★第27話 (12/20)
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一概に「怪人」と言っても4つの軍団それぞれで色々なパターンがあった。だが「怪人」は、たとえ自我のある者でも軍の兵器であることに変わりはなかった。製造または改造を行うには軍の正式な許可が必要であり、個人で「怪人」を作ることは謀反と見なされた。普通の存在から怪人に変化した者は生殖能力を奪われる。また損傷の修復が滞りなく行われるようにその形質を遺伝子に固定されるので、基本的に元の身体には戻れない。「怪人になる」とはスパイダルのために自らを捨てることを意味し、英雄的であるが故に「怪人」のステータスは高かった。

スプリガンの機甲軍団は外人部隊や平民たちが主な構成員だった。大量の武器を保有した四軍団で最大規模を誇る軍団だ。その「怪人」は人間の頭脳を生かしたサイボーグの延長のようなメカ怪人と、人工知能を使った完全なロボットの2種類があった。それでも人工知能には自ずと限界があり、怪人として役に立つのはやはりヒトの頭脳を搭載した存在だった。

シェロプの魔神軍団は俗に言う「中流以上」の出身者から構成されている。戦況が有利になり政治的な色合いを帯びてきた時に投入される軍団だ。他国の出身者であっても上流階層でスパイダルに居住権の有るものでなければ入れなかった。魔神軍団の「怪人」はそのような構成員に身体改造を加えた存在だ。スパイダルの貴族達は好んで身体を作り替えるがそれは実用とファッションを兼ね備えたケースが多い。また他国の出身者には少々変わった外見を持つものもいる。そのせいか身体改造がどんどんエスカレートしていく傾向にあった。

ゴリアントのモンスター軍団はスパイダル中央の「ヒト」の基準からは少々異形に見える者達の集まりだった。ゴリアントのようにスパイダルの辺境に居た種族もいれば、征服してきた他の次元における人間達も多い。軍の中では特殊部隊の役割を担い、過酷な環境で活躍するケースも多かった。生まれつき特殊な特性を持っている者が多く、そこに遺伝子操作をメインに既存能力の強化や新たな能力を加えたものが「怪人」となった。

アラクネーの部隊は諜報の担当だった。自分に直接指令を与えてくる者しか知らない構成員が多く、それらを管理するのはコンピューター及びロボトミー手術により人格を失った者たちだった。最終的に出てきた情報の取捨選択は夢織将軍に一任される。率いる部隊の規模は小さくともその発言権は非常に大きく、故に夢織将軍は四天王の一翼を担うのだった。

加えて夢織将軍の位置づけは他の将軍とはだいぶ変わっていた。心理学や社会行動学、戦局の見方などの知識の他に、自他共に認める特殊な直感力が要求された。ある意味巫女のような役割を担っていたのである。アラクネーの前任者はアラクネーの資質を見定め他の者がそれを認めると数日後に死んだ。こういった能力ばかりは訓練で得られるものではない。ブラックインパルスを始め多くの幹部たちから一目置かれ、愛情を込めて「おばば」と呼ばれた老女は後継者をずっと待っていたのだった。

諜報部隊では生体盗聴器や生体カメラのような諜報用の疑似生命体を多々生み出しており、それを戦闘用に仕上げたものが「怪人」と呼ばれた。そのため記録の能力や音波や電磁波を操るといった少々変わった能力を持った者が多かった。口の悪いシェロプは、アラクネーの手駒は所詮アセロポッドの延長などと陰口を叩いていたが、それでもアラクネーの怪人もまた有益であった。



アラクネーが瞬間移動装置を拾い上げて動作を確認した時、シェロプのサーベルはゴルリンの右耳に軽く突き入れられていた。
「マルキガイナス!」
アラクネーがもう一度コントローラーに叫んだが、もうその身体はぴくりとも動かない。

「ムダだ。体内に仕込んだチップを破壊した!」
激しい怒りを含んだ声と同時に何かが飛んできて、座標を合わせようとしていたアラクネーを殴りつけた。シェロプの手甲から長い鞭が伸びている。倒れながらもアラクネーは背中の剣を外し、鞘ごとのその剣で次の打撃を受け止めた。それはほとんど本能的な動きだった。

不思議なことが起こった。
弱々しいものではあったが、ソニックブームがばちりと衝撃を放ったのだった。
「うっ?」
びりりとした衝撃が鞭を伝わってシェロプの右手が痺れた。シェロプが手首を押さえてあたりを見回した時、アラクネーの姿は何処にもなかった。


===***===

赤星と黄龍、輝の3人は、少し放心したように議事堂に近づいた。そこには凄まじい破壊の跡があった。議事堂の中央部から南側にかけて、前面ががしゃがしゃに削げている。広場に振りまかれた硝子の破片がキラキラと投光器の光を反射していた。

「すげ‥‥。俺達の出る幕、ねーじゃん‥‥」
黄龍がぼそりと言った。自衛隊法第76条第1項による防衛出動。スパイダルに対して、初めて自衛隊がその防衛力を振りかざし、2体の怪人をあっさりと葬り去ったのだった。
「‥‥でも‥‥凄すぎるよ。こんなになるなんて、思ってなかった‥‥」
輝が小さく呟く。黄龍は長い腕で畳んだPCを抱きしめるように持ち直した。
「まあ‥‥だだっ広い演習場とこーゆートコじゃ、全然違って見えるからナ‥‥」
赤星がゆっくりと周囲を見回して言った。
「それに何より‥‥連中を引きつける囮になった人達が‥‥」


「そう‥‥。大きな犠牲だ‥‥」
いきなり後ろから声がして、3人は驚いて振り返った。
「風間さん?」
「赤星。スターバズーカの射程距離はどのくらいだ?」
近寄ってきた風間にいきなりそう聞かれた赤星は、目をぱちくりさせて答えた。
「適正距離は15Mから80Mです。130Mを越えたらリーブ粒子の減衰が激しくて効果が激減します」

「今日怪人を沈めた無反動砲は、この手の火砲の中で最も適正距離が短いものを選んだそうだ。それでも射程は700M〜1キロ。元々戦車や装甲車を攻撃するためのものだから当たり前だが。機関銃とて大量に攻め寄せる敵を掃射するのが本来の機能で、こんな状況に適したものではない」
3人が頷いた。時々戦争映画で見るいくつかのシーンが頭を掠めている。風間が続けた。
「自衛隊の装備は他国の‥‥同じ人間の敵国からこの国土を守るためのものだ。人間程度の大きさで、かつ装甲車並に頑丈な化け物を想定したものではない」

「‥‥スパイダルの怪人と戦うには、帯に短し襷に長し‥‥と‥‥」
赤星の言葉に風間が頷く。
「そう。連中には普通の対人兵器では効かない。だがその上をと言えばこうなってしまう。たとえば怪人を装甲車で追いかけ回すようなことにな」

「ご冗談。あいつら障害物だってへーきで乗り越えるし、狭い道やビルにも入ってくんだからさ」
黄龍の馴れ馴れしい物言いに、風間は面白そうに笑った
「まったくだな」
「じ、じゃあ、ホントはオレたちみたいな戦い方のほうが、いいってこと‥‥?」
大きな瞳でおっかなびっくりそう尋ねてきた輝に、風間はやさしく微笑み、大きく頷いてみせた。
「その通り。周囲に影響を与えないためには接近戦がいい。だがあの怪物たちの攻撃圏に生身で居るのは危険すぎる。そう考えていくと強化スーツが最も理想的な武器ということになるね」

風間は硝子の欠片をパシャリと踏みしめて少し前に出ると、悲惨な様相を呈する建物を見上げた。
「オズリーブスがいない今、ここで叩かなければ一挙に攻勢に出られる危険があった。今だけと思うから、こんなムチャを敢えてした‥‥」

風間がくるりと振り返り、3人の顔を順に見た。
「赤星竜太君、黄龍瑛那君、翠川輝君」
君付けで呼ばれた赤星も、初めて風間から名前で呼ばれた黄龍と輝も、驚いて姿勢を正した。
「今回は‥‥いや、"今回も"よくやってくれた。昨日からのあれだけの作戦行動のあとに、それでもこうして来てくれた君達に、君達のその思いに、私は感謝している」

輝はかすかに頬を染めて少し面を伏せたが、すぐに風間の顔を見上げて子供のように嬉しそうな笑みを浮かべた。黄龍は黄龍で視線を宙に彷徨わせ、髪を掻き上げる風を装いながら、ひょこりと軽い礼を返す。そして風間は赤星の視線を捉えた。
「そして、黒羽健君、桜木瑠衣君‥‥。君たち5人がいると信じているから、他の誰でもなく、君たちがオズリーブスだから、"今"をこうして乗り切った。判ってくれるか?」

赤星は、びっくりしたようなドングリ眼のまま、風間を見つめていた。
昼に警察庁の会議室で、風間に食ってかかるまでに動揺したワケがわかった。

ずっと前から顔見知りだった自分は名前で呼んでくれるが、あとの4人のことはいつも色で呼ばれた。副長やブラック、イエロー、グリーン、ピンクと‥‥。違和感はあったけど役職で呼ぶようなもんなんだろうと、自分に言い聞かせていた。

だけどあの時。オズリーブスでないから来るなと言われたあの時。世の中の沢山の人と同じように、この人にとっても自分たちが人形になってるみたいに思えた。オズリーブスという象徴としての虚像‥‥‥‥。それがすごく寂しかったんだ‥‥‥。

‥‥ガキみてーだったな、俺‥‥‥‥。

赤星は視線を落とすとぽりぽりと頭を掻き、ふう‥‥と息をついてから顔を上げた。
「判ります。本当にありがとうございました」
そのあと男はぎゅっと唇を引き結んで議事堂を見上げた。
「ただ、何もできないで見てるの‥‥。苦しかったです。もう二度と、こうなりたくねえ」
黄龍と輝が同感というように何度も頷いて赤星の視線を追った。
風間は満足そうな表情で、そんな3人の青年を見ていた。

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