★今だからわかること (1/4)
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「わーい、ちょうちょ、ちょうちょ!」
娘が白いワンピースの裾をひるがえして駆けていく。
「パン! つかまえちゃだめだよ。見るだけにしなさい」
あの人がそういいながら、娘の後ろからゆったりとついていく。
「わかってるよー!」

「パンちゃん、ほんとにかわいいだな。お姫さまみてぇだべ」
息子と孫娘を見やるお義母さんは、いつもにもまして嬉しそう。
父が、パンの4歳の誕生祝いにと贈ってくれた白いワンピース。うっかりピクニックの前に箱を開けたのが失敗だったわ。
「きょうは、これ、きてく! ずっときてく!」
もう、言い出したら聞かない。
「いいんじゃない? 汚れたらそのとき考えれば…」
鏡の前で、自分の背中の大きなリボンを見ようとくるくる回っている娘を、あの人はさも愛しそうに見てる。もう、ほんとに甘いんだから。
「そんなこと言ったって大変なのよ」と言いつつ、結局あきらめたの。

「あーゆーカッコしてっと悟飯の小さい時とは違うよなー。パンはやっぱ、女の子ってヤツなんだなー」
お義父さんは、今日ばかりはどうも勝手が違うという様子で、戯れる二人を見ている。
「あったりめぇだべ。まったく悟空さはわかってねぇだ。男の子と女の子を同じに考えるなんて…。ベジータさんのほうがまだマシだべ」

以前、あの人がブルマさんの家を訊ねた時、いきなりベジータさんに怒鳴られたことがあったの。
「キサマのガキは女なんだろーがっ カカロットから離しとけっ どーなっても知らんぞっっ」
お義父さんがパンに武道を教えているという話が、悟天君経由でベジータさんの耳に入ったみたいで。

「あれはまいったよ。まあ、ベジータさん、ブラちゃんのことものすごく可愛がってるから、ウチの状況じゃ怒られるのムリないのかな」
彼の話に「あのベジータさんがねぇ」とお義母さんと二人で大笑いしたっけ…。

でも、言い訳じゃないけど、お義父さんはムリに武道を教えてるわけじゃないのよね。パンからせがまれるままに少しずつ手ほどきしてくれてるだけ。私も小さいときからやってたし、なによりあの人が「パンがやりたいようにやらせてやればいいよ」というので、おまかせしてるだけなんだけど。

あっちの花、こっちの木と跳ねまわるパンを見ながら、お義父さんがぽつりと言う。
「でもよ、パンを見てると悟飯の小さかった時のこと思い出しちまうんだ。20年以上も前のことなのに、昨日のことみてぇに思い出す。悟天の小さかった時も、生きてられたらよかったと思うしな」
そう。悟天君が生まれたとき、お義父さんは死んでいたのよね。

「そだな。悟飯や悟天の生まれた時んこと、小さかった頃んこと、パンを見てると、色んなことがはっきりと浮かんでくるだ。孫って不思議だなや」
お義母さんも遠くを見るような目をする。

「悟飯や悟天が子どもだった時に、やってやりたかったけどできなかったことを、やってやりてぇなって、パンを見てるとそう思っちまうんだよなー」
「悟空さ、おめえ、まさか、パンちゃんのこともっと強くしようってんじゃあんめぇな!」

「ちがうって! 信用ねぇな。オラだって、パンの相手すっときはちゃんと考えてんだぞ。な、ビーデル?」
「ええ。ホントそうですよ。それにお義父さん、パンを色々なとこに連れて行って下さったり、お世話になってるの、武道だけじゃないんですから。大丈夫ですよ、お義母さん」
私だって、孫悟飯の妻だもの。お義父さんの教え方がどういうものかぐらいわかってるつもり。

半年ぐらい前、パンの上達がとても早いって喜んだお義父さんが、冗談めかして「これなら立派に闘えそうだぞ」と言ったことがあったの。そうしたら…。

「父さん!」
ふだんあまり声を荒げることなどないあの人が、とても厳しい声で叫んだ。
あまりの口調の激しさに、そしてその辛そうな顔つきに、パンも私もびっくりしたわ。

「す、すまねぇ…冗談だって…」
しょげてしまったお義父さんを見て、彼はあっと口に手をやった。
本当に、反射的に怒鳴ってしまっただけだったのね。

「あ…いえ、わかってます、父さんがちゃんと気をつけてくれてること。ただ…」
彼は照れ笑いをして、とりなすように続けたの。
「まあ、またそんなことが起こったら、今度は僕と悟天とで『精神と時の部屋』に入って、なんとかしますって」
「それじゃ悟天のヤツ、途中で飛び出してきそうだなぁ…。いざとなったら、おめえのほうがオラよりよっぽど厳しそうだ」
それはそうかも、と彼も笑い出して、パンはキョトンとして、笑い合うパパとおじいちゃんの顔を見くらべてたけど…。

でも、この家の男達にとって、「武道」や「試合」というものと、「闘い」というものが、
同一線上にありながら、まったく違うものなんだってことを思い知ったのは、この時だったわ。


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