★翠(みどり) (1/4)
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「あ、悟飯さんだ!」
デンデが空を見上げた。青い空の向こうからとてとてと金色の綿菓子が飛んでくる。
「ほら、デンデ、手を洗って、お迎えしてあげなさい」
デンデの隣で花の手入れをしていたマイマがデンデに言った。
「はい!」
ナメック星がフリーザに滅ぼされてから八ヶ月ほどが過ぎていた。ナメック人たちは地球のカプセルコーポを仮の住まいとし、ポルンガの二度目の復活を待つ日々だ。ブルマたちはいいからノンビリしていればと言うのだが、勤勉な彼らはカプセルコーポの園芸造園担当を自ら任じ、日々(彼らにとっては)珍しい植物の手入れに余念がない。
筋斗雲が居住区の中央の一回り大きなカプセルハウスのそばに舞い降りた。悟飯は頻繁にやってくる。長老達の博識ぶりを知ってか、チチも息子がここに来ることについては文句を言わなかった。
「悟飯さーん!」デンデが手を振りながら嬉しそうに駆け寄ってくる。
「デンデ!」二人の子どもはお互いの両手をたたき合わせて笑い合った。
悟飯が来ると二人はまず最初に最長老のところに行く。ナメック星での最長老は地球に来てすぐに亡くなり、今はムーリ長老が新しいリーダーとしてナメック人たちを統括している。この大きなカプセルハウスがその住まいになっていた。
「今日ね、クリリンさんも来てるんですよ」ドアの方に歩いていきながらデンデがそう言った。
「え、そうなの?」
「それとね、あと、もう一人‥‥」
最長老の部屋をノックすると、おはいり、という声がした。ぴょこんとドアから中を覗き込むと、「よう! おまえたち!」と張りのある声が響いた。
「クリリンさん‥‥! あ、最長老様、またおじゃまします」
悟飯は慌てて最長老の方に向きなおるとぺこりとお辞儀をした。最長老の斜め前には、悟飯の知らない歳をとったナメック人が座っている。きっと長老様の一人だろうと子どもは思った。
「すみません。だいじなお話中なんですね。じゃ、ボク、あっちでデンデと遊んでます」
「いや、話はもう終わった。ここにいてかまわんよ」最長老はにっこり微笑んだ。
「あ? クリリンさんとか、何か用じゃないんですか?」
「いや、今日はオレは、ただのお供でね‥‥」
クリリンが悟飯の知らないナメック人に向きなおると、子どもを示して言った。
「神様‥‥この子が悟飯ですよ。悟空の息子の‥‥」
悟飯はびっくりして、クリリンが声をかけたそのナメック人を見つめた。
神様って、神様!? 昔、ピッコロさんのおとうさんと同じ人だったっていう‥‥? なんかピッコロさんとはぜんぜん似てない感じだけど‥‥。でも‥‥なんか優しそう‥‥。
「おい、悟飯、そんな顔してないで、ちゃんと挨拶しろよ」クリリンが笑う。
「あ、あ‥‥、すみません。ボク、孫悟飯です。えーと、おとうさんがおせわになって‥‥」
神が悟飯に向きなおって微笑んだ。
「いやいや、孫悟空に世話になっているのは私のほうだ。そしておまえにもな、孫悟飯」
「え?」
「おまえとクリリンがナメック星に行ってくれなければ、私はここにこうしておらん」
「でも、あれは、ピッコロさんがボクのことかばって、死んじゃったから‥‥」
「そのピッコロのことでも、私はずっとおまえに礼を言いたかったのだ。ピッコロはおまえのおかげでずいぶん変わったようだな。ずっと感謝しておった」
地球で一番エライと思っている神様にいきなり覚えのない礼を言われて、子どもはすっかり面くらってしまった。困ったようにクリリンの顔を見る。クリリンがくすくす笑いながら助け船をだした。
「神様。悟飯のヤツ、ピッコロのことが大好きなんですよ。ただ、それだけで‥‥。だから自分が何やってるかなんてわかってないんですよ」
「え? クリリンさん、ボク、なんにもしてないですよ。あれ、なにか悪いことしたかな‥‥」
いきなり心配そうになった子どもを見て、だああっとクリリンが頭を掻いた。
「ちがうって。もういいから、気にすんな! おまえは今のまんまでいいんだよ!」
神も最長老も笑い出してしまい、ますます困った顔の悟飯とそれを見て自分も困った気分になったデンデが二人で顔を見合わせた。
***===***
「それでね、ボク、ピッコロさんに大きな岩にぶつけられて、途中までめりこんじゃって、岩がくずれちゃって、ボクは気を失っちゃったの。でね、気がついたらまだ岩の中にいたんだけど、ピッコロさんが外からそーっと岩を壊してるとこだったんです」
神に問われるままに、悟飯はピッコロのことを話していた。母親はピッコロのことなど聞いてくれないので、話せるのが嬉しくて、身振り手振りを交えながら子どもの口はとどまることを知らない。
「い、痛くなかったの‥‥?」
デンデがもう泣きそうな顔で聞いてくる。想像しただけで怖そうだ。
「うん、ちょっと。でもあのくらい普通だったから。で、ボクがごそごそ出ていったらね。ピッコロさんったら、ちょっとだけほっとしたような顔して、そのあとあわてたように‥‥」
「『もっと強く殴っとくべきだったな。それならうまく突き抜けただろうに』って言ったんだろ。まったくひでーよな!」
ぜんぜんひどくなさそうにクリリンが笑う。子どもはクリリンがマネたピッコロの声色に、似てる似てると手を叩いて喜ぶ。クリリンはこの話を、悟空、悟飯と三人で入院していた時に聞いたことがあった。他にもずいぶんな修行話が沢山あるのだが、悟飯にとっては全て楽しい思い出らしい。聞いている悟空も自分の息子がそんなメに遭ったというのに、えらく楽しそうに聞いていたのを思い出す。
「悟飯さんってすごいんだ‥‥」デンデはもはやあんぐりとしている。龍族として生まれた彼にはこんな過激なことが世の中にあるなど信じられない。
「だって、修行だもん」悟飯がちょっと得意そうに言う。「でも、外に出てから岩のかけら見てもうおかしくなっちゃった。だって、果物みたいに、上とか横とかからちょっとずつ切ってあったの。ボクにケガさせないようにちゃんと気をつけてくれたんだよね」
それって、ぶつけたときはどーだったんだよ、とクリリンは思わず突っ込みを入れたくなったが黙っていた。出てこない子どもに慌てて、岩をスライスしているピッコロの図など、想像するだけで笑える。この子どもがどれだけあの異星人を変えたのか。クリリンの脳裏には悟飯をかばって仁王立ちになり、サイヤ人の気功波を全身で受けとめたピッコロの姿が焼き付いている。
「最近もそんな修業をしておるのか?」と神が微笑みながら子どもに聞く。
「いえ。うっかりケガとかして帰ると、ピッコロさんと会ってることおかあさんにバレちゃうから。 だから最近は軽い組み手ぐらい。あとは少しお話するだけです」
「母親はおまえがピッコロと会うことに反対なんだな」
子どもはちょっとうつむいた。
「おかあさん、ボクが修業するのキライだから‥‥。おとうさんが武術教えてくれるって言ったときもぜったいダメって言ったんです。それに、ピッコロさん、前のとき、いきなりボクのこと連れていっちゃったから、それもとっても怒ってて‥‥。ときどきピッコロさんと会ったのがわかっちゃうと、怒られちゃうの‥‥」
子どもははっとしたように神の顔を見あげた。少しその顔を見つめ、おそるおそる聞く。
「おかあさんにだまってピッコロさんに会ってるの、やっぱりウソつきですよね? やっぱり神様も修業しないで勉強しなきゃダメって思いますか?」
神は片眉を上げて、楽しそうな笑いを浮かべた。
「確かにウソはいけないことだ。だが誰かを傷つけないためのウソなら、仕方のないこともある。おまえの母親も、いつかはわかってくれるだろう。それに私は勉強だけが全てとは思っておらんぞ。修行も勉強も一生懸命やればそれでよいのだ」
ひょんなことで神様のお墨付きをもらった子どもは、「よかったー!」と笑った。
神が身体ごと悟飯の方に向き直り、子どもを覗き込むようにして訊ねた。
「おまえはどうしてそこまでしてピッコロと一緒にいたいのだ?」
「ピッコロさんと一緒にいるの、好きだから‥‥。ちょっとおとうさんに似てるんです‥‥。ボクの話、ちゃんと聞いてくれて、いつもボクのこと見ててくれて、すごく安心できる感じで」
子どもははにかむように微笑むと視線を床に落とした。あとね‥‥と小さい声で付け足す。
「ピッコロさんが死んじゃうときね、オレとしゃべってくれたのはおまえだけだったって言ったの。それ聞いて、ボク、すごく悲しくて‥‥。ピッコロさん、すごくかわいそうだって思って‥‥。だから、ピッコロさんが生き返ったらいっぱいしゃべってあげようって決めてたんです」
悟飯はそう言うと、照れたように隣のデンデの顔を見た。大きなイスに座った小さな子どもたちは、顔を見合わせて足をぱたぱたと動かし、どちらからともなくクスクスと笑い合った。
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