★第26話 (19/20)
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「あ! スター‥‥!」
瑠衣が見やった先、青空を背景に二つの機影があった。ジェットドラゴンとスタードラゴンだ。彼らだけならとうの昔に到着しているはずだが、ランド以下のマシンはそうはいかない。海上保安庁の特殊ジェット船で運搬されて、やっと港に入る所だった。

「他の子もちゃんと来られたのかなぁ‥‥」
少し夢うつつの風に空を見上げて立ちつくしてしまった瑠衣の手を、輝が引っ張った。
「ピンクってば!」
「あ、ご、ごめん」
瑠衣の疲労は限界を超えているように思えた。こうなると身体は機械的に反応しているだけだ。ちょっとしたことで、思考は吸い込まれるように他のことに奪われてしまう。

とはいえ「少し休んでて」なんて忠告を大人しく聞く子ではない。子供っぽくて可愛らしい外見とは裏腹に、この少女が実はかなりの頑固者であることを、仲間の中で輝だけが的確に見抜いていた。可能な限り近くにいるようにしなければと、輝は思った。

4人の動きが徐々に重くなっていく中で、デュプリックは相変わらず敏捷だった。紅い触手がブラスターめがけて信じられないスピードで伸び進む。黄龍の両腕が触手に絡み取られ、シェルモードがあらぬ方向に火を噴いた。その瞬間、ほとんど体当たりするように赤星がソニックブームを突き込んだ。確かに手応えがあったのに、途中からいきなり肩すかしをくらったように身体がつんのめる。赤星は怪物の身体の中を、悪夢の思いで通り抜けた。

赤星が向きを変えるより早く、瞬時に実体化して変形したデュプリックの紅い刃がその背中に襲いかかった。輝と瑠衣がそちらに駆け寄ろうとした時、その脇を黒い風が走り抜けた。
「ブラック!?」
出力を上げたブレードで刃を弾いた黒羽が、そのままデュプリックに突っ込んだ。だが、紅い身体は相手をあざ笑うかのように非実体となり、地上から少しだけ浮き上がると滑るように後退した。

「ブラック!」
4人が黒羽の傍に駆け寄る。まず瑠衣が、そしてあとの三人も、さっきまでブラックインパルスが倒れていたあたりを振り返った。そこには少女が一人うずくまっているだけだ。
「親父さんは‥‥?」
言いかけた赤星の前に黒羽が手を差し出し、拳を開いた。掌には長径3センチほどの楕円形の石が乗っている。
「それ、ディメンジョン・ストーン!?」
輝がゴーグルの中で目を丸くした。旧型のアセロポッドの額に輝いていた石とよく似ていた。

「ヤツの身体にこれを撃ち込めば、実体化すると‥‥」
「それって‥‥あんた‥‥まさか‥‥!」
黄龍が呻きを呑み込むような声で言った。怪人を倒した後のディメンジョン・ストーンに幹部の手が加わると、死んだ怪人は巨大化して蘇る。だが、幹部がいない時はストーンはすぐに黒変して消滅してしまうのだ。だがこのストーンは美しく緑色に輝き続けている。ということは、単純にブラックインパルスが死んでこの石を残した訳ではない‥‥‥‥。

「あの人が望んだんだ‥‥‥‥だから‥‥‥」
黒羽が緑色の貴石を握りしめる。
「‥‥‥よし。やってみよう」
一瞬の逡巡のあと、赤星が言った。

「ああしてビカビカしてる時は実体になってる。ただ、幽霊になって避けられたら終わりだ。俺達が今まで通り仕掛けるから、こっちを攻撃してくるところを狙ったほうが確実だと思う」
「わかった」
「黒羽がストーンを撃ち込んだら、すぐにドラゴンアタックでケリをつける」
「‥‥もし‥‥効かなかったら?」
瑠衣が少しだけ不安そうに聞いた。
「どっちにしろこっちも限界だ。あとはリーブメカで行こう。いいな?」
「おう!」

四人がだっと駈け出した。黒羽の持っているストーンの意味するものが、疲れ切った皆の足を動かす。その小さな石に込められたかけがえのない重さが、得物を握る腕に力を注ぎ込む。己の身体のどこにそんな力が残っていたのか不思議なほどだった。


なんとかなるかもしれないと、赤星は思った。
ファントマは、デュプリックの持っているディメンジョン・ストーンは双極子化していると言った。磁石のS極とN極のように二つの極を持ち、状態を使い分けているということか。そうであるなら、たぶん普通のストーンは同時には一つの状態しか持てない次元単極子なのだろう。

この三次元におけるモノポール同様、暗黒次元では次元双極子が探求され続けていたのかもしれない。それをファントマは反吐の出るような方法で人工的に作り上げたのだ。プラスとマイナスの電荷が均衡しているところに、プラスを加えれば全体ではプラスになる。その原理が次元粒子とやらにも通用するなら、ブラックインパルスのディメンジョンストーンによって、デュプリックの身体はこの次元用に固定されることになる。

だが、そんな理屈以上に‥‥。

黒羽が、親父さんの命と引き換えに、持ってきてくれたんだ。

効かないはずがねえ! 


4人はあえて飛び道具を使わず接近戦を展開していた。攻めすぎてはいけない。特にボディは避けなければ。やりすぎればデュプリックはまた非実体になってしまう。自分たちはあくまで囮だった。デュプリックに非実体になる必要性を感じさせずに「夢中」にさせることこそが目的なのだ。

黒羽はチェリーの鏃の内部にディメンジョンストーンをセットした。仲間の受けるダメージが目に見えて多くなってきた。逸る気持ちと鼓動をなんとか抑える。デュプリックの外殻は堅い。チェリーで貫くのはムリだ。だから傷口を狙うしかない。

デュプリックの右手が飛び回る輝に翻弄されている。ぽーんと後ろに飛んだグリーンのボディを追いかけて手を伸ばす。その付け根のあたりをソニックブームがばっさりと切り落とした。デュプリックが何度もやってみせたように、傷口からばっと繊維を吐いた。

それが狙い目だった。

黒羽の位置からは信じられないほど巨大で毒々しい彼岸花が咲いたようにも見えた。チェリーの矢がその花芯めがけて吸い込まれるように飛び込む。デュプリックはそれを食らい込んだまま、自らの触手を形作ろうとした。その身体ががくんと引き攣る! 

「みんな!」
その声が誰から発せられたのかもう分からない。黒羽の元に4人が集まる。いつものような少し広がった形ではない。瑠衣と輝は膝をつき、その後ろに3人、ほとんど重なるような陣形だ。
「ドラゴンアタック!!」

アラクネーが思わず立ち上がる。食い入るように両者を見やる。5人の身体が金色の輝きに包まれた。両手の中にその光が集まっていく。5人の人間が煌めくエネルギーボールをすっと押し出した。
「シュート!!」

リーブ粒子の5つの球体は、螺旋状に絡み合いながら渾然一体と直進し、怪物の腹部に捻り込んだ。
「‥‥ギ‥‥‥‥ギ‥‥」
今まで言葉を発しなかったデュプリックがそんな声を漏らした。もしかするとそれは組織の擦り合わされたただの音なのかもしれなかった。エネルギーが怪物の内部を浸食する。堅い甲羅状のつなぎ目から金色の光が覗いたと思ったら、デュプリックははどうと倒れ、くしゅくしゅと壊れていった。

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