★第26話 (5/20)
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「くそっ だめだ、つながらねえ!」
笹木は机の上にある電話機をかたっぱしから上げてみるが、ツーという音すら聞こえてこない。
「測定器のデータ電送も全部止まってます!」
壁のパネルや、コンソールを調べていた鞍田も絶望的な声をあげた。

二人はM島の測候所に入り込んでいる。ここなら鞍田が鍵を持っているし、なんせデータを自動的に送信しているのだから何か方法があると思ったからだ。だがスパイダルの特殊空間で覆われてしまったら電子回路の入っている機器は使用不能だ。M島にある交換機自体からしてオシャカになっているから連絡は不可能だった。

「あっ 来たっ!」
壁の側から笹木を見やった鞍田は、その後ろの窓から外を見て声をあげた。緑になり始めた芝生に踏み込んで、4人の作業服の男が建物に向かってくる! 

「非常警報みたいなの、ないのか!」
笹木が窓の方を振り返りながら怒鳴った。鞍田が慌ててパネルを眺め回し、半透明の赤いプラスチックのカバーを見つけて外す。中にあるスイッチをON側に倒した。

その途端、ぎしぎしという足音が廊下から聞こえてきた。鞍田が慌てて笹木の方に移動しようとしたが、逆に後じさってきた笹木とぶつかった。
「わっ」
「あ‥‥、うわ‥‥!」

窓から中を覗き込む作業員はまったく無表情。顔の造作には多少のバリエーションがあるようだが、ガラス玉のような目のせいか、みんな同じに見える。

一人が無造作にガラスを押し割った。ぎざぎざと鋭いガラスの断面を気にもせずに乗り越えて来る。続くもうもう一人がアルミフレームをがっしと握ると、手前に引き曲げてサッシの枠ごと外側に投げ捨てた。同時に廊下に通じるドアが乱暴に開き、2名の作業員が押し入ってきた‥‥! 




「逃げた二人は確保できました」
外部と連絡をとっていたスプリガンがブラックインパルスを振り返った。スプリガンのゴツゴツした頭部の中では、どの部分がインカムなのか、ぱっと見わからなかったりする。

「アラクネーが残りの3体のアセロポッドと共に、また適当な工場を襲うと連絡をよこした」
「ほう‥‥。それでOZの残党がそっちに行ってくれりゃあ、ありがたいですな。あいつらと逢えるのは嬉しいが、今はちょっと手が離せねぇ‥‥」
そう言いながらスプリガンはいくつかのスイッチとダイヤルを調整した。
「電磁波透過システムの範囲を、また基地の周辺だけに絞ります。何かの調査が島に入るかもしれねえですが、とにかくこの基地さえ見つからなきゃいいんで‥‥」
「わかった。そうしてくれ」

若いヘリコプターのパイロットが入れた緊急信号スイッチが、システムの影響から抜け出た途端に、東京管区気象台の警報ブザーを鳴らしたことなど、スパイダルの機甲将軍には知る由もなかった。




M島に向かう洋上。飛ばすオズブルーンの中で5人は特警の西条刑事の連絡を受けていた。
<L5ポイントの石油化学工場に3体のアセロポッドとアラクネーが出現した>
「えっ またですか!」
<その少し前、M島の回線中継が突然復旧。同時に測候所からの緊急信号がキャッチされた。だが、気象台から測候所に対する呼び出しには答えが無いようだ>
「それじゃあ‥‥」
赤星が言葉に詰まる。

ヘリが墜落して電話局の施設を破壊したのなら、いきなり復旧するわけがない。黒風山のスパイダル基地でも例の空間は不安定だったようだし、こんどもその空間が現れたり消えたりしているのかもしれない。だが、新型のアセロポッドに対抗するための薬品はまだ日本にはない。あれは生身で取っ組み合うには少々危険すぎる代物だった。だが通信機越しに西条はこう言った。

<お前達はそのままM島へ急げ。行方不明になったヘリのパイロットとカメラマンが、測候所にいる可能性もある。あと30分しないうちに巡視艇が到着するはずだ。竹本さんがカナリアを持って行ってるから、もし例の空間にぶつかったらボートで着岸する>
「はい‥‥。でも、アセロポッドは?」
<弱点に弾丸を集中すればなんとかなるだろう。SATの応援も頼んでいるから心配するな>
「わかりました。西条さんたちも気をつけて下さい!」




トラックの荷台のコンテナの中にはわずかな照明があるだけだった。両脇から不気味な男達に挟まれた笹木と鞍田は、黙りこくったまま床に直に座らされていた。測候所で捕まってここに押し込められて15分ほど揺られている。まだ海沿いの平らな道を走っている雰囲気だった。
男達のむちゃくちゃな力を考えれば、どう考えても抵抗はムダだった。墜落の時に逃げられたのは、運がよかっただけでなく、男達のほうが明確な命令を受けていなかったためのようだった。

と、いきなり上からとんでもない爆音が降ってきた。笹木と鞍田が無意識に首をすくめる。軽めの銃声のような音が続けざまに響き、トラックがハンドルを切って止まった。コンテナの中にいた4人の作業員のうち2人が立ち上がると外に飛び出した。開け放たれた後部のドアから外を見た笹木と鞍田は目を大きく見開いた。

そこは小さな港だった。道に対してトラックが少し斜めになっているので海が見えた。道から海辺まで広がっている舗装されたスペース。そこに、少し頭部が大きめで丸みを帯びた白い戦闘機がホバリングしている! 

「あんたら何モンだ?」
トラックの運転席の方から張りのある声が聞こえてきた。笹木が顔を上げる。緊迫した状況でもどこか余裕を感じさせるこの声‥‥。覚えがある‥‥。

一転、妙な鳴き声のような声と、怒声と、激しく争うような揺れが伝わってきた。笹木と鞍田が反射的に立ち上がる。だがコンテナに残っていた二人の作業員たちもまた、既に立ち上がっていた。
ぐらりと大きくコンテナが揺れた。両足を踏ん張り直した時、後部ドアの外側で二つの何かが弾み、それが飛び込んで来た。その勢いに笹木と鞍田も思わず奥に身を引いてしまった。迫ってきた二つの疾風はそれぞれが何か棒のようなもので作業服の男を突いた。呆然とする笹木と鞍田の手が引かれ、彼等はコンテナの外に引きずり出された。

外ではイエローのスーツが仰向いて空を見ていた。と、いきなりその長身が銃を空に掲げて何かを撃った。鞍田にはカラスを撃ち落としたように見えた。空にはもう一羽、何か小さい鳥のようなものが飛んでいて、あれが襲われそうだったから助けたんだ、と、半分麻痺し、半分冴えまくった頭で勝手に納得した。落ちた"カラス"がスプリガンのロボットバードであることなど、常人に分るはずもなかった。

笹木の手を引くグリーンのスーツと、鞍田の手を引くピンクのスーツ。彼等はイエローの長身の両脇を走り抜けてから立ち止まると、それぞれ助けた男を背中にしてトラックの方を向いた。
「耳、ふさげ!」
長身がそう怒鳴り、一呼吸の後、引き金を絞った。音よりむしろ圧力が笹木と鞍田の鼓膜を襲う。長い手を前に突きだしてこちらを追ってきた「作業員だったもの」が一瞬硬直して動きを止めた。作り物のような赤い目。裂けかけた作業着がまとわりつく灰黒色のボディの腹部が緑色に染まっていた。

それが倒れ伏して初めて、笹木は自分の前からグリーンの姿がいなくなっていることに気付いた。グリーンリーブスは既に残りの化け物の側に駆け戻り、アセロポッドが振り下ろすカギ爪を前腕に沿わせたトンファーでしっかりと受け止めている。
「ブレードモードッ!」
彼の右手から光の柱が伸びる。それに貫かれて2体めの化け物が仰向けに倒れた
「イエローッ いっくよーっ!」
「ピンク、二人をオズブルーンに上げろ!!」
そう言い置いて、イエローがグリーンのあとを追いかけた。実際よりも妙に身長差を感じるのは雰囲気の違いなのだろうか? 黄と緑が走り行く先には4体の化け物と格闘を繰り広げる赤い姿があった。

「二人ともこっちです!」
「待て! ちょっと、頼むっ 待ってくれっ」
押された笹木はやっと我に返り、ピンクに向き直った。
「オズリーブス‥‥。あんたら、オズリーブスだよな?」
「そうです。だから早く! ここ、危な‥‥」

「ほんとに来てくれたんだなっ すげぇぜっ!」
まるで子供のような笹木の物言いに思わず力の抜けた瑠衣は、オズブルーンが車輪を出して着陸しているのを確認してから、白い機体を指さして言った。
「お、おじさん、あの! 早くあの中へ! ここから逃げないと‥‥って!」
笹木は既に瑠衣の腕を逃れ、4対3の戦いにしきりにシャッターを切っている。
「もう! ピンク、怒りますよっ」

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