★第26話 (2/20)
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「その特殊空間の見つけ方はまだわからんのか、赤星」
「はい、残念ながら。外からの電磁波を完全に素通しにするのに、内部の電磁波は外に出さない。内部では電子機器も一切使えないなんて、今の科学じゃ想像がつかないしろものなんです」
こぢんまりした会議室の丸テーブルの一番奥にいるのは浅見警備局局長。隣には特警本部長の風間が座っている。入り口の側の席に座っている瑠衣の"ランボーそうなおじさん"は、浅見の質問に大人しく答えていた。
「すみません‥‥。せめてこの前の基地が爆破されてなきゃよかったんですが‥‥」
スパイダルの怪人やアセロポッドが持っているディメンジョン・ストーンは、特殊な電磁波を出しているから、普通なら範囲を絞って細かい走査をすれば場所が特定できる。だが、スパイダルの特殊空間の内部に閉じこもられたら、今までのやり方では探知不能だった。
「結局、無線や携帯電話のトラブル情報を頼りにするしかないわけだな」
浅見の確認に今度答えたのは風間だった。
「電話会社各社とアマチュア無線の同好会に協力を頼んで、データをマドックスに集約しています。ただ、対象者がその空間に入るから無線が届かなくなるわけで、その対象者が事件に巻き込まれる可能性は高い。そうなってはもはや情報と言うよりSOSと同じですな」
「そうだな‥‥」
眉間に深い皺を寄せて、浅見はデスクに両肘をついた。組んだ両手に顎をつきかけて、赤星の左手側にいる西条を見る。
「新しいアセロポッドの方はどうだ? なんとか対抗できそうか?」
西条はちらりと赤星を見てから答えた。
「はっきり言って、よほどの装備がないと倒せないというのが実感ですね。例の寄生虫事件から2度、それぞれ5体ずつが出現してますが、結局毎回OZに出動を要請している状況です」
「それに関してはパリ本部から、アセロポッドの外殻を脆くするような薬品の研究が進んでると言ってきてます。連中の外殻は鉱物に近い材質で、その薬品を使えば、普通の拳銃でも貫通できそうなんです」
赤星の補足の間に西条が会議室に用意してあるノートパソコンをレジュームから揺り起こす。会議室の大きなプロジェクターにも液晶と同じ画面が映った。検死台の上に横たわっているのは灰黒色のボディ。損傷は殆どない。
「これは一昨日、発電所に現れたアセロポッドです。生け捕りにしようとしたんですが、捕獲した途端に動きを止めました。そのあたりは普通のヤツと同じですね。回収したどのボディも身体的規格が完全に一致してるんで、これが人工生命なのは間違いないでしょう」
画像が切り替わる。人体を輪切りにしたような写真が何枚も表示された。
「これが超音波スキャンの結果。頭部は完全にもぬけの殻。胴体の真ん中あたりに血管や神経系と思われるものが集中していて、ここが弱点だという赤星たちの証言とも一致します」
赤星が西条の隣に移動すると軽く合図してからマウスを取った。腹部の断層のうちの一枚を選び、その一部をポインタで指し示す。
「ここ。何か空洞になってるでしょう? こっちでも幾つか調べたんですけど、内部で金属が燃え尽きたような跡があるんです。動きを固定しただけで死ぬのはその装置だかなんだかが破壊されるかららしい。倒したアセロポッドは全てここが空洞になっちまってるんで、あくまで推測なんですが、その装置が人間の脳の役割をしてるんじゃないかと思われます」
「君の言う薬品ができれば、それを浴びせてライフルで弱点をぶち抜くことができそうだな? メドがついたら連絡してくれ。装備に組み込めるように考えよう」
「はい。本部の方にも早めに一区切りつけて回してくれるように連絡しておきます。新型にはけっこう体力取られるんで、そうなってくれたら助かります」
「接近戦じゃなくて済むなら、こっちもそれの方がいい。科警研には状況を言っておく」
いつもてきぱきとムダがない風間の顔を見つめて、毎度のことだけど黒羽に似てるよな、と心の中でつぶやく。目が似てるんだ。あと口元とか顎の感じとか‥‥。でもこの人、かちかちにお堅い警察庁のキャリアだもんな。黒羽は風の吹くままにどっか行っちまって、どこで何抱え込んでるのかぜんぜんわかんねえし‥‥。両極端だなぁ。足して2で割ったらちょうどいいんじゃねえか‥‥‥?
「少し疲れているようだな、赤星」
いきなり風間にそう言われて思わず姿勢を正した。少しぼうっとしていたようだった。
「いっ いえ‥‥。すみません。‥‥ただ、もう既にやつらがどっかに基地を作っててそこで何かやってんじゃないかって、気になって‥‥」
「気にしても行動に繋げることのできないものは気にするな」
「はあ‥‥。俺もそのつもりではいるんですが‥‥」
「博士達に任せておけることは全部忘れろ。レッドリーブスとしての役割に傾注することが、今の君の責務だ。オズリーブスは対スパイダルの最重要戦力であると同時に象徴なのだから」
「象徴‥‥ですか?」
「一般の人たちは‥‥いや、警察の多くの者も、オズリーブスがいるから大丈夫と思っている。人の集団が動くにはどうしても御輿がいるんだよ。難局であればあるほどな。そして御輿が、普通の人間と同じように苦しんだり疲れたりすることは、一般人からは忘れられがちだ。それでも君達は御輿で有り続けなければならんし、その要となっているのは君なのだ」
「‥‥そう言われると、虚像だけになったみたいで、なんかヤな気分ですね‥‥」
警察のトップクラスの人間たちを前に、至極素直に"イヤ"という顔をした赤星を見て、風間がにやりと笑った。
「こう考えてみるがいい。実像で有り続ければ、君は君を直接見知った人間しか救えない。だが象徴であるオズリーブスは、ある意味虚像かもしれないが、君を直接知らない多くの人間を助けることができる。どっちを選ぶんだ?」
眼前でぱんと手を叩かれた猫のようにきょとんとした赤星が、ちょっとだけ頭を抱えると、風間を見つめ返して苦笑した。
「ひでえ選択肢ですね‥‥。風間さんって浅見さんより質が悪いや‥‥」
「今頃わかったのか」
いきなりの浅見の一言に、部屋は釈明と苦笑と爆笑で満ちた。
===***===
フリーのカメラマンである笹木譲治は、ひょんなことから空撮の仕事を手に入れた。2年前から火山活動が活発になって、全島に避難命令が出ているM島の定期観察撮影である。スポーツカメラマンである笹木は空撮の専門家ではない。それでもヨットレースやラリー、マラソンなどで、ヘリからカメラを回したことは多かった。
だが、気象庁のヘリポートで担当パイロットと出会った時は、一瞬引き受けなきゃ良かったかもと思った。鞍田という背が高くて足が長い若いパイロットは(いや、その体型も気にくわなかったのだが)、えらくおしゃべりだったのだ。そうは言っても、M島上空なんぞこんなことでもなければ入れないし、必要なこと以外は右耳から左耳に流して我慢しようと心に決めた。
「笹木さんってここ、何回目なんすか?」
ヘリコプターを操りながら鞍田が人なつっこく話しかけてきた。
「初めてだって、最初言ったろうが」
「あ、そっかそっか。半月ぐらい前からまたY山活発化してて、測候所も人員を避難させちゃって、今、自動計測器だけなんですよー。だから写真が頼りだから、頑張って下さいねー。」
鞍田はそう言って、あっはっはっとでかい声で笑い、笹木はこれ見よがしに耳を塞いでみせた。
言われたように火口付近の写真を撮影する。今日は水蒸気ガスの量が多いせいか、なかなかはっきりした写真が撮れなかった。
「もう少し接近してみましょうか?」
言うが早いが機体がぐーっと急降下する。達者なのは口だけではないらしいと、笹木は若いパイロットを少し見直した。
「いいぞ! もう少しこのまま頼む!」
ビデオカメラを夢中になって回しながら笹木が叫んだ。
スティル写真もけっこう撮れた。空気のサンプルも無事採取。帰還しようと思った時笹木が言った。
「麓の方の写真は撮らなくていいのか?」
「いや、僕らあくまで、火山の観察飛行なんすから、そっちは‥‥」
「オレとしては、人里がどうなってるかの方がよっぽど興味があってね。まだ燃料あるんだろ?」
「もう‥‥しょうがないですねぇ。じゃ、一周だけ低空で回るかな」
鞍田はまんざらでもなさそうな顔で、スティックを握り直すと、なだらかな斜面に沿うようにヘリを低く飛ばせた。
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