★愛しきものへ… (1/14)
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「ごちそうさまでした」
胸の前で小さな手を合わせてこう言った息子が、イスからピョンとおりると、朝食後の食器を手早く重ねて、流しに運び始めた。

「あ、お母さん、座ってて。ボクがやるから」
ここのところ毎食後にくりかえされる同じ言葉。

「すまねぇな、悟飯ちゃん」
チチはイスにかけ直し、両手で湯飲みを包むように持った。その目は微笑みをたたえて、踏み台にのって皿を洗っている我が子の背を見つめる。

「まったく、こんなにおっ母のこと甘やかしてるときっとすげえ甘ったれの赤ん坊が生まれてくるぞ」

「そうしたらピッコロさんに見てもらいましょう」
背中を向けたまま、ふふっと笑いを含んだ声で悟飯が答える。
「ボクだって小さいころは甘ったれの泣き虫だったんでしょ? ピッコロさん、厳しいときはすごく厳しいんだから…」

「泣き虫ってのはそうだったけんども…。でもおめえは小さいときから聞き分けのいい、ホント、いい子だったぞ…」

「そうかなぁ…」

(そう、いい子すぎるくらいだったな、悟飯…
 もっとワガママをたくさん言わせてやれればよかったのにな)

小さなときから何かとよく手伝ってくれる子だった。それが、弟か妹が生まれるとわかってからは、自分にできることは全部やるとばかりの勢いで、内心苦笑してしまうほどだ。
昔は、手伝いなんかいいから勉強しろ、とよく言ったものだ。でも、今は、悟飯のやりたいようにやらせておくのがいい。

(そうすれば、色々よけぇなこと、考えねぇですむ)

ゆったりと座って、何気なく話しているようでいて、チチは全身で悟飯を感じようとしていた。

「悟飯ちゃん、最近ちょっとは修行してんのか? 勉強と手伝いばっかじゃ、疲れちまわねぇか?」

「ピッコロさんと時々は組み手とかやってますよ。でも、最近は勉強見てもらうことも多いかな…」

「え、勉強って、ピッコロにか?」

「あと、ポポさんにもね。神殿の書物の間で、デンデといっしょに…。ピッコロさん、勉強でも厳しいんですよね。あ、厳しくされてるの、デンデのほうですけど…」

神様になるのもたいへんそうだ、と同情する悟飯に、そりゃあたりまえだべ、なんといっても神様なんだぞ、と答えながらも、机に向かった二人の間を歩き回る教師然としたピッコロを想像して、チチはつい笑ってしまった。
「そっか、さすがに元神様だなや。ちゃんと跡継ぎを育ててるんだな」


ピッコロは二日と空けずにやってきた。
たいてい悟飯を外に連れだしたが、必ず家まで送ってきてくれた。

昔は色々な思いがあったが、セル戦前の三年間で、チチはこのナメック星人を心底信頼するようになっていたし、今となっては、悟飯の大きな支えとなってくれる彼に深く感謝していた。
二番目の子はすくすくと順調で、チチも安定期にはいり家のなかにはおだやかな空気が流れている。
ただひとつチチの心配は悟飯のことだった。

父を死なせてしまったという意識が我が子から、あの無邪気な明るさを奪ってしまった。それでも、あの世にいった父が、自分を許してくれていることを、わかってくれたのはせめてもの救いだったが…

------「え? 赤ちゃん? ほんと!?」
------「んだ。悟飯ちゃんもうすぐお兄ちゃんになるだぞ!」

------「ん? どうした、悟飯ちゃん?」
------「…赤ちゃん…おとうさんに会えないんだね…」

------喜びでいっぱいの笑顔が、次の刹那、深い悲しみに染まっている…

大人の自分でさえ…
あの無鉄砲な男の性格を知り尽くしていたはずの自分でさえ、
喪失感に押しつぶされそうになる時がある…
それを…。

『悟空さ、おめえの気持ちもわからねぇじゃねぇけんども…。でも…やっぱり悟飯には重すぎただよ…』


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