★第26話 (20/20)
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「‥‥あ‥‥」
怪物は消えた。永遠に動き続けているかのように思えた乾いた血色の化け物は確かに消えていた。だがその事象と意味が結びついたのは、リーブレスのコールに気づいた時だった。
「みんな大丈夫か! 倒せたのか!? どうなんじゃ!」
「は‥‥博士。‥‥大丈夫です。怪物は消滅しました‥‥」
やったというリーブレス越しの歓声を聞きながら、5人の方は声もなかった。黒羽がふらりと怪物の倒れた位置に歩み寄る。赤星は放り出した剣を拾うと黒羽のあとを追った。
瑠衣が膝立ちの状態からそのまますとんと座り込んだ。それを支えようと輝が反射的に手を伸ばしたが宙で止める。輝は黄龍の顔を振り仰ぐと少し目を細めて顎をくいとしゃくってみせた。その妙に大人びた表情に黄龍は半分苦笑して、それでも瑠衣の脇に膝をついた。新型アセロ15人抜きをやった時の方がまだマシだった気がした。
焼けこげた大地の中ほどに、二つのディメンジョンストーンが落ちていた。一つは緑から黒にかけてのグラデーション。そしてエメラルドのように緑に輝く石‥‥。
黒羽は片膝をつき、それを拾い上げようとした。だが二つの石はいきなり黒変したかと思うと、乾ききった砂の固まりのように、吹き散らされ、消えていった。
その風の行方を目で追った黒羽の肩に、そっと手が置かれた。肩越しに見やると友の眼差しが降ってくる。感情を素直に表に出せない自分を埋め合わせるように、幾多の喜びに輝き、哀しみに陰ってきた黒曜石の瞳だ。それが今は、ただ深く沈んでいる。
「黒羽‥‥‥」
赤星は続ける言葉に少し迷い、そして言った。
「‥‥ありがとう‥‥。‥‥本当に、すまなかった‥‥」
黒羽が赤星を見上げ唇の片端を歪める。それはかろうじて笑みに見えた。
「‥‥いや‥‥。これで‥‥よかったんだ‥‥」
赤星が身体を起こすと、数歩身を引いてソニックブームを眼前に上げた。息を詰めて刀身を眺め渡すと、ハンカチを引っ張り出してそれを拭う。左手で柄を持って右手を刀身に添えると刃を自分に向けるようにして、その剣を丁寧に黒羽に差し出した。黒羽にとって大切な形見になるはずのものだった。
黒羽は立ち上がってそれを受け取ると、高くなってきた陽の光にかざしてみた。しばしその刃に見入る。と、それを左手に持ち替えて、歩き出した。その先には異界の少女がその剣の鞘を抱きしめて立ちつくしている。取り返そうというのか? だが怪我をしているのに、わざわざ利き腕でない左で持っているのは戦意が無い証で‥‥。黒羽の意図を測りかねて、赤星もあとの3人も思わずその背中を見送った。
黒羽はアラクネーに近寄ると、剣を差し出した。刃を自分の側に向け、刀身に手を添えて。少女は目を見開き少し後じさったが、攻撃しにくいその体勢の意味は異界の人間にも通じたようだ。おずおずと近寄ってきて手を伸ばした。だが少女が柄に手をかけるより早く、黒羽の右手が少女の持っていた鞘を掴んでいた。
「‥‥や‥‥っ き、さま‥‥っ」
アラクネーが鞘を引こうとするが黒羽の力のほうが上だった。鞘を奪い取られ、少女の顔が怒りに紅潮した。
「‥‥この、卑怯も‥‥!」
喚こうとしたアラクネーの眼前に、きちんと鞘に収まり、もはや抜ける者のいなくなった一振りの剣が、再び差し出された。
「持っていけ」
アラクネーは黒羽の顔をまじまじと見つめた。男の表情は硬く厳しいものだった。殺気は無いが優しさも皆無だ。なまじこの男がどれだけ柔らかい微笑を浮かべることができるのか知っているだけに、憎くなった。
「早く取れ」
冷たい声で黒羽が畳みかける。
「理由を言え」
自分の声もまた、同じくらい冷ややかに聞こえるように祈りながら、アラクネーが答えた。
「あの人の願いだったからだ。あんたはあの人を最期まで尊重してくれた。‥‥‥‥だが‥‥」
黒羽が顔を上げ、少女の瞳を真っ向から見据えた。
「あんたたちがやってきたことを認める気なぞ毛頭無い。もちろん、あの人のやったことも同じだ。オレは、他人の世界を不当に踏みにじろうとするヤツらを、許すことなどできん」
「わたしだとて!」
アラクネーが叫び返した。
この男は司令官が父親であると知っていて刃向かったのよ。だからあのお方は追いつめられて‥‥。‥‥あんなにも‥‥‥‥。あんなにも愛されていたというのに!!
「わたしは司令官を殺した者たちを絶対に許さない! その中にはお前たちも入ってるのよ!」
我が主よ‥‥。
この世でただ一人、貴方様だけを信じて‥‥私は‥‥‥‥!
‥‥‥‥なのに‥‥‥‥‥‥‥‥
「わたしもお前を許さない。覚えておくのね!」
「上等だ」
黒羽が短く言うと剣をぐいと突き出す。紫の火焔が舞いそうなほど瞳に怒りをこめて、アラクネーはソニックブームの柄を掴んだ。少女の左手がしっかりと鞘も支えたことを確認して黒羽が手を放す。大きな剣が、主の息子の手から忠実な部下の手にずしりと重みを移した。
少女がブラックインパルスの形見となったそれをぎゅっと抱きしめて、数歩後じさる。男を上目に睨んだまま、アラクネーの姿はそのままふわりとかき消えた。
背中から複数の足音が聞こえて、聞き慣れた声が聞こえた。
「黒羽‥‥‥‥」
黒羽は背中を向けたまま、少し空を仰いだ。事実は事実、過去は過去‥‥。だが‥‥。
「‥‥とにかく、帰ろうぜ、な?」
黒羽はくるりと振り返り4人の仲間を順に見やる。赤星に視線を戻して言った。
「‥‥オレは、このまま‥‥。いいのか?」
赤星が黒羽に歩み寄ると、いきなりその額をぴんと弾いた。
「バカ云ってんじゃねーよ。ほら、さっさとオズブルーンを呼んでくれ」
「そーだよ、黒羽さん。オレ、もうハラペコだもんっ」
「瑠衣、早く帰って、シャワー浴びたい〜」
輝と瑠衣がまとわりつくように黒羽に駆け寄った。その時‥‥
「‥‥おい‥‥。あれ‥‥‥‥」
黄龍の長い腕がゆっくりと上がる。4人がその手の示す先を見た。スパイダル幹部が瞬間移動してくるときの陽炎が現れている!
「黒羽、オズブルーンを! オズベース、リーブメカを緊急配備!」
赤星が揺らぎの方に飛び出しながらブレスに叫んだ。
3つの影が現れる。小柄な白い人影。細身の長身。そしてごつごつとした大きなボディ‥‥‥いつの間にか待避していたらしいスピンドルだった。
「ファン、トマ‥‥」
黒羽の喉から絞り出すようにその名がこぼれた。前に出ようとするその歩みを赤星が背中で遮る。
「へえ。それが君たちの普段の形態かい? なかなかイカスよ。ま、えらくひ弱そうだけど?」
ファントマの快活と言ってもいい声が響いた。あたりを見回して言う。
「あれあれ。デュプリック、倒しちゃったのかい。なかなかやるじゃないか」
赤星が皆を庇うように両腕を広げる。それはほとんど本能的なものだった。
「なんでもてめえの思い通りになると思ったら、大間違いだ! あんな気味の悪い化け物、そうそう作れないんだろう?」
「うーん。痛いとこをつくねぇ。でも、私の発明はあれだけじゃないのさ。シェロプ!」
「はっ!」
シェロプがいきなりサーベルを抜き放つと、振り向きざまにスピンドルを刺し貫いた。同時にファントマの手から虹色のビームが放たれ、倒れたスピンドルの巨大な水晶のような体の中で、赤い光が点滅しだした!
「離れろみんな! ジェットドラゴン!」
「ランドドラゴン、急げ!」
「カモン・ターボドラゴン!」
「ラガー! 早くねっ」
「スタードラゴン、発進!」
スピンドル・ゴルリンのディメンジョン・ストーンが局所的な歪みの中で、主の身体を再構築する。
そして‥‥。
「‥‥そんな、バカな‥‥っ!」
大地の上で怪人が巨大な姿に変わりつつあった。
まったく同じ姿をした二体の巨人が太陽の光をまき散らして‥‥‥‥。
(第27話につづく)
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