★第27話 (11/20)
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押し迫る夕闇の中で議事堂の前にずらりと並んでいた銀色の壁が、どんどん薄くまばらになっていることに、トナカンダーもアモクも、そしてゴリアントすら気づいていないようだった。そして盾の持ち主が濃紺の防護服から迷彩服に徐々に変わってきていることも‥‥。

2匹の怪物は前より容易く障害物を除去していた。入れ替わり立ち替わり目の前に出てくるのだが、捕まえようとすると逃げてしまう。だが彼らの目的は目の前にある建物に入ることだったから、そんなことはどうでもかまわなかった。
人垣の弱い処、弱い処と押し込んでいきながらトナカンダーとアモクは中央部分に寄っていった。ゴリアントは二人の部下のあとからひょこひょことついていく。左右にいる地球人の群れはもはや何もしかけて来ない。大勢の敵を両脇に平伏させて最重要拠点にいざ踏み込まんというお定まりのシーンに、ゴリアントの両の口角がにいっと吊り上がった。

トナカンダーが建築物の入り口に手をかけた瞬間、いきなり周囲が明るくなった。ゴリアントは驚いて振り返ったが白さに目が眩んだ。強烈な光に包まれて周囲が何も見えない。と、左右から何かが飛んできて爆発し、3体は爆風に煽られるようにぶつかりあった。ゴリアントが足元にころりと転がった2つの固まりに気づき、蹴り返したら爆発音と人間の悲鳴が上がった。かっとして叫んだ。
「後ろだ、やっちまえ!」

ゴルリンたちがぴんっと跳ね起きると都庁方向に走り出す。ゴリアントは光に向かって得物を思いっきり投げた。正面でがしゃん!という音がして光が少し淡くなる。アモクの左手が一閃し、何人もの苦痛の声があがった。だが、その時は既に次の号令が出されていた。

3体の真っ正面から、5.56mmの弾丸がシャワーの様に降り注いだ。




議事堂を背にして立てば正面には半円型の低いステージがある。その北側の11号線高架の下あたりに風間たちは移動していた。"カナリア"経由の俯瞰映像は警察にとって極めて貴重だった。西条がすぐ脇で外部とのチャネルを担っている。風間は赤星の状況報告を聞き、西条と調整しながら機動隊に指示を飛ばし続けていた。風間はトランシーバーに徐々に撤退するように指示を出しながら、時々拡声器に向かって「議事堂を絶対に守れ!」と檄を飛ばすのだった。

そこに一人の迷彩服の男がやってきた。がっちりした身体にかっちりと礼儀正しいその男は、第一普通科連隊の中山二等陸尉と名乗った。既に機動隊員と自衛隊員の無線の帯域は合わせてあった。議事堂側でスパイダルの怪人たちを惹きつけている機動隊員が徐々に「A隊」と入れ替わった。都庁側では数人でなければ運べないような大型の火器が続々と準備されていた。既に機動隊の手で11号線上やステージの付近に投光器が準備されている。

風間と中山は"カナリア"のモニターをじっと見ていた。3体の怪物が都庁前広場の最深部、議事堂の中央入口に到達した瞬間、中山がトランシーバーに向かって怒鳴った。
「アタック!」
同時に投光器のスイッチがはいり、怪人の周囲にいた自衛官が手榴弾を投げつけながら後退した。タイミングの悪かった数発が投げ返されて被害が出たが、周囲の人間が避難する間、3体の怪物に足止めを食らわせることに成功した。

「来るぜ!」
怪人たちの姿をアップで捉えているのは黄龍の"カナリア"だった。
「B隊!」
中山が叫んだ。中央の投光器はステージの上に置かれており、機関銃が2機、その背後で準備に入っている。"カナリア"の高度を取り状況を広角で俯瞰している赤星が叫んだ。
「まっすぐです!」
「左右0.5度以内に抑えろ! 撃‥‥」
がしゃんという音がして中央の投光器が消えた。中山が少しだけトランシーバーに耳を傾け、がなった。
「かまわん、撃て!」
黄龍のモニターの中で最初の数発を浴びたゴリアントが身を翻して他の2体の背中に回った。本能的に赤星と輝が声を上げた。
「向かってくる!」
「逃げて!」

銃口から流れ出る毎秒15発の銃弾の圧力は、それぞれが2体の怪物を食い止めて後ろに押し倒した。だがゴリアントは既に火線から逃げていた。南側の地面を一度蹴っただけで、猛禽類のようにステージに襲いかかった。
「B隊待避! A隊援護に入れ!」
中山二尉はそう指示すると、赤星たちに向かって低く叱責した。
「カメラを動かすな!」
反射的に腰を浮かしていた三人が我にかえって座り込んだ。今の自分たちには、敵を受け止めることすらできない。機関銃の連続音が止んだ代わりに怒声と悲鳴が聞こえてきた。

「これでもまだ生きているのか‥‥?」
中山の注意は既にトナカンダーとアモクに集中していた。
「すぐ起き上がるって!」
"カナリア"のカメラをズームした黄龍が怒鳴った。声に少しだけ苛立ちが混じっている。仲間の安全より敵の撃破に集中するのは正しいのだろう。だが訓練を受けていない人間にとっては、ついて行くのが難しい。

中山はモニターを見つつトランシーバーを口元にあげた。
「待避完了。C隊。確実に補足できるなら仰角ゼロでいい。撃て!」
腹の奥から揺さぶられるようなそんな振動音が響いた。ステージのすぐ北側から2門の無反動砲が火を噴いた。3kgの榴弾がトナカンダーに水平に命中する。そのまま怪物のボディを背後の議事堂にめり込ませた。怪物をアップで捉えようとしていたカナリアの映像から一瞬で怪物がアウトした。見ていた輝が悲鳴を呑み込んだ。

「このっ!!」
機関銃の操者に襲いかかっていたゴリアントが罵声をあげて駆け戻ろうとした。
「近寄らせるな! まだストーンが!」
赤星のモニターにはディメンジョン・ストーンを示す三つの緑色の輝点が残っている。
「C隊。建物の中央より3M南だ!」
今度は11号線の後ろから放物軌道を描いた砲弾が飛んだ。本来こんな近距離で使う装備ではないのだが、なんとか計画通りのラインを描いたようだ。

それはまさに"爆撃"だった。機動隊員達でさえ多くが音と振動に身をすくめた。2体の怪物が叩きつけられた場所で次々に爆発が起こる。黄龍の"カナリア"が巻き込まれて信号が途絶えた。それより上空にあった赤星のカナリアも、もうもうと上がる埃と煙でカメラの役には立っていない。それでも‥‥。
「消えた‥‥。ストーンが‥‥」
赤星の呟きに風間が振り返った。モニターにある緑の輝点は3つとも確かに消えていた。赤星はオズベースに確認してから風間を見上げた。
「複数の機関でストーンの電磁波が消えたことを確認しました。ゴリアントは逃げたみたいだけど、アモクとトナカンダーは消滅したと思われます」

風間がトランシーバーに何か話しかけた。11号線や広場のあちこちに用意された全ての照明が灯った。広場全体が昼間のように明るくなる。怪物たちだけを照らし出した先程の光とうってかわって、とても柔らかく感じられた。次の風間の言葉でしばしの静寂が訪れ、それが歓声に変わった。


===***===

サーベルが空を切り、少女の右手首の装置が跳ね飛んで河原に落ちた。
「もう逃げられんぞ、アラクネー」
シェロプが一歩前に踏み出す。右手首を押さえた少女が数歩後退した。飛ばされたのは瞬間移動装置だ。あれが無ければ空間を自由に移動することはできない。
「一度は四天王の地位にあったお前だ。私が手ずから引導を渡してやろう。光栄に思うがいい」

シェロプがそれなりの使い手であることは判っている。嫌な男だがこと剣にかけては極上の腕を持っているのだ。移動する手段が無い今、この男から逃げおおせるのか‥‥。 アラクネーはせり上がってきた恐怖をごくりと呑み下した。ブラックリーブスにいきなり斬りかかられた時のことを思い出した。もう二度と、あんなみっともないマネはしないわ‥‥‥‥。

少女は形のいい顎をすっと上げると、悠然と微笑んでみせた。
「侯爵様がこんなゴミ掃除みたいなことをやるとはね。それで四天王にのし上がったの?」
「‥‥この、小娘が‥‥」

シェロプの左手が懐に入り小さな装置を取り出した。その瞬間、アラクネーの右の手甲から放たれた透ける糸がシェロプの左手に巻き付く。
「う‥‥あ、つ‥‥っ!」
白い手袋の上からアラクネーの糸が食い込み、シェロプは思わず持っていたコントローラーをとり落とした。少女が糸を引き絞るがままに魔神将軍の長身が前に泳ぐ。ヘタに引っ張り合ったら手首がすぱりと切り落とされる可能性があった。

アラクネーの左手が空を切った。シェロプが落としたコントローラーに真珠色の淡い糸が何本もからみつく。わずかな手首の動きでコントローラーはぽんと少女の手元に引き寄せられた。だがシェロプも一瞬の隙を見逃さなかった。すっと前に踏み出すとサーベルで糸を薙ぐ。二人の身体が、互いを引き寄せていた張力から解放されて数歩後ろに後退した。

アラクネーは奪ったコントローラーに向かい、なんの躊躇いも無く叫んだ。
「マルキガイナス! 隣にいる男を殺しておしまい!」
異形の怪物がくるりと主に向き直る。
「と、止まれ! マルキガイナス!」
慌てたシェロプが叫ぶ。だがマルキガイナス・ゴルリンは、シェロプの怪人ではない。所詮コントローラーのままに動く人形だった。

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