★第24話 (11/12)
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黒羽は驚愕した。

鎧の男が動きを止めたのは、瞬きほどの時だった。まるでその強靱さを見せつけるかのように、黒羽の放ったドラゴンアタックの火線の中に飛び込んでくる。鎧が一瞬青みがかった輝きを帯びると、金の光を弾き返した。

「赤星っ」
黒羽が悲鳴のような声をあげた。振り返って身構えようとした男の手から三節棍がはじき飛ばされる。殴られた鳩尾を押さえるようにがくりと崩れた。その諸手を掴まれて仰向けに抑え込まれる。
「そこまでだ」
目の前につきつけられた白刃を赤星が凝視する。左手と片膝で、男を完全に組み敷いたブラックインパルスは、ゆっくりと黒羽に視線を上げた。
「驚いたぞ。こちらがお前達の真の姿か‥‥。まさか普通の人間だったとは‥‥‥‥」

「放せ‥‥」
「なに‥‥?」
「そいつを放せっ!!」
黒羽の咆吼が洞窟の中に反響した。
「ほう‥‥」
その声に初めて必死の色が入ったのを、スパイダルの参謀は聞き逃さなかった。
「こいつが例の預かりものの男か、メカニック・マン‥‥いや、ブラックリーブス?」
「そんなこたあ、どうでもいいっ さっさとそいつを解放しろっ」
自分の側にはなんのアドバンテージも無いのに、喚かずにいられない。

「先行けっ‥‥脱出、しろっ」
赤星も必死で抜け出そうとするが、どうしても跳ね返せない。ただ叫ぶだけで精一杯だ。当のブラックインパルスはもがく男のことなど意にも介していない。

「ブラックリーブス。こいつが死ねば、お前がOZにいる理由は無くなるか?」
静かにそう言うと赤星の喉当てにさくりと刃を入れた。切っ先がケプラー繊維を切り裂き、一番内側の防刃パネルで止まる。チタンのハニカム板越しのその感触に思わず赤星が硬直した。この手にかかれば、たぶん首の後ろまであっさりと貫かれてしまうだろう。

「‥‥そんなことになったらな‥‥オレはてめえを地獄の果てでも追ってやる‥‥。てめえを叩っ殺すまでな!!」

怒りが、空間をびりびりと埋め尽くしてしまいそうな声だった。一番危険な状況に置かれた赤星をして、ひととき、すげぇと傍観者になってしまったほどだった。

「では、二人一緒ならどうだ? 我が軍門に下らぬか」
「お断り‥‥だぜ!」
間髪を入れず答えたのは赤星だった。腹部にかかる重さと気管にかかる圧力に喘ぎながら、黒羽の高揚が伝搬したかのようなぎらぎらした瞳で、黒い面当てを見上げている。
「そうかな。お前を生き人形にすれば、あの男も従わざるを得まい」
「な‥‥っ」

「‥‥安心しろや‥‥。いざとなりゃオレの手でケジメつけてやる。ひと思いにな」
親友の静かな物言いに、仰向けた男はひどく無防備な笑みを浮かべた。
「はは‥‥助かる‥‥。わりい‥‥けど、よろしく‥‥‥」

そのやりとりに、黒い鎧は大きく息を吐いた。あの男を、自由意志のままに自分の部下にすることは難しいようだった。
「揃いも揃って愚か者か‥‥。わかったよ。では、代わりに私の愛剣を返してもらおうか?」
意外なセリフに戸惑った男たちには構わず、ブラックインパルスは小刀を戻すとソニック・ブームの鞘を黒羽に投げた。
「剣を納めろ。そしてここに持ってきて置くがいい」

ぱちりと音がして鞘に滑り込んだ刃は、黒羽がいくら抜こうとしても抜けなかった。ブラックインパルスが示したあたりまで近寄って、それを地面に置く。
「よし。いい子だな。では、引き換えだ」
立ち上がった黒羽の胸元めがけて、ブラックインパルスの右手が何かを放った。反射的に身を沈めた黒羽の頭上を越えていったのは、黒いテンガロンハットだった。

「ふざけるなっ」
いきり立って向き直った黒羽の視界の中で、黒い鎧が立ち上がる。男を乱暴に引きあげると同時に、黒羽に向かって振り回すようにぐんと突き飛ばした。
「こいつはオマケだ!」

赤星の身体を黒羽が抱きとめた時には既に、ブラックインパルスの姿は消えていた。

「どわ‥‥。よくも、まあ、放して‥‥くれたわ‥‥」赤星が腹と喉を押さえながら息をつく。
「‥‥わからん。何を考えてる‥‥?」黒羽が呟いた。
と、奥から地響きが伝わってきた。二人の頭上にばらばらと欠片が落ちてくる。
「な、なんだ‥‥?」
「まずいっ 脱出だ!!」

二人は自動操縦でホバリングしているオズブルーンの入り口まで走った。下がったワイヤーの梯子を押さえて黒羽を先に上らせながら、赤星はあたりをきょろきょろ見回している。上った黒羽を見上げ、すぐ行くから、と怒鳴った。
黒羽が操縦席で発進の準備を整え終わると同時に、ばたばたと赤星が入ってくる。
「この、ばか‥‥」
「ベルトOK。発進して下さい、機長!」
言葉を遮る茶目っ気たっぷりの声に、黒羽は苦笑して操縦桿を握った。


===***===

シェロプはきわめて不機嫌だった。ブラックインパルスが何も告げずに地球に降りた。あの小娘と機械人形も地球にいる。下賎な連中が集まって、何かたくらんでいると思うと、不愉快きわまりなかった。

今回の三次元侵攻。シェロプはなんとしても手柄を上げたかった。できれば、ブラックインパルスを失脚させた上で‥‥。もうこれ以上、あの成り上がり者の部下でいるのはまっぴらだった。
オズリーブスの出現はシェロプにとってありがたい面もあった。地球侵攻が遅れれば、皇帝もブラックインパルスの責任を追及せざるを得ない。予定外に現れたオズリーブスが、スプリガン、アラクネー、ゴリアントの部下を叩きのめしてくれるのは、ある意味歓迎できる事だった。
ただ、自分の顔に泥を塗ったことは絶対に許せなかった。それは、いつか必ず、後悔させてやる‥‥。

だが、あの黒騎士が、前線に出てしまったら‥‥。
そうしたら事態は一気に進んでしまう‥‥。
ヤツには、それだけの力がある‥‥。

シェロプは、自室の中でいらいらと、いったり来たりを繰り返していた。
ふと、その足が止まった。

「ふん‥‥。魔神将軍よ‥‥。かなりイラついているようだな?」
「だ、誰だ!?」
部屋の中に、真っ白なケープとフードで覆われた姿がいきなり現れた。
「き、貴様は!」
「我が名はファントマ。皇帝よりスパイダル帝国参謀の地位を与えられしもの‥‥」
「な‥‥!?」
「シェロプ‥‥。私は前からキミを気に入っていてね‥‥。私の話を聞くつもりはないか‥‥?」
シェロプの表情が、驚きから、すっと計算高いものに変わった。ファントマ。トップクラスの家柄のシェロプでさえ、聞いたことしかないその名‥‥。皇帝の傍系というウワサもあった。

「面白い‥‥。いや、これは失礼を‥‥。ぜひそのお話、伺わせていただきましょう」

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