★第24話 (4/12)
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黒羽は二人のアセロポッドに挟まれて、スプリガンの前に連れ出された。
「ほう‥‥。なかなかの面構えだ」
だらしなく足を投げ出して、椅子に座ったまま捕虜を見上げたスプリガンは、そう言うとおもむろに立ち上がった。側まで歩み寄ってくると黒羽より頭一つ高いのがわかる。テンガロンハットを奪いとり、人差し指でそれをくるくると回しながら、少し首を傾げて黒羽の目を見つめた。
「どこのなんていうヤツか、答えてもらおうか?」
「礼儀知らずだな。人の名前を聞く時は自分から名乗ったらどうだ?」
スプリガンはからからと笑った。
「これぁ、また! 地球人ってのは戦闘タイプ以外のヤツも威勢がいいんだな」
「戦闘タイプ?」
「オズリーブスさね。OZにいる戦闘形態の連中さ。知らねぇとは言わさんぜ。あの戦闘機がOZのもんだってのは、わかってるんだ」
「ああ。うわさぐらいなら聞いてるさ。だが、残念ながらオレはメカの修理を頼まれて、ちょいとチェック飛行をしてただけでね。サインが欲しいなら、やつらに直接頼むんだな」
「ほう。ということは、これからOZの基地に帰るとこだったんだな?」
「終わればこっちのドックに連中が取りにくるのさ。やつらの基地の場所なんて一般人が知るわけがないだろう?」
カメラのレンズを思わせるような二つの目が、興味深げに黒羽の顔を覗き込んだ。
「さて。全てが真実か。それともとっさのウソが上手いのか‥‥」
「疑うのは勝手だが、オレとしてはアイツのことが心配でね。修理させてくれんか。せっかく完璧にしたのに、すぐに壊されちまったんじゃ、たまらんぜ」
こうなったらただのメカニック兼テストパイロットで押し通すのが一番よさそうだった。幸いその役柄は大歓迎だ。
「自分の命より機体の心配とは見上げた根性だ。オレの下にくる気はねえか? 好きなだけメカの面倒、見させてやるぞ?」
「いきなり人の愛機をぶっ壊すようなヤツの部下なんてごめんだぜ」
「壊れちゃいねえさ。ちょっと色んな機能におネンネしてもらっただけでな。システムの影響下から出れば完璧にもとに戻る。帰る時にはそれがわかるだろうさ」
黒羽は眉をひそめた。帰る時‥‥‥だと? 何を企んでる。それに、システムだって?
機甲将軍は黒い帽子を、もったいをつけた動作で黒羽の頭にそっと被せた。
「さて、いきなり驚かせて悪かったな。プレゼント付きですぐ帰してやるぜ」
「プレゼント?」
「お前の機体に高性能の発信機を付けてやるのさ。最後に収まった所がOZの基地ってわけだ」
「そんなもん持って、オレが大人しく帰ると思うのか?」
スプリガンが喉の奥で笑った。睨みつけてくる男の眼前に人差し指を立ててみせる。
「お前はやるさ」
ロボットじみた指が黒羽の頭を軽く叩いた。
「ここにちょっとしたチップを埋め込む。なに、処理はすぐ終わるし、痛みも感じねえよ。ただ、坊やがきちんとお家に帰るいい子になるだけでね」
大きながたいが腕組みをすると少し後ろに反り気味になって、黒羽を睨め付けた。
「オレ様の機甲師団は、やり残しってのは気に入らなくてなぁ。1年半前のオトシマエ、きちんとつけさせてもらうぜ」
黒羽の目が大きく見開かれた。
OZ本部が壊滅した時の情景は脳裏にはっきりと残っている。爆発音と逃げまどう人々‥‥。人生の中であんな光景は再び見たくないと思っていたのに、二度目は何倍も大規模だった。理知的で何よりも感じのよかった女性の冷たい首筋。娘を頼むと言い残してこときれた優しい紳士。飛島の後を追って行ってしまう気がして、力まかせに引き止めた赤星の腕とその悲痛な声。合同葬儀に泣きはらした目で参列していた瑠衣。ハーモニカの好きな少年の両親も、あの襲撃の巻き添えで死んだという‥‥。
こいつが‥‥あの時の!
ぎりっと奥歯を噛みしめた時だった。
がちゃりと金属音が響くと、スプリガンが驚いたように腕をほどき、黒羽の背後を見やった。
「司令官! こいつぁ、また、急なお越しで!」
振り返ろうとした黒羽の肩を両脇のアセロポッドが強く抑え込む。あきらめて、されるがままに膝をつき、顔を伏せた。
黒光りする甲冑の男がきびきびとした動作で入ってきた。スパイダル参謀にして三次元侵攻の司令官であるブラックインパルスは、さっきまでスプリガンが座っていた椅子に、ごく自然に腰掛けた。
「さっそくにOZの蚊トンボが一匹、飛び込んできたそうだが‥‥。そいつがパイロットか?」
頭上から降ってくる声が妙に耳に心地よくて、黒羽は思わず顔をあげた。
「司令官、どうかしましたかい?」
一瞬黙りこくったブラックインパルスに、スプリガンが不思議そうに声をかけた。
「いや‥‥。この次元‥‥、見え方も聞こえ方も、やはり微妙に異なるな。まだ、慣れぬ」
「何かの冗談ですかい? 常に先陣であちこち制覇して回った黒騎士様ともあろうお方が‥‥」
スプリガンはブラックインパルスの若い頃の名を口に出すと茶化すように言った。
「フ‥‥。まあ、私も歳はとるのだよ、スプリガン」
声には笑みが含まれているが、ブラックインパルスの面は黒羽にまっすぐに向いたままだった。
「司令官って、あんたがスパイダルの親玉なのか?」
いきなり口を開いた無礼な捕虜に、両脇のアセロポッドがうろたえて、黒羽の頭を地面に押しつけようとする。ブラックインパルスは片手をあげてそれを制した。
「私はスパイダル帝国参謀、ブラックインパルス。皇帝陛下より三次元侵攻の全権を委任されている者だ。貴様は?」
「残念ながらオレは、参謀閣下の前で、名乗るほどのもんじゃなくてね」
にやっと笑ってそっぽを向いた黒羽の態度に、スプリガンが少々慌てて口をはさんだ。
「OZの雇われメカニックらしいですがね。ま、この顔じゃ言いたくないことは言わんでしょう。どっちにしろチップを埋め込んで帰っていただく分には、どこの誰だろうが関係ありませんや」
「なるほど。それでOZの基地の場所もわかるか。幸先がいいことだな。では、スプリガン。早速だが電磁波透過システムの状況を説明をしてもらおうか」
「アイアイサー。じゃあ、ジェネレーターまでご足労いただけますかね。おい、お前ら。そいつも一緒に連れてこい。処理の時間までぶちこんでおこう」
黒羽は心の中で舌打ちした。アセロポッドの二人や三人なら、なんとか逃げ出せると踏んでいたが、この二人が一緒では無理だ。スプリガンの実力が相当なのはわかっている。その上、このブラックインパルス‥‥、とんでもない手練れなのはほぼ間違いがなかった。
二人のアセロポッド、次いで黒羽とその両脇を固めたポッドが二人。そしてその後ろから漆黒の鎧と青灰色の金属の塊が部屋を出て左手方向に進む。通路は剥き出しの岩肌のままだ。必要な部分しか整備していないのだろう。この突き当たりがオズブルーンのいる発着場だった。先頭のポッドが右に曲がり、愛機に後ろ髪を引かれた形の黒羽の肩を、スプリガンがぐいと押しやった。
「すぐ会わせてやるさ。だが、しばらくは、お前はこっちだ」
通路のところどころには発光物があるが、黒羽にとってはいささか暗すぎた。だが他の連中にはまったく問題がないようだ。後から二人の会話が聞こえてくる。
「アラクネーの話では安定性に問題があるとか?」
「今の技術レベルだと、この空間を連続して維持できるのは5、6日なんですよ。それ過ぎると空間のひずみが周囲に影響を与えちまう。あとジェネレーターの耐久性の問題もありましてね。結局、5、6日に1日程度はお休みってわけで、かったるくてしょうがありませんや。今もそろそろ限界ってとこでねぇ。瞬断現象が起きてくるころですぜ」
「正常稼働しているときの効果は?」
「完璧っつっていいでしょう。。三次元の連中が制御系で使っている範囲の電磁波を完全に透過‥‥というより、反対側にワープしちまうんですよ。だから電磁波的に言えばこの空間は無いも同然でしてね。反射もしないし減衰もさせないから探知不能ってわけです。その上、この中に飛び込んだら制御機器の類は一切使えなくなる‥‥。その妙を思いっきり体験してくれたヤツが、ここにいますよ。どんな気分だったね?」
からかうような口調で黒羽に尋ねてくる。黒羽は背中で少し肩をすくめた。オズブルーンをなだめるために少々低空を飛びすぎていたのは確かで、まったく、飛んで火に入るなんとやら‥‥だ。
「メカ屋としては興味大ありってとこですかね。オレにも講義してもらえると有り難いね」
黒羽のぬけぬけとした反応にスプリガンがまた笑った。
「チップを埋め込まれたお前が、自分の役目をきちんと果たしたら、イヤになるほど教えてやるさ。スプリガン様のメカニックになるなら、きちんと勉強せんとな。さて、ここだ」
立ち止まったのはいかにも牢屋という風情で、黒羽は辟易とした。乱暴に中に押し込まれると、黒羽の背中で、ガシャンと派手な音を立てて扉が閉まった。
「自殺でもせんように、よく見張っておけ。じゃあ、司令官、この奥ですぜ」
スプリガンの命で、黒羽を連れてきた二人のポッドがそこに残った。黒羽はオーバーな所作で、その場にどっかとあぐらをかいた。
歩み去ろうとしたブラックインパルスが一度だけ後ろを振り返った。
その面がいったい何を見ているのか、おおよそ見当もつかなかった。
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