★第25話 (6/18)
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小柄な身体が煙の充満する階段を駆け上がっていく。スーツには空気の浄化機能があるからボンベ無しでも耐えられる。北の端の部屋に飛び込むと、煙に咳き込んだ2人の男性がうずくまっていた。
「しっかりして!」
瑠衣が声をかける。輝は自分のキットを瑠衣の脇に置いて窓に走った。瑠衣は二つのキットから携帯のエアボンベを取り出して2人の職員に渡す。
「周りの火は消えました。もう安心ですからね」
30歳ぐらいの年上の男は、スーツからの声が幼げな少女の声であることに驚いたのか、目を丸くして頷いた。
輝は昇降機の準備をしようと考えていた。ここに来るまでのあんな火をくぐり抜けるのはムリだ。それに非常階段は正反対の南側。消防はまだこない。火種が大量過ぎて火の廻りが早かった。
もう一度確認しようと窓から顔を出した時、例の模型のような戦闘機の銃口が向かってきた。
「ふせてっ」
輝が反射的に奥に叫んで身をかがめる。空耳か。笑い声が聞こえたような気がした。
覚悟した衝撃は襲ってこなかった。窓の外に爆発音がある。窓枠に取り付くと小型のメカが少し煙を引いて飛び去っていくところだった。着装した2人が走ってくる。黄龍の手にはチャクラムが一つだけ握られておりストームシュートを使ったのだとわかった。
「また来る! 飛び降りろ! 俺が受け止める!」
赤星が叫んだ。
輝が手前にいた年上の男を窓辺まで引き寄せた。瑠衣も若い方の職員を支え起す。室内の煙はどんどん濃くなってきている。
「攻撃されてる! 下で受け止めるから飛び降りてください!」
「でっ でも‥‥!」
輝の言葉に、職員は思わず固まる。
「大丈夫。リーダーなら、ぜったいぜったい大丈夫だからっ」
ちょっぴり笑い声さえ含んだ感じのその声に、職員は意を決した。
黄龍が大型のブラスターを抜いて空に向かって構える。新型リーブラスターを持っているのは、今のところ黄龍と黒羽だけだ。残り3つは最終調整中。赤星は窓枠に腰かけるような体勢になった職員に向かって大きく両腕を広げた。
「いいですよ! どうぞ!」
白いワイシャツにブルーグレーのスラックス姿が、壁に沿うように飛び降りてくる。赤星は相手の腰部を抱き止めると、腰を地に落とし仰向けぎみになりつつ、自分の身体をクッションにしてしっかりと受け止めた。
「レッド!」
聞き覚えのある声を見やると、走ってきたのは特警の西条だった。軽いショック状態になっている感じの職員を立たせて、なじみの刑事に任せようとした時、黄龍が叫んだ。
「来たぜっ!」
西条が被害者を庇うように灌木の影に飛び込む。見物人は既に敷地の外に追いやられている。赤星が灌木の前で黄龍の方を振り返ったとたん、機銃のようなバババ‥‥という音に、ドゴォン‥‥という重低音が重なった。
リーブラスター・シェルモード。
まるで44マグナムのようなその音に、思わず立ち上がった西条の目が丸くなった。もちろんリーブラスターは火薬を爆発させて弾丸を撃ちだしているわけではない。特殊回路でリーブ粒子を加速させているだけだ。それでも、シェルモードで発射する時はここまでの音が響く。
通常のリーブラスターは高いエネルギー準位のリーブ粒子の流れを射出するもので、熱線銃のような感じになる。だが有望は高準位のリーブ粒子を強く圧縮して固まりのようにする方法を見つけた。その固まりは弾丸のように相手の身体にめりこんで内部で破裂する。新型のアセロポッドのボディも楽勝で貫ける威力があった。
ただ問題は反動の大きさ。銃に慣れている黄龍や黒羽はいい。腕力のある赤星もなんとか押さえ込むことができた。だが、輝と瑠衣ではどうしても精度が落ちる。そのうえ少々凶悪なしろものと来ているので、必然通常のモードと切り換えて使えるようになっている。
機銃をとっさに右に避けた黄龍は、飛行体の翼の付け根あたりに、見事に光弾を炸裂させていた。
しかし‥‥!
「なにっ!?」
薄いグレーの飛行体が機首を浮かせる。墜落すると思われたその時、それが変形を始めた!
黄龍が両手で銃を掲げた時、輝は若い職員の頭を下げて抱え込むように窓に背を向けたが、瑠衣は窓から身を乗り出した。上から見たら飛行機の方が圧倒的に有利に思えて、瑠衣の息は止まりそうになった。だが黄龍は見事に相手を‥‥。
「うそ! 変わるの!?」
瑠衣の声で振り返った輝の目に、飛行体が落ちながら変形していく様子が映る。
「あれ! 怪人だったんだよっ!」
「あたし、下りる! いいよね!?」
「おっけ!」
輝が答えた時には既に、ピンクの小柄な身体は、窓枠をひと跳びに宙に舞っていた。
輝の支えていた職員が急にぺたんと座り込んだ。輝は慌てて男の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
職員はなんとか頷いてみせるが、顔は蒼白で、呼吸も浅くて早い。輝は彼の持っているエアボンベのバルブを少しだけ閉めた。今の騒動で恐怖が増幅してしまったようだ。過呼吸になってはまずい。どうしようかと思った時、リーブレスが鳴った。
「グリーン。今から梯子が上がる」
窓から顔を出すと梯子車が入ってくるところだった。近くで物騒な状態になっているので、梯子は真下からほとんど垂直に延ばすしかない。梯子車の様子を確認していた赤星は、一瞬こちらに手を振ると"物騒な方"に走っていった。
輝はうずくまった職員の脇に屈んだ。
「梯子車が来ました。もうひとがんばりですよ」
静かな声だった。誰かを落ち着かせようと思ったら、「落ち着いて」と言うより、自分が落ち着いてるトコを見せたほうがいい。輝が赤星や黒羽から学んだことのひとつだった。職員はまたこっくりと頷いた。輝は濃いブルーのワイシャツの胴に手を回すと、無意識にぎゅっと一瞬抱き寄せるようにして、男を立ち上がらせた。
上がってきた消防士に職員がしっかりと確保されたのを確認すると、輝はマスクの中でほっと笑った。そして驚く消防士に手を振って、だっと窓枠を蹴った。
機首の形はそのまま。だが後尾のほうは鋼鉄の二本足に変わっている。非常に精密な、だけど、ばかげた着ぐるみのようだ。黄龍が連射しようと銃を上げた。
しかし、パールグレーの物体はいきなり真横に方向を変え、ぐんっと黄龍に突っ込んできた。ほとんどカンでとびすさって避けるが体勢を崩す。たった今黄龍がいた空間を、鋭利なものが薙いでいく。それはさっきまで主翼だったものだ
「エレクトリック・サイクロン!」
怪人の頭上に飛び上がった瑠衣が、まだ機首の形をしている部分にスティックを押しつけ、出力を最高にする。桜色のスティックから高電流が流し込まれた。だが、怪人は応えた風でもない。いきなり金属の腕が伸びてきて、スティックをがしっと掴んで引き寄せる。
「ああっ!」
華奢な身体が鋼鉄の腕に絡め取られそうになった瞬間、金色の光が一閃した。
「ブレードモード!!」
今度、慌てて腕を引っ込めたのは怪人の方だった。
「無事か、ピンク!」
「ブラック!」
新型のリーブラスターはもちろんブレードモードもパワーアップしている。別に重くなったワケではないが、空気を切る音すら迫力倍増だ。ましてや黒羽が持つと、鬼に金棒という感じである。
「なんのつもりだ!」
黄龍の隣に位置づけた赤星が怒鳴る。両側から挟まれた形の怪物は、動ずるでもなく悠然と立っている。怪物の脚部は完全にメカの足。足首の後ろにある大きすぎる蹴爪のような突起は尾翼の変化したものだ。今や主翼は昆虫のように背中に収り、自在に角度を変えて斬りかかる鋭利な武器となっている。主翼の前の部分はがっしりとした腕となって両脇に構えていた。
いきなり怪物がシュンっと回転する。機首がぱっくりと割れて、ふてぶてしい鋼鉄の顔が現れた。
「オレ様は機甲軍団旅団長ホーネットだ! 思いっきり暴れさせてもらうぜ!」
「そうはいかないよっ!」
よく通る声が響いて、グリーンのスーツが駆けてくる。他の4人もばっと広がり、怪人を5方から囲んだ。
と‥‥ホーネットの脇の空間がゆらり、と歪んだ。5人が身構える。亜麻色のは虫類を思わせる怪人と、黒い長衣を纏った痩身が現れる。二つの巨体を従えた細い身体が、前に一歩進み出た。
「朝からご苦労なことね。オズリーブス」
一度に2体の怪人という事態に一瞬静まった空間に、アラクネーのアルトが響いた。
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