★One of the Endings (1/6)
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空が高い。

秋の陽光が、照らすもの全てを美しく磨き上げていた。

ふたつの悪魔が消滅してから早くも3年が経った。それ以前の10年以上にも及ぶ過酷な時代…。それでも全ての人の心を完全に闇に塗り込めるなど、神にさえできることではなかった。
日々の刹那に人々の脳裏に去来する戻らぬ人の姿。足りない物を数え上げればきりがなく、残った物はごくわずか。それでもあまりに長い苦難のトンネルを抜けて射し込んだ光は、多くの人々の心を返って豊かにしたのかもしれなかった。日の出と共に街々には活気が満ち、復興に汗を流し、そして日の入りと共に何者にも妨げられない安らかな眠りにつく。助け合い、分かち合い、微笑み合い、力を合わせ…。まだ廃虚は広がってはいても、今、この世界は生きている。人々は、与えられたその生を、精一杯生きていた。

世界をその双腕で生き返らせた青年は、世界をその頭脳で生き返らせた母とともに、自宅の庭で銀色の乗り物の最終チェックをしていた。まだまだ余分のエネルギーなどない状況で、少しずつ、少しずつ、タイムマシンのエネルギーをチャージし、今日やっと出発できる状態になったのだ。

「よーし、これでOKよ、トランクス!」
「これでやっと報告に行けますね!」
三度目の過去への旅。そして最後の時間旅行だ。二人とも、これを最後に、もう二度とタイムマシンを使うまいと心に決めていた。

五十路を越えてなお、会う人の誰をも惹きつけてやまない魔法の輝きを持つ母は、息子の両肩を叩いて、気を付けるのよ、と言った。息子が、はい、と大きく頷き、額にかかる髪が二すじ、何かをからかうように、きらり、と揺れた。
そう、昨夜すっきりと髪を切ってやった。銀に近いほどの淡い色合い。柔らかい毛質。まるでその性格のように。おだやかで優しい青年。彼を見れば百人が百人そう言うだろう。悟飯亡き後、たった一人でよくここまで頑張ってくれたと、ひたすらに誇らしく愛おしい。

その眼差しは夫譲りでも、あまりに周囲を思いやる心はその師にそっくりで、必要以上に自らに重い枷をかけてしまう息子だった。人造人間を倒した後の、半月ほどのふわふわと心許ない時間を経て、息子はやっと少し解放されたようだった。闘いだけが全てではないこと、自分にできないことがあってもいいこと、少しぐらい間違ってもそれはあとで正せばそれでいいのだということ。

生まれて初めて味わう「平和」の中で、少しずつその言動が大胆になり、時に無邪気なわがままを言ったり、熟慮もせずにカンにまかせて動き始めるような所作もでてきて、初めてブルマは、この息子の性格の中に自分に似た部分を見つけた気がして、嬉しかった。

「あんたがこんなに立派になったなんて、みんなびっくりするわよ、きっと」
「そうかなぁ。この3年、修業どころじゃなかったから、父さん、怒りそうで…」
「何言ってるの。力だけが強さじゃないでしょ? ベジータだってきっとわかってるわ」

ほんとかな、とトランクスは半信半疑だ。精神と時の部屋での父との修業は、ずいぶん厳しいと思った師匠の修業の比ではなく、このまま殺されるんじゃないかと思ったことも一度や二度ではなかった。修行を重ねるたび、そして、ぼろぼろの状態から蘇るごとに強くはなったのだけれど。
しかし、5ヶ月めに入り、父と会ってから何十回目かに「やっぱりこんなヤツ、大キライだ!」と思った矢先「少しはマトモになってきたな、トランクス」と言われ、あっさり前言を撤回することになる。我ながら単純だとは思いつつも、その後たった1ヶ月であの部屋を出なければならなかったのが、トランクスにとっては残念なくらいだった。

2度目に過去に戻って驚いたのは人造人間が4体もいたことだった。この時代と同じ17号と18号に加え、ひどくデフォルメされた民族人形のような19号と20号。ドクターゲロが殺されていたのは同じだったが、17号と18号の酷薄さとパワーはこの時代のそれを凌駕していた。そのうえ全人工製でパワーだけなら負けず劣らぬ19号と20号が彼らの命令通りに動くという、とんでもない状況になっていたのだ。

最初の一戦で彼らを倒すことは容易ではないと見抜いた悟空は、神と融合したピッコロと共に自分自身を囮にして彼らの目を一般人からできるだけ遠ざけた。そして闘いと離脱を繰り返しては半日という時間を稼ぎ、その間、ベジータとトランクスを精神と時の部屋に放り込んだ。
そうして今度は悟空と悟飯が精神と時の部屋に入り、ベジータとトランクスが人造人間を引きつけた。ベジータは悟空達が出てくる前に自分が4体とも全て倒すと息巻いていたが、敵の連携はあまりに見事で、結局最終的には四人のサイヤ人がそろって、人造人間達を葬り去ったのだった。

過去で過ごした時間は短かったが、皆が自分を仲間として扱ってくれたのがトランクスには嬉しくて仕方がなかった。小さな悟飯は自分を兄のように慕ってくれたし、他の仲間も皆優しく、特にカプセルコーポにしょっちゅう入り浸っているヤムチャは、何くれとなく気をつかってくれたものだった。
人造人間を倒した後、悟空は、未来の人造人間を確実に倒せるようにと言って、「精神と時の部屋」でのトランクスの修業にもう4時間(つまり二ヶ月)つきあってくれた。そのうえ彼はナメック星からちゃっかりと小さな神まで連れてきて、人造人間によって破壊された地上をドラゴンボールを使って元に戻してしまったのだ。なぜ母がここまで孫悟空という人間にこだわったのか、トランクスは改めてわかった気がした。

父は相変わらずそっけない態度ではあったが、その態度に「何か」が含まれていることがトランクスにもわかってきた。「優しさ」と言ってよかったのかもしれないが、同時にそれは父自身は決して認めないであろう感情だった。若い母や自分への言動の中にそれが滲んだ時は、決まって父は「フン」と背中を向けてしまう。自分の感情を持てあましているようなその様子が妙に微笑ましく映った。

だからこそ、自分がこの時代を守りきったことを伝えたかった。こっちに戻ってくる時に誰もが言ったのだ。絶対に人造人間を倒して幸せになれと。そしてできることならそれを知らせてくれと。報告に行かなければ、あの人達は心のどこかで自分のことを心配し続けるのかもしれない。それよりなにより、今、自分が幸せであることを、心からの感謝とともに伝えたかった。


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