズが規則正しく前方をズームアップしてゆく。 かしゃっ、かしゃっ、かしゃっ ふたつの人影が見える。 大人と子供だ。 男が早足になっている。その側に小さな子供がいる。 まるで引きずられるようにして、男の後を歩いている。 「・・・ガキと男か。くそ、なんて足してんだオレは。もうすぐ追いつくぞ・・・。」 機甲将軍スプリガンはフン、と悪態をつくと、ますますそのスピードをあげていった。 肥大してゆく勢力には、必ず反対勢力というものが出てくる。 帝国スパイダルは圧倒的な力でそいつらを叩いていたのだが、小さなモノというのはえてして恐ろしいくらいしつこい。 ゲリラという名の、小さな虫の反乱だ。 鎮圧するのは、機甲将軍である自分にまかされた。簡単な事だ。 自分の手足となるロボット達は、実に優秀に働いてくれているらしい。 30分ほど前まで、つんざくような悲鳴が上がっていたというのに、もうすでに聞こえなくなっていた。 スプリガンは機嫌良く最後に残った2人を追いかけていたが、自分のつま先に何かが当たったのがわかった。 顔だ。まるで仮面のように切り取られている。 ロボットが切り取ったのだろう。彼らに下した今回の命令は『完殺』だ。 大人子供、男、女、老人、関係なく全滅させることだ。 「さすが、オレの暗黒ロボットたちだ。実戦練習もできるし、まあよかったってとこか?」 スプリガンは転がっている顔を、心底不快な顔で見つめるとレンズからレーザーを出して焼いてしまった。 だんだんと、ふたつの足音が近づいてくる。 「ん・・・?追いつきそうだな・・・。」 こうして時間つぶしをしているというのに、優れた機能を持つ自分の足はすぐに追いつく事ができる。 向こうは哀れなほど必死で走っているというのに。 さっと銃を出して、2人の目の前に弾を飛ばしてみせた。 よろめき、倒れ、男の顔が青白くなっている。 その顔色がスプリガンはとても好きだった。 「これで最後か・・・?」 目の前には怯えきった表情の男とガキ。 男の方は、カラダが固そうな毛で覆われており、剥き出しになったキバががくがくと震えて、そのたびに唾液がだらだらと流れていた。ガキはといえば何が起こっているのかわからないのだろう、うつろな目で地面ばかり見ている。 横から突き出している長い耳は、男にそっくりだがそれ以外は人間型だ。 多分、男がどこかの女にでも産ませたのだろう。めずらしくもない獣と人間型のハーフだ。 自分が一歩足を出すと、男は目に見えるくらい顔を引きつらせて怯えている。 必死で逃げまどい、死に場所を見誤った者というのは哀れなものだ。 獲物として見ている自分には、その往生際の悪さが心地よかったりもしているが。 「運がいいなお前らは。オレに殺されるなんぞ、ラクに死ねる方だぞ。あいつらロボットは優秀すぎでな。なんでもかんでも細かく切り刻まないと、気がすまん奴らばかりなんだ・・・。」 スプリガンは右手だった部分をこきこきと鳴らす。 指先をかざせば、後は彼の意思でそれは散弾銃のようになる。 彼はまるでゲームをはじめるように、思い選択を軽く口にした。 「どっちから死ぬ?好きな方からでいいぞ。」 ぎらりと光った5連の銃に、男はますます顔を引きつらせてよだれを流す。 スプリガンは自分の足下にいる2人を見下すようにレンズを向けた。 「た、た、頼む、殺さないでくれ。こいつを・・・。」 ドン、と彼の膝にぶつけるようにして、男はそばにいた子供を放り投げた。 子供は自分の顔を、膝を曲げてじっとみつめる。 あどけない顔をした子供は、男と違って恐怖のかけらもなく自分を見つめているのがわかった。 ぼうっとしている子供を指さしながら、男は下卑た笑いを浮かべる。 子供を連れて逃げていたのは、こうして命乞いをするときの、盾に使うためだったのか。 いいねえ、楽しい獲物だ・・・。 オレの思った通りの動きをしてくれらあ・・・。 彼は往生際の悪い獲物は大好きだ。彼がそんな獲物を逃がす時はふたつある。 ひとつはそいつが強くなって、また自分のために楽しい時間を提供してくれそうだとわかった時。 もうひとつは・・・。 「そのガキは、いつか売り飛ばそうと教え込んでたガキだ・・・。どうだ、決してあんたを退屈させないぜ・・・。」 男はよだれを垂らしながら、ヒヒヒ・・・と笑う。 スプリガンは子供の体を改めて見た。服の端から覗く肌はところどころ薄紫色をしており、鬱血している。手首には、何かで縛られたような跡。 人形のような目は、抵抗を忘れた子供がとる唯一の手段だったのだ。 子供が黙って自分をみつめているのがわかったのか、スプリガンは急にいらだち、声を荒げた。 「ばかかてめえは。」 指先から散弾銃のように、そいつの目の前に弾を放つ。 表情を忘れたレンズが楽しげに男をみつめる。 「そんなに死にてえんなら、殺してやるから前に出な。」 彼が獲物を逃がす時・・・。 もうひとつは、あまりにそいつが哀れで逃がすことをしないと、自分が楽しめないときだ。 「ひ、ひ、ひいっ・・・!」 ひきつったまま、そいつは走る。どうせ助からないとわかっているくせに、見苦しく。 スプリガンは心地よく笑うと弾を放った。そいつの顔が地面に吹っ飛ぶ。 粉々になって、跡形もなく。 「前に出ろと言っただろうが、このクソ野郎が・・・。」 散弾銃の状態となっていた手をぶん、と振るとすぐに元の手に戻った。 ジャケットの襟を指で引っ張り、「ふうっ。」と息をひとつ、ゆっくり吐く。 そして呆けたままの子供の前に、がしょ、とスプリガンは立ち、独り言のように言葉を出す。 「オレは体がロボット化している。生憎、戦い以外の快楽は知らん・・・。忘れた。」 「ロボット・・・。」 人形は初めて言葉を口にした。頭の吹っ飛んだ男の死体をみて、子供は少し笑っていたがまたもとの顔に戻った。 足元に転がるようにしている子供のあごを、スプリガンは金属の手でひょいとすくった。 青い瞳、鬱血した青紫色の肌が眩しいほどに美しい。空から切り取ったかのような真っ黒の髪は相当金がかかっていたのだろう、驚くくらいの艶があった。 粗末な服から伸びる手足は細く、長く束縛を受けていたことがわかる。縛ってできたあざだらけだった。 そのキズも、妙な色気を演出するための道具となっている。数年たてば、目の色変えてこの子供を手に入れたがる男達があらわれるはずだ。 スプリガンはふん、と笑い自分の顔を近づけた。 「なるほど、美形だな。どっかに消えるこった。ロボットに殺さんよう命令を出す。お前ならほかの男が相手になってくれるさ。」 「ころして。」 子供は彼と目をムリヤリ合わせて、静かにつぶやいた。 呆けた瞳は初めてぎらぎらと輝く。 暗黒次元に生きる者の、欲望とえげつないまでの執着に似た光を、青い瞳に帯びて。 「今ころされなかったらあたしは一生、男に仕えて生きる事になる。そんなのイヤ。」 「オレはお前に興味はない。死にたいのなら、そこらへんをほっつき歩けば、オレのロボットが切り刻んで殺してくれるぞ。」 「あなたがころして・・・。」 「知るか。」 スプリガンが冷たく言い放った瞬間、彼女の目がまたぎらりと光った。 彼の足についているナイフを取り、それを自分の喉元に突き立てる時間まで長くはかからなかった。 「お・・・・・・。」 う、という声にならないうめきが漏れると、彼女はスプリガンの足を抱くようにして事切れた。 彼のつま先に、黒い髪がはらりとからまる。 「のんびりしている事。」 「・・・・・・アラクネー・・・。」 塔の先でボンヤリしていたのに横槍を入れてきたのは、彼女だった。 黒い髪の毛が風に舞い、くるくると彼女の体にまとわりつく。 黒い髪の毛・・・。 「・・・?シェロプ抜きの作戦会議・・・、お前も抜けるのか?」 「わかったわかった・・・。そう焦らせんな・・・。」 スプリガンは両手を広げて、彼女をいさめるようにひらひらとさせた。 じっと自分を見つめるスプリガンにアラクネーは怪訝な顔を作ってみせる。 あの時、自分の前で自ら命を絶った子供と、目の前にいる彼女は境遇が似ているかもしれない。 親に恵まれず、周りの環境を自分ではどうすることもできない少女だった彼女を、スプリガンは少なからず知っている。 今の彼女は違う。 現実を自分の思う方向へと変えてゆく、そんな力をもっていると思うくらい、力あふれ、かつ若い。 あの子供とアラクネーの分岐点は何なのか・・・。 「自分を殺すか、殺さないか、か・・・?」 「何?」 「命あってのものだ。何事もな。」 「・・・・・・?」 スプリガンは自分の命に対してとても執着を持っている、と思っている。 だからロボット化したってのもある。 命を自ら絶つことを彼は否定もしないし、止めもしない。 死んだら終わりということを誰よりも知っている連中が、こうして四将軍となっているのかもしれない。 「死んだら終わりだ、アラクネー。オレは死に場所くらい自分で決めるが、死ぬことにロマンは持たねえよ。」 「・・・・・・それがどうした?」 「いや、確認よ・・・。」 死んだら、戦いができなくなるってものある。 オレの唯一、快楽を感じる事のできる手段がなくなっちまう。 いつまで、この快楽を感じる事ができるのだろう・・・。 「・・・・・・・・・・・・。」 いつまでも続けてやるがな・・・・・・。 「さて、オレの遊び相手を倒す手段の会議にでも行きますかい。」 ===***=== (The END) ===***=== (戻る) |