★第26話 (14/20)
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シェロプの話を聞いてすぐ、赤星はオズベースと連絡をとった。敵の言ったことが事実なら、今、目の前にいる紅い化け物が空間を歪め始めたら、M島だけでなく周辺の有人島々もみな破壊されてしまう。準備に入ってもらってはいるものの、全島の住人を避難させるにはどうしたって時間がかかる。彼らの言っている両方の次元を「直接つなぐ」というのがどういうものか具体的にはわからないが、OZ襲撃の時のような大量の軍備を投入されたら目も当てられない。

来る途中、状況はオズベースから聞いた。シェロプの言とは異なりブラックインパルスは本人の意思ではなくこうなっているらしい。だが、どちらにしろ、この血色の怪物は倒すしかないのだ。幸い敵の動きは鈍くなっているようだしソニックブームも奪うことができた。バズーカはオズブルーンに搭載してあるし、リーブロボは既に基地を出発している。

後方。救出された黒羽はまだ左肩を押さえて膝をついたままだ。輝と瑠衣が両脇で心配そうに覗き込んでいる。困ったことにやせ我慢にかけても日本一の親友だが、鎖骨の折れた状態でこれ以上戦うなど、無理な話だった。
「バズーカだ! 一挙にカタをつけよう」
「おうよ!」
他の三人をかばうようにブラスターを構えて仁王立ちになっていた黄龍が右手を高く挙げた。
その時‥‥。

「あっ?」
他の4人より怪物に近い位置にいた赤星は、いきなり強い立ちくらみを起こしたようにがくんと膝をついていた。直後、仲間たちからも同様の叫び声があがる。自分の手からスーツが解除されていくのを、そして、目前の紅いボディのあちこちに緑色の稲妻が走り始めるのを、赤星は恐怖の目で見た。
「オズベース! 空間が‥‥!」

「やめろ! やめてくれ!」
その声に驚いて脇を見た。いつの間に近づいたのか、血の気を失い苦痛に歪んだ黒羽の顔は、まっすぐにスパイダル参謀の姿を見据えていた。

「やめて‥‥くれ! それが、あんたの望んだことか!? これで本当にいいって‥‥」
そこまで叫んで崩れた友の身体を抱き留めながら、赤星は愕然と、化け物の発するしわがれた声を聞いていた。
「‥‥これ以上、抑え‥‥きれん‥‥。息子を‥‥。健を連れて‥‥逃げて、くれ‥‥」

悲鳴を呑み込むような声がした。肩越しに見やると、すぐ後ろで瑠衣がかくりと膝をつき、呆然と黒羽を見つめている。その肩を抱えるようにしている輝の瞳も真ん丸でこぼれそうなほどだ。ブラックインパルスと黒羽の話し方がどこか親しげで、違和感を感じていたのは事実だった。
「じょーだん‥‥だろ‥‥?」
小さく呟いた黄龍だが、黒羽の取り乱した様子や無言の背中は、敵の言葉を肯定しているとしか思えなかった。

自分の腕の中の黒羽は堅く目を閉じていた。その白い横顔には、辛苦と悲嘆と焦燥と‥‥もはや笑みに紛らすことも叶わない剥き出しの思いが浮かんで、赤星の胸に突き刺さってきた。それが故に、敵の参謀が親友の父親だ‥‥などという信じられない事実も、妙に納得できた。

今までひっかかっていた色んなパーツがあるべき所にはまっていく気がしたのだ。あの洞窟でブラックインパルスが見せた黒羽への異常な執着。たぶんそれが故に自分の首は今こうしてつながってる。寄生虫事件の時の少々筋の通らない黒羽の拉致と不自然なほどの無事な帰還。そしてその夜の黒羽の、あまりにらしからぬ自棄的な態度‥‥‥‥。

「ブラック、インパルス‥‥。あんたはブラックインパルスなんだな?」
赤星の声は少し震えていた。だが、自分が何をすべきかは決していた。尋ねたのは、ただ、これから己が何を負うことになるのかを、自分自身に叩き込むためだった。

「そう‥‥だ‥‥。しかし‥‥身体は‥‥もはや‥‥私のものでは‥‥ない」
「小さな黒羽を残して行方不明になって‥‥、スパイダルの世界に行っちまったのか?」
「逆だ‥‥。私が‥‥記憶を無くして‥‥この世界に居たのは‥‥ほんの数年‥‥。だが、息子と再会できて‥‥嬉し、かった‥‥」

黒羽が顔を上げた。瞳を大きく見開いて何か言おうとしたが、言葉にならない。赤星は友から視線を引きはがし、再びブラックインパルスを見つめた。
「その紅いヤツが空間の歪みを引き起こしてるのはホントなのか? あんたとその紅いヤツは離れられないのか?」
「‥‥ムリだ‥‥。バイオ‥‥アーマーは、私の体中に、組織を張り巡らして‥‥‥」

「お、おい! あれ!」
その声に、全員が黄龍の指さす方を見た。右手、少し離れた位置には放心したように座り込んでいるアラクネーと、直立不動のスピンドルがいる。その脇の空間に陽炎のような揺らぎが現れ、ビロードのような光沢を持った濃紺の軍服姿が現れた。
「シェロプ!」

完全に実体化するより早く、シェロプはブラックインパルスに向かって跪いた。ゆっくりと上げた顔は、心なしかいつもより青白く感じられた。
「参謀ブラックインパルス殿。最期の任務、この魔神将軍シェロプが見届けさせていただきます」

「シェロプ! この裏切り者!」
洒落た軍服に掴みかかったのはアラクネーだった。
「貴様が、裏で‥‥! こ、の、恥知らず‥‥っ!」
フードがはずれ、黒紫の髪が乱れ舞った。それは見ている5人すら息を呑むほどの怒りの爆発だった。

「口が過ぎるぞ、アラクネー」
シェロプは立ち上がり、少女の両腕を掴んで襟元から放させた。
「すべて、皇帝陛下の思し召しである! 次元の壁をうち破るパワーを持つ特殊バイオアーマーデュプリックを使いこなせるのは、黒騎士殿しかおらぬ!」

その声にはいつものような嘲笑めいた響きがなくて、アラクネーはされるがままに手を緩めるしかなかった。シェロプにしても黒騎士への尊敬が皆無というわけではなかった。自分の行為の結果を目の当たりにする今、わずかの畏怖も無いと言ったら嘘になった。

シェロプは5人の地球人たちに向き直った。
「お前達がオズリーブスか。真実、ただの人間だったとはな‥‥。今、デュプリックが作り出した歪みによって、我々の次元と三次元に小さな口が開いた。あと1時間もせぬうちに、この空間は三次元ではなくなる。ストーンを持たぬ者が存在することは不可能だ。諦めるのだな」


「‥‥聞いての‥‥通りだ。知らな、かったのは‥‥私‥‥だけだった、ようだな‥‥」
自嘲を含んだ苦しげな声がして、5人はまた紅の怪物に視線を戻した。ブラックインパルスは既に地に崩れ、両手で自分の腹部を押さえ込むようにしていた。
「‥‥息子よ‥‥。その友よ‥‥。早く‥‥逃げろ‥‥」

赤星は既にブレスレットが機能していることを確認していた。さっき着装が解けた時はもうダメかと思ったが、いきなり空間が歪み始めたショックによるものだったらしい。現に今朝は次元回廊が開いている状態で地下の基地で着装できたのだ。電磁波遮断システムが動いていない限りオズリーブスとしてフルに動ける‥‥。戦える‥‥。そして‥‥、殺せる‥‥。

「‥‥黒羽‥‥」
親友の瞳をまっすぐに覗き込んだ赤星の声は小さく、だが、とても優しいものだった。
「俺を、一生、憎め。俺だけを‥‥。全部終わったら、どんな償いもする。俺の命だってやるよ。でも、今は‥‥。今は、お前はオズブルーンで帰るんだ。わかったな」

赤星は黒羽に回していた腕をそっとほどいた。船酔いのように押し寄せる不快感を振り払うように立ち上がると、前に踏み出して叫んだ。
「着装!」
金色の光が男を包み、赤く実体化していく。レッドリーブスとなった男は仲間を振り返ると言った。
「イエロー、グリーン、ピンク。ほんとにすまねえけど、手伝ってくれ」

瑠衣がふらりと立ち上がった。輝がこっくりと頷く。黄龍が静かに左腕を胸に引き寄せた。
「着装!」
3つの声が重なる。それとかぶるように赤星はブレスに叫んでいた。
「オズベース、リーブロボできるだけ早くよこして下さい!」
右手を上げながら、バズーカを呼ぶ。
「ス‥‥」

「スターバズーカ!」
振り向いた皆の目に映ったのは、青空に挙がった白い手袋だった。

「お前!」
「だめだよっ」
「黒羽さん!」
「おいっ」
一斉に発せられた仲間の声に、泣き笑いのようなウインクを返すと、黒羽はぐっと左手首を掴んだ。
「着装!」

降りてきたバズーカの砲手の位置に、タッチの差で早くとりついたのは黒羽だった。後手をとった赤星に有無を言わさぬ声で言った。
「せめて、オレにやらせてくれ。頼む!」
否応なく赤星が自分のリーブレスをセットする。他の3人も次々にそれに倣った。

吸い込まれそうな砲口が、衝撃を待つかのようにうずくまったままの紅い姿にぴたりと合った。

「ファイヤ―――ッ!」


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