★ツアーバスを守れ! (1/2)
「あれー、悟飯くん、どうしたの? ノート、なんかむちゃくちゃよ?」
終了のチャイムでノートから目を上げたイレーザは、左隣のクラスメートのノートを見て、ちょっぴり驚きの声をあげた。
「あ‥‥っ ‥‥ありゃりゃ‥‥‥?」

オレンジスターハイスクールの1時限めは数学だった。学校一の秀才、孫悟飯のノートには几帳面な字で板書が写されている。と言ってもマトモに書かれているのは最初の3行のみ。その後は、芸術的な曲線がノートを埋めていた。sinカーブもcosカーブも、−1から+1の範囲を大きく超えて空に舞い、tanカーブは漸近するのを忘れて妙な図形を描いていた。
「おーや、おや。優等生さんにしちゃ、珍しいじゃないか。風邪でも引いたか悟飯」
イレーザの右隣から机をぴょんと乗り越えて通路に降りたシャプナーが、大きな溜息をついた悟飯の顔を覗き込んだ。

「悟飯くんってば、悟天君のことが心配なのね?」
悟飯の左隣でショートカットの黒髪の女子学生がくすくすと笑った。驚くなかれ、ミスターサタンの一人娘、ビーデルである。
「えっと、それって悟飯くんの弟くんだったっけ? いったい、どうしたのよ?」
俯いたままのボーイフレンド越しに、イレーザに説明したのはビーデルだった。
「今日ね。アップルグリーン小学校のイベントなのよ。あそこに入学したり編入したいって思ってる子供達とその父兄を招待して、バスツアーをやってるの。それに悟天君も参加してるのよ」

「悟天のやつ、大丈夫かなぁ‥‥‥‥」
いかにも心配そうな悟飯の呟きに、シャプナーはからからと笑った。
「お前さ、そんなことで心配するか、ふつー。それこそ過保護だぜ。ほっとけって」
「でも、その優しさが悟飯くんよね♪」
悟飯にぱちりとウインクしたイレーザに、ちょっぴりビーデルが口元を尖らせる。と、その左腕の通信機がいきなり鳴りだした。

「はい! こちらグレートサイヤマン!」
<た、大変です! 護送中の囚人が2名脱走しました! 警官の装備を奪い、アップルグリーン小学校のツアーバスを乗っ取って‥‥‥‥!>

激しい風圧が階段教室の前後3段を襲った。ノートと教科書が天井まで舞い上がった。
なんとか立ち直ったイレーザとシャプナー、そして取り残されたグレートサイヤマン2号ことビーデルは、空の中に豆粒のように見える悟飯の姿を唖然と見送った。豆粒だから悟飯なのかグレートサイヤマン1号なのかよく解らないが、まあいいだろう。

「悟飯のヤツ‥‥。いっつも、何があっても、律儀にドアから出てくじゃねーかよー‥‥」
文句を言ったのはシャプナー。よーくわかるわ、と言いたげに頷いたのはイレーザだ。
「やっぱり弟さんのことが心配なのね‥‥」

悟飯君が心配してるのは悟天君のことじゃなくて‥‥。

ビーデルは親友の言葉を訂正しようと思ったが止めた。話がややこしくなるだけだ。
「‥‥じゃ、じゃあ、あたしも行ってくるわね!」


\▽/\▽/\▽/\▽/\▽/

その少し前の話。

「てめーら! ギャーギャー騒ぐと、こいつをお見舞いするぞ!」
怒鳴り声と同時に、どきゅーん! と銃声が響き、バスの天井に穴があいた。

泣こうとした子供がえぐっと声を呑み込む。父母たちが子供たちを抑え込むように抱きかかえた。乗っ取られた3号車はたまたま編入希望の子供達のバスだったため、一番年下の子供でも8歳だったのは不幸中の幸いだったろう。
バスを乗っ取ったのは二人。弟分は運転手に銃を突きつけて指示通りに走らせている。バスが走る幹線道路は万が一の場合を考えて交通規制が引かれパトカーが遠巻きに追っているだけ。だがもはや住宅街を抜け、あたりは一面の岩と砂だ。

「悟天ちゃん、じっとしてるだぞー」
前から3番目の席でチチも悟天を抱え込んでいた。当然である。うっかり暴れたりしたら入学希望が取り消しになる可能性、大、である。面倒なことに(は?)、このバスにも学校関係者が乗っているのだ。

せっかく、せーっかく、悟天ちゃんの方から小学校に行ってみたいって言い出したんだべ。やっぱ、兄ちゃんが町の話を色々するからだろうなぁ‥‥。だから最初からフツーじゃないって思われちゃ、ぜったいダメだ。あとは大飯食らいなことがバレねえようにしねえと‥‥。給食費が2倍になっちまうかもしんねえしなァ‥‥。

「うん。もちろんだよ」
悟天は母に素直に応じた。

さすがおかあさん。ヒーローは人前で変身しちゃいけないって知ってるんだ。正体ばれちゃ大変だもん。でも、このまんまじゃダメだよね。えーと‥‥‥‥そうだ!

「悟天ちゃん!」
チチの悲鳴にもめげず、悟天はとんと通路に飛び出した。そして、バスのフロントガラスに向かって、高々とその小さな人差し指を掲げたのだった。
「あ! グレートサイヤマンだっっ」

ぱっと前方を見る犯人達。今だ、悟天! いや、グレートサイヤマン3号!
が‥‥!

「きゃーっ 悟天ちゃんっっ」
「いってええええええっ!」
犯人は悟天の作戦には引っかからず、非情にも変身前の悟天の頭に拳骨を食らわしたのだった。

「このガキ! なんて堅い頭してるんだっっ!」
もちろん、ダメージを食らって悲鳴を上げたのは犯人の方だったが。

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