★Silly Scandals (1/4)
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こじんまりとした館だが趣味は良いほうかもしれん。
と、魔神将軍シェロプはグラス片手に思って「みる」。
その「こじんまり」さにぴったりのサイズのシャンデリア、美しいステンドグラスで彩られたランプ。自分の館ほどではないにしろ(そもそも貴族の中でも最上位にあたる彼の館と比べる方が間違っている)センスは良い。明かりに手が込んでいるのは上流階級の特権でもある。
彼はまわりの女性達を軽くあしらっていると、すす、と男が近づく。そいつが持ってきたグラスに口をつける。上をちらりと見ると、かすかに揺れるシャンデリアのガラスビーズからこぼれる光。
彼はこういう集まりはキライではなかった。
子供の頃からそういうことに慣れていたし、こういう場で自分を売り込むのが出世への階段でもあったのだから。それが自然と身に付いた彼の余裕ある雰囲気は、見ている者達を羨望させる。
「あのガラス細工のシャンデリア…なかなか美しいな。……ああ、それよりも…。」
その言葉に満面の笑顔つきの会釈で応える男は、魔神将軍の言葉の続きがなんとなく理解できたらしい。さりげなく、その言葉の答えを探し出す。
「それよりも、私のかわいい姫君はどこだ?」
「あちらです。移動しようとするとすぐに囲まれてしまってますね。」
そばにいた男は人当たりの良い顔で微笑み、ホールの真ん中で取り囲まれている少女を手のひらでゆっくりと指し示した。
魔神将軍は白い仮面をつけているというのに、急に色めき立ったように見えた。
彼の目線の先には、黒い髪をまとめた小鳥みたいに華奢な少女が立っていた。艶のある黒髪、同じように黒い瞳は切れ長でしかし大きめで愛らしく、ひとなつっこく微笑む。囲んでいる男達がうっとりするような笑顔を浮かべて。
新たな夢織将軍に就いた少女、アラクネーはとびぬけた若さを持ち、しかも整った容貌でその実力共に参謀閣下が自ら目をかけるほど。
ふわふわの薄紫のシフォンドレスに身を包み、大きめの腕輪や額環が少しも下品ではない。真っ白な肌に溶け込むようにその輝きを増している。
こうした装いだと将軍職に就いたとは思えない。どこか世間知らずのお嬢さんに見えなくもないのだが……。
まあ、参謀や魔神将軍が目をかけているということは彼女自身が人形と変わらないのかもしれない。と、先ほどからシェロプのそばにいる男は思って「みる」。
特異能力があるにしろ、将軍という地位についたにしろ、彼女が戦場に降り立って活躍しているのを誰も見たことがないからだ。彼女が将軍職に就いているのは同僚達が色々な下心を含めて『優しい』のだろう。若い彼女をバックアックしているのかもしれない。
ただあの参謀のことだ、可愛がっているから、それだけであんな少女を将軍にするわけもないし、それほどの権限を彼は持っているにしろ、個人的な理由で振りかざすことはない。少女の成長を踏まえた人選だったのかも・・・。
思うところは色々とあったが、男は少しばかり舌打ちした。
私情を挟むことはない、それは参謀としては当たり前の話なのだが、帝国内では自らの地位を私欲のために振りかざす者が少なくない。政治的行動に私見が入るのは本来なら有り得ない話なのだが、そんな理想的な行動を取れる奴が良くも悪くもどれほどいるのだろう。
なぜそんなにも優れている参謀が我々と考えが違うのだろう。
なぜあんなにもあの皇帝に慕い寄り添うのか……。
それが皇帝の狙いだったのかもしれない、と思うとつくづくやりきれなくなってくる。
男は天井を仰ぎ見る。
そばにいた仲間達と目配せする。
うなずいて、瞳を二回閉じる。
合図が始まる。
もうすぐだ、もう少しであの貴族将軍も、壁に寄り添っているロボットの将軍と牙将軍も、あの可愛らしい少女の将軍も、一掃できる。
我らの理想と言う名の新体制をとるために。
およそ非の打ち所がない少女にシェロプは靴音を楽しそうに鳴らして近づく。その音に気がついて、少女は紅いピアスをきらめかせて振り返る。
「おいでアラクネー。先輩達に改めてご挨拶には?」
「ご紹介してくださる?」
「あまり気がすすまないのだがね。君の美しさを他の誰にも見せたくないのが本音だよ。」
「まあ…。そんな。」
独占欲の強い魔神将軍は少女の手をとり甲に口唇を落とすと、その場の主役を実に優雅にさらっていった。
周りにいた貴族たちはため息と共に少しばかりの嫉妬が混じった言葉をつぎつぎと口にする。
「いやどちらも実に美しい。」
「絵になるお2人ですわね。」
「素敵ですわ…。」
羨望と言う名の視線を浴びつつ裾を少々つまんでしずしずと歩いていた少女だったが、シェロプと繋いだ手に少々の痛みを感じた。見てみると、かすかだが血が出ている。
「失礼、私の指輪かな。キズをつけたようだな。」
多少大げさに首をかしげて、少女を見つめる。
先ほどの表情はどこへやら。いつもの白い仮面がいつも以上に効果を表している。
無表情で、冷酷な、その素顔と言う名の仮面。
「……演技がお上手なこと。」
愛らしくくるくる動いていた瞳はさめた目つきとなり、長いまつげが一回だけすっと伏せられる。
先ほどの笑顔はどこへやら。
あとに開いたまぶたから出た瞳の色は先ほどよりもずっと色濃く、世間知らずの少女の目でもなかった。
「お互いにな。」
目線も合わせず正面を向いたまま、何の感情もなく口からこぼれる言葉は同僚以上の関係など何もない。
先ほどの少しばかり甘いセリフはお互い吐き気がするほど…いや吐き気をもよおす方がまだマシだったかもしれない。
アラクネーはシェロプの手から周りの者達に気づかれないよう、少々乱暴に自分の手を離して、イヤがるみたいに手を振った。血がにじむ指先を自分でスカーフを巻きつける。
「手を離す口実をくれてやったのだ、感謝してもらいたいね。」
「帰ったら石鹸と香水が一瓶はなくなりそう。」
「お互い様だ。」
『やめろ。オレ達の全体責任ってえのを忘れねーで欲しいねえ。』
耳元のピアスから、少々くぐもったような、機械で作られた声がする。
機甲将軍お手製の超小型インカムから流れるのは製作者本人であるスプリガンの声……と、
『ここにいると、いろーんな音が聞こえるぜえ…銃や剣を持った音、何十人もの足音、息の音がよ。』
げひゃひゃひゃ…とこれから始まることをとても楽しそうにしている牙将軍ゴリアントの声だ。
耳をふさぎたくなるような下品な声に、少女の将軍は少々おかんむりだった。
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