★第27話 (14/20)
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訓練場にカンっという澄んだ音が響いた。

振り下ろされた桜色のスティックが金属棒で受け止められている。ピンク色の強化スーツを纏った少女はそのままスティックをぐっと押し込んだ。が‥‥。
「あ‥‥っ ‥う‥‥」
金属棒がなんの抵抗もなくすとんと沈み、次の瞬間、瑠衣の腹部にずんと打撃が入っていた。瑠衣は何歩も後ろによろめいて膝をついた。

「甘いなァ、瑠衣ちゃん」
顔をあげると、金属製の木刀もどきでとんとんと自分の右肩を叩きながら、男がにっと笑った。黒い上着を脱いだ赤シャツと黒いベスト姿。左肩は張り気味に固定されていてぎこちないが、口の端に浮かべた笑みはいつものままだ。

昨日の午後、黒羽と瑠衣は警察病院を退院してきた。黒羽は丸一日病院に留め置かれた上に、自分のリーブレスの修理が最後に回されていたことにおかんむりだった。もちろん皆の前ではいつも通りの鷹揚な様子だったが、赤星と二人になった途端、全部お前の陰謀か、こんなケガ舐めときゃ治る、オレが信じられないなら絶交だ、などと、子供のような八つ当たりをしていた‥‥‥‥のを、瑠衣はこっそり聞いてしまったのだ。"陰謀"に黄龍や輝が噛んでいたことは黙ってなきゃと、瑠衣はしみじみ決心したのだった。

今の黒羽の取り澄ました顔とあの時のギャップに吹き出しそうになったが、瑠衣はそれをこらえると、ゴーグルの中でつーんと唇を尖らせてみせた。
「違うもん。黒羽さん生身だから手加減したんですよーだ」
「それはそれは。どうも有難うございます」
黒羽はすっと両手を広げると、大げさで優雅な一礼を返してよこした。

と、だんっという鈍い音がした。見やると着装した輝が壁を背にへたり込んでいる。どうやら黄龍の蹴りをまともに食らってしまったらしかった。
「ありゃ〜。メンゴな、テル」
ぜんぜん謝ってる声ではないが、それでも輝に歩み寄って長い手を差し出す。輝はそれをぐっと握るととんと跳ね起き、ブレスレットに触れて強化スーツを解除した。
「うー。きっつい。まだイマイチ合ってないや」
「おー、やだねー。負け惜しみ言っちゃってさ」
「違うよっっ 自分のだけ先に調整して貰っといて、なんだよっ」

「ほらほらお二人さん、そこまでだ。ガキみたいに騒ぐから、主任が飛んでらしたじゃないか」
黒羽の声に黄龍と輝が振り返る。ちょうど室内に足を踏み込んだ有望は、いきなり振られて一瞬立ちすくみ、すぐに柔らかく笑った。
「ごめんなさい、輝君。すぐに合わせるから」
「あっ 有望主任!」
輝が弾けるように駆け寄ると有望の右手をいたわるようにそっと取った。
「疲れてないですか?」
「ええ、大丈夫よ」

有望は輝の手をそっと放し、左手に下げていたケースを入り口側の台に置いた。中から最後のリーブレスを取り出すと、歩み寄ってきた黒羽に差し出した。
「遅くなって、ごめんなさいね」
「どういたしまして。もっとかかると思ってましたよ。お世話かけました」
「身体のほう辛くない? 着装してみてもらって大丈夫?」
「おやおや。いったい誰にものを言ってるんです?」

黒羽がリーブレスを左手首に巻きながらそう笑った時だった。いきなり警報が鳴り響いた。黄龍と瑠衣がスーツを解除する。
<みんな、訓練場か?>
4人のリーブレスから赤星の声がした。黒羽が間髪を入れずに答える。
「リーブレスは、あとは坊やの最終調整だけで仕上がるぞ」
<ウソつけ。お前のこれからだろうが。有望、そこいるか? 輝のどのくらいで終わるんだ?>
輝がぱっと有望の口元にブレスを上げた。
「あと5分ぐらいよ」
<じゃ、頼む。黒羽以外は出動準備して待って‥‥‥‥>
黒羽が苛ついた声を出した。
「おい、いい加減怒るぞ! オレはな、もうとっくに‥‥」
<違うって! レヴィン‥‥っていうか、ガーディアンの最終調整を手伝って欲しいんだ。やばくなったら呼ぶから、それまでこっち頼む。でないとあいつ、飛べねえ!>


===***===

オズベースで警報が鳴り響く少し前‥‥。

「ねー見てよ、あれ。チョー妙じゃん?」
「げ。マジ妙。なんだよ、あのおっさんたち」
高いヒールと豹柄のミニが扇情的な少女。そして黒のスリムパンツにジャケットのおかげで異様にひょろ高く見える少年。そんなカップルが指さしたのは制服警官と話している二人組だ。

ここはまさに若者の街。大きな街ではないがファッションや文化の重要な発信地の1つと言っていい。目立たない場所にあることで余計価値が増すかのように、入り組んだ小路にも洒落たショップがたくさん散らばっていた。東の方には公園と神宮が一体となった大きな空間が広がる。いつもの日曜日だったらこの駅の周辺は少年少女のグループやカップルの待ち合わせでごった返しているはずだ。なのに今日はやたらと人が少ない。それでも、境内へ通じる短い橋の上の「妙なおっさんの二人組」にとっては、衆人が多すぎて不満なのだった。

二人の内の一人は、整った顔立ちに表情の豊かな瞳が印象的な真っ白なスーツ姿。はだけた赤いシャツから鍛えられた胸筋がのぞいている。有名スポーツ選手かタレント‥‥と言われれば納得もできるが、テレビで見かけた顔かと問われると定かではない。もう一人はグリーンのジャージにトレーナー姿。小柄だががっしりとした体格だ。体育の教師が指導中に抜け出してきたとしか思えないが、今日は日曜日。都内のスポーツ大会は全部中止になっているから話が合わない。
こんなコンビを相手に、むしろ警官の方が姿勢を正して受け答えしているから、余計に道行く若者たちの目を引いてしまうのだった。

「ったくガキどもが。こんな時にふらふら出歩きやがって」
派手な白スーツの男‥‥特警の早見瞬は、露骨に好奇の視線を投げてくる無遠慮な少年達をいまいましげに睨み返した。若い巡査がまるで言い訳するように答える。
「それでも普段の日曜に比べたら、ガラ空きなんですよ」
「でも、親御さんたち、心配してるんじゃないッスか?」
グリーンのトレーナー姿‥‥同じく特警の田口了は、本当に心配そうな顔で、通り過ぎるカップルや少年少女のグループを見送っている。
「まあ‥‥‥中には家出同然の少年少女も多いですから‥‥‥‥」
「家出してもニュースぐらい見ろっての。スパイダル連中がまだ調子に乗ってたらどーすんだ!」

それで大人しく家にこもっていてくれれば苦労はしない。早見の言葉にどう返そうか、視線を宙に彷徨わせた警官が、唖然とした表情で固まった。
「‥‥あ‥‥れ‥‥‥‥!」
震えた唇がかろうじてそれだけの言葉を押し出す。早見は振り返ろうとしたがそれより早く肩を強く掴まれた。地面に押さえ込まれながら「伏せろ!」というどでかい怒鳴り声を聞いた。刹那、田口もこんな声が出せたのか、などと呑気な言葉が頭をよぎった。

空気を斬る音、ばきりと何かが割れる音、そして沢山の悲鳴。

顔を上げた早見の目に、まず飛び込んできたのは橋の欄干部に立っていた大きなポスター看板のぶち折られた様。首を巡らす途中で地面に倒れたひょろ長い茶髪の少年に気づいた。腰のあたりから不自然に背中側に折れ曲がっていた。視線を上げると、歩道橋の上で巨大な虫のようなものが弧状の角を自分の頭に差し戻していた。それをブーメランのように投げたのだと、すぐわかった。

「スパイダル!」
早見は一瞬の躊躇もなく橋の中央に飛び出して3つの異形を睨み上げた。中央にいるのがあのイヤったらしい放送を流した四天王の一人。そしてその両側には過去のスパイダル事件で現れたと同型の怪人が2体控えている。警官を助け起こして交番に走らせた田口がぱっと早見の傍についた。


逃げまどう人間たちの中で、ただ二人、恐れげも無く見上げてくる男たち。それはマルキガイナスとマルキクワンガーの姿を模した2体のゴルリンを引き連れた魔神将軍シェロプの注意を引くに十分だった。
「お前達もオズリーブスの関係者か?」
「ヤツらと一緒にすんなって! この前、てめーらの仲間3匹、徹底的にノシてやったの忘れたか!」
「あのゴリアントに勝ったぐらいで、いい気になるとは、3次元人は揃って愚か者のようだな」

早見はオーバーな動作で両手を広げてみせた。
「へぇ。ずいぶんと自信がお有りで‥‥。じゃあ、もう一度勝負してみるかよ? それとも、たった3人じゃ怖くて無理かねぇ。こっちはそれなりに装備あるしよぉ」
「なんだと? 口を慎め! 私を誰と心得る!」
「へーへーすんませんね。よっしゃ、オレについてきな。親分に会わせるぜ」
早見は悠然と歩道に倒れていた大型バイクを引き起こした。キーがついたままだ。さっきから目をつけていた。驚きを必死に押し隠している田口にぱちりとウインクすると、そのまま橋を渡って公園内に向かって走り出す。バサリという羽音を聞いて肩越しに見上げると、クワガタ怪人がもう一体を抱えて飛び上がった。それを確認した早見はぐんとスピードを上げた。

人の大勢いる場所からこの連中を引き離す。早見の頭にはそれしかない。あとは仲間がなんとかしてくれると信じていた。風間と、特警と、そしてオズリーブスが‥‥。

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