★その道に光あふれ風満ちて (1/16)
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ピッコロはおのれの耳を疑った。
たぶん自分がこの世の中で最も信頼しているだろう男の発した言葉が、理解できなかった。
(おめえの出番だぞ、悟飯!!) 男の声が頭の芯に痛いほど何度も反響した。
セルに敗北を認めたその男が、次に闘う者を指名するために飛び上がってくる。仲間はただ、驚愕のあまり言葉を失ってそれを見つめるだけだ。男は、彼自身の血を分けた息子であり、またピッコロの愛弟子である少年の肩に手を置き、ゆっくりと言った。
「やれるな、悟飯!」
「闘えるワケがないだろうが! ムチャを言うな、悟空っ!」
ピッコロは普段の冷静さに似合わぬ激しい口調で、悟空に食ってかかっていた。
少年は、ただ驚きの表情で父親の顔を見上げている。
「貴様でさえ敵わなかったセルなんだぞ! 悟飯を殺す気か!!」
「ピッコロ。悟飯はオラたちには信じらんねえような、すげえ力を持ってるんだ。ぜってえにセルに勝てる。オラ、それを確かめたくて、一番手をとったんだ」
「う、うそだろ、悟空。そりゃ悟飯の素質はオレもわかってるつもりだけど、この歳でおまえを越えるなんて、セルに勝てるなんて、そんなことは‥‥!」
クリリンの声もうわずっていた。セルがベジータとトランクスを圧倒するところをその場で見て、感じた。そして二人を上回る力を持つ悟空もまた、セルにパワー負けしていた。その怪物に、たった十歳の自分の息子をぶつけようなどと、いくら悟空の言うことでも信じられなかった。
だが悟空は親友の言葉に応え、一筋の迷いもない自信に満ちた笑みを浮かべた。
「じゃ、本人に聞いてみてやろうか?」
「悟飯、さっきの父さんとセルの闘い、ついていけないと思ったか?」
「お‥‥思わなかった‥‥。だって、ふたりとも思いっきり闘ってなかったんでしょ‥‥?」
「セルはどうかしらんが父さんは思いっきりやってたさ。
それでも、おめえには手を抜いてるように感じられたんだろ?」
「‥‥‥‥‥‥」
肯定を意味する少年の沈黙が、その場にいる戦士達に浸透していく。闘いの天才と究極の怪物が繰り広げる雲の上のレベルの戦闘と見ていたそれが、この少年にとってはウォーミングアップも同然だったとは‥‥!
ピッコロは愛弟子の顔に別の意味の驚きが浮かぶのを認めた。父親が力を出し切っていたという事実に、明らかに戸惑っている。では‥‥悟空の言ったことは、事実だというのか‥‥?
悟空が息子の肩にそっと手を置いた。
「悟飯、おめえはもうとっくに父さんを越えてたんだ」
「え‥‥?」
悟飯は驚いて父の顔を見あげた。悟空は笑みをたたえ、まっすぐに息子を見つめた。
「セルを倒してくれ。おめえにしかできねえ」
決して揺らぐことのないその瞳。その輝き。いつもいつも、この父を信じてきた。どんな絶体絶命の時でも、その信頼が裏切られることはなかった。ならば‥‥今度も‥‥。
「わ、わかりました。やってみます‥‥」
悟飯はマントを取り去ると、大きく深呼吸をし、もう一度だけ父親の顔を見た。父が、強く頷き返す。少年の小さな身体は、あとはなんの躊躇いも見せず、そのまま戦場に舞い降りた。
セルを見上げる。少し、緊張している。手が汗ばんでいた。だが、不思議と恐怖はない。実際におまえの番だと言われた時は驚いたが、心のどこかでこうなることを予感していたような気もする。
自宅での3年の修行の間、悟飯が思っていたのは「おとうさんは本当に優しいなぁ」ということだった。組み手の時もどこかで自分を庇ってくれる。容赦のない師匠とはまったく違っていた。かつてピッコロに「悟空は甘くて人を教えることに向いていない」と言われたことがあったが、ホントにそうかもしれない、と妙に納得したりもしていた。
それが「精神と時の部屋」では事情が変わった。最初から超サイヤ人になれと言われ、父が本気で自分を鍛え上げようとしているのがわかった。この父がここまでの危機感を持つほどセルは強いのかと少し焦った。精神と時の部屋に入る直前にピッコロがセルに殺されかけた時に、その場に行くことすら許してもらえなかった悔しさも、修行に一層の弾みをつけた。そして一年の終わりに近づく頃、父は、自分を越えろと言うようになった。いくらなんでもそれはムリだと思っていたのに‥‥。
宙に浮かぶセルが放られた何かを受け止めた。父親の声が聞こえた。
「セル、それが仙豆だ、食え!」
悟飯の見ている前で、セルの気が一番最初の状態に戻った。
ボクを、一人の戦士として見てる‥‥‥‥。
おとうさんと協力して倒すんじゃなくて、ボクだけの力でセルを倒せと‥‥。
大好きな父。そばにいてくれるだけで嬉しい。みんなから頼りにされている。あれほど孤高にこだわる師匠のピッコロでさえ、特別な存在と認めている、父‥‥‥‥。
ボクは、おとうさんの‥‥孫悟空の‥‥息子だ。
その思いはずっと自分を支えてきた。激しい闘いの中でも、たとえ殺されかける瞬間にさえ、そのことを忘れたことなどなかった。そして今、その父から、全幅の信頼と共に、闘いを渡された‥‥。
心が静かになっていく。意図せずに外界のプラーナが流れ込んでくるのを感じた。もともと超サイヤ人になっていたので内気はあっという間に体中を駆けめぐる。身体の中心からわき起こるうねりはもはや行き場を失い、それは少年の解放の咆哮とともに空間にはじけた。
少年の発した波動が崖の上、そして高く宙に浮かぶセルにも届いた。その凄まじさに悟空を除く全員が絶句する。さっきの悟空のフルパワーに匹敵する‥‥いや、それを越えているかもしれない。
最も闘いに向かない性格と、最も強大な戦闘力が共存していた。いったいなんという皮肉か。弟子が新たな力を発揮するたびにそれを深い満足とともに見守ってきたその師は、いまや複雑な表情で少年を見つめていた‥‥。
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