★第26話 (7/20)
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(オレ、もう成人してますよっ)
ちょっぴり頬を膨らませてそう言ったあと、長い睫毛を伏せて照れくさそうに笑った少年の顔が脳裏に浮かんだ。
それが‥‥‥‥。
緑の小柄な身体が、鈍く光る大刀になぎ倒されて動かなくなった瞬間、笹木は叫んでいた。
「岸に戻せ! 戻してくれ!」
「‥‥ムリだ‥‥。我々が行ったところで‥‥っ」
ハンドルを握りしめながら竹本が叫び返す。民間人2名を乗せた竹本が少し沖に出ただけでモーターボートを止めていたのは、笹木がどうしても撮影したいと言い張ったからだ。本来であれば真っ先に巡視艇に戻るべきだったのだが、竹本にもこのカメラマンの"熱さ"のようなものが伝わってくる気がしていた。海上保安庁の職員2名の乗ったもう一台のボートは、OZ基地への連絡と援軍の要請のため巡視艇に戻っていた。
夕日の中でただ一人現れたこの敵の圧倒的な強さは、誰の目にも明らかだった。最初は中世の甲冑騎士のような出で立ちだったが、その黒い鎧がざわざわと蠢き、乾き始めた血のようなどす黒い紅に変化した。表層が分化した筋肉のような形状に変わる。だのにパーツごとの表面は甲羅のように硬そうだ。身の丈が高くなった分、最初よりスリムになったボディはスピード感があった。
「違う! もっと近くであの化け物の記録を撮るんだ! 絶対に役に立つはずだ!」
笹木の叫びに、竹本は思わず振り返った。揺れる船の上で、男は増感フィルターを取り付けたカメラのファインダーを必死で覗き込んでいる。そのレンズが追っていたのは、この男がファンだと言っていた5人の姿ではなかったのだ‥‥‥‥。リーブスーツには戦闘記録をオズベースに転送する機能がある。だがこの空間でそれが意味をなさないのは自明だった。
「‥‥負けたよ‥‥。鞍田さん、いいですかね?」
「ええ。笹木さんの言うこと、わかりますから」
鞍田の了解を聞いて、竹本がモーターボートを発進させた。
ボートが着岸した時、ガス爆発のようなどんっという衝撃があたりの空間を襲った。混戦の中から黒いスーツがはね飛ばされ、トラックのコンテナに激しくぶち当たる。ずり落ちた彼が立ち上がろうとした時、どんな方法で移動したのか既に化け物が迫り、振り上げた得物をそのまま振り下ろした。
3人の男達の喉で悲鳴が無音の塊に変わってじわりとせり下る。竹本がかすれた声で言った。
「鞍田さん、ボート、運転できますよね」
「は、はい」
「貴方はここに残って。私に何かあったらすぐに逃げて下さい。いいですね?」
「そん時は、ぜひ、オレのカメラも持ってってくれ。何があってもここまでは届けるから」
「‥‥はい‥‥」
カメラを気にしながら岸に上がった笹木と、その笹木の足元に注意を配りながら後を追う竹本。残った鞍田は、無意識に胸ポケットに入った御守りを握りしめていた。
===***===
「凄いわ、スプリガン。まだこんな怪人を隠し持っていたの?」
基地に戻ったアラクネーがロボットバードの映像を見た第一声はそれだった。スプリガンはにやにやして答えた。
「おいおい、そりゃあちょっと無礼が過ぎるってもんだろう? 司令官殿に対して怪人とは!」
島にヘリで入り込んできた人間を確保できたというからシステムの出力範囲を絞ったのに、まったくOZの残党どもは鼻がいい。その上乱暴極まりない。港に張り込んでいたロボットバードはぶっ壊すわ、新型は6体もダメにするわ‥‥。こっちがディメンジョンクラッカーに手一杯なのを分ってやっているとしか思えねーぜ、このくそったれ! と喚いていたら、司令官が自ら出ると宣った。
今となっては"隠れ"黒騎士ファンでいるしかないスプリガンだが、ブラックインパルスが戦闘形態を持っているなんて知りもしなかった。鎧ごと変形を始めた時も驚いたが、そのとんでもない強さを見た時は危うく首が外れるところだった。何が歳をとっただ。いったいどれだけ経てば追い付けるんだと、悪態の一つも言わせて欲しい。オズリーブスの首はやはり黒騎士様に先を越されちまうのか‥‥。
‥‥という割にはスプリガンの声は妙にはしゃいでいた。
「凄いだろう! ありゃあ、噂に聞いたバイオアーマーだ。ちょっと動きがぎこちない気がするが、仕入れたの最近か? あれがこんなに進歩するなら、オレも生身のボディをとっとくんだったぜ。天下の黒騎士があんなもん持ってるなんざ、"ズルイ"以外、どう言やいいんだ?」
反応がないので横を見ると、少女は凍り付いた表情のまま、食い入るように戦闘形態になったブラックインパルスの姿を見つめていた。
「どうした?」
「あれは、なに?」
「だからバイオアーマーだよ。簡単にいやぁ寄生生物みたいなもんだな」
「バイオアーマーって、あれじゃまるで別人じゃない! 元に戻れるの!?」
アラクネーの声が悲鳴に近くなる。スプリガンがやれやれと説明してやる。
「新しい鎧を仕入れたと思や、同じだろう? 終わればいつもどおりの司令官殿さね、安心しな」
もう二度と生身の身体には戻れないスプリガンは、なんとなく拗ねたそぶりでそっぽを向いた。元に戻れなくたっていーじゃねーか。あんなに強いんだぞ。それになかなか格好いいボディだってのに、何が悪ぃんだ。ったくこれだから女ってのは‥‥。
‥‥‥なに‥‥?
部屋の隅のモニターに表示された曲線の上昇に気付いたスプリガンが、いつもより一層うるさく足音を響かせてモニターに近寄った。アラクネーが不思議そうにそちらを見やる。
「なぜだ? 次元回廊が‥‥開くぞ!」
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