★第24話 (8/12)
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小柄な身体に似合わぬ大きな両拳をがつんと合わせる。前腕にそった長柄から伸びた三日月刀が、ぎらりと陽の光をはね返した。普段なら次に倒すヤツのことも考えているけれど、今の輝は真っ正面の一人だけを見据えている。

最初の一人さえ倒せれば、あとはそのくり返しのはず。だけど、確実な方法がわかってないなら、一番素早く動ける自分が試したほうがいい。ちょっとだけリーダーの気持ちが分かる。真っ先に危険を買おうとするのは、ヒトを信じてないんじゃなくて、自分に自信があるからなんだね。

一番手前にいるポッドが飛びかかってくる。身を沈めて背後に回ると振り返りざまに背中から首の付け根にざくりと切り込む。ちょうどその部分が鎧のつなぎ目になっていることを知っていた。だが、いつもより手応えが遙かに固い。刺すというより引っかけた感じのブレードを支点に、ぐんと飛び上がると相手の頭を蹴りつけた。

刃が楔の役割を果たし、灰黒色の頭が斜め前にめしりと折れた。首が半分ちぎれて濃緑の液体がしたたり落ちる。だがそのボディは何もなかったようにグリーンの身体に向き直り、手を伸ばしてきた。こんな状態でもあまり困っている風には見えない。

ちょっとだけ生唾を呑み込むと、輝はルートンファーをグリップ状に引っ込めて宙に跳んだ。
「リーブラスターっ ブレードモードっ」
右手で逆手にもった柄の端に左手を添え、全体重を乗せて首の裂け目から、その長剣をぶち込んだ。消えると思ったその身体は、首から剣の柄を生やしたまま地面に倒れ、そこに存在し続けた。


もはや頭部がただのカザリなのは明白だった。横から輝に襲いかかろうとしていた灰黒色の胴体にリーブラスターをぶち込む。いつもだったらこれで十分なハズだった。だがターゲットは少し止まっただけでこちらを向いた。鋭い爪が飛んでくる。
黄龍はぎりぎりのスウェーでそれを避けると、至近距離から相手の腹部にもう一発撃ち込んでみた。甲羅の強度が知りたかった。と、視界の端で一匹のポッドが、輝に串打たれて倒れこむ。

オーケー。ありがとよ、アキラ。イザとなったら口からぶち込んでみるさ。

衝撃でポッドの頭部がぐんと手前に振れる。が、どこぞの映画の敵役のようにじわっと起き直ってきた。だがその腹はアオコで覆われているかのようだ。多少動きが鈍くなったものの、両腕を上げて迫ってくる映像はなかなかのモノだ。

黄龍はブラスターを上げた。暴発するかしないかのぎりぎりで、相手の胸の中央部に向けて引き金を引いた。ポットはもう数歩だけ寄ってくると、びくりびくりと痙攣する両腕を絡みつかせてきた。激しい嫌悪に思わず突き放す。赤い目から光が消えるとそのまま仰向けて動きをとめた。敵の強靱さには何も感じなかったのに、そこに横たわったアセロポッドが居ることに、ひどく違和感を覚えた。


最近、よく思う。

目の前に具体的な敵がいたことで、自分は救われているのだろうかと。

同じ憎むなら、堂々と憎める相手を憎む方がラクなのかもしれない。

このスティックを打ち下ろし、たぶん"生きて"いるものを"殺す"。

罪悪感と憎しみが、相殺されて少しずつ溶けていくような気がする。
いつか両方なくなって、すっきりする日が来るような気がする。
‥‥そうしたら、その時やっと、きちんとありがとうと言えそうな気がする‥‥。

あんなに沢山の痛みを抱えながら、あたしの気持ちを分かってくれたあの人に‥‥。

だから、今は、自分の声は聞くまい。
この目で見たことと、しなければならないこと。それだけを考えよう。


フルパワーのマジカルスティックは、時に両手が必要だ。力一杯アセロポッドの頭めがけてうち下ろす。ばりばりと派手な音を立てて、ポッドの全身が電撃にのけぞる。が、どこか麻痺したように引きつりながらまだ向かってくる。

「ライトニング・ピアスっ」
空気を切り裂く声と同時に、輝のブレードがアセロポッドの肩口に斬りつける。瑠衣も既に跳んでいた。にじみ出した液体に高電圧がスパークする。ポッドの抵抗がなくなるまで、跳ね回るスティックを、両手でしっかりと押さえ込んでいた。

「きゃっ! なんで、消えないのっ」
倒れ込んできたポッドの下敷きになった瑠衣が、わたわたと這い出そうとしつつ文句を言った。その手を黄龍が引き上げる。
「この次元で作ってんだよっ たぶんな!」

「イ、イエローっ ほんとなのっ!?」
瑠衣と黄龍を背中に庇うように立ちながら、輝が叫ぶ。
「それっきゃ考えられねーっしょ! いつぞやのネコのおもちゃと同じだよっしっかし、この数! マジで前線基地、作ってやがんな、こりゃ‥‥」
「じゃ、く‥‥二人の行ったとこ、まさか‥‥?」瑠衣の声が上擦る。

「今はこいつら倒すことだけ考えろ! それが一番、二人のためになる! わかったな!」

黄龍の真剣な声に、輝と瑠衣は手の中の得物を、強く握り締めた。


===***===

びゅうと風が吹いた。灌木の中に横たわるようにじっと身を潜めた黒羽の視界の中に、ひらひらと何かが舞った。ふと風上を見やると、早咲きの山桜が一本、曇天に白く浮かび上がっていた。

木の中に突っ込んだとき、枝を捕まえてなんとかスピードが殺せた。枝は折れたが斜面に沿って横に逃げることができた。そこらにあった岩を蹴落として、なんとか敵の目はごまかせたようだった。あの勢いなら下まで落ちる方が普通だろう。

しかし我ながらヒドイ有様だ、と黒羽は今日で何度めかになる悪態をついた。

急斜面を転げ落ちたので全身あちこち打撲の山。右腕に適当に巻き付けた白いスカーフはもう真っ赤だ。とにかく枝を掴んだとき左肩を完全に伸ばしてしまったのが最悪だった。おまけに右足首の捻挫ときては、もう少しだけ身体を休めたい所だった。

先ほど、ほんの一瞬だけベースと通話することができた。赤星がそろそろ着くから一人で無理するなと、田島の怒鳴り声を初めて聞いた気がする。
赤星と二人ならオズブルーンを取り返せるかもしれない。だいたい、お前はむちゃだのなんだの言っておきながら、その場に行くと率先して盛り上がるのはアイツの方なのだ。

他人との距離は少々空けておく‥‥というのが黒羽の信条だ。だから人が近づけるような隙を見せることはあまりない。だが、赤星は委細お構いなくいきなり間合いを詰めてきた。最初の頃は少々冷たくあしらってはみたものの、懲りない鈍感男には根負けした。

とにかく強い。格闘センスが抜群だ。危急の時も落ち着いているし、キレるといった感情とも無縁だ。そういう意味で現場では圧倒的にアテにできる。かと思うと日常生活では妙に不器用なところがあって、せめて状況だけでも把握しておこうかという気にさせられるから不思議だ。そんなこんなで結局、ずいぶんと長い時期を共に過ごしている。

‥‥そういやあ、初めて会った時も‥‥‥‥。

桜につられて少し上半身を起こした男にかすかな足音が聞こえてきた。思わず横臥して地面に耳を押しつける。剛胆な黒羽をして背中を冷たいものが流れた。見つかったら、今度こそ敵の思うつぼだ。そうなったらあまりよくない選択肢しか残らないはずだった。

と‥‥黒羽の目が見開かれた。必死で気配を探る。次の瞬間、彼の緊張の糸はぷつんと切れた。

「黒羽‥‥っ」
だっと駆け寄ってきた赤星は起きあがろうともせずにごろりと仰向けた黒羽を見て、目をまん丸にして膝をついた。横たわった親友は左肘を曲げて抑え込んでいる。その右腕も血に染まっていた。
「大丈夫かっ」
「‥‥せっかく花見、してたってのに‥‥無粋な旦那だぜ‥‥」
少し弱々しいが、いつもの物言いに赤星の肩の力がくたりと抜けた。
「‥‥ああ‥‥ったく‥‥。心配させやがって‥‥」

背負っていたデイバッグを下ろすと折り畳んだサラシを引っ張り出して引き裂く。少し厚く畳んだもう一枚を創傷にあてると強めに巻き直した。
「左肩、抜いたのか?」
「‥‥らしい‥‥」
赤星は黒羽の背中に手を差し入れて上半身をそっと起こした。
「ちっとだけ我慢しろ」
背中側から抱きかかえて左脇の位置を固定すると、肘のあたりを掴んでゆっくりと引っ張る。黒羽の体がぐっと張りつめ、苦痛をこらえているのがわかった。あるところでカクンという手応えがあり、黒羽がほうっと大きく息を吐いた。

「わり。はめる時のほうが痛えんだよな」
「‥‥‥‥旦那に、野戦医師のマネが‥‥できるとはね‥‥‥‥」
「入ったからってあんま動かすなよ。あと、足か‥‥」
赤星はそう言いながらまた布を裂いている。黒羽の顔を見ながら痛みの少なさそうな角度で足首を固定した。
「これでよし。途中で水があったら冷やそうな。オズブルーンは?」

「近くにスパイダルの前線基地があって‥‥、そこにとっつかまってる」
「そうか。とにかくお前を連れて、いったんここを離れてからだ」
「バカ言うな。アイツ一人置いて逃げられるか。こうしてる間にも何されてるか」
確かにオズブルーンにはOZの研究成果がふんだんに盛り込まれている。調べられるのはあまり喜ばしいことではない。

「しょうがねえな。じゃ、オレがオズブルーンを奪い返して来るまで、どっか隠れてろよ」
「だめだな。あの状態のブルーン、お前さんの操縦技術じゃ離陸させられんよ」
「げ‥‥。じゃ、じゃあ、リーブロボで出直して‥‥って、ここじゃ動かねーのか‥‥」
「だから、オレが行けばそれで話が済むだろうが」
「んなこと言ったって、その身体じゃ、無理だって!」
「旦那がなんと言おうが、オレも行く」

赤星は頭をかかえた。普段の黒羽は一見マイペースの様でありながら実に周囲に気を配る、ワガママの対極にあるような男だった。だから逆にこうと言い出したら、絶対にひっこめないのだ。

こうなったら手は一つしかねえ‥‥。

赤星が、背中でこっそり拳を握りしめた瞬間、黒羽が口を開いた。
「オレのこと殴り倒して行こうなんて思うなよ」

「え! あ‥‥。お、俺、別に‥‥‥」
「そんなことしたら、お前さんとは絶交だからな」
セリフだけ聞いたら子供のケンカである。だが、赤星にはこういう言い方が一番効果があるのだ。それに今の自分の状態ではうっかりすると本当に当て身を喰らわされかねなかった。

案の定、赤星は困り果てた犬のような目で黒羽を見つめ、大きな溜息をつくと苦笑した。
「‥‥‥‥お前ってさ、ほんとに、ぜんぜん進歩ないのな」
「それはオレのセリフだぜ」

風がまた、花吹雪を二人に運んだ。ちょうど9年前の、邂逅の日と同じように‥‥。

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