★第26話 (3/20)
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「ヘリが墜落?」
「ええ、えらく低空で侵入してきやがったモンで‥‥‥」
スプリガンは苦虫をかみつぶしたような声でブラックインパルスに報告していた。

以前から時々ヘリが飛来していたが、着陸はせずに中央部の山の周囲を飛び回っては去っていくのが普通だった。たぶん観測のためと思われた。基地は電磁波透過システムで覆われているから見つかることはない。透過システムはあれから随分と進歩して、かなり絞った範囲だけを覆うことができるようになっていた。とはいえシステムの影響範囲は球の形にならざるを得ない。問題のヘリはきわめて低空に入ってきたため、3次元の電子機器を無効にする空間範囲の上部にひっかかり、墜落してしまったのだった。

「できれば次元回廊が開くまで、あまり騒がれたくないものだな‥‥」
「分ってまさぁ。墜ちたヘリはすぐ回収に向かわせました。部品の一部を大陸側の海岸にでもバラ巻いてくりゃあ、なんとかごまかせるとは思いますがね」
「乗組員が生きていて、通報する可能性は?」

「今、一時的に島全体をシステムで覆いました。やつらの通信機器は使えません。船のつける海岸はロボットバードが監視してるんで逃げ出せねえし。万が一救助がきてもすぐチェックできます。四方が水ってのはこういう時は便利ですな。例のメカニックもどきの時みたいにはいきませんぜ」
「‥‥そう‥‥だな‥‥」
ブラックインパルスの口元が少し歪む。兜の中のその声は少し喉にひっかかるような感じだったが、スプリガンは気付いた風もなかった。

「オズリーブスの奴ら、どっちかってーとあのヤワなカッコが普通なんですかね?」
「そうらしいな」
「それであれだけやってきたとはねぇ! ったく面白ぇや!」
「‥‥この世界も、ヤツラのことも、ずいぶんと気に入ったようだな、スプリガン」
「‥‥いや、ホンネ言うと、この島はあんまりスキじゃねぇんです‥‥」
「ん?」
「塩とか硫黄とか大気に色々混じってるせいか、どうもメカの調子がよくねえ‥‥。一応コーティングはしてるんですがねェ‥‥‥‥」
首の後ろをかしかしとこすりながら、帰ったらオーバーホールしねーと‥‥と、ぶつぶつ呟く機甲将軍の仕草はどこか子供のようで、ブラックインパルスは苦笑した。

自分はこの島が嫌いではなかった。鎧は精密機器でできているわけではないからコーティングだけで充分だったし、少々べたつく感じはあれ、潮風というものが好きだった。確かに大気にはちょっとクセのある香りが混じっていたし、妙な地響きもあるが気にはならない。だが、連中にとってはどうなのだろう? まあ、人間にとって余り快適ではないから無人島なのだろうが‥‥。

オズリーブスが乗り込んで来たら、自分が出る。ほぼ100%、彼等に勝ち目はない。

自分が手を下さずとも所詮息子は死ぬ。ならばあまり苦しませずに引導を渡してやるのが、自分にできるせめてものことだと、ブラックインパルスは思った。


===***===

板一枚向こう側で人間が動き回っている音がする。フリーカメラマンの笹木譲治は心臓の音で居場所がばれそうな気がして左胸をぎゅっと押さえていた。その脇で、長い手足を折り曲げて小さく縮こまっているのは、気象庁の観測ヘリのパイロットである鞍田武士だ。

ここは休校になっている中学校の体育館のステージ内部の空間。わけのわからない作業着の男達から必死で逃げて、ここに飛び込んだ。1Mぐらいの高さしかないが、入り口の部分は目立たないように作られた引き戸になっている。キャスター付きのラックに並んだパイプ椅子のそのまた奥で、二人の男はじっと息を潜めていた。


島の中央部にあるY山の火口を撮影したあと、民家の様子も撮影しておきたいという笹木の要望に応えた鞍田は、山の麓に向かって低空でへりを飛ばせた。その途中で突如操縦不能になったのだ。もう駄目だと思ったが、墜落寸前にローターが少しだけ回転し、まばらな木々の間になんとか不時着ができた。はっきり言って鞍田の腕がなければおだぶつだったろう。

身体中のあちこちをぶつけていたが、幸い大きなケガはなかった。だが、困ったことに通信機も携帯電話もまったく使えない。途方に暮れているところに、突然10人ほどの作業服姿の男と、変わった形のブルドーザーのような乗り物が現れた。
今日、他の調査が入っているという話は聞いていない。そのうえ無言でこちらの腕を引っ張ってどこかに引っ張っていこうとする。あまりに異常な状況だった。
笹木が掴みかかってきた作業服の男に体当たりを食らわして押しやるのとほとんど同時に、鞍田も相手に足払いを喰わせ、二人の男はまろぶように逃げ出したのだった。


ステージの袖にあるドアを開ける音や、用具入れを引っかき回しているような音が聞こえる。だが、そのうち諦めたのか、どやどやと講堂を出ていく足音がして静かになった。笹木が先にごそごそと扉のほうに近寄ると少しだけ引き戸を開けてみる。採光の良い講堂の中は空っぽだった。もう少しだけ待ってから外に這い出すと、二人はステージに寄りかかるように座り込んだ。

「‥‥なんだったんでしょうね、あいつら‥‥」
鞍田がまだ抑えた声で言う。
「‥‥たぶん‥‥スパイダルだ‥‥」
笹木の言葉に驚きの声をあげかけた鞍田が、それをどうにか飲み込んだ。
「え、あ、あれ? だって、あれ、普通の人間じゃ‥‥?」
「アセロポッドって歩兵みたいなのがいるのさ。時々人間に化けるらしいからな。それにだ」
笹木が鞍田の前に指をつきだした。
「百歩譲ってあれが反社会的組織の連中だったとしてだ。入るのに許可が必要で、定期ルートも無いこの島に、あんな装備を持ち込めそうな組織って、何か知ってるか?」
「‥‥なさそう‥‥ですね‥‥」
「だろ? ってことはあいつら99%スパイダルなわけだ」

そう言いながら笹木は携帯電話を取り出した。だが相変わらず使えない。オンにすると一瞬だけ液晶の色は変わるから充電が充分なことはわかるが、そのあとうんともすんとも言わなくなる。
「くそ‥‥どうなってやがんだ‥‥」
「さっきヘリが操縦不能になった時も、強い電磁波干渉があったみたいに計器がむちゃブレしてそのあとダメになったんですよ‥‥。まさか笹木さん、ヘンなもの持ってないでしょうね?」
「ヘンなもの?」
「いきなり動き出す超どでかPCとか‥‥。あと、高出力通信機能付きデジカメとか!」
「どーゆーもんだよ、それ!」
「‥‥とにかく! ヘリが何かおかしくなったんじゃなくて、ここら一体が妨害電波みたいなので覆われてるんですね。くそぉ、スパイダルめ! これから、どうしましょう?」

いきなり事態に適応した鞍田に笹木はちょっと眩暈を覚えたが、怯えられるよりはぜんぜんマシだった。
「ここで黙って待ってて、救援が来る見込みは?」
「普通の飛行機みたいに管制局のコントロール下にいれば、すぐわかってもらえるんですけどね。ヘリは有視界飛行で、そういうのないから‥‥。でも、あと30分もしたら、燃料が無くなる時間だから、心配はしてくれると思うんですけど」
「妨害電波がホントだとすると、有線の電話なら通じると思うか?」
「少なくとも無線よりは可能性が高そうかな‥‥。だとすると測候所の電話が一番いいかも」
ここ3週間ほどY山の状態はひどく不安定だったが、自動計測器はデータを本土に送り続けているはずだった。

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