★第15話 (1/6)
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向かい合った女の子は仏頂面でこちらを見つめている。『女の子は誰だって笑顔が一番よく似合う。』そんな当たり前の事を言っていたのは昨日の自分だったっけ。
・・・頭ではわかっているが、それとこれは別の次元の話だ。

「くすくす・・・よく似合っているわよ」
「ほんと、きれい・・・。すごーい」
「・・・ありがとうございます」
輝は有望と瑠衣の言葉に目を伏せてうなずいた。
いつもこの言葉を言う時は、相手の顔を見つめて握手付きというのが彼のスタイルだったが、今回は下を向いている。
「ほらほら、下向いていたらお化粧できなくなっちゃう」
まるで言うことをきかない子供をなだめるような口調で、有望は輝の顔を両手で包む。イヤがる間も与えずに、彼の頬をブラシで染めてゆく。
「わあ、いい香りがする・・・。ねえ、今度あたしにもして!」
「瑠衣ちゃんは何もしなくてもカワイイじゃんっ?」
「だって、やってみたいんだもん?男の輝さんがそんなにお化粧映えのする顔ってのはズルイわ」
「アハ・・・化粧映えね・・・」


目の前には大きな鏡。鏡に映っているのは長い栗色の髪の先にカールがかかった女の子。長いまつげは上向いて、マスカラがたっぷり付いている。ピンク色の頬と、くちびるに控え目の赤いグロスをつけて、まぶたはほんのりオレンジ色に染まっている。
輝は鏡に映る女の子の何か言いたげな目線とぶつかって、思わず鏡から顔を背けた。
「さ、こっち向いて。髪の毛、ちょっとジャマでしょう?可愛くまとめてあげる」
「あの・・・有望さん?お、オレ思うんだけど、別にここまでしなくても・・・」
「あら、ここまでしなくちゃダメよ。女の子に化けるって大変なんだから」
有望は『ね?』といつもどおりのため息のでそうな笑顔で栗色の髪を手に取った。瑠衣の方もたくさんのピンやらかざりやらを手にしてなにやら有望と相談を始めている。
輝と、鏡に映る女の子はお互い顔を見合わせてため息を付いた。ひざに視線を落とすと、ロングスカートからにょっきり自分の足がでている。
それを見て、輝はようやく鏡に映る女の子は自分なのだと認めざるを得なかった。


「・・・女子校おっ?」
「はは・・・そうだよ。瑠衣?」
「うん・・・、あのね。瑠衣のお友達のお姉さんが通ってる高校なんだけど・・・」
事情を知っている黒羽、きょとんとしている輝、口元だけでニヤニヤ笑う黄龍。
それぞれ反応が違う事を確認して、瑠衣は『こっちこっち』と自分の周りに皆を集める。
ただでさえ照明を暗めにしているコントロールルームで、神妙な顔付きになった瑠衣とメンバー達。時計の音だけが規則正しく空間を刻む。
かちっ かちっ かちっ かちっ・・・
急にあさっての方向を向いた赤星に最初に気が付いたのは輝だった。
「どうしたの?リーダーっ?」
「いや・・・」
こういう雰囲気ってどうも、夏に聞かされる怪談話を思いだすなあ・・・。

「フッ。赤星・・・暗いのが苦手かい?」
「うるさいなあ、もう。黙って瑠衣の話聞けよ」
黒羽が含み笑いをしながら、自分の方を見た事に気が付いた瑠衣は、『あのね・・・。』と声をひそめて語りだした。 

そのお姉さんね、その日は日直で遅くなっちゃったんですって。で、部活があっていつもは一緒に帰れないお友達と、帰ろうねって、約束をしてたの。
お仕事も終わって、さっ、約束の時間に間に合うわって・・・そのお姉さんは教室でお友達をまってたの。
けどね・・・約束の時間を過ぎても、そのお友達はぜんぜん来なくて・・・。あ、そのお友達、バスケ部だから、体育館へ様子を見に行ったんですって。
そしたらね・・・。

「何があったのかな?体育倉庫でいけないものでも見ちゃったのかい?」
「そう、黄龍さんの言う通りなの!その子のタオルが倉庫のドアの前に落ちていて・・・」
「落ちていて・・・?」
瑠衣は言うことを頭の中で一足先に想像してしまったらしい。
ちょっとだけ涙目になると自分の肩を自分の両腕で抱いて、絞り出すように声をだした。
「中を・・・あけたらね、カベもマットも跳び箱もぜーんぶ・・・爪でひっかいた跡でいっぱいだったんだって・・・」


輝は顔の血の気が引くのがわかって、思わず身震いしてしまった。黄龍も顔こそ笑っているが、眉を大きくしかめている。
「それでね、お友達は相変わらず行方不明で・・・。そのお姉さんも怖くて・・・家から出たくないって。それでね、そのお友達だけじゃなくて、色んな人が行方不明になってるの!ねえ、これってきっと・・・」
「どなたかが、ご丁寧に敵さんでも出撃させてくれたのかな?ご苦労なこった・・・」
黒羽がギターをかき鳴らすと、場の空気がいつもどおり元に戻り、そして沈黙がしばし場を支配する。

「なんのために?・・・目的は?」
「手段のためならば目的を選ばないって、ヤツも・・・世の中にはいるのさ」
黒羽の言葉に黄龍は少しだけ苦笑して舌打ちをする。『襲うんならカワイイ子の方がいいわな。』と不謹慎な言葉と笑みを浮かべて瑠衣を見つめた。
「瑠衣ちゃん、オレ捜査してくるぜ。潜入捜査は・・・まかせときな」
「・・・どうやって入るんだ?」

赤星のため息まじりの声が黄龍の背中に刺さる。振り返ると彼は顎に手をつけて笑ってはいるが、表情は暗い。
「どう、やってって・・・知ってるだろ?オレが変装得意だってさ〜。美形家庭科教師にでもなってやるって」
「そこの学校さ、本当に厳格なんだ。男ひとりいやしねえ。教師も受付事務もみんな女なんだ。いくらなんでも女には化けられないだろ・・・?」
「・・・あ、ああ・・・そーだな、ちょっと骨格が・・・。オレサマ背えあるからな〜」
彼はそう言うと、瑠衣がもたれかかっていた背の高い棚の一番上に乗っていたケーキのレシピをとってみせた。彼は『ハイ。』と女の子専用の笑顔で彼女に差し出すと、また腕を組む。

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