★第27話 (15/20)
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シェロプは部下が動きを止めたことを確認して空間を飛んだ。先程の男は広場の真ん中で乗り物を停め、こちらに向き直っている。マルキクワンガーとマルキガイナスを両脇に従えて、おもむろに一歩踏み出した。絨毯のように地面に広がっている植物と高く伸びている植物の緑色は目に痛いほど鮮やかだ。頬にあたる空気の流れが心地よいと思った。その全てをしばし楽しんでから、おもむろに口を開いた。

「仲間はどこだ。罠のたぐいなら無駄だぞ」
「ここで待ち合わせたんだけどなぁ。まあ、もうちっと待ってくれや」
三次元の男は乗り物に跨ったまま小首をすくめてそう答えた。なかなかセンスの良い配色の風体をしている。だが立ち居振る舞いはお世辞にも上品とは言えない。

オズリーブスには彼らに命令を与えている指揮官が必ずいる。アセロポッドの活動が様々な場所で阻止されているのは、必ずしもオズリーブスだけが原因ではなかった。戦闘力は低いが大量の兵士がいることも確実だ。さっきこの三次元人が会わせると言ったのは、オズリーブスを含めたそういった諸々の兵力を指揮する立場に近い存在かもしれないとシェロプは考えていた。オズリーブスという手駒を倒されて、その指揮官がとった作戦がゴリアントをこっぴどい目に遭わせたというわけだ。

「ふ‥‥。お前たちも必死というわけだ。たかが怪人2体に捨て身まがいの総力戦だったな」
シェロプは片手を額に当てて、困ったものだと言わんばかりに首を振った。
「我々としても、手に入ったら廃墟だったというのは、望ましい形ではないのだが」
「安心しな。オレたちが居る限り、てめーの手になんか入らねーからよ」
「‥‥では、やってみるとするか。マルキガイナス」
三次元の男は一瞬目を見開き、すぐに小さな乗り物をスタートさせた。
「殺すなよ」
シェロプは面白そうに言った。

マルキガイナスを模したゴルリンが跳ねるように素早く乗り物の行く手を阻んだ。舵の部分を掴んで押し戻す。車輪が地面を無惨にえぐった。男は乗り物を捨てようとしたがマルキガイナスが腕を払うほうが早い。かなり手加減したはずだが、男はぐんと吹っ飛んで倒れた。その手から黒い鉄の塊が落ちる。よく見かける三次元人の武器だった。マルキガイナスは片手で掴んでいた乗り物を無造作に突き倒し、そのメカは少しだけ暴れるそぶりを見せてから停止した。

「こ‥‥のや‥‥」
のたうつように上半身を起こした男に魔神将軍は笑いかけた。
「まあ、無理をするな。私は無駄な殺しは好まない。お前の主を早く呼んでくれればそれでいい」
「‥‥てめえ。何考えて、やがる‥‥」
表情は歪んでいたが、黒い瞳は輝きを失っていない。この状況でこんな目をしている人間には大抵楽しませてもらえるのだ。
「私は、その場その場で最も効果的な首を貰うことにしているのだよ。オズリーブス亡き後は、貴様の主がその首の持ち主らしい」
「だったら‥‥、あいつらをきっちり、倒してからにしろってんだ」
「なに?」

男は体をきちんと起こすと足を組むように座り直し、こちらをまっすぐに見つめたままゆっくりと左手をあげた。白い衣装は汚れていたが、緑の絨毯の中では小憎らしいほど映えていた。

男が示した先。青い空に黒い飛行物体が見え、それがぎゅんっと大きくなった。爆音が圧力と共に降ってきて、シェロプは思わず頭を伏せた。舐めるように低空を飛んだ飛行物体は一瞬で飛び去り、シェロプは顔を上げ、そして‥‥
「貴様は‥‥‥っ」

少し重心を沈めて、落下の衝撃を相殺した"それ"が、スパイダルの魔神将軍の前でゆっくりと身を起こした。
「待たせたな。シェロプ」
真っ赤なスーツの男は、以前より一回り大きくなったように見えた。
「‥‥レッド、リーブス‥‥ッ」

「いや‥‥。待ってたのは、俺の方か‥‥」
赤いマスクから聞こえてくる声音は、噛みしめるように静かで、だが、どこか居丈高に聞こえた。
「シェロプ。覚えとけ。てめえの相手は俺達だ。てめえらがバカなこと考えてる間はな」
「オズリーブス。生きていたのか!」

「あんなんでやられないよっ!」
高らかな声が響く。助け起こした特警の早見瞬を支えるようにしながら、グリーンリーブスが緑銀のロッドをびしりとシェロプに突き出した。
「もうぜったい、あんたたちの思い通りなんてさせない!」

「そうよ!」
普段はたおやかに明るい音色が燻したような迫力を帯びた。早見の半歩前にかぶるように立った桜色のボディから、抑えることの出来ない怒りがにじみ出る。
「覚悟しなさい。シェロプ!」

ピンクリーブスの肩にちょっと手をかけて早見が一歩前に進み出た。右腕を体に押しつけるようにしているが、顔にはしてやったりといった表情を浮かべている。どうあってもひとこと言わなければ気が済まないようだった。
「へっへー! そーゆーことだ。うちのボス狙うなんざ、百年早いってな!」

「黙れ! たった3人で我が魔神軍団の強者2人を相手にできると思っているのかまた私の前に現れたことを後悔するがいい!」
「面白ぇ。やってみろ!」
「マルキガイナス! マルキクワンガー! この3人、殺してしまえ!」




赤星が肩越しに小さな一礼を寄越した。拳を見せてそれに答えてやった時は既に、3色の戦士達はそれぞれの得物を握りしめ、異形に向かって飛び出していた。
早見はあたりを見回し、自分の357を拾い上げる。倒れたバイクにちらりと目をやったが、そのまま急ぎ足で道の方に向かった。骨は折れてないと思うが、今は力仕事をしたくない。灌木の影に回り込んだところで、ウイィィンという甲高い悲鳴のようなモーター音に気づいた。

「早見先輩っ」
この町のどこからそんな奥様スクーターを見つけてきたのやら、田口が必死の面持ちで飛ばしてくるのはワインカラーの原付だ。
「だいじょうぶッスか!」
スクーターを止めた田口はまん丸な目で先輩刑事を見上げた。早見の白い上着は左腕から背中にかけて土と枯れ芝と草の汁で汚れている。だらんと下げたままの右腕を肘のあたりで押さえ込んでいた。だが早見はくそ真面目で気の良い同僚を見返して、いつも通りのイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「あたぼうよ」
田口はほっと肩の力を抜くと刑事の顔に戻った。
「避難はほぼ完了ッス。周囲に機動隊の配備終了。陸自さんもこっち向かってるそうッス」
早見は広場のほうに顎をしゃくって言った。
「了解。で、やっこさんたち、なんで3人なんだ?」

早見にとってOZの中でごく普通の知人として実感があるのは黒羽健と黄龍瑛那だけだった。もちろん赤星の顔はよく見かける。直接相対しても人づてに聞いても、気だては悪く無さそうな奴だが、どうこう言えるほど話したことがあるわけではない。
黒羽や黄龍なら探偵事務所に居る頃から知っている。常に我が道を行く黒羽のやり方には共感できる部分が多かった。黄龍とは射撃という一致した趣味があったし、なにより女と粋な時間を持とうとした時は絶妙な相棒同士になれたのだった。

それがいつの間にやら、自分は対スパイダル特別捜査警察隊として、民間人のあの二人はオズリーブスとして、こうして異世界の存在と戦っているというのも、妙な巡り合わせではあった。
「そっちは聞いてないッス。でも、クロさんはまだ入院してんじゃないッスか?」
「あの黒羽健がいつまで大人しくしてるハズ、ねーだろ。‥‥あ!」

二人はエンジン音を聞きつけてそちらを見やった。走ってくるのは大型のバイクだ。刑事達から少し距離をおいて停車すると、ドライバーが長い足を前から回す独特のやり方で地面に降りた。
「黄龍瑛那! 遅いぜ!」
早見がそう言いながら近寄った。だが黄龍は返事もせずに、後部シートに乗っていた人間が降りるのを手伝ってやった。

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