★第25話 (9/18)
(前へ) (次へ) (表紙)

「しかし‥‥新型のブレードだってのに、マジで"刃"が立ってねえ‥‥‥‥」
赤星10回以上も繰り返した4人のモニターログをまた見直している。たまたまアラクネーやホーネットに拘らう時間が長くて、アトリスの動きを見る時間が少なかった。直接やり合うのが一番だが、映像を見るだけでも相手のリズムがなんとなく分ってくる。
黒羽の剣さばきはいつもながら見事だ。敵の鋭い爪をかいくぐりながら、素早い切っ先が関節部などの弱点に的確に入っている。それでも亜麻色の巨大なトカゲはびくともしない。

今コントロールルームに居るのは、赤星と葉隠だけだ。黒羽はアトリスにやられた西条と早見の見舞いに行っている。客観的に言えば不可抗力なのだが、赤星だとて申し訳ない気持ちがある。ましてやその場に居合わせた黒羽にしてみれば余計そうだろう。だが一方で、着装した黒羽を庇ってくれようとした彼等の気持ちはとても有り難かった。

黄龍、輝、瑠衣の3人は休んでくれている。ずいぶんとヘヴィな状況になりそうだ。こんな時には効果のある指針を明確に示すことが大切だと赤星は思っていた。ただでさえ疲れている時に、迷いのムードが漂ったら精神の方が持たなくなる。あらゆる可能性とヒントを頭に叩き込まなければ‥‥。

葉隠は赤星の隣で別のモニターを操作している。拾ってきたアトリスの放出物に圧力をかけて破壊している映像が映った。
「外部に放出して固まったものは普通の道具で割れる。なのにヤツの皮膚はそうはいかん。たぶん皮膚表面に別の成分があって、混合されることでより硬くなるんじゃろうな」
「尻尾のほうを切られたのは、わざとなんですかね‥‥?」
「その可能性はあるじゃろう。現に黄龍君にずいぶんなハンディを喰わせてくれたからの」

「‥‥にしても‥‥。黄龍も瑠衣もたいしたもんですよ」
赤星は、さっき見たばかりのモニターログを思い出してにやにやと笑った。自由に動けなくなった黄龍は、瑠衣に囮になるように頼んだのだ。アトリスがこっちを向くようにしむけてくれと‥‥。そして、瑠衣はジャストその要求に応えた。

「あら。輝君だって凄いわよ。あのフェミニストの輝君が、炎の中で立ちすくんだ瑠衣ちゃんを、なんとか励まして連れて行っちゃったんだから。二人ともあなたよりわかってるのかもね?」
入り口から有望の声がした。苦笑して頭を掻いた赤星にいたずらっぽく微笑みかえすと、そのまま近づいてくる。いつもレディファーストの田島が後ろから続き、ドアが閉まった。

「どうじゃったね?」
葉隠の問いに田島が口を開いた。
「博士の予想通り、弱点は熱と振動を同時に加えることでした。これを見てください」
田島がコンソールを操作して録画映像を出す。亜麻色の物体にバーナーで熱を加え、そこに細かい振動を与えると、細かいヒビがはいってくる。その物体を軽く床にぶつけると、固まりは砕け、中から黒羽のブラスターが現れた。

「すげ‥‥。これ、ホンモノもこんな程度で効くんですか?」
赤星が目をぱちくりしながら聞いた。
「さすがにこの程度じゃダメらしい。例の尻尾の先っぽ、筑波大でも色々調べてくれてね。作戦としてはフレームモードで熱して、低周波音を流し込み、衝撃を与えれば‥‥って感じで‥‥」

田島が有望をちらりと見た。有望が頷くと続きを説明する。
「それで、マジカルスティックの駆動部分を一時的に低周波音振動の発生装置に置き換えたの。ピンクスーツなら、フレームモードの熱に耐えられるわ」
「え。ちょっと待て、有望! 瑠衣に炎を浴びせる気か!?」
赤星が目をむいて、抗議の声をあげた。

「熱と低周波音振動は同時に与えないとならない。グリーンスーツでもぎりぎりなんとかなるけど、ピンクスーツの方が安全なの。あなた達のスーツも確かに一度、耐熱強化をしたけど、せいぜい耐えられるのは1000度で1時間。ピンクスーツのようにはいかないもの」
「そっか‥‥。しょうがねえな‥‥。で、あとはぶん殴りゃいいんだろ?」
「レッドやブラックのスーツじゃ、ちょっと火傷しそうね‥‥」
「キッチンミトンならたくさん買い置きがあるんじゃがの。持ってくか、竜?」
「博士〜〜〜」

デスクにオーバーにこけた赤星の眼差しが、パネルを見上げた途端、いきなり真剣な色を帯びた。がばっと起き上がるとコンソールに大股で近寄る。その時には他の3人も、赤星の行動の意味がわかった。

5つのモニタの上にそれぞれある、リーブレスの状況を示すランプ。

黒羽のそれは完全に消えてしまっていた。


===***===

髪の中を抜けていく空気の流れが心地よい。岩山の中の、それこそ猫の額ほどの草地には、様々な植物がゆらゆらと揺れている。高い鳴き声が聞こえて、例の大きな鳥かと空を仰いだが違ったようだ。鎧を全て脱ぎ捨てて全身で風を浴びたいと思ったが、さらうように連れてきた息子が目覚めた時に礼を失すると思ってやめた。

草地に座り込んだ黒い鎧の男は、手の中の小さな器械を再びひっくり返してみた。たぶんオズリーブスの通信機だと思われる。あの時。レッドリーブスだった男も、この器械に色々話しかけていた。
二人きりの会話をジャマされたくなかったのでワープの前に取り上げたら、はずみで動力が切れてしまった。そのあと少々いじくりまわしてみたのだが、うんともすんとも言わない。一度オフにしたリーブレスが指紋照合を行わない限りオンにならないことなど、スパイダルの参謀が知る由もなかった。

ブラックインパルスの右手側にはいつも彼が着ている黒いマントが延べられていて、気を失った若い男が横たわっている。愛用しているらしい帽子も胸の上にそっと置いてあった。軽くこちらを向いた寝顔に、時々、気まぐれな風が髪を吹き散らす。数度掻き上げてやったが目を覚まさなかった。少し強く打ちすぎたかと心配になったが、その身体は穏やかに息づいている。剛胆な色を失わない瞳は今は閉ざされて、そこには、昔、飽かず眺めた幼き者の面影が確かにあった。

不思議な感覚だ、とブラックインパルスは思った。

暗黒次元の強者達と比べればずいぶんと脆い肉体とはいえ、これだけ強靱な精神力を持った存在をどこか庇護したいと思うのは何故なのだろう。これが子供というものなのだろうか? 


遙かな長い間、男にとって家族とはまったく意味のないものだった。戦いと、勝利と、そして皇帝の理想のために働いているという満足感。それが男の全てだった。かつて地球に降りた時も、その豊かな風景に感心しながら、この世界も最終的には皇帝の作る理想郷の一つとなるのだと勇みたったものだった。

それがいきなりの衝撃に巻き込まれ、次に気が付いた時は、まったく知らぬ衣服に身を包み、見たことのない場所にいた。紆余曲折の後、やっと暗黒次元に戻って初めて、7年もの歳月が流れていたのを知った。自分がどこで何をやっていたか、思い出そうとしてもひどい頭痛に悩まされるだけだった。だが当時の四天王たちを始めとして、何より皇帝自身が元通りに自分を迎え入れてくれたし、こうなっては過去にこだわるのは愚かに思えた。復帰したブラックインパルスは今まで以上に職務に励むようになった。

生粋のスパイダル貴族から選ばれることが常だった四天王だが、世代交代を機に、スプリガンのような傭兵上がりや、ゴリアントのような異形も登用された。貴族達の中には眉をひそめるものもいたが、公平な実力主義は民衆に圧倒的に受け入れられる。帝国参謀ブラックインパルスの名は、多くのシチュエーションで好意と共に人の口端にのぼり、それはそのまま帝国の活力の源となった。


全てが軌道に乗ってかつてのように回り出した頃に、男は少女と出会った。未来と過去を夢に見るという、黒い髪、黒い瞳の少女に‥‥。

それが全てのきっかけだった。アラクネーの黒い瞳を覗き込むと、そこには様々な情景が映っては消えた。

幼い少年の黒いつぶらな瞳にも無垢な信頼と敬慕がこれでもかというほど込められていた。それがよたよたと危なっかしい足取りで一心に自分に駆け寄ってくる。その側にはいつも、物静かな美しい女。過去のない自分をひたすらに見つめていた。

波のまにまに浮かんではまた沈む漂流物のように、記憶の断片が、男の中をたゆたい始める。

ふわふわと頼りない赤子の細髪。柔らかい頬ずりの感触。ほのかに甘い懐かしいような香り。何が嬉しいのか、ころころとひたすらに両手の中で笑い転げている。手足をばたばたさせて‥‥。
鈴の音のようにか細いのに、ゆったりと、しっかりと、こちらを包むような不思議な女の声。腕の中にすっぽりと収まってしまうその細腰や薄い肩の手触り。手品のように結い上げた長い髪がほぐれ、磁器のようになめらかな躰に艶やかにまとわるその刹那‥‥。

それらは、リアルな感覚を伴って、男を、時には甘美な空気で包み、時にはひどく戸惑わせた。


いくら記憶を失っていたとはいえ、なぜ自分が伴侶を得、子をなしたのか、男にはわからなかった。女と子供を思い出すたびに心に浮かぶこの感情がなんであるのかも、男にはわからなかった。そして何より、この疼きをどうしたらいいのかが、わからなかった。ただ一つわかっていたのは、この不安定さを誰にも知られてはならないということだった。

好むと好まざるとにかかわらず、自分はスパイダルの要であった。何より、皇帝陛下の最も忠実な僕なのだ。あのお方を失望させることなどあってはならない。物心ついた時から、あの高貴な声は、決して身分の高くなかった自分を折に触れて訪れ、励まし、時に諫め‥‥常に見守ってくれて‥‥。それに導かれるままにやってきたのだから‥‥。

この世界は、所詮スパイダルのものになる。そうなった暁にはオズリーブスはどうなるのか。大人しく従うならいいが、でなければ‥‥。秩序を守るためには処刑するしかなくなる。だいたいその時までに連中が生きている可能性は低い。そうなる前に、ぜひともこの息子を自分の部下にしてしまいたいと、ブラックインパルスは思っていた。

(前へ) (次へ) (表紙)
(一覧表へ) (龍球TOP) (TOP)