★第26話 (6/20)
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「すみません、ピンクリーブスさん、見逃してあげてくれませんか?」
鞍田が、笹木に歩み寄ろうとした瑠衣の肩をそっと引いた。
「笹木さんって、ずーっとオズリーブスの写真を撮り続けてたそうで‥‥」
「え?」
「あなた方の大ファンなんですよ。世の中の人があなた方の存在を信じてなかった時からずっと」
「そう‥‥なんだ‥‥。でも、せめてもうちょっと後ろに‥‥‥‥」
そこまで言ったピンクのスーツがあっと押し殺した叫びをあげた。鞍田がそのゴーグルの見ている先を追い、背後を振り返る。さっきイエローリーブスが助けた小さな鳥が石のように落ちてくるところだった。白い戦闘機の方から黒いスーツが何か叫びながら走ってきた。
「気を付けろっ! 例の空間だ!」
鞍田はピンクの方に向き直って絶句した。戦いの場へ駆けていこうとする華奢な身体が、金色のもやの中に霞んだかと思うと、ごく普通の少女の姿に変わったのだ。少女は立ちすくみ、自分の両手を見やると、仲間の方に向かって叫んだ。
「みんなっ!!」
笹木はいきなりレンズが曇ったのかと思った。アウトスタイルで、まるでからかうかのように灰黒色の化け物にダメージを与えていた小柄な身体が、霧のようなもので包まれ始めた。後ろから響いてきた少女の叫び声とほとんど同時に、ファインダーの中のグリーンリーブスが少年の姿に変わった。笹木は吸い込まれるようにシャッターを押し続けた。
「あ‥‥、あれ!?」
戸惑った少年の一瞬の隙にアセロポッドの太い腕が振り下ろされる。そこに体当たりするように飛び込んできたレッドリーブスが、両手で化け物の手首を掴んで叫んだ。
「離れろっ!」
赤いスーツも既に例の霞に包まれている。彼は少年の離脱を見届けると、怪物を押しやるようにして自分も距離を取った。あと1体だけになったアセロポッド‥‥。それを囲む3人は完全に普通の状態になってしまっている。笹木は自分の心臓の音とシャッターの音の区別がつかなくなっていた。
「どうする!?」長身の青年が叫んだ。
「ちょうどいい! 試してみる!」赤ジャンパーの青年がウエストに手をやる。少しだけ何かを確かめるように小首をかしげると、上げた左手首を掴んで叫んだ。
「着装!」
まるで夢のようだった。笹木自身の主観がそうさせるのか実際がそういうものなのかよくわからないが、左腕からじわじわと光に包まれてそれが緋色に変わっていく様子がスロー映像のように見えた。化け物はすでに身構えている。だが男は少し不思議そうに自分の両手を見ていた。
「リーダーっ!?」
小柄な少年が声をあげるのと、怪物が突進して腕を振り上げたのが同時だった。赤いスーツはぎりぎりで身を沈めて凶悪な爪をかわした。
「リーブライザー・マックスモード!」
輝く左右の両拳がワンツーで腹部に決まる。その衝撃で化け物は数m後ろにふっとんで動かなくなった。
笹木が大きく息を吐いて、ファインダーから目を離すと同時に、ごついズームレンズを上からぐっと掴む手があった。
「すみませんがねぇ、フィルムは回収させてもらいますよ」
思わずカメラを庇うように引き寄せて声の主を見た。黒いテンガロンハットを被った男がいつの間にか自分の傍にいる。脇にはこんな場におよそ不釣り合いな可愛らしい少女‥‥。その後ろから鞍田が駆けて来るところだった。
「いいよ、取りあげたりしなくて。公開だけしないでもらえればさ」
笹木が振り返るといつの間に赤いジャンパーの青年が歩み寄って来ていた。その少し後ろにモデルのような顔立ちをした青年と、たぶん男性‥‥‥と思われる‥‥小柄な少年。
さっきまでレッドリーブスだった青年がくせっ毛を揺らしてぺこりと頭を下げた。
「OZの赤星っていいます。念のため、お名前をうかがってよろしいですか?」
こんな状況にもかかわらず随分と穏やかな笑顔で、笹木は思わず自分のほっぺたをつねりたくなった。
===***===
「ヘリがおかしくなったのはこの上空ですね?」
「ええ、間違いありません」
オズリーブスの5人と笹木と鞍田は港の待合所に入り込んでいた。黒羽がテーブルの上に広げた地図の一点を指さして鞍田に確認している。
「その時の高度は?」
「70m弱ってとこですか」
「またえらく低いところを‥‥。ラジコン並じゃないですか」
黒羽が半分呆れ、半分賞賛した口調になり、鞍田は頭を掻いた。
「もちろん普段はそんな低く飛んだりしませんよ。ただ市街地の写真撮るには低い方がいいから‥‥」
「とにかく、例のジェネレーターがこのあたりにある可能性は高いわけだ」
脇から地図を覗き込んだ赤星が言い、黒羽に尋ねた。
「海上警察の人たちはもうすぐ来そうなんだろ?」
「ああ、さっき通信が切れる寸前に竹本さんと直に話せて、この場所は伝えられたからな」
「よし。じゃ、笹木さんと鞍田さんはそっちで避難してもらうとして‥‥。俺達は早いとこジェネレーターを壊さないとな。プロテクトモード、思ったよりシンドイぜ」
「なーる。さっきののったりした着装はカメラさんのための演出じゃなかったワケね?」
黄龍の物言いに赤星が苦笑する。
「んなわけねーだろ。着装に時間かかるのも問題だけど、なんかこう"硬い"感じだったんだよ」
「どういうこと?」
輝が身を乗り出す。黒羽や瑠衣の表情も真剣だ。
「動きにくいんだよ。スーツが厚くて重くなっちまった感じで‥‥。でも、リーブライザーのパワーは充分だったから、全体的にはうまく行ってると思うんだけどさ‥‥」
「‥‥‥まあ、着装できただけマシって考えた方がいいのかもな‥‥」
黒羽の言葉に4人が頷く。なんせこの世界には存在しないスパイダルの特殊空間。その実際のデータも無しに開発されたプロテクト・モードなのだ。
笹木は少し離れた処でカメラの手入れをしながら5人の様子を見ていた。素人と聞いてはいても、グリーンとピンクの正体を目の当たりにした時は流石に少しショックだった。まさかこんな若い‥‥いや、さっきグリーンの少年に尋ねた時は「オレ、もう成人してますよっ」と、ちょっぴりふくれ気味に答えてはくれたのだが‥‥。それでもこの二人が現実にきちんと戦っていることは、この目で、このレンズで、何度も見てきている。自分と鞍田が危ない状況から救われたことはわかる。だが、悪夢から抜け出したはずなのに、まだどこか夢を見ているような気がした。
「あ、竹本さん達、来たよ!」
少女の言葉に我に返った。身の軽い少年はもう待合所を出て手を振っている。夕暮れの中、港に3台のモーターボートが入ってくるところだった。オレンジ色の救命胴着を着た3名が1台ずつ操縦している。先頭のボートから一人が手を振り返してきた。
船着き場に降り立ったその警部は特警の竹本と名乗った。5人とは顔見知りのようで、軽く挨拶を交わしたあと、笹木と鞍田に人なつこい笑顔を向けた。
「いや、お二人とも、無事でよかったですな。ボートで沖の巡視艇までお連れします」
夕日の中で、それでも目視できる位置に巡視艇の船影とその明かりが見えた。
「で、赤星。やっぱりスパイダルなんだな?」
「はい。笹木さんと鞍田さんをさらおうとしてたのも新型でしたし‥‥。できれば、明朝、暗いうちに基地に潜入してジェネレーターを破壊したいとこですね」
「基地の場所はどこなんだ」
「ヘリがトラブったとこ‥‥。ちょうどここを上ったあたりで‥‥」
説明しようと振り返った赤星が息を呑んだ。
斜めに停車しているトラックの脇の空間が陽炎のようにゆらめいている。
「みんなボートで離れて! 早く!」
赤星以下の5人はほとんど同時にだっと前に出た。竹本と2名の職員、そして笹木と鞍田が慌ててボートに乗り混む。
揺らぎの中から現れたのは、たった一つの影‥‥。
「‥‥‥ブラック‥‥‥インパルス‥‥」
黒羽の口からこぼれた敵の司令官の名が、黄龍、輝、瑠衣の耳に届いた。
スパイダルの参謀は面当ての奥から戦闘形態になっていない5人の地球人の姿を順に見やった。
「さて、初めて見る顔もいるようだが‥‥。全員、オズリーブスと思ってかまわんか?」
「こんなとこに基地作って‥‥。いったい何たくらんでやがる!」
「話したところで、ムダだ。お前たちには何もできない」
ブラックインパルスは中央にいた男にそう答えたあと、その右手に位置づけている黒づくめの男に視線を移し、その姿をじっと見つめた。
「お前たちの、最期だ」
夕日の、真っ赤な照り返しの中で、黒い鎧がざわりとのたうった。
黒羽は自分の父親が異様な外殻に包まれていくのを声もなく見つめていた。そのどす黒いうねりの中から自分を見据えてくるその視線にけっして呑み込まれまいと念じながら。
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