★第26話 (9/20)
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「じゃあY山が噴火する可能性もあるってことですか?」
「ああ。このままスパイダルが次元回廊を開き続けたら、そうなってもおかしくない」
田島の説明に、聞いていた7人は言葉を失った。

田島が高速ヘリでとんぼ返りしてきたのは夜中の3:00を少し回った頃だった。短い休息から起こされた5人と洵、そしてなんだかんだと結局一睡もしていない竹中は、田島とともに巡視艇の中の一室に閉じこもっていた。

巡視艇の甲板にはオズブルーンの姿がある。次元回廊が開いた直後、M島測候所の自動送信システムや電話の交換機が再び復活した。電磁波を使えなくする特殊空間と次元回廊はどうも両立しないようだった。田島からその話を聞いた黒羽は、返されたばかりのリーブレスでオズブルーンを呼び戻したのだった。

だが、スパイダルが人工的に開いている次元回廊は、M島の地殻にも影響を与えている。測候所から送られてくるデータは地殻変動が増大していることを示していた。
2年近くの歳月をかけてせっかく落ち着いてきていたM島のY火山。スパイダルが基地と特殊空間を作り、色々なことをやらかしたおかげで、すっかり不安定になってしまった。そしてとうとう彼らの目的は達せられ、次元の壁を突き破る衝撃は島の地殻を揺さぶっているのだ。

「中学の時に授業でもやったけど‥‥、避難してる人たち、みんな大変なんだよね‥‥」
瑠衣が誰に言うともなく呟く。
「オレもTVとかで見たけど、なんかたまんなかったもの。みんな帰れる日を待ってる。‥‥スパイダルのせいであの街がつぶれるなんてぜったいダメだよ」
そう続けた輝が、静かに赤星の顔を見た。

赤星は唇を開きかけ、何も言わずに閉じた。

皆の衣服の下にどれだけのガーゼや薬が貼られているのだろう。それでも長い睫に縁取られた丸い大きな瞳は一心に自分を見つめてくる。瑠衣と黄龍を見やれば決意の頷きが返ってきた。いつものように壁に寄りかかっている黒羽の肩は固定用のバンドのせいで、気持ち張り気味かもしれない。だがいつの間にやらきちんと身支度を整えていて、何食わぬ顔でにっと笑んでみせる。そんな皆の様子に、洵は小さなため息をついて天井を仰ぎ、不安さと諦めの入り交じった顔で赤星を見た。

赤星は田島に視線を戻した。
「田島さん。今、俺たちに打てる手と状況を説明してください。場合によっちゃ、明るくなる前に出動した方がいいかもしれない」

「すまんな‥‥」
竹中が言う。ぐったりした5人をこの手で運んでから十時間も経っていない。黒羽以外は打撲だけで済んだのもリーブスーツの驚異的な防護能力の証とも言えるのだが、それにしても‥‥。
一方、中堅刑事の人柄が伝わってくるようなその言い方に、OZ組の表情がふわりと柔らかくなった。誰かに認められるためにやっている訳じゃない。それでも、今、自分がやっていることを理解してくれる者がいるという事実は、人が前に進む原動力になり得るのだった。

田島が平たい石のように見える黒い金属の固まりを取り出した。両手にすっぽり入るぐらいの大きさで、下面は平らで座りがいい。
「低周波音の発生装置だ。プロテクトモードの時に君たちを覆っているパワーの百倍程度の出力がある。とりあえず30個作ってきた。これを基地の近く‥‥できれば、彼らの設備の傍にばらまければ、彼らが空間にひずみを与えるのをジャマできると思う」
「実際、プロテクトモードも、あの特殊空間に通用しましたからね」

「そのプロテクトモードにも改良を加えた。スーツに残っていたログを調べて、昨夜の防御力を出せるようにしたんだ。動きにくさもできるだけ軽減したつもりだけど、こればかりは使ってみないと‥‥。とにかく、本来、特殊空間の中で着装するために開発されたプロテクトモードが、文字通り本当の"防御"モードになったわけだ」
「あらあら。それじゃ、敵さんにお礼言わなきゃいけないじゃん?」
黄龍の言葉に。田島も苦笑気味に答えた。
「そういうことだね」

「だけど、スーツの防御機能がアップしても、普段通りに動けるとしても‥‥ブラックインパルスとは真っ正面にやり合っちゃダメだ。あの動きは見切れねえ‥‥」
「リ、リーダーでもそう思ったの?」
輝が思わず声を上げる。
「ああ‥‥。えらく速くて馬鹿力があるからそう思うんだろうけど、時々重心を移動したと逆方向に打撃が飛んでくる感じで‥‥。読めねえんだよ。あいつ‥‥。ホントにヤバイぜ‥‥」

「その敵のことは、笹木さんの写真から妙なことがわかったよ」
田島がそう言いながら何枚もの拡大した写真やそれを処理した結果を机の上に置いた。瑠衣がそれを広げるのを手伝いながら、感心したように言った。
「凄い。あのおじさん、こんなにたくさん写真撮ってくれてたの?」
「危険だって言ってるのに、どうしてもヤツの写真を撮るから島に戻るんだって言い張ってなぁ」
竹中の言葉に田島が重ねた。
「あの時、リーブスーツからの状況電送は不可能だったろう? だからこの写真、とても貴重な情報だったんだよ」
「そうだったんですか‥‥‥‥で、田島さん、その妙なことってのは?」

赤星に応えるように田島が1枚の写真を皆に示した。深紅に変化したブラックインパルスがソニックブームと呼ばれていたあの大剣を振り下ろそうとしている1枚だった。動きに比べてシャッタースピードが遅いから腕は流れるようにぼやけて見える。
「フィルムの感光の度合いから、この怪物の体の反射光の周波数分析をした。そうしたらこの部分に、異なる種類の周波数分布が出た。つまり、異なる材質の2本の腕があるみたいなんだよ」
「え、2本!?」
皆の目が丸くなる。

田島は腕の部分を拡大し、補正をかけた画像を隣に並べた。
「腕の振り始めはこの紅い腕。君たちが見ている姿だね。でもこのあたりから微妙にズレが出て、ほら、最後では紅い腕が先に振り下ろされて、黒い腕が遅れ気味になってるだろう?」
「そんな馬鹿な‥‥‥」
机のすぐそばに歩み寄って、広げられた写真を食い入るように見つめていた黒羽の口から、信じられないという声が漏れた。
「いや、黒羽ちゃん。彼らは我々とは別の次元から来ているんだから、十分考えられるよ。同じ空間に二つの物体が存在できるように調整をかけてるんだろう」
「ほんとに手が4本あるだけなのかなぁ‥‥。実は二人で合体してる怪人だったり!」
瑠衣の言葉に洵もまじまじと写真を覗き込んだ。
「そっかぁ。二体なら竜太さんの言う動きが読めないってのも、筋が通るんじゃない?」
「確かにな」

「わざわざ紅くなったんだからよー、紅い方が強いんだよな? ってことは、あちらさんが攻撃してきたタイミングで、反対側からこの黒い方を攻撃できたら、少しはマシとか?」
「‥‥瑛ちゃんの言う通りだな‥‥。鎧姿の時はあそこまで猛烈じゃあなかったからな‥‥」
黒羽がぼそりと呟くと、両拳で机を押すようにして、ふらりと壁際に戻った。
「‥‥‥‥とにかく、ブラックインパルス‥‥。あいつだけは、なんとしても‥‥‥‥」

赤星はそんな黒羽を目で追って、静かに言った。
「黒羽。今は、次元回廊を閉じるのが優先だぜ? アツくなんなよな」
黒羽は赤星を見返すと、心なしか引きつったような笑いを浮かべた。
「わかってますよ。旦那じゃあるまいし‥‥」

喧嘩相手なのに、出会った瞬間から妙に気にかかる人間がいることは赤星も経験していた。心が惹き寄せられる一方で、なぜか"宿命のライバル"なんて気分になってしまう。たぶんあの敵の司令官と黒羽はそうなのだろうと赤星は思った。黒羽はサシで勝負したいのかもしれない。だが、あの化け物相手では、さしもの黒羽と言えど大人と赤子。とてもじゃないが認めるわけにはいかなかった。


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