★第17話 (6/7)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
<6>
(7)
「……!?」
その商社ビルに一歩入ってみて、黄龍はその火災が明らかに異常であることを認識した。一番最初に持った印象は『とにかくヤバイ』である。
焚き火をした時、あるいは燃えさかる薪ストーブの中を見た時、そして火災に遭遇した時……そこでは目の前で実際に『物が燃えている』のを見ることが出来る。しかし今、目の前で起こっているそれは明らかに違った。
柱が、机が、パソコンが、泡を吹くように溶けて崩れ落ちかけている。幸い、スーツは耐熱強化を受けている。全く熱気を感じない。そのためここがどれほどの高温であるかはとても想像つかなかったが、この分では建物自体がそう長くは持たないだろうことだけはわかった。
「レッド、ブラック!グリーンっ!!いるんだろっ!?」
外には既に警察と消防隊、そして特警が到着していた。彼らに尋ねたところ三人とも中に入ったそうだ。いるのは間違いない。
「ここ!ここだよっ、イエローっ!!」
程なく返事が返ってきた。慌てて声の聞こえた方に向かうと、リーブスーツ姿の輝が大きく手を振っていた。
三人揃っている。黒羽がリーブレスに向かって何事か会話している。赤星がこちらに気付き振り返った。
「来たな、イエロー。悠長にしていられる状況でもないんだが、とにかく情報が欲しいからブラックがベースと通信してる」
「怪人……!!見つかったワケ!?」
「それが……周りは特警のみんなが完全に包囲してるんだけど、そっちからも連絡ないし」
輝の声が沈んだものになる。
「そー言えば博士、怪人は目撃されてないって言ってたな〜……」
だとしたら見つかりにくい姿でもしているのだろうか……黄龍は舌打ちをしたい気分だった。
(瑠衣ちゃんとの約束、ぜってー守んなきゃ……!)
「俺様、とにかく探してみる!何にもしないよりいーぜ」
「待て!通信が終わった」
赤星はイエローを引き留め、黒羽に向き直る。見ると黒羽が通信を切ったところだった。
「全員揃ったな。建物の主素材の耐熱温度と炎の温度を照らし合わせて、この建物が完全に崩壊するまでだいたいの時間を割り出してもらった」
「タイムリミットは!?」
「約15分。長く見積もってだ」
「15分……!」
赤星が唸った。
「微妙な数字だな……」
「このビル、階数はそんなに無いけど一フロアがかなり広いよ!?探し出せたとしても仕留められる?」
突然、天井から笑い声が振ってきた。
「そう!15分。後15分なのネ」
甲高い、耳障りな笑い声は物が溶けていく中でもよく聞こえた。女の声だ。
「かくれんぼしましょうヨ!アタシが隠れる。アナタタチはオニ」
突然、天井から何かが振ってきた。べしゃ、という音を立て、それは着地する。
「……!?」
一瞬、誰もがその動きを止める。
それは体調50センチに満たない、炎の色をした蜥蜴だった。いや、蜥蜴といったら語弊がある。容姿としてはオオサンショウウオに近い。しかしディテールはかなり違った。べたべたとした感じの肌の質感はそのままなのだが、尾はかなり長く、脇に炎の鰭がある。ぎょろりとした真っ赤な目玉を剥き出し、彼女は笑った。顔の表情は豊かで、少々夢に見そうなコワさがある。
「お前が……!これをやったのか!?」
「アラ!見ればわかるでしょ、おバカさん!」
赤星の台詞に、小馬鹿にしたようにけらけら笑う。
「アナタタチアタシを倒したいんでしょ?だったら見つけてごらんなさいヨ!アタシこの建物のどこかにいるワ!」
「てめー……!!」
黄龍が思わず一歩進み出る。抜き放たれたリーブラスターを認めて、彼女はまたけたたましい笑い声を上げた。
「いいワ!撃ってごらんなさいヨ!無駄だってコト教えてアゲル!」
その言葉が終わらないうちに黄龍が発砲する。炎の立てる音に小さな音が重なった。火蜥蜴の身体に次々と穴が空く。しかし。
「……!?イエロー、まだだよっ!!」
輝の声と同時に、真っ赤な口がにいっ、と笑う。突然、その身体がまっぷたつに裂けた。
「な……!?」
思わず声を上げる黄龍。その目の前で、それはさらにひび割れた。そしてそのまま、欠片のそれぞれが元の姿を取り戻す。何百もの彼女が笑い立てた。何百もの笑い声がエコーのように場を満たす。
「ほうラ、無駄だった!」
それらは一度に、黄龍の両脇をあっという間にすり抜けて、蜘蛛の子を散らすように建物の隙間に滑り込んだ。おおよそその容姿にそぐわない素早さだった。
「オズリーブス!アナタタチを倒せばシェロプ様が誉めてくださる!アタシを見つけられずにコンクリートに押しつぶされて死んじゃえばいいワ!」
「ざけんなよ……!?」
「落ち着け、イエロー!」
黒羽が、かっとなって追いかけようとする黄龍の腕を掴み制止する。黄龍はその手を振り払った。
「離せよ!!」
「……どうしたの、イエロー……!今日、変だよ」
輝の不安げな声に、黄龍はようやく我に返った。気まずそうに応じる。
「別に……何でもねーよ」
「この状況で後手に回るっていうのはどう考えても不利だ……多少危険でもこちらから仕掛けていくしかない」
赤星の言い分はもっともだったが、だからといって簡単に見つかる相手ではない。それどころか、
「仮に見つけたとしたってまたああやって逃げられるのが落ちだぜ」
「……」
黒羽の台詞に赤星は沈黙する。問題は山積だった。
「時間がないぞ、レッド!」
「……!仕方ない、奴の隠れられそうな場所を優先的に探すしかない!ここが崩壊してしまったら発見するのは不可能に近くなる。奴は最初出てきた時は一つの身体だった……その時不意を突ければいいんだが」
四人とも勝算の低さにうんざりしたが、そうも言ってはいられない。
「ああ、もう……!怪人探知機でもあったらいいのにっ!」
「……!?」
輝の台詞に黄龍がぴくりと反応する。
「……レッド!確か博士、火事の写真、特警に撮らせたって言ってたよな!?」
「え?あ、ああ……だけど、それがどうかしたのか?」
「さっき、あいつが俺様の横通り抜けてく時、炎が通り抜けてくみたいだった!スーツ着けてんのに、それでも熱気を感じたんだ!多分……!!グリーン!マジで怪人探知、出来るかもよ!?」
俺様、特警んトコ行って来る!と言い残して、黄龍は部屋を飛び出した。赤星と黒羽は顔を見合わせはっとした。二人の声が見事に重なる。
『熱感知機!!』
「……?」
輝だけが目をぱちくりさせて、その様子を見つめた。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
<6>
(7)
(一覧表へ)
(龍球TOP)
(TOP)