★第2話 (1/4)
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――朝。喫茶店「森の小路」。ドアベルの音。ギターをかついだ黒羽が入ってくる。
赤星(カウンターの中から)「よっ」
――黒羽、例の敬礼もどきで挨拶してカウンターに座り、そこにあった新聞を広げる。
――と、目の前にコーヒーとチョコレート・ケーキが置かれる。
黒羽(ケーキを指さして)「なあ、旦那、オレの"いつもの"には、こんなもん入ってないぜ?」
赤星「いいから、黙って食えよ」
黒羽「なんで朝っぱらからこんな甘いもん‥‥!」
――黒羽、赤星が指さした先を見て呆れた表情。ケースの中に3つのホールケーキ。
黒羽「お前さん、何考えて仕入れしてるんだ? この店でそんなにはけるわけないだろう?」
赤星「仕入れてなんかねーよ。博士が研究で煮詰まったんだ」
黒羽(?な表情で)「‥‥‥‥話が噛み合ってねえと思うのは、オレだけですかい?」
赤星「葉隠博士さ、菓子作りが趣味なんだよ。いいアイデアがでなくなると、台所に飛び込んで
いきなりケーキを焼き始める。本部の時は沢山人がいたからよかったんだけどよー」
黒羽「‥‥‥‥昔から天才ってのは変わってるのが相場だが‥‥
(両手を上に向け肩をすくめて)よりによってケーキとはねぇ‥‥」
赤星「ま、これから瑠衣ちゃんくるから、1つ持っていってもらおう」
黒羽「え、瑠衣ちゃん?」
赤星「今朝、伯母さん達と一緒に来たいって電話があったんだ」
黒羽「ああ‥‥。あの夫妻とは葬式であっただけだったが、優しそうな人たちだったな」
赤星「あの人たち子供いなくてさ。前から瑠衣ちゃんのことえらく可愛がってたらしい。
ま、近所にああいう人たちがいたのが救いだったよな」
黒羽「聞くのを忘れてたが、あのとき桜木博士から受け取ったケースって、なんだったんだ?」
赤星「ああ、護身具っつったらいいかな。力の弱い女性でも簡単に使える‥‥いや、
力が弱くないと使えねえ護身用の武器なのさ」
黒羽「どういう意味だ?」
赤星「ほら、スタンガンも護身具だが、市場に出まわってるかなりの数がむしろヤバイ目的で
使われてんだろ。で、桜木博士は両手首のセンサーで骨量や筋肉を瞬時に分析して、
ある程度以上、腕力がある者が使うとロックがかかるようなシステムを開発したんだ」
黒羽「なるほど。奪われたり、流通しても悪用される可能性が低くなるわけだな」
赤星「一番凄いのがエネルギー源なんだ。常時身につけておくことによって、身体の動きや体温、
服の摩擦で生ずる電位変化とかそういったものをエネルギーとして蓄積しておく。
だから普通の女の子の活動がどんなものなのか、桜木博士は自分の娘で調べてた」
黒羽「じゃ、瑠衣ちゃんがよく本部に来てたのは、全部そのためだったんだな?」
赤星「ああ、あとは彼女の力でも実際に取り回せるのかとか、そんなこともね。
あれに『マジカル・スティック』ってコードネームつけたのも、瑠衣ちゃんだよ」
黒羽「『マジカル・スティック』か。女の子らしい可愛いネーミングじゃないですか」
赤星「でも、食らう側にしたら、ぜんぜん可愛くねえよ。俺、何回か被験者になってみたけど、
けっこうこたえたもんな。マジで動けなくなるぜ、あれ」
黒羽「‥‥‥‥‥‥お前さん、それでもホントに頭脳労働者なんですかね?」
赤星「うるせぇ! 研究者として興味があったんだよっ つべこべ言ってねーで、
そのケーキ、早く、食え!」
――カランカラン‥‥とドアベルが響く。振り返る二人、
瑠衣「黒羽さん、赤星さん」
――すっかり物静かな感じになった瑠衣。
赤星「あ‥‥瑠衣ちゃん‥‥」
黒羽「‥‥久しぶりだな‥‥」
――瑠衣の後ろから北原夫妻(瑠衣の伯父と伯母)が入ってくる。
赤星「北原さん‥‥」
北原「その節は、どうも‥‥」
――ボックス席に座っている瑠衣と北原夫妻。カウンターに寄りかかるように立つ赤星、黒羽。
北原「実は、私の仕事の関係で九州の方に引っ越すことになりましてね。瑠衣には
可哀想なんですが、受験まであと1年ありますし向こうに慣れた方がいいと思いまして」
赤星「そうだったんですか‥‥」
北原夫人「お二人には、瑠衣がずいぶんお世話になって‥‥」
赤星「いえ‥‥何も‥‥。‥‥俺達、結局、なんにもできませんでした‥‥」
――赤星、天井を仰ぎ、黒羽は視線を落とす。しばらく沈黙。それを破るように黒羽。
黒羽「ま、九州って言ったって、飛行機で行けばすぐだ。いくらでも会いに行きましょうや?」
――瑠衣、黙ってこっくりと頷く。
赤星「あ、そうだ。瑠衣ちゃん、これ、おみやげ」(赤星、ケーキの箱を渡す)
赤星「ケーキなんだ。また、はかせ‥‥」(黒羽が赤星を肘でこづく)
「い、いや、今朝ちょっと仕入れすぎちゃってさ」
瑠衣「ありがと‥‥」
黒羽「で、いつごろ引っ越されるんですか?」
北原「再来週にはと思っております」
赤星「しかし大変ですね。また戻っていらっしゃれるんですか?」
北原「ええ、新しいプラントが軌道に乗れば‥‥。でも最低でも3、4年はかかるでしょう。
勤め人の辛いところですな。では、これで、失礼いたします」
――夫妻、立ち上がる。が、瑠衣はうつむいて座ったまま。と、ケーキの箱にポタポタと涙‥‥。
北原夫人「瑠衣ちゃん‥‥?」
――瑠衣、ぱっと顔を上げて、涙で一杯の瞳で赤星と黒羽を見る。
瑠衣「ねえ、赤星さん、黒羽さん! あたし、ここにいちゃダメ!?」
北原「瑠衣!?」 北原夫人「瑠衣ちゃん?」
――赤星と黒羽、びっくりして、声もない。
瑠衣「ここなら行きたい高校も通えるの。お友達とみんなでそこ行きたいねって言ってて‥‥!
それに‥‥何より、パパとママのお家から離れたくない!」
北原「瑠衣! むちゃ言うんじゃない。そりゃ、お前の気持ちはわかる。わかるけれど、
仕方がないだろう? まさかお前を一人で置いていくなんて、できるわけがない!」
瑠衣「一人じゃないもの! この喫茶店、お部屋空いてるって、前、聞いたことがあるの。
黒羽さんもここに住んでるんでしょ? だったらあたしもここに住みたい!
喫茶店のお手伝いもするから‥‥。ね、いいでしょ?」
北原「瑠衣! 常識で考えなさい! そんなぜんぜん関係のない人の所に‥‥」
瑠衣「関係なくないっ 関係なくない‥‥。あのお家から離れたくない‥‥」(泣きじゃくる)
――赤星と黒羽、カウンターに張り付いて、そっと囁き合う。
赤星「どっ、どうしよう‥‥?」
黒羽「マスターはお前さんだろ」
赤星「そ、そんなこと、言われたって‥‥。ま、確かに部屋はいくらでもある‥‥」
黒羽「旦那も常識から考えるこったな。相手は女の子なんだぜ。いくらなんでもまずかろう?」
赤星「そりゃ、そうか‥‥」
赤星(意を決して)「あ、あの‥‥瑠衣ちゃん‥‥? え、と、あの‥‥」
――結局言葉にならない赤星。瑠衣、だんだんに泣きやんでいく。涙を拭いた瑠衣。顔を上げる。いかにもムリした笑顔。
――本部壊滅の日の瑠衣の辛いVサインがフラッシュバック。赤星、息を呑む。
瑠衣「そ、そうよね。急にこんなこと言ったって‥‥。伯父様、ごめんなさい。
赤星さんも黒羽さんも気にしないで‥‥」
北原「瑠衣‥‥。きっと向こうでもまたたくさん友達ができるよ。
お二人ともすみませんでしたな」
赤星「い、いえ‥‥」
――北原夫妻と瑠衣、出ていく。見送った赤星。溜息をついて座り込む。
赤星「やっぱ、OKって言や、よかったかな‥‥」
黒羽「だが、あの人たちにしてみたら、オレたちゃ、どこの馬の骨ともわからない輩なんだぜ。
自分の娘同様に可愛がってる瑠衣ちゃんを任せるとは、思えませんね」
赤星「だよなぁ。まあ、知らない土地に行って、色んなこと忘れられたら、その方が‥‥」
黒羽「忘れられたら‥‥ね‥‥」
――脇に置いてあったギターの弦をポンとはじく黒羽。それを見た赤星も寂しげな微笑。
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