★第26話 (16/20)
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ぐらりと身体を襲った感覚はなんとも強烈だった。
「プロテクトモードにするんだ!」
デュプリックはパチパチとエメラルド色の光を放っている。例のディメンジョンクラッカーが放っていたと同じ光だ。赤星は仲間の着装が解けていないことを確認すると、だっと血色のボディに切り込んでいった。
実体の無い敵相手に攻撃が効くとは思えない。だがさっきシェルモードとソニックブームを受け流した時、デュプリックは光っていなかった。戦闘中は空間を歪ませることができないのかもしれない。倒せなくてもせめて時間を稼がねば。このあたりに住んでいる人たちが避難する時間を‥‥!
「リーブチャクラム!」
「ライトニングピアスっ!」
大きな鎌のような軌跡を描く黄龍のチャクラムも、逆から飛び込んできた輝のブレードも、デュプリックの身体が確かにあるはずの空間を、ただ通り抜けていく。だが。
「エレクトリックサイクロン!!」
瑠衣のマジカルスティックが後頭部を直撃した時、怪人は初めてびくりと硬直したように見えた。
「効いてるの!?」
瑠衣は飛び降りざまに、今度は怪人の胸部にスティックを押しつけた。
「沈め、ピンク!」
赤星の声に瑠衣は反射的に身を沈める。小柄な身体を捉えようとした紅く太い腕が宙を切った。
「くらえっ!」
後退した瑠衣と入れ違いに上空から飛び込んできた赤星がソニックブームを振り下ろす。交差した腕に斬りつけると、怪人の両腕が前腕からすぱり、と跳ね飛んだ。
「やっ‥‥危ないっ!」
輝の歓声が警告に変わる。切られた腕が目にもとまらぬ早さで伸びて、赤星のボディを直撃した。
「ぐっ!!」
吹っ飛ばされた赤星が背中から倒れ込む。
「レッド!」
赤星はすぐさま立ち上がって怒鳴った。
「へっ 殴ってくるってことは、こっちも行けるぜ! 攻撃してくるとこが狙い目だ!」
切り口から例の繊維のようなものが吹き出し腕の断片を取り込んだ。そしてその腕を長く伸ばすと鞭のように振り回して4人をなぎ倒す。とんでもない力だった。デュプリックはそのまま後方に跳びすさり、ぐんと伸び上がるようにその紅い身体を緊張させた。ぱきぱきと音が聞こえてきそうなほどに、その姿を緑の稲妻が覆った。
「ヤツを止め‥‥!」
突っ込もうとした4人は、白い布が空をはためいたように感じて思わず立ち止まった。強く光を反射する小さな粒が宙に浮いている。既に立ち上がっていた黒羽は着装前だったため、その強烈な輝きに目を覆った。
「ああっ!」
光る粒子が人間めがけて集まる! 大きな電位差の静電気が身体の周囲に生じ、全身をバチンという衝撃が襲った。鋭い鞭を同時に全身にくらったようなショックに4人とも崩れ込んだ。
直前、黒羽の手が強く引かれた。仲間の悲鳴が聞こえた時には既に、黒羽は覆い被さるように立ち上がった父親に抱きすくめられていた。苦痛に満ちた父の呻き声が身体中から伝わってきた。
「初めまして、みなさん。お会いできて光栄ですよ」
若々しくてよく通る、ひどく気取った声が響き渡った。大きく翻った真っ白いマントがふわりと定位置に戻る。怪人の前に一人の人間が出現した。
どちらかといえば小柄な印象だが、マントの中のしっとりと黒い軍服にはこれでもかというほど勲章が溢れている。金髪に縁取られた色白の顔が傲然とあがり、人を見下すことに慣れきった青い瞳が、五人の敵と‥‥過去のライバルを見やった。
とっさに息子を帯電粒子の衝撃から庇ったブラックインパルスがずるりと頽れた。黒羽がそれを抱き留めて膝をつく。
「ファン‥‥トマ‥‥‥」
父親がやっとの声で呟いたその名前が、脳髄に突き刺ささるような気がした。
「てめえ‥‥、何モンだ?」、
赤星がよろりと立ち上がると同時にシェロプがその若い男に駆け寄り、跪きながら驚きの声をあげた。
「ファントマ参謀閣下! こ、こんな実験段階で、閣下自らおいでにならなくても!」
「やあ、シェロプ。ご苦労。私はこう見えてけっこう強靱でね」
そうシェロプに笑いかけたファントマは、悠然と赤いスーツに視線を戻した。
「いや、申し遅れた。私はスパイダル帝国参謀ファントマ。三次元侵攻の最高指揮官につい先ほど着任した。前司令官に替わってね」
ファントマは他人の気持ちを逆なですることを楽しむかのように薄く笑うと、こう言った。
「ブラックインパルス。デュプリックを見事に育て上げてくれてありがとう。皇帝の仰せの通りだったよ。あんたにならできるってね」
ブラックインパルスは無言だった。黒い瞳を見開いて確かにファントマを見ているのだが、表情はあまりに静かだった。むしろ何も聞こえないでいてくれと、黒羽は祈った。だが、男は、色味をすっかり失った乾いた唇を開いた。
「ファントマ。おまえは‥‥」
もはや立つことも叶わず、息子に体重を預けながらも、驚くほどしっかりした声だった。
「なんだい?」
尊大な態度で、金髪の青年が答える。
「おまえは、皇帝陛下に‥‥、本当に忠誠を誓っているか?」
予想外の言葉に、ファントマは拍子抜けしたように答えた。
「‥‥当然だ。それが何か?」
「ならば‥‥いい。‥‥私は、これで、あの翼になれる‥‥」
「ふん‥‥強がりもいいかげんに‥‥」
言いかけたファントマがさっと後ろに飛んだ。なびいたマントを切り裂いたのはブラックインパルスの愛剣だった。
「三次元人ってのは無礼だね。人が話をしてるってのに」
「てめえのシュミに合わせたまでだ。騙し討ちが好きらしいからな」
赤星が吐き出すように言う。ブラックインパルスが重傷を押して黒羽を庇ったのを、はっきりと見た。これ以上、見るだにイヤらしいこの男が、親友の父親をなぶるのを聞いていられなかった。
「もうすぐこの付近はデュプリックが作る歪みに巻き込まれる。キミ達はさっさと逃げた方がいいと思うよ」
「そんなことさせるか!」
「大発明がわかってもらえないかなぁ! 他次元に固定したストーンを持つ特殊バイオアーマーを宿主の中で育てると、ストーンは双極子化し、宿主のパワーを吸収した人造兵器になるんだ。キミたちに勝ち目は無いと思うよ。―――シェロプ!」
「はっ」
「案内を。アラクネー。お前も一緒に来るように」
黒羽がびくりと身をすくませた。アラクネーが自分たちのすぐ傍にいたことに、まったく気づいて居なかったのだ。少女は黒紫の瞳を大きく見開いたまま、ゆっくりと頭を振った。
「一つの歴史の最期を見届けるもいいだろう。では諸君、健闘を祈る」
「この‥‥っ」
冷笑を残してファントマとシェロプが消える。そして足下から不気味な地鳴りが響いてきた。
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