★第27話 (13/20)
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葉隠はプリントアウトした沢山の計測データを精査していた。時々脇のキーボードを叩いてモニターを覗き込み、また紙にチェックしていく。どれだけPCが発達しても結局最後は紙に出した方が「気がつく」のは、あながち年齢のせいばかりではないと思う。

葉隠のいる広い部屋は大量のモニターや解析用のマシンで埋め尽くされていた。南側の一面は強化ガラスで出来ていて格納庫兼整備場が一望できる。そこには完成間近の3台の巨大なメカが、命を吹き込まれるのを待っていた。
頭部にあたる小型戦闘機のガーディペッカー。腰部と脚部を形作る大型装甲車ガーディオウル。そしてM島で巨大化したスピンドルを沈めた大型爆撃機ガーディレヴィン。
その3台が合体した時、彼はこう呼ばれる。

ネオリーブロボ・ガーディアン。

新開発されたリーブダイナモの搭載により、リーブ粒子を使って発電された電気エネルギーとごく普通の炭素系エネルギーで駆動する新型ロボット。リーブエネルギーを使った兵器は別にして、リーブレスがなくても操縦できるのがリーブロボとの大きな違いだ。完成したらパリ本部に行くはずだったが、今となっては破壊されたリーブロボの代替になってもらうしかない。リーブロボより一回り小さいがそれでも巨大化怪人には十分対抗できると思われた。彼はまさに鋼鉄の身体を持った救世主だったのだ。

一昨日、都庁前に現れた2体のスパイダルの怪人に対する機動隊と自衛隊の共同作戦。どのマスコミも戦闘状況の間近な映像をスクープすることはできなかった。それでもその夜のうちに伝えられた「怪人2名を自衛隊が撃破」というニュースに人々はまずはほっとした。しかし翌朝、破壊された都議会議事堂の様子が明らかになるにつれ、様々な思いが交錯し始めた。

死傷者の数も、議事堂の惨状も、多くの人に「怪人との戦いは苦戦だった」というイメージを与えた。それなのにオズリーブスが出動しなかったのは何故なのか。装備のトラブルという公式発表は本当に真実なのか。スパイダルの言う通り当分出動できない甚大な被害を受けているのだ。いや全ては憲法改正を一気に推し進めようという右派勢力の思惑だ等々、様々な説が囁かれる始末だった。世論の中で自衛隊への依存心と恐怖感という相反する感情が両方とも増大していた。それはスパイダルが現実の脅威として改めて認識され直した証拠でもあった。

それでも風間の強硬な作戦のお陰で、オズベースには昨日という一日が与えられた。スパイダルの現れない一日。それは壊れたリーブレスを修復し、ガーディアンの開発を進め、そして戦士に休息を与える貴重な一日だった。


しゅうっというドアが開く音に葉隠は振り返った。
入ってきたのはこの天才科学者が、今、最も信頼を置いている人間だった。2度もM島まで往復し、その後も仮眠程度で新型ロボットの開発にあたっているというのに、周囲にぴりぴりとした感じを与えない。それはこの田島十兵衛という男の大きな美点だったろう。

「オウルとペッカーのダイナモ出力は完璧なようじゃの」
「ああ、有難うございます、博士。こっちはレヴィンが問題で‥‥」
「どうした? この前の飛行は順調じゃったろう?」
「一機の時はいいんですが、合体時の出力が保てないんです」
「なんと‥‥」

「でも、今、塚原さん達がチェックしてくれてて。原因が早めにわかるといい‥‥」
そう言いかけた田島が、何かを見つけて急にささやき声になった。
「‥‥‥あれ、赤星ですか、こんなとこで」
部屋のもう一方のドアの近くの応接コーナー。ソファの上で毛布が窮屈そうな山を成し、肘掛けに黒いくせっ毛頭が載っている。葉隠が苦笑した。
「頭が冴えて眠れないと、けっきょく明け方近くまで手伝ってくれての。いったんああなると興奮した子供と変わらん。塚原君たちが来てくれたのがよっぽど嬉しかったんじゃろ」


昨日の朝のことだ。葉隠は二人の知人からのメールに気づいた。四菱重工の塚原、そして酉井重工の伊藤。社の承諾を得たのでなんとかOZに協力できないか‥‥というものだった。二人とも学会で出会って葉隠に心酔した技術者だ。塚原は50歳、伊藤は40代半ば。田島もこの二人とは面識があった。
二人はそれぞれに絶対に信頼がおけるという数名の仲間を引き連れてやってきた。実際はいったん警備局特命課に赴いてもらい、目隠しをされた車でオズベース入りする形ではあったが。

葉隠に次ぐ年齢の塚原は、かつて葉隠にくっつき歩いていた少々場違いな感じの少年を覚えていた。当時ボディガードと言われて意外に思ったものだったが、今やそれがオズリーブスのリーダーになっていると聞いてもっと驚いていた。一方の赤星は一般企業からの思っても見なかった応援に驚き、そして喜んだ。こんなに手放しで喜ばれると、応援組のテンションも知らず知らずのうちに高まってしまうのだった。

オズリーブスの正体を知らない協力者と直接交え、語り、感謝し、励まされ‥‥。
本人は意識してはいなかったが、それは赤星にとって象徴云々という言葉で縛られた己を完全に解放するきっかけとなった。自責に駆られて無理をするような不自然さが消えて、シンプルで明朗ないつもの赤星が戻ってきた。だから葉隠も好きにさせていたのだった。

「赤星らしいですね」
田島は微笑んだ。ソファで丸まっている若者の姿にリーブスーツの開発で忙しかった頃を思い出した。自分たちの引いた期限に迫られていただけで、侵略者に追われていたわけではない、平和な頃の話だ。

「ところで、博士。例のそっくり怪人達のことは見えてきたんですか?」
「同型の怪人のデータと付き合わせたら、やはり動き方からして異なっていたそうじゃ。死んだ怪人の形だけ模した人形のようなもの‥‥とうい輝君の読みは正解だったんじゃな。昨日の午後、5人で色々見とったが、動き方はむしろマリオネという怪人に似てるらしい」
「あの、輝君が苦労した操り人形‥‥」
「ああ、そうじゃ。動きの間を突くことができそうだと言っておったよ」
「そうですか‥‥。で、リーブレスは?」
「瑠衣ちゃん、竜、それに黄龍君の分は完了。輝君が最終調整中。そしてそろそろ黒羽君の分がなんとかなる頃だと思うがの」
「さすが、星加博士と中村君。たいしたもんですね」
「まったくじゃよ」

葉隠が頷いた時、またドアが開き、今度は大変騒がしい人物が入ってきた。
「田島さん 多分、わかった!」
「塚原さん!?」
葉隠と並ぶと頭1つ大きい大柄の科学者は、大股で歩み入りながら、朗々と響く声で言った。
「第5シリンダーだ! リーブ粒子の密度分布にムラがある! あ、博士、すみません」
塚原がひょこりと葉隠に向かって頭を下げた。田島が何かを確かめるように言う。
「もしかして、準位の低い粒子が混じったか‥‥。でも、それならあの結果は分かりますよ!」
「見えてきたようじゃな。いや、塚原君、どうもありがとう!」
葉隠も思わず弾んだ声をあげ、塚原は嬉しそうに答えた。
「いえいえ。流石に状況が掴めないんで、しらみつぶしってやつで‥‥」
「とにかくすぐテストしてみます!」

田島が勢い込んでそう言ったとたん、どたん、という音とわっという声がした。3人の科学者は思わず身をすくめ、おそるおそるそちらを見やった。床に落ちた青年が、状況を把握しきれずに毛布に絡まったままきょろきょろしており、3人はその様子に大爆笑した。

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