★体温 (1/2)
星の明かりは優しいものだとばかり思っていた。いつか壊れて消えた月よりも、儚げで優しいものだとばかり思っていた。しかし、神殿から見る星は優しさよりもひどい強さにあふれているかのように、力一杯明かりを投げつけてくる。
ひとつひとつ固まって、明かりをともして、そして大きなあかりとなって、自分に飛び込んでくる・・・。
ずっと。
悟飯とデンデが流れ星探しに夢中になっている、丁度同じ時間。
神殿の一室を、悟飯達と同じようにあてがわれたチチは、悟天と一緒に床につこうとしていた。
部屋の壁のひとつは、ほとんど全面がガラス張りになっていて星がよく見えた。自分がいつも生活している所も空気が澄み星はよく見えるが、ここの星空はその比ではなかった。吸い込まれそうな空、というのはここの空のことを言うのだろう。
明かりらしいものがないクセに妙に明るいのはこのせいか、と彼女は納得した。
ところで案内されたこの部屋は、確か3面とも他の部屋に囲まれていたはずなのだが。
「・・・まあ、神様の神殿だしな。普通じゃ考えられないことがあるんだべ。」
傍らの悟天は、ぐっすり眠っているようだった。ミスター・ポポが気を使って、隣の部屋に色々とそろえてくれていたのだが、その世話になるようなこともなさそうだ。
少しほっとして悟天の頬に触れた瞬間、彼女の体はがくっと力が抜けた。急に疲れがどっと出たようだ。
「そういえばこんなに遠くまで出かけたの、久しぶりだべ・・・。」
悟天がおなかの中にいる間、悟天が生まれてから、いい意味でも悪い意味でもこの子に束縛されていたチチは、あまり遠くにでかけることもなかった。
目の前にばかみたいに広がる星空を見ながらクスリと笑って、チチはベッドの上に横になった。
そのときだ。目の前を人魂のような物がひゅるんと横切った。彼女は疲れている体のことも忘れて、ベッドから飛び起きて思わずかまえた。
「な・・・なんだべ・・・?」
チチは光の行き先を目で追った。手のひらサイズのガラス玉が鈍く光っているような、不思議な物体だった。
それはチチのまわりをゆっくりと一周すると、彼女の目の前で止まった。
この正体は、デンデが明かりの代わりに使っていたホタルランプだ。二人に気を使って出ていった『彼』は、倉庫に帰る途中にあるチチのところに寄ったらしい。
「い、生き物なのけ・・・?」
ホタルランプはうなずくようにくるくると回転してみせた。
「そ、そうかあ。神様の神殿だもんな!いろんなモンがあっても不思議じゃねえべ!」
『彼』は彼女の言葉に応えるかのように、ひゅるひゅると移動する。優しい光が部屋中に飛び散った。もうひとつ、そこに星空ができたかのようにひかり輝く。
「あはは・・・おめえ、きれいだなあ。」
チチはこぼれる光を両手ですくって受け止めようとした。光の粒が彼女の体に降りかかる。傍らの悟天にも同様に。
そしてその時、ようやく悟天の目がぱっちりと開いていることに気が付いた。
あ、しまっただ・・・。
「あ・・・。ちょ、ちょっと飛び回るの、やめてくれねえか・・・。」
彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、悟天はぐずって泣き出してしまった。
「ひっく・・・ぐずっ・・・うっ、うえーん!!」
「あ〜、悟天・・・ごめんなあ、まぶしかっただか・・・。母ちゃんが悪かっただ・・・ごめんなあ・・・。」
チチは悟天を胸に抱いて、腕をゆっくりうごかしてあやした。悟天はちょっとご機嫌が
よくなったようだが、それでもまだぐずぐず言っている。
ホタルランプは、すまなさそうに光を押さえて、彼女の顔の側に来た。
「ああ、おめえも悪かったと思ってるだか?そんなことねえだ・・・。」
悟天はそんなランプのことにはかまわずチチの胸にしがみついた。
「ん?悟天オッパイ欲しいのけ?ちょっと待つだ・・・。」
チチは上着をちょっとはだけて悟天に飲ませた。んぐんぐと、いっぱい飲む音が聞こえてくる。彼女は悟天の頬につたっている涙の跡を、袖の端で優しくぬぐった。
ホタルランプはそんな様子をだまって見ていたが、とある気配に気が付き飛び上がるような動作をした。
「おめえ、どうしたのけ?・・・って。」
いつのまにか開いていたドアに寄りかかるようにして、こちらを見ている尖った耳・・・。
ピッコロだ。
ランプは彼の気配に気が付いて、飛ぶほど驚いたというわけだ。
しかし、今飛び上がるのはホタルランプではなくてチチの方だ。
「おめえ、いつからそこにいただ!!?」
「お前が気付いた時からだ。」
「な・・・っ!」
ピッコロの相変わらずの的はずれな返答にチチは思わず口をあけた。
「そんな冗談言ってねえで!!あ、あっちさ向いててけろ!!」
「・・・。」
ピッコロは答えない。それどころか、慌てる様子もなく彼女のはだけた胸元と、悟天を見比べて、彼女にたずねた。
「・・・お前は裸になって何をしているんだ?」
「悟天にオッパイあげてるだ!!そんなこともわからねえのけっ?!!」
「お・・・は?な、なんだ・・・?」
「とにかく!!あっちさ向いててけろっつってんだ!!」
チチは真っ赤になりながらベッドにあった枕やら、クッションやらをぶんぶんとピッコロに投げつけた。それこそ、悟天がいなければ殴りかからんばかりの勢いで。
あわててホタルランプが促すように、ピッコロのそばにやってきた。彼も素直にランプのいうことに従い、回れ右をした。
「おい・・・なぜあんなに怒ることがある・・・?それに。」
ランプはビクっと体を上下に動かし、あんまり問われたくない質問に耳(?)をふさごうとした。
「お前は悟飯とデンデがいる部屋にいたはずだろうが・・・。なぜ、こんなところにいる?」
『彼』は、必死に悟飯達に気を使って出ていったと言うことを、ピッコロに伝えようとしたが生憎、手足も口もない、まるっこい球体の体の彼にとってそれはムリな話だった。
「まあ、良いが・・・。もう、戻るがいい。」
ランプはチチの方をちょっと見てから、静かに倉庫の方に戻っていった。
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